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文字数 1,423文字
女の子が女の子に恋しちゃいけないなんて、誰が決めたんだろう?
その頃は、毎日そんなことばっかり考えていた。
その頃。私が中学生になった、頃。
「ミチ? 何してるの? 帰ろうよ」
「あ、うん、帰ろう、帰ろう」
中学校に入学して、同級生になった佐取 美晴 に声をかけられて、私は思考を中断した。
思考を中断されたことに、別に腹は立たない。だって、それよりも、美晴と帰る方が、大事だから。
この気持ちに気付いたのは、いつだったかな?
多分、夏休み前に、美晴が上級生にラブレターを貰った、あの時。
困ったような、恥ずかしいような、複雑な顔で、ラブレターを読んでいた、あの顔を見た時に、私は自分の心の奥底に芽生えた、嫉妬の炎を感じた。
それは、仲の良い友人に対する独占欲なのだ、と最初は思ったけど。
「どうしよう、ミチ。こんな手紙、どうしたらいいの?」
携帯電話がようやく普及し始めた頃で、中学生の連絡手段は、まだ家電か手紙、という時代。
「興味ないなら放っておけば? どうせ付き合ったりしないんでしょ?」
「それはそうなんだけど……でも、無視するのも悪いし……」
「付き合う気もないのに、変な気を回せば誤解されるよ。相手もどうせ当たって砕けろって気持ちだよ。高嶺の花のお嬢様だもん」
美晴は、市内でも、有数の名家である佐取家のお嬢様だ。と言っても、跡を継いでいるのは、美晴のおじさんなんだけど。
美晴のお父さんとお母さんは、もう大分前に亡くなったらしい。なので、美晴のお祖母さんに引き取られて、佐取の本家で暮らしている。
中学三年生が、一年生にラブレターを寄越すなんて、なんてマセたことを、と思うけど。それも男子が。
でも、美晴には、そうさせてしまう魅力があった。
顔形はそれなりに整っているけど、すごい美少女かと言うと、そうでもない。
でも、そこに、美晴の声や、仕草や、立ち居振舞いが加わると。
たおやか、と言うのは、こういうことを言うんだろうか? 指先が動くだけで、まるで雅楽の調べが聞こえて来そうな、まるで舞を見ているような、不思議なオーラが漂う。
佐取家は、山の方にある由緒正しい神社の宮司の家系で、その家の子供は、お祭りの日には神社の隣に設置された舞台で舞を舞っていた。
お神楽舞、神社では『浦安の舞』って呼んでた。今は血筋に関係なく、神社周辺の地区に住む小学生の女の子は 希望して練習すればこの舞に参加することができる。
まだ美晴と友達になる前。
私達は、家は意外と近いのに、たまたま学区の境目で、違う小学校に通っていた。
だから、家からそう遠くない神社のお祭りに行って神楽舞を観たのも、ホントにたまたまで。
昨年の秋、この舞台には他の女の子も上がっていた。同じ歳くらいの女の子達が踊るのよ、スゴいね、くらいの軽い気持ちで、眺めていたけど。
そこに、神が降りてきていた――。
まさに、巫女、と言うのはこういう存在なのだ、と示すかのように。
正直段違いだった。その眼差しが、指先が、腕の動きが、隅々まで神経が行き届き、力が張り巡らされ、けれど、優雅で。
他の女の子達の役割は、その圧倒的な存在感を判らせる為だけに、あるように。
あの瞬間、きっと私は、恋に落ちていたんだと思う。
神々しいまでに美しい、神の依代に。
中学校の入学式に教室に入った時。その女の子が、自分の前の席に座っていたのを見た時は。
これは、運命の出会いに違いない――本気でそう思った。
その頃は、毎日そんなことばっかり考えていた。
その頃。私が中学生になった、頃。
「ミチ? 何してるの? 帰ろうよ」
「あ、うん、帰ろう、帰ろう」
中学校に入学して、同級生になった
思考を中断されたことに、別に腹は立たない。だって、それよりも、美晴と帰る方が、大事だから。
この気持ちに気付いたのは、いつだったかな?
多分、夏休み前に、美晴が上級生にラブレターを貰った、あの時。
困ったような、恥ずかしいような、複雑な顔で、ラブレターを読んでいた、あの顔を見た時に、私は自分の心の奥底に芽生えた、嫉妬の炎を感じた。
それは、仲の良い友人に対する独占欲なのだ、と最初は思ったけど。
「どうしよう、ミチ。こんな手紙、どうしたらいいの?」
携帯電話がようやく普及し始めた頃で、中学生の連絡手段は、まだ家電か手紙、という時代。
「興味ないなら放っておけば? どうせ付き合ったりしないんでしょ?」
「それはそうなんだけど……でも、無視するのも悪いし……」
「付き合う気もないのに、変な気を回せば誤解されるよ。相手もどうせ当たって砕けろって気持ちだよ。高嶺の花のお嬢様だもん」
美晴は、市内でも、有数の名家である佐取家のお嬢様だ。と言っても、跡を継いでいるのは、美晴のおじさんなんだけど。
美晴のお父さんとお母さんは、もう大分前に亡くなったらしい。なので、美晴のお祖母さんに引き取られて、佐取の本家で暮らしている。
中学三年生が、一年生にラブレターを寄越すなんて、なんてマセたことを、と思うけど。それも男子が。
でも、美晴には、そうさせてしまう魅力があった。
顔形はそれなりに整っているけど、すごい美少女かと言うと、そうでもない。
でも、そこに、美晴の声や、仕草や、立ち居振舞いが加わると。
たおやか、と言うのは、こういうことを言うんだろうか? 指先が動くだけで、まるで雅楽の調べが聞こえて来そうな、まるで舞を見ているような、不思議なオーラが漂う。
佐取家は、山の方にある由緒正しい神社の宮司の家系で、その家の子供は、お祭りの日には神社の隣に設置された舞台で舞を舞っていた。
お神楽舞、神社では『浦安の舞』って呼んでた。今は血筋に関係なく、神社周辺の地区に住む小学生の女の子は 希望して練習すればこの舞に参加することができる。
まだ美晴と友達になる前。
私達は、家は意外と近いのに、たまたま学区の境目で、違う小学校に通っていた。
だから、家からそう遠くない神社のお祭りに行って神楽舞を観たのも、ホントにたまたまで。
昨年の秋、この舞台には他の女の子も上がっていた。同じ歳くらいの女の子達が踊るのよ、スゴいね、くらいの軽い気持ちで、眺めていたけど。
そこに、神が降りてきていた――。
まさに、巫女、と言うのはこういう存在なのだ、と示すかのように。
正直段違いだった。その眼差しが、指先が、腕の動きが、隅々まで神経が行き届き、力が張り巡らされ、けれど、優雅で。
他の女の子達の役割は、その圧倒的な存在感を判らせる為だけに、あるように。
あの瞬間、きっと私は、恋に落ちていたんだと思う。
神々しいまでに美しい、神の依代に。
中学校の入学式に教室に入った時。その女の子が、自分の前の席に座っていたのを見た時は。
これは、運命の出会いに違いない――本気でそう思った。