ナナシと異世界の扉

文字数 1,283文字

結局、屋上からも逃げ出して来たナナシ。


弁当を手にさまよいながら、

ちょうど部室の前を通り掛かると

ドアがほんの少しだけ開いたままになっている。

――普段使っていない時は

鍵が掛かっている筈なのだが……


鍵を掛け忘れたのか?


鍵の管理はサイ子先輩の担当だったかな?

ナナシはドアノブに手を掛ける。

――部室の扉は自分にとってみれば


異世界に通じる門を開くにも等しい……

自分の知らない未知の領域という点で


明らかにそこは

日常とは異なる非日常空間


いきなり後頭部を鈍器で

思いっ切り殴られたような、

そんな衝撃を毎回味わっている……

ナナシは部室のドアを開ける。
!!
……。

――ナナミとサイコ先輩が一緒に仲良く、お昼ご飯を食べている、だと!?

クソッ、これは一体どういうことだ!?

いつもは犬猿の仲である筈の二人が、並んでお昼のお弁当を食べている


なんとなく仲間外れにされたという疎外感もなくはない

これではまるで


自分がヒロインの女子だったとして


そのヒロインを奪い合っていた

イケメン男子二名が


そっちの方で盛り上がって

仲良くなってしまい


BL的な展開になって

ヒロインだけ置き去りにされる


そんな展開みたいではないか

あっ!ナナシくん
ナナシくん、ご機嫌よう

二人は仲が悪いのだと思っていましたが、い、いつからそんな深い関係に……?

いや、私は

教室で弁当を食べるのが好きではないのでな

いつも部室に来て

独りでお弁当を食べることにしているのだ


鍵の管理担当であるという立場を利用してな

それを今日に限って

この女が部室にやって来てだな……

――サイ子先輩は

自分とはタイプが異なるが


隠キャであるのは間違いない


まぁ、ストロング隠キャというか

イキリ隠キャというか


むしろサイコパスなのかもしれないが

あたしは、部活大好きだから


お昼休みはみんなと

部室でご飯を食べられたらいいなと思ってて


それで部室を覗いてみたら

サイ子先輩がいたから


ここで食べることにしましたぁ!

――こいつのメンタルは鋼鉄製か? アイアンハートなのか?


自分だったら即逃げ出すぞ

チッ
ドンッ

――覆面もしていないというのに

これは相当イラついているようだな


素顔なのに

ビッチキラーになりかかっているではないか

無理もない


ナナミは明らかな陽キャ


しかも天然が入っていて


本人に悪気はないのだが

隠キャにうざ絡みして来る


隠キャからすればタチの悪い陽キャ


サイ子先輩がイラつくのも分からなくはない

最初に私がここを使っていたのだから


後から来たこの女に遠慮して、

この場を去るというのは

おかしな話じゃあないか?


鍵を持っているのも私なのだしね


私がここに残るのは道理だと思うのだがね

ここはサイ子先輩だけの

部室じゃあないんですから


私がここで食べたらダメだと言うのは、おかしいと思うんですよ。


みんなが等しく

お昼休みに部室を使ってはダメだと言うなら分かりますけど

――クソッ、なんということだ


これはこのまま気配を消して

そっとこの場から立ち去るしかない

ナナシくんも一緒に

ここでお弁当を食べようよ!

この女とずっと

二人きりでいるなど耐えられんからな


是非ナナシくんにもここにいてもらいたい

――何故だ、何故そこだけは

意見が一致するのだっ!

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