第1話 体育を目立たぬようにやり過ごすオレと謎の転校生

文字数 656文字

「ヘイッ、パース!」

ボールの蹴られた音が校庭に響いて、放射線状に飛んでいくボールに、まるで金塊でも入っているのかと思わせるくらい必死な男たちが群がり、跳ね上がる。

それも仕方ない。体育のこのサッカーを女子も見ているのだ。張り切らずにはいられまい。その光景は、昔テレビで見た、マグロがイカを追って海面を跳ねてる映像を思い出させた。生存競争。とても尊い戦いだ。オレは、戦争映画の出撃シーンのように神妙な面持ちをしながら、心の中で軍服を着て敬礼をした。

かく言うオレは、ボールが来ることも、サボってチームメイトの怒りを買うこともないように気を遣い、まるで審判かのようになんとなく走り回りながら、ボールが来ないようにするため相手チームの鈍臭そうな奴の側に立ち、絶妙にこの時間をやり過ごしていた。

ボールがネットを揺らし、歓声が起こる。決めた奴は一本指を立てながら走り回り、チームメイトが喜び合う。オレはそれを横目に見ながら少し先に自分の陣地へ駆け出した。

自陣のゴールの奥には、少し盛土されていて、その上に校舎が見える。ゴールキーパーがオレではないチームメイトに手を振って喜びを共有している。

(ん?あれは…?)

ゴールネットの奥に人影があった。最近悪くなり始めた目を細めて、ピントを合わせてみる。

(ここらへんの学校の制服じゃなさそうだ。)

見慣れない制服を着た黒髪女子の後ろ姿が校舎の入り口に向かう。

(転校生か?)

なんて思いつつ、まぁ、関係ないと思い直し、特に気にするでもなく、オレはまたボールに触れることのないサッカーに熱中した。
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