ナナシとネガティブな遠回り

文字数 1,226文字

茫然と立ち尽くすナナシの背後から

再び声を掛けて来る女子の声。

あっ、ナナシくんも今帰り?

よかったら、一緒に帰らない?

直前のインパクトがあまりに強過ぎて

動揺しながら後ろを振り返るナナシ。

お、お前もなのか?

やはりお前もそんなことがしたいのか?

正々堂々と勝手に家に上がり込んで


冷蔵庫のジュースを飲んだり、

大事に取って置いたプリンを食べたり


お風呂に入ったり、

パジャマを着たり、

ベッドに潜り込んだり……

俺の家がどこにあるのか知ったら


お前もそんなことがしたいと言うのか!?

えっ!ナナシくん、

あたしの家でそんなことしたいの?

――はぁ??

いやちょっと待て、

人の話をよく聞け!

普段からナナシの話は長いので

最後までちゃんと聞いていないというのは

ナナミにはよくあることだ。

そういえばナナシくんて

あたしの家、知ってるよね?

――なんだとっ!


俺が怖れていたことが、早速……

これからはこいつの家で

何か不審なことが起こる度に

すべて俺のせいにされると言うのか?

冷蔵庫にあった筈のプリンが無くなった


きっとナナシが勝手に食べたに違いない

置いてあった筈の洗濯物が無くなった


またナナシが持って行ったに違いない

お風呂の浴槽がなんだか汚い


ナナシが入ったせいに違いない

醤油が切れた


ナナシのせいに違いない

電球が切れた


ナナシのせい

以下略……
クソッ!なんてことだっ!

これではまるで

俺が座敷童子並みに

こいつの家に常駐していることにされてしまうではないかっ!

でも……それって、

なんか彼氏みたいじゃない?

――まるで話が噛み合っていない、だと!?

なぜこいつは、

俯いて恥ずかしそうに顔を赤くしてモジモジしているのだ

ち、ち、違うのだっ!

そ、そうではないのだっ!

俺はお前の家には興味がないっ!


むしろ知らなかった方が

幸せだったとすら思っているっ!

ひど〜いっ!

そこまで言わなくてもよくない?

と、とにかく違うからなっ!


絶対違うからなっ!

あまりに動揺し過ぎて

ナナシはその場から走って逃げ出す。

天然ではあるが

こちらも十分に可愛い美少女なのだから、


これを機にもっと親密になればいいのにと

普通ならば思うのであろうが、


やはりナナシはそれどころではない。

――クソッ、どうすればいいのだ

このまま駅に向かったのでは

駅でまたナナミと遭遇する可能性が高い


ナナミが駅で待ち伏せしていることはないだろうが


サイ子先輩はやらないとは言い切れない

しかし、時間を置いて駅に行ったとしてもだ


ナナミも駅に行く前に

どこかに立ち寄る可能性もある


本屋だとか、それこそラーメン屋だとか

逆に時間を置いた分が、

ナナミが寄り道した時間と重なって、


結局駅で遭遇してしまう可能性も否めない

クソッ、一体いつが

絶対に鉢合わせしない

安全な時間帯だと言えるのだ?

その後、三時間ぐらい

ナナミがまだ駅周辺に居るのではないかと思って、ナナシは駅に近寄ることが出来なかった。


そして明日の朝もまた早い……。

立ちそうになる恋愛フラグを

自ら渾身の力でバキバキにへし折って行く

それがナナシという人間なのだ。

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