ナナシのネガティブな帰り道

文字数 1,528文字

放課後。

今日は部活がないので、

下校時間もいつもより早い。

――せっかく早く帰れるのだから


そのプライベートな時間は

有意義に使いたいというものだ

昼休みにナナミから聞いた話によれば、駅前のラーメン屋が評判がいいらしいな

学校の帰り道にラーメン屋に寄る……


なんとも高校生らしいではないか

まぁ普通は友達と一緒に行くらしいがな……


友達などはいないから仕方がないな

……。
――一人でラーメン屋に行く、だと?

コンビニですら

今朝のあの有様なのだぞ?


いきなり出入禁止になるぐらいの

大惨事になることは目に見えているではないか

下駄箱の前でナナシは、再びサイ子先輩に遭遇する。

あぁ、ナナシくんも

ちょうど今帰るところのようだね……

――喋り方がちょっとビッチキラー先輩ぽい


……これは用心した方がよさそうだな

どうだい、よかったら

途中まで一緒に帰らないか?

――サイ子先輩と一緒に帰る、だと?

そんなリア充の真似事みたいなことを、先輩権限で命令しようと言うのか?

これはパワハラか? パワハラなのか?

そうだね、なんだったら

一緒に寄り道して帰るのもいいかもしれない……


昼休みに言っていたラーメン屋でもいい

――サイ子先輩とラーメン屋、だと?

クッ、なんと言う甘言だっ


一人では大惨事になりかねないが


サイ子先輩と一緒であれば、自分も落ち着いて対処出来るだろう


いざとなれば、介護(フォロー)してもらうことも期待出来る


ラーメンの口になっている今、ものすごく魅力的な提案であることは疑いようもない

だがおそらくこれは罠だ、

トラップに間違いない

すいません、

個人情報保護の観点から


利用路線と最寄駅は

人に知られないようにしているんです

さすがナナシくんだ……


試すような真似をしてすまなかったね

途中まででも一緒に帰れば


ナナシくんの家がどこにあるのか


その手掛かりがつかめると思ったのだがね……

ナナシくんの家が分かれば……

勝手にこっそり合鍵をつくって


誰もいない時に

勝手にこっそり家にお邪魔して

冷蔵庫の中にある

ナナシくんが飲み掛けのジュースを飲んだり


大事に取って置いたプリンを食べたり

制服の匂いを嗅いで

『ナナシくんの匂いがする』と独り呟いてみたり

お風呂を沸かして勝手に入って


『ナナシくんと同じお風呂に入っちゃった』


そう独り言を呟きながら

浴槽の使い勝手をチェックしてみたり

風呂上がりにはナナシくんのパジャマを素肌に着て


ぬくもりを感じてみたり

あまつさえ


ナナシくんの部屋にあるベッドの下に隠れて


いつナナシくんが帰って来るのか

ドキドキしながら待ちわびたり


いつ気づいてくれるのか


どれくらい時間がかかるか

タイムを測ってみようと思っていたのに……

恋する乙女が彼氏の家に行くというシチュエーションを


存分に楽しもうと思っていたのだが

……残念だよ

――自分のネガティブな被害妄想をはるかに超えた


弩級のヤベエ奴が居るとは……

クッ、やはりか……


しかしなんと言う恐ろしい人なのだ


人のプライベートをそこまで蹂躙しようと企てていたとは……

仕方がない、今日は諦めて

また今度の機会を伺うとしよう

――見逃してもらえた、のか?

安心してくれたまえ、


いくら私でもストーカーのような

卑劣な真似は出来ないからな……

あくまで正々堂々と


勝手に誰もいないナナシくんの家に入り込む

それが、私の目標なのだっ!

――どうしてその言葉で安心出来ると思ったのか


問いただしたい

その場を立ち去るサイ子先輩の後ろ姿を見送るナナシ。


ちょっとヤンデレ気味ではあるが、

それを差し引いてもモデル並みに美しいのだから、付き合ってもいいかも、


普通の男子ならそう思っても不思議ではない。


だが、ナナシはもうそれどころではないかった。

――クソッ、これまで以上に


朝の登校と帰りの下校は、

厳重に警戒しなくてはならなくなってしまった

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