第20話 トラックに轢かれて異世界編突入!と覚悟すれど、

文字数 3,948文字

長い長い序章も終わり、遂に沢山のライトノベルたちと同じように、トラックに轢かれて異世界編に突入か!この目をひらけば、そこにはほら、鬱蒼とした木々とモンスター、そして美少女が。

オレはゆっくり目を開いた。
しかし、視界を埋め尽くすのは、トラックメーカーのエンブレムを中心としたトラックのフロントカバーだった。でも振り向けば、美少女はちゃんといた。良かった、オレはどうやらトラックの世界へと転生したらしい。まずはこの美少女のステータスでも確認するか。などとふざけていると、美少女は最初こそ目を瞑っていたがゆっくり目を開いて、絶望から安堵した顔に変わり、息を吐いた。

「びっくりした〜!良かったあ。」

すると、トラックの運転席側から声がした。
「おう、駿!」

この声は。オレは運転席側に回り込む。運転席の窓から男が乗り出していた。

「あっ、やっぱり叔父ちゃんか。いや、まじ今回は死んだと思った。毎回ギリギリすぎるでしょ。技術凄いけどさ。」
「まあな。伊達にお前が生まれる前からトラックやってねえさ。」
「毎回オレのギリギリで止める必要ないんだけど。」
「細けえことは気にすんな。姉ちゃんに似てきたんでねが。ところで、駿。何だお前。一緒にいるの雪子かと思ったら、彼女連れてんのか?この前姉ちゃん、『駿、どうやら友達いないみたい』って心配しとったけど。」
「母さん、大雑把の塊でしょ。それに彼女じゃない。同級生。姉貴が制服着てたら犯罪だよ。」
「あー、友達未満恋人以上ってやつか?」
「それどんな関係だよ。いや、友達未満ではあるけど。」
「そうか。まあ、なんだ。姉ちゃんのことあんま心配させんなよ。ああ見えて心配性なんだから。彼女さんにもよろしくな。」
「だから、彼女じゃねえって。」
「駿君のお世話をすることになりました、友達以上おかあさん未満の葦名です!よろしくお願いします。」
「おお、よろしくな。駿、おめえ良かったな。こんな可愛い子に世話してもらえて。」
「別に世話してもらわねえって。」
「なんだ、せっかくなんだからお言葉に甘えとけ。」
「嫌だよ。」
「しゃあねえ奴だな、お前は。んじゃあよ、オレは会社帰るわ。またな。」
「じゃあ、また。」
「ところで駿。バックすっから後ろ見ててくれ。」

そうしてオレと葦名は交差点まで少し道を戻り、叔父のトラックをバックさせた。交差点には、よく見れば一方通行につき侵入禁止の表示があった。

「一方通行って書いてあるけど。」
「知ってんよ。ここらへんよく走ってんだから。」
「ああ、そう。」

そして、叔父は自分の会社に帰って行った。オレたちは叔父のトラックの後ろ姿を見送った。

「凄いパワフルな姉弟だね。おかあさんのところ。」
「まあな。あの叔父さんは末っ子で真ん中にもう一人叔父さんがいる。その人もやはりと言う感じだが、親戚全員あんなモンスターだらけだ。親戚の集まりは、猛獣だらけの檻に入れられたウサギの気分になる。」
「ふふ。それはなんか分かるかも。じゃあ、行こっか。」

オレたちはまたパン屋へ向かって歩き出した。

「ていうか、お世話するってなんだよ。」
「本当のことでしょー。友達作ってあげるんだから。」
「いや、何度も言うが友達要らねえって。」
「そう言いなさるな。友達は必要だよ。社会との繋がりは孤独感を薄れさせる効果があるんだから。」
「オレの周りを見て、社会との繋がり薄いと思うか?」
「駿君の周りみんな濃厚だよね、あはは。」
「爺さんも今日はカレーだったから大人しかったが、普段は『駿、将棋するぞ』ってうるさいんだからな。」
「お爺さんカレー嫌いなの?ふふっ、なんか可愛いね。」
「ただのくそジジイだよ。」
「いいじゃん。毎日相手して欲しいくらい駿君のこと好きなんだし。じゃあさ、そんな感じで学校でも一つお相手お願いします。」
「嫌です。」
「なんでよー。こんなに普通に話せるのに、どうして学校では意地でも友達作らないんですかあ?」
「何でもいいだろ、そんなの。」
「良くないよー。友達は大事だよ?社会との繋がりは…」「それはもう聞いた。」
「あははは。でもさ、ホント友達作らないといつまでも私いることになるよ?」
「それは困るな。」
「困ると明言されるのもショックなんですけど!あんまり、ひどい事すると国に報告するよ!そしたら、もしかしたら私なんかよりもおっと凄い、おかあさんみたいな人来るかもよ?」
「それは困る。」
「ふふっ、ならお相手のほどを。」
「あー、ならさ」
「ん?」

「葦名が友達一号って事にしてやるよ。」
「えっ!?ホント?やったー!」
「だから、報告書には『友達出来た』と書いておいてくれ。」
「ガクーッ。やっぱりかー!君の話は素直に喜んじゃいけないんだよなあ。人間不信になりそう。」
「ぷっ。まあ、頑張りたまえ。」
「あっ、ねえ今笑った?本日初めてじゃない?ねえ、本気で笑ったよね?」
「いや、笑ってねえけど。」
「笑ったって!素直になりなよ。」
「笑ってねえって。」

そして、オレたちは目的地のパン屋の手前にあるアーチ型の橋を渡る。

「うわあ。街の明かりがチカチカしていて綺麗。人でなしの駿君も流石に感動したんじゃない?」
「人でなしとはなんだ。失礼な。」
「ごめん、ごめん。」
「やれやれ、ここはオレの通学路だ。中学は川向こうだったから、いつもここを通ってた。」
「なーんだ。がっくし。」
「中学で仲良かった奴らは、みんな別の小学校だったからさ、この橋はいつも一人渡ってた。そのとき、オレも良く後ろを振り返って見ることがあった。」
「おっ、なんだやっぱ好きなんだね!」
「まあな。オレが多分一番好きな空間だ。誰も居なくて、でも人の営みを感じられる。」
「なんかロマンティックなこと言い出したね。」
「うるせー。せっかく人が話してやってんのに。」
「ごめん、ごめん。でも、なんか意外かも。もっと人に興味がないタイプかと思った。」
「いや、あながち間違いじゃない。興味がないと言うより、多分他人が嫌いなんだ。愛しさ余って憎さ百倍ってやつかもな。だから、きっと他人とはこの距離感が良いんだと思う。」
「えっ?私との距離ってこと?」
「今のどこに葦名を指す行間があった…?街の明かりの中にいる人々とだ。」
「ふーん。ここからじゃ遠くない?」
「でも、綺麗なんだろ。」
「うーん、一理あるね。でも、私は近い方がいいかなあ。今の駿君とみたいに。」
「絶望的に価値観が合わないな。」
「ちょっと、そんなことないって!近くで見ると、滲みや汚れとかも見えたりするけど、それも含めて『今まで沢山の思い出があるんだろうなあ』って思えて、なんだか温かい気持ちになれるじゃない?」
「いや、特に。」
「何でよ!そこはとりあえずでも合わせるとこでしょ!」
「分かった。分かった。」
そう言ってオレは歩を緩めて、葦名と距離を取る。それに気付いた葦名が怒る。

「分かってないじゃん!」

そんなこんなでパン屋の角から小道に入り、川沿いの葦名の仮住まいにたどり着く。

「マンションにでも住んでるかと思ったけど、普通のアパートなんだな。女子高生の一人住まいでセキュリティ大丈夫なのか?」
「国からの手当の上限が五万なんだよねぇ…。って、あっ心配してくれてる?」
「女子の癖にそういうの気にしない図太い神経の持ち主なんだなあと思っただけだ。」
「嘘付き〜。」
「まあなら、念のためこれやるよ。護身用に使え。ほら。」

そう言ってカバンの中から取り出したも物をポイっと投げる。

「わっ、ありがとう。って、これハリセンじゃん!護身じゃなくて、自分への凶器でしょ!」
「いや、相手の記憶を消せるかもしれんぞ。まだ試行回数一回だからな。次は分からん。」
「お姉さんが駿君に試さなかった時点でほぼ100パー黒だよ…。」
「なら、突き刺すとかまだ見ぬ使い方なら…。」
「試すの怖すぎるよ!私にも同じ思いさせようとしてるでしょ?」
「バレたか。」
「バレバレだよ!てか、なんでこんな物持ってるの。」
「母に捨ててこいって言われた。」
「私ゴミ捨て場じゃないんですけど!」
「プレゼントだよ。」
「はあ、こんな嬉しくないプレゼント初めてだよ…。今度はもっと良いのちょうだいね。」
「ああ、今度は報告書な。」
「それ、プレゼントって言わないんですけど!」
「友達出来ましたっていう。」
「それは嬉しい!」
「友達の名、葦名愛美。」
「もうー、やっぱり裏があった。なんだか笑点見てるみたいだよ。」
「笑点見てんのか葦名。ウチの爺さんみたいだな。」
「えっ、あ、面白いんだから!」
「相撲観たり、毎朝ラジオ体操してんのか?」
「そんな高齢者じゃないですっ!」
「ははは。」
「あっ、また笑った!」
「ああ、その見た目で爺さん趣味だと思わなくて。日曜日は将棋観てるんだろ?」
「もう、笑点だけだってば!」
「あはははは。」
「ふふっ。」

「んじゃあ、オレは帰る。」
「うん。ありがとうね。明日からもよろしくね。友達作ろうね。」
「それは遠慮しとく。」
「もう。」
「じゃあな。」
「うん、バイバイ。」

こうしてオレの、学生生活を謳歌せずにいたせいで派遣された美少女によって引き起こされた、災難尽くしの怒涛の一日は幕を閉じた。そして、また明日からそんな目まぐるしい一日が展開していく。『何もせず、何人にも関わらず』をモットーにするオレと、友達作りをしたい葦名の戦いは、まるでギャグ漫画のように、まだまだ続いていくのだった。




(第1部 完)




ーーーーーーー

その頃、内木家リビングにて。
「あら、やだ。何よ、この紙切れ。もうー、ちゃんとゴミ箱に入れなさいよー!って、なに、なに。

 叩く :消える
 あげる:受難、そして二人は…

あら、ゆーちゃんの字だわ。何かしらこれ。まあ、ゆーちゃん居ないし、ゴミよね。はい、ポポイのポパーイ、ほうれん草っと。」

ガサッ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み