第1話 あれから二週間。私は今日も元気です

文字数 1,529文字

 あれから二週間が経ちました。その間、学校生活はどうだったかって?安心して下さい。大丈夫です。そう、平穏無事な日々ですよ。ただ少し変わった事はありますけど。
 架空の幼馴染へのそんな手紙の走り出しを思い浮かべながら、オレは頬杖をつき、妄想に耽る。
 少しだけ、少しだけ変わった事を今からお伝えしますから。どうか気を確かに持って欲しいと思います。さて、初めはコイツ。

「…だと思ったんゲスよ!どう思うでゲス、内木チン!」

 名称不明だが、オレは内心でゲス男と呼んでいる。コイツは何故か葦名転入後突然休み時間にオレの前の席を陣取る様になり、そして居座る様になった。多分葦名狙いだと思うのだ。しかし、眼鏡に角刈りで、残念だが、非常に残念だが、男のオレから見れば、葦名のお眼鏡に叶う男とは思えない。そんな彼をオレは、大正か昭和から葦名を救う為にタイムスリップして来た、最後は恋が実らぬまま、「アナタはどうして私の事をかばってくれたの」、「君に恋しているからでゲス、百年前から…」なんて言って死ぬ、そんな悲劇の主人公なんじゃないかって思っている。そしたら、このウザさも多少許せる、と自分を欺いているところ。とは言え、流石のオレもそれで譲歩し、会話するなんてことはないので、ゲス男をいつもにこやかな笑顔で無視している。すると横から声が発せられる。

「確かにそうかも!」

 葦名だ。ゲス男がオレに無視されていると気取られない様にいつも気を回し、それとなくオレの代わりに相槌を打ってくれる。どうやら、無視して印象を悪くするのを防ごうとしているらしい。しかし、元はと言えば、コイツが来たのが悪い訳で、恩を感じるとかではなく、オレはマイナスがゼロになったくらいにしか思っていない。そしてまだ、コイツを追い出す算段は立っていない。

「僕もそうかもしれないなあ。う、内木く…」

 蘆名の反対脇から男の声がする。馬岡。コイツもまあ葦名狙いの癖に、いつからかオレに話しかけてくるようになった。

「馬岡君もそうなんだ?真紀ちゃんもそうなの?」
「?まぁ、そうではあるけど、なんか今の流れおかしくない?」
「えぇっ、ああ!そうなあ?」

 焦りを隠す葦名の前の席で、委員長は訝しんだ顔をする。葦名は、オレの嘘により馬岡と委員長が付き合っているものと思っているから、今の様な不意に付き合っている前提で話をするときがある。勿論、オレは「隠して付き合っているからクラスメイトには内緒だぞ」と嘘を重ねておいているから、対策は万全だ。露見しようとも勘違いしました、で済ますつもりではいる。…が、いかんせん、ここまで来ると嘘とはもう言い出さない感じなのだ。
 そして、オレ。オレが何故狸寝入りじゃなく、頬杖をついているかというと、こういった怪獣達に囲まれて、寝ていると起こされるのだ。まず、本当になんでなのか教えて欲しいのだが、寝ているとゲス男がすげえ揺すってくる。オレを着信のあったマナーモードのスマホかってくらい揺すってくる。そんで、葦名が「おきろー」と髪をわしゃわしゃしてきて、馬岡がオレに抱き付いてくる。委員長が遅れて登場し、葦名をオレから引き剥がして、その時に顔を持ち上げられるというのが一連の流れとなった。故に二回ほどそれを経験してオレは態度を改めた。頬杖をついて起きている風にしながら、全員を無視する事にしたのだ。

 どう?平和でしょ。なーんにも変わっちゃいないでしょ?だって、葦名なんかにオレの毎日が変えられる訳ないじゃないですか。オレは武田信玄よろしく山のように動かない男ですから。とは言え、この現状…。

「内木チン!」
「ウッチー」
「内木君」
「駿君!」

「うるせええええ」

 オレは毎日、内心そう叫び狂っているのだった。
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