第3話 友情の響き

文字数 1,277文字

◇◇ 友情の響き ◇◇


普門館高校と聖良高校との懇親会。

サックス・パート同士の集まりで―――

 聖良パートリーダー「普門館さんとお付き合い始めて4年やなあ。懇親会ちゅうことで、ゲームばやらんか。」

 普門館パートリーダー「うれしい!やりましょう。」

 それぞれが楽器を手にした。

 聖「じゃあ、リーダーの○○さん、Fん音ば出してくれる?」

 普門館のパートリーダーのアルトサックスがF(ファの音)を出す。声帯まわりが共鳴し、さらに管体自体も震えているのがわかる。

 それを聞いた聖良のリーダーが、表情一つ変えず、

  「..ピッチが、少しだけ高か..」

 とぼそっと言いつつ、Fを出す。

 いきなり音がピタリと一つになり、と同時に倍音のC(ドの音)がうなりはじめ、さらに上の倍音も豊かに聞こえる。

 聖「じゃあ、一音ずつゆっくり上げてってもらえる?」

 普門館のパートリーダーは、この時点で、つぎに何が起こるのかを察した。


 一音ずつ上がっていっても、音はピタリと1つになり、相変わらず倍音も豊か。


 聖「今度は、うちらアルト全員でやってみる。」

 聖良のリーダーの一言で、聖良のアルト・サックス全員が、普門館のパートリーダーに合わせて音を出す。

 全員の音のはずなのに、心地よいほど1つの音にまとまり、リーダー1人のときと変わらぬ倍音の出方をしている―――というか、むしろ、透明感が増した。

 透明感が増したはずなのに、それでいて、個々の楽器の音が、粒だっている!


 凄い!

  ―――これが、吹奏楽コンクール全国金賞レベルかあ..。


 普門館のパートリーダーは、数秒、目をつぶってから...ほな、これならどうや..とばかり、臨時記号のついた低音域をピアニッシモで吹いた。また、高音域を丸く吹いてもみた。

 すると、どうだろう、聖良の部員たちは、またしても先ほどと全く変わらずに、ごく、自然に合わせてくるではないか!クリアさが失われず、音のモコモコ感が全くない!



 これで、どれほどの練習量を積んでいるのかが、痛いほど良く分かった。

 敬すべきは、その音づくりに対する情熱だ。

 これは、アルトサックスのみならず、すべてのパートで同様なのだろう...。



 普門館のリーダーは、上気した顔で、感動を少しも隠すことなく、

 「心からの友情、いただきました。聖良さん、どうも有難うございました。」 


 聖良の部員たちは、ニコニコしている。

 
 帰りしな、聖良のパートリーダーが、普門館のパートリーダーのところまでやってきて、小声でささやいた。

 「…実はな、うちん監督から、やっちゃるよう、言われたと。」

 
 それを聞いて、感謝の念と同時に、本当の友情返しは、ピッチの精度だけでなく、音作りへの執念を持つことやな、とも思った。

 それにしても...

 うちら、なんで、こないに愛されるんやろう?

 中にいるからはっきりとはわからへんが、崩してはあかん部の姿勢があるんやろな..



 名残惜しそうに互いに手を振り合うなか、ひとりだけお辞儀をする生徒がいた。



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