第14話 バーンズ・交響曲第3番 

文字数 1,002文字

◇◇ バーンズ・交響曲第3番 ◇◇

当初、ハーモニックなサウンドが持ち味の普門館高校が、「バーンズの交響曲第3番」を演奏するというのが、どうも結びつかなかった。

この曲には、全パートの音が聞こえつつ、さらに、音が玉となってボンボン迫ってくる場面や、静かな中でのメリハリに感情を載せる場面、また、卓越したしっとりと聞かせられるソロの腕前も必要なのだ..。



演奏が始まった。

意外と、音に奥行きがある。
そうか、今回の演奏ホールは、音響効果に優れ、重厚な音が出せるのか..。
しかし、それを差し引いても、単なるハーモニックなサウンドとは違った。



劇的なティンパニによる動機と哀愁のこもるテューバ・ソロがひびく。魂を載せている。

ホルン・ソロも素晴らしく、丸い音なのにホール全体に響く…。そして切なくなるビブラート。こんな生徒が、普門館にいたのか!

シンバルも良い。
音量、音色、響かせ方全てが良く、バーンズの心に、聴衆を重畳的に引き込んでいくのだ。

トロンボーンは、深みがあって豊かであるだけでなく、また、繊細な音でも、柔らかく、かつ、芯がある。

パートごとのテクニックが、飛躍的に向上しているではないか!



それだけではない。

情景描写も、よく理解したうえで演奏されている。

たとえば第4楽章で、ピッコロとチューバが父と娘との掛け合いの様子を表現している一方で、その背後では、サックスによる教会のミサが厳かに流れている―――その情景描写が、瞼に浮かぶがごとく、見事に表現されているのだ。
作曲者の魂が、どのように五線譜に落とし込まれているのかを、各員、よく、掴んでいる。



第4楽章は、予想通り、やや、畳みかけるような指揮であった。

若さが前面に出てしまうと重厚さが失われてしまうのでは、と心配していたが、ハンドオフは継ぎ目がなく滑らかで、会場の音響効果とあいまって、監督の名指揮によるバーンズ節には泣かされた。
バーンズの魂が、演奏に落とし込まれているのだ。
ああ、これが、普門館の、'今年度の音'の到達点だったのだ!



客席に目を遣れば、普門館高校に合格したばかりの中学生たちも来ている。
後輩たちも、この音を覚えていて、来年度以降の財産となっていくのだろう。

数年ぶりに全国金賞に輝いた普門館高校にとって、絶望のもっとも深い暗闇から充実と喜びの輝き、そして救済へと、まさしく、その近来の歴史を飾るにふさわしい名演であった。


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