第37話 第二の故郷(ふるさと)
文字数 1,415文字
◇◇ 第二の故郷(ふるさと) ◇◇
「うちん楽団、入らへん?」
サナは、高校時代の吹部の先輩から、市民楽団へ入るよう誘われた。
だが、サナは即答を避けた。入ってから続けていく自信がなかったからだ。
高校を出てからのブランクもあるし、一番、心配なのは、人間関係、費用面、そして大学での学業との両立...。
その一方で、心からの歓びの機会の少ない学生生活をおくっている自分も意識していた。
「ツムギ。このまえ話した、市民楽団に入る話、あるやん。」
「どないしたん?」
「うん..。まだ、迷ってるんや。」
「ああ。やっぱし..」
サナは、自分は深刻に悩んでいるというのに、中学からの親友のツムギから、簡単に「お見通しだよ~」って、いわれたような気がして、なにか、ちょっとイラついた気分になった。
「やっぱし、って、何なん?」
「かんにんえ。…サナ、人間の思考回路って、10代半ばくらいのときにできるって、きいたこと、ある?」
「そんなん、あるん?」
「あるんや。…やから、中学・高校で楽器やっとった子は、何十年ブランクがあっても、年をとってから、ふいに、演奏したくなるもんやそうや。」
「ふーん..」
「心の安らぎの芯になっとる部分に、戻ってくるんやな。」
「そうなんや..。」
「…やから、サナが高校出て、Kポップ沼にはまったり、料理に嵌ったりしても、結局、それは、一瞬の転調。帰ってくるところは、はじめから決まっとったんや。」
それを聞いて、サナは、自分が、高校でやりきったと思っていた吹奏楽を、またやりたくなって、うずうずしてきたことが、ごく自然なことのように思われてきた。
「サナの先輩も、おるんやろ?」
「うん、12~3人くらい..。学生も全体の半数くらいおるんやて。風通しはよくて、楽団の指揮の先生も、○○中学の指導もしてはるとか..」
「先輩たちは、いい人やろ?」
「ほんま、いい先輩ばかりや..」
「ほな、絶対、大丈夫や。いい先輩たちが集まって、長く続いとるなら、そこは、きっと、いいところに決まっとる。」
「ほんま?」
「ほんまや。サナにとってのサンクチュアリやな。」
サンクチュアリ―――。
サナは、その言葉に、心の理想郷の響きを感じた。自分が、本来の自分らしくあり続けることのできる―――。
面接日。
サナは、予定より早く、面接会場の控室に着いた。
と、ドアのむこうから、懐かしい音が聞こえてくる。やわらかく、クリア―で、そして芯のあるサウンドだ。
一瞬、普門館高校の吹部の練習室にいるかのような錯覚を覚えた。
慌てて、自分の着ている服を見た。やはり、ジャージではなかった...。
面接。
指揮者兼代表から、サナは、いきなり、聞かれた。
「さっき、控室にいて、何か気づかれましたか。」
サナは、少し照れながら
「なんか、母校の高校の練習室にいるかのような錯覚がしました。」
「やはり、わかりましたか...。じつは、団員の4分の1近くが、普門館高校さんの出身なので、うちのサウンドのなかに、どこかしら、普門館のサウンドが自然と、滲み出てきてしまっているんですね。」
代表は、愉快そうに微笑んだ。
それをきいて、サナは、ああ、そうやったんやと、安心した気分になった。
練習室の扉を開けた。
懐かしい先輩たちの笑顔、笑顔、笑顔。
そして、次の瞬間、もみくちゃにされる、サナがいた。
―――ああ、やっぱり、ここは、うちの第二の故郷なんや。
「うちん楽団、入らへん?」
サナは、高校時代の吹部の先輩から、市民楽団へ入るよう誘われた。
だが、サナは即答を避けた。入ってから続けていく自信がなかったからだ。
高校を出てからのブランクもあるし、一番、心配なのは、人間関係、費用面、そして大学での学業との両立...。
その一方で、心からの歓びの機会の少ない学生生活をおくっている自分も意識していた。
「ツムギ。このまえ話した、市民楽団に入る話、あるやん。」
「どないしたん?」
「うん..。まだ、迷ってるんや。」
「ああ。やっぱし..」
サナは、自分は深刻に悩んでいるというのに、中学からの親友のツムギから、簡単に「お見通しだよ~」って、いわれたような気がして、なにか、ちょっとイラついた気分になった。
「やっぱし、って、何なん?」
「かんにんえ。…サナ、人間の思考回路って、10代半ばくらいのときにできるって、きいたこと、ある?」
「そんなん、あるん?」
「あるんや。…やから、中学・高校で楽器やっとった子は、何十年ブランクがあっても、年をとってから、ふいに、演奏したくなるもんやそうや。」
「ふーん..」
「心の安らぎの芯になっとる部分に、戻ってくるんやな。」
「そうなんや..。」
「…やから、サナが高校出て、Kポップ沼にはまったり、料理に嵌ったりしても、結局、それは、一瞬の転調。帰ってくるところは、はじめから決まっとったんや。」
それを聞いて、サナは、自分が、高校でやりきったと思っていた吹奏楽を、またやりたくなって、うずうずしてきたことが、ごく自然なことのように思われてきた。
「サナの先輩も、おるんやろ?」
「うん、12~3人くらい..。学生も全体の半数くらいおるんやて。風通しはよくて、楽団の指揮の先生も、○○中学の指導もしてはるとか..」
「先輩たちは、いい人やろ?」
「ほんま、いい先輩ばかりや..」
「ほな、絶対、大丈夫や。いい先輩たちが集まって、長く続いとるなら、そこは、きっと、いいところに決まっとる。」
「ほんま?」
「ほんまや。サナにとってのサンクチュアリやな。」
サンクチュアリ―――。
サナは、その言葉に、心の理想郷の響きを感じた。自分が、本来の自分らしくあり続けることのできる―――。
面接日。
サナは、予定より早く、面接会場の控室に着いた。
と、ドアのむこうから、懐かしい音が聞こえてくる。やわらかく、クリア―で、そして芯のあるサウンドだ。
一瞬、普門館高校の吹部の練習室にいるかのような錯覚を覚えた。
慌てて、自分の着ている服を見た。やはり、ジャージではなかった...。
面接。
指揮者兼代表から、サナは、いきなり、聞かれた。
「さっき、控室にいて、何か気づかれましたか。」
サナは、少し照れながら
「なんか、母校の高校の練習室にいるかのような錯覚がしました。」
「やはり、わかりましたか...。じつは、団員の4分の1近くが、普門館高校さんの出身なので、うちのサウンドのなかに、どこかしら、普門館のサウンドが自然と、滲み出てきてしまっているんですね。」
代表は、愉快そうに微笑んだ。
それをきいて、サナは、ああ、そうやったんやと、安心した気分になった。
練習室の扉を開けた。
懐かしい先輩たちの笑顔、笑顔、笑顔。
そして、次の瞬間、もみくちゃにされる、サナがいた。
―――ああ、やっぱり、ここは、うちの第二の故郷なんや。