ナナシと勧誘

文字数 2,160文字

それよりも、ナナシくん


個人情報保護部に

入部してくれる気にはなってくれたかしら?

――入部、だと!?

すごいな、この人も……


よく昨日のあれで

入部意欲が湧くと思ったものだな


印象最悪なんだが……

特にあなたの……

無駄にポジティブなのか?

いや確かに……


個人情報保護主義者の自分とすれば


これ以上はないぐらいに

マッチングした部であるのだろうが


あの中で自分は果たしてやっていけるのか……

はい! はーい!

もう絶対入部しまーす!

すぐにでも入部届け出しますね
――こっちにも無駄にポジティブな奴がいたか
チッ!

あなたには聞いてないわ、

私はナナシくんに聞いているの

ブゥ

個人情報保護部も

今でこそ六人居るけど


私達三年生が卒業したら

二年生の二号一人だけになってしまうでしょ?

そうなると廃部になってしまう可能性があるから


今年は新入生勧誘に力を入れようかと思っているの

――それ、あなたが追い出したんですよね!?
あ〜ぁ、なるほどぉ
悪役が改心した的なパターンですかねえ
――なんでこいつが、

サイ子先輩に対抗心を燃やしはじめているのだ……


さっき軽くあしらわれたからか?

地雷を踏むどころか、

核のコアを貫くような


そんな身も蓋もないことを言い出すんじゃないっ!

クッソ、この女、マジか!?


こいつのメンタルは、

もはやダイヤモンドか?


ダイヤモンドはくじけない的な何かか?

他人との摩擦を恐れ

面倒臭いと感じ


その場は適当にお茶を濁す

やり過ごすというのが

陰キャの常套手段


それが陰キャの処世術

自分さえ黙っていれば

すべてが丸く収まる、

すべてが上手く行く


そうよく訓練されているのが我々隠キャだ

だというのにだ……

陽キャというのは

ここまで好戦的だというのか?

こんなに好戦的であれば

永遠に争いはなくならないし


すぐにでも戦争が起こってしまう


世界平和はいつまで経っても

やって来ないではないかっ!

あら、

今何か声が聞こえたような気がしたけれど、気のせいかしらねぇ

あれぇ? そうですか?


気のせいじゃないですかねぇ


それとも都合が悪いことは聞こえないのかもしれませねぇ

チッ、ゴミがっ

――ついにサイ子先輩が


いつもの舌打ちだけではなく


一言付け加える新しいバリエーションを披露してしまったではないか……

クッ、どれだけ怒っているというのだ……

こ、これは……


平日の昼間にやっている

主婦が毎日欠かさず観るという

ドロドロしたドラマ


嫁姑とか小姑とか、

その手の類いではないのか?

一見、素顔と白頭巾のギャップで

正反対、真逆の人物かと思っていたが


改めてこうして話してみると


挙動、言動の端々に確かに

ビッチキラー先輩と共通する

サイ子先輩が抱えた闇が見えて来る……

なるほど……

これは確かにまだ検証が必要かもしれんな

検証よりも精神科医の診療の方が

必要だという気がしなくもないが

これではまるで多重人格ではないか……


まさしくサイ子パスか

ご心配いただかなくても、

ナナシくんは私が責任を持って勧誘しますから

密着してナナシの腕を引っ張るナナミ。

あら、新入生に

新入生の勧誘をさせる訳にはいきません


ここは責任を持って私が勧誘しなくては

ねえ、ナナシくん?

対抗心剥き出しのサイ子先輩もまた

ナナシの腕を体に密着させて引っ張った。

――なん、だと!?

これはラノベなどによく見られる


ハーレム的な展開の何かではないのか?

い、いかん……

落ち着け

そんなものはSFや異世界ファンタジーと等しく


架空の、想像上の産物に過ぎない

よく考えてもみろ


二人の女子に両脇から腕を引っ張られる


そんな光景を現実世界で

リアルに見たことがあるか?


せいぜいあったとしても

ホストか? キャバクラか?

そう、それは

この世界の秩序を、因果律を乱す


この世にあってはならないもの

ンー

――しかし……

もうすでに俺の腕は


これまでの人生で

幼い頃に母に触れた感触以来


触れたことのない何かに

触れてしまっている……

一体どういうことだっ!?


そんなラッキースケベ的な何かが


この俺の身に降りかかっているというのか?

フンッ

――いや、落ち着け、

よく落ち着いて考えるんだ

二人は今、対抗心で

我を忘れてしまっているだけだ……

サイ子先輩は心の中、本心では


『この生コミが』と


俺のことを思っているであろうし

ナナミもまた次はいかにして

トラップを仕掛けようか


そのことに腐心しているはず……

いや、待て


これもまた何かのトラップそのものではないのか?

そうか、そういうことか……


個人情報保護部に入部すること自体が


悪質なトラップそのものということだなっ

ナナシくん!


こんな美少女二人に誘われてるんだから


絶対入部してくれるよね!?

そうよ、ナナシくん


こんな美少女二人と

タダでラッキースケベだなんて


そんなこと

許されるものではないわ


世の中そんなに甘くないもの

――し、しまった!!
こいつら敵対はしていても


俺を入部させるという

思惑は一致しているのだった

ここは早々に逃げるのが正解だったか


ラッキースケベに鼻の下を伸ばしている場合ではなかった

しかも、もうすでに


ラッキースケベという

既成事実は作られてしまっている

こいつら、

ラッキースケベを

セクハラだと主張して


入部しろと俺を脅す気だな

女子二人が体を張ってトラップにハメる


今度こそ、これが正真正銘の

ハニートラップというやつかっ

な、なんということだっ……

見えている地雷と分かっていながら、

結局ナナシは個人情報保護部に入部させられることになる。

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