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文字数 1,939文字
「あ、赤ちゃん?」
いや、こんな仕事をしていると、ごく普通に聞く出来事だけど。
順番が逆ぐらい、この頃は、もう珍しくもないんだけど。
ただ、その言葉を言ったのが、美晴だと言うことが、あまりにもそぐわなくて。
夜の外出も出来ないくらい、知人の店でアルバイトするくらいしか、自由がないはずの、美晴が。
……一体、いつ、作ったのよ?
「念のために聞くけど、誰かに無理やり、とかじゃないのよね?」
「バカ言わないで。好きな人ができたっていったでしょ? その人との子供だよ」
「……うん、分かった。それで、何を聞きたいの? まさか、中絶したいとか、言うんじゃないよね?」
幸せそうな美晴の顔を見れば、あり得ないとは思ったけど。
「バカ言わないでって! 産むに決まってるじゃない! そうじゃなくて……いつ頃産まれるのかな、って」
「……正確には、エコー撮ってもらわないと分からないけど、まあ、大体の予測は出来るよ。最後に生理が来たのは、いつ?」
「4月の終わり」
「だとすると、ゴールデンウィークくらいに、その、したのかな? 記憶ある?」
「ある」
「だとすると、ええっと、大体1月の中旬から終わりくらいかな。どっちにしても、まだ不安定な時期だし、早く受診したほうがいいよ。彼には?」
「まだ言ってない。予定日聞いてからにしようかな、って思って。これからのこともあるし」
「でも、少し期限が過ぎちゃったけど、美晴が好きな人なんだし、結婚できるなら、相手は誰でもいいんでしょ? お祖母さん」
「うん。ただね、お見合いの予定が決まっていたんだよね。どうやって断るか、思案中。あと、彼とすぐには結婚できないし」
「はあ!? 何で? 美晴と真剣に付き合ってるんじゃないの?」
「真剣だよ、たぶん。でもね、どうしても、すぐには出来ないの」
「どうして……まさか、不倫とかじゃないよね?」
「違うって。あのね、法律的に、ダメなの。彼、まだ17歳、だから」
「……ちょっと待って。17歳? え? 高校生?」
「うん。そこの城北高校の、三年生」
「え? なんであんな頭のいい学校の子が、こんなことしでかしてンのよ?!」
「しでかすとか、ひどい。まあ、恋に目が眩んで、ちょっと自制心なくしていたけど。でも、本気なんだからね?!」
それは、初めて見た、恋する美晴の顔。
私はミチが一番好き、とか言ってた時とは違う、熱に浮かされたような、潤んだ瞳で。
ああ、とうとう、美晴は、恋をしたんだ。
色々衝撃的すぎたせいもあったけど、意外にすんなり受け入れられた。
私の恋は終わって、代わりに美晴のお腹に、赤ちゃんが宿ったんだ。そう思ったら、いっそう美晴のお腹の子が、愛しくて。
……まあ、美晴の彼からしたら、迷惑な思い入れなのかも知れないけど、そのくらい許して欲しい。
私から美晴を奪いさっていった、小憎らしい恋敵 め。
そのあと、美晴は彼と一緒に市立病院の産婦人科に受診して、私が予測したのとほぼ同じ出産予定日が告げられて。
ひと悶着あったみたいだけど、無事に、美晴の結婚も決まり。入籍はまだしばらく先だけど(っていうか、予定日と彼の誕生日が近いから、ホントに出産ギリギリになっちゃう)。
「先輩! 私を鍛えてください! 大事な親友が1月に出産するんです! 私、絶対その子の分娩とりたいんです!」
先輩に直談判して(一応予定でも、その頃には独り立ちできるように研修プログラムは組んであったんだけど)、私は美晴の赤ちゃんの分娩を担当出来た。
……その赤ちゃんが、ハルくんーー晴比古くん。
もう! 内面は美晴そっくり! 外見は悔しいことに出会った頃の瑛比古くんみたいだけど。
まさか、その子が看護師を目指して、私の指導を受ける立場になるなんて、あの頃は想像も出来なかったけど。
でも! さすが私の心の息子!
看護師目指すなんて! えらい!
……まあ、その根底には、きっと、美晴の死も、影響しているんだろう。
あまりにも早く、逝ってしまった、美晴。
美晴は、言わなかった、けど。
きっと、家族が、本当の家族が、欲しかったんだよね、美晴。
だから、何だかんだ言いながらも、早くに結婚すること自体には抵抗してなかった。
それは、私とでは、叶えられなかった、美晴の夢、だったんだね。
それだけは、ちょっと悲しいけど。
でも、よかった。
美晴が、仕方なしに誰かと家族になるんじゃなくて、大好きな彼と、家族になれたから。
だから安心して、見守っていてね。
ハルくんは、私が絶対、一人前の看護師に育てるから!
市民病院に就職予定だし、小児科希望って言っていたし、私の権力とコネを総動員して、隣の小児科病棟に配属してもらうからね!
天国で見守っていてね。
愛しの、美晴。
いや、こんな仕事をしていると、ごく普通に聞く出来事だけど。
順番が逆ぐらい、この頃は、もう珍しくもないんだけど。
ただ、その言葉を言ったのが、美晴だと言うことが、あまりにもそぐわなくて。
夜の外出も出来ないくらい、知人の店でアルバイトするくらいしか、自由がないはずの、美晴が。
……一体、いつ、作ったのよ?
「念のために聞くけど、誰かに無理やり、とかじゃないのよね?」
「バカ言わないで。好きな人ができたっていったでしょ? その人との子供だよ」
「……うん、分かった。それで、何を聞きたいの? まさか、中絶したいとか、言うんじゃないよね?」
幸せそうな美晴の顔を見れば、あり得ないとは思ったけど。
「バカ言わないでって! 産むに決まってるじゃない! そうじゃなくて……いつ頃産まれるのかな、って」
「……正確には、エコー撮ってもらわないと分からないけど、まあ、大体の予測は出来るよ。最後に生理が来たのは、いつ?」
「4月の終わり」
「だとすると、ゴールデンウィークくらいに、その、したのかな? 記憶ある?」
「ある」
「だとすると、ええっと、大体1月の中旬から終わりくらいかな。どっちにしても、まだ不安定な時期だし、早く受診したほうがいいよ。彼には?」
「まだ言ってない。予定日聞いてからにしようかな、って思って。これからのこともあるし」
「でも、少し期限が過ぎちゃったけど、美晴が好きな人なんだし、結婚できるなら、相手は誰でもいいんでしょ? お祖母さん」
「うん。ただね、お見合いの予定が決まっていたんだよね。どうやって断るか、思案中。あと、彼とすぐには結婚できないし」
「はあ!? 何で? 美晴と真剣に付き合ってるんじゃないの?」
「真剣だよ、たぶん。でもね、どうしても、すぐには出来ないの」
「どうして……まさか、不倫とかじゃないよね?」
「違うって。あのね、法律的に、ダメなの。彼、まだ17歳、だから」
「……ちょっと待って。17歳? え? 高校生?」
「うん。そこの城北高校の、三年生」
「え? なんであんな頭のいい学校の子が、こんなことしでかしてンのよ?!」
「しでかすとか、ひどい。まあ、恋に目が眩んで、ちょっと自制心なくしていたけど。でも、本気なんだからね?!」
それは、初めて見た、恋する美晴の顔。
私はミチが一番好き、とか言ってた時とは違う、熱に浮かされたような、潤んだ瞳で。
ああ、とうとう、美晴は、恋をしたんだ。
色々衝撃的すぎたせいもあったけど、意外にすんなり受け入れられた。
私の恋は終わって、代わりに美晴のお腹に、赤ちゃんが宿ったんだ。そう思ったら、いっそう美晴のお腹の子が、愛しくて。
……まあ、美晴の彼からしたら、迷惑な思い入れなのかも知れないけど、そのくらい許して欲しい。
私から美晴を奪いさっていった、小憎らしい
そのあと、美晴は彼と一緒に市立病院の産婦人科に受診して、私が予測したのとほぼ同じ出産予定日が告げられて。
ひと悶着あったみたいだけど、無事に、美晴の結婚も決まり。入籍はまだしばらく先だけど(っていうか、予定日と彼の誕生日が近いから、ホントに出産ギリギリになっちゃう)。
「先輩! 私を鍛えてください! 大事な親友が1月に出産するんです! 私、絶対その子の分娩とりたいんです!」
先輩に直談判して(一応予定でも、その頃には独り立ちできるように研修プログラムは組んであったんだけど)、私は美晴の赤ちゃんの分娩を担当出来た。
……その赤ちゃんが、ハルくんーー晴比古くん。
もう! 内面は美晴そっくり! 外見は悔しいことに出会った頃の瑛比古くんみたいだけど。
まさか、その子が看護師を目指して、私の指導を受ける立場になるなんて、あの頃は想像も出来なかったけど。
でも! さすが私の心の息子!
看護師目指すなんて! えらい!
……まあ、その根底には、きっと、美晴の死も、影響しているんだろう。
あまりにも早く、逝ってしまった、美晴。
美晴は、言わなかった、けど。
きっと、家族が、本当の家族が、欲しかったんだよね、美晴。
だから、何だかんだ言いながらも、早くに結婚すること自体には抵抗してなかった。
それは、私とでは、叶えられなかった、美晴の夢、だったんだね。
それだけは、ちょっと悲しいけど。
でも、よかった。
美晴が、仕方なしに誰かと家族になるんじゃなくて、大好きな彼と、家族になれたから。
だから安心して、見守っていてね。
ハルくんは、私が絶対、一人前の看護師に育てるから!
市民病院に就職予定だし、小児科希望って言っていたし、私の権力とコネを総動員して、隣の小児科病棟に配属してもらうからね!
天国で見守っていてね。
愛しの、美晴。