ナナシとJKのプロ

文字数 2,170文字

うそぉ、絶対、LINEやってるよぉ
いや、やってなどいない

美少女ナナミは、LINEをやっていないと言い張るナナシを問い詰める。

――クソッ、この女しつこいぞ

こんな可愛らしい美少女が

俺個人とLINE交換をしたがる……

そんなことは、絶対にありえん!

そこだけは胸を張って言ってもいいだろう


そんなことすら見抜けない自分ではない


よく訓練された陰キャを

舐めるなと言わせてもらいたい

となると……


ははーん、さては、やはり勧誘だな?

だからだな、


個人情報保護主義者として目覚めた今


LINEはアンインストールしてしまったのだ

ナナシに冷たくあしらわれて、

しょんぼりしている美少女ナナミ。

そっか、残念だなぁ……
――今、俺はホッとしている……

間違いなくホッとしている……


だがその反面、なんなのだ

このモヤモヤする気持ちは……

目の前にいる可愛らしい

小動物のような生き物が

明らかにがっかりしている……

その原因は自分にあるということになっている……

なんだと言うのだ、この罪悪感は


そして自分に対するこの嫌悪感は

  

ただ断っただけだと言うのに……


この俺の方が悪い感は一体どうすればいいのだ?

声をかける側には責任はないのか?


相手を選んで声をかけるという選択肢もあっただろう?

そうだ……

他人と絡むといつもそうなのだ


なんとなくモヤモヤ、気まずい感じで終わり


残されるのは自己嫌悪とストレスだけ


だから他人と絡むのは嫌なのだあああっ!

…………。
――しかも、しかもだ……

絶対に教えたくないと思う反面


この可愛い生き物の願いを

叶えてやりたいという気もしてきてしまっている……

事実、今、

俺の震える手には

スマホが握られている……

ダメだ、ダメだっ

ここで信念を曲げる訳にはいかん……


俺は個人情報保護主義者として生きて行くと決めたのだから!

忸怩(じくじ)たる思いで逡巡(しゅんじゅん)するナナシは

震えるその手を静かに机の上に置く、

スマホを握ったままで。

――そうだ、それでいい


それでいいんだ……

名も知らぬ可愛い美少女よ……


俺の一年に三回しかない

女子と話せる機会の内一回を

お前に捧げたのだから


それで許してくれないか?

自分に酔いはじめたナナシ、

目を閉じて心の中でなにやらポエムっている。

ほら、やっぱり、LINE入ってるじゃん

ナナシが独りで自分に酔っている間、


美少女は机に置かれた

ナナシのスマホ画面を勝手に覗き込んでいた。


ほっぺたを膨らませて

おこ顔でLINEのアイコンを指差している。

――他人のスマホを勝手に見る、だと!?

な、なんなんだ、こいつは一体……

こいつ、さては悪魔か!?

さっきまでの同情を買うようながっかりぶり、しょぼくれ感は演技だったとでもいうのか?


はじめから俺に同情させて

LINEを聞き出す気満々だったのか?


まさかそこまでして俺をハメる気だったとは……

人のスマホを勝手に見んなよ

ごめんごめん、

だって気になるんだもん

――謝ってはいるがノリは非常に軽い


舌を出してテヘペロしているではないか……

こ、こいつ、さてはプロだな?
JKのプロだな、こいつは……

自分が若くて可愛い存在だと分かっていて


大それたことはしないが


ちょっとだけワガママを言う範囲を広げて、JKの甘えという立ち位置で押し切ろうとする

JCと年に三回しか喋らなかった自分が


JKを語るのもおかしな話だが……

クッ、しかしながらだ


他人にスマホを覗き込まれるとはなんたる失態


個人情報保護主義者にとっては万死に値する


いくら昨日入学祝いに買ってもらったばかりで、覗き見防止の保護シートをまだ貼っていなかったと言っても


初期設定のままでロックされるのに時間が掛かると言ってもだ……


だが今はそれよりも

どうやってこの窮地を乗り切るかだ……

……ああ、それは

……家族専用、LINEだ

――唐突に言葉が口をついて出た

ええ!? なにそれ?


そんなの聞いたことないよ

――まぁ、そうだろうな


俺も今はじめて聞いたからな……

もー、そんなの初耳だよぉ


ちょっと笑っちゃったじゃない

――完全に苦し紛れの嘘だと相手には気づかれている……

先程の自己紹介から察するに


こいつは頭のいいプロJKに違いない


嘘だというのは当然バレているだろう

しかし今はその嘘を押し通すしかない


嘘に嘘を重ねて

整合性がなかろうが、

ボロが出まくろうが、


本当だと言って突っぱねるしかない

人にはみな譲れないものがある


絶対LINEは教えないというポリシーのため


俺は甘んじて変な奴だという(そし)りを受けよう

家族宛に送るLINEを間違えて

友人に送ってしまったことがあってだな


プライベートな情報を

知られてしまうという大惨事が起きたのだ

さすがにそれは

危機管理能力が足らないだろうと猛省して


今は家族としか

LINEは使わないようにしているという訳だ


だからこれは家族専用LINEで間違いはない

――咄嗟にしては


まあまあそれなりの言い訳が出来たのではないか……

ふっ、よく考えてみれば……

友達とかいないんで


元から家族専用LINEみたいなものだったな……

あぶない、あぶない


あやうく大事なことを忘れるところだった……

ええー、本当かなぁ?


今時そんな高校生いるかなぁ?

――この女、まだ半信半疑のようだな


まぁ、当然と言えば当然か……

よく訓練されたぼっちを

舐めるなと言わせてもらいたい

なんせ俺のは、セルフ家族専用LINEだからな
ああ、俺、友達いないからな
あっ、なんか、ごめん
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