ナナシと見知らぬ美女

文字数 1,579文字

ナナシくん、おはよう!

翌朝の通学途中、

ナナミに声を掛けられるナナシ。

――クソッ、この女!


ついに一人で三回を使い切った、だと!?


しかもたった三日で!

貴様っ!


これから先の一年間


女子のいない果てなき荒野を

独りでさまよい続けることになる

俺の気持ちを考えたことがあるのか?

おいおい、

そんなことにはお構いなく

グイグイ話し掛けて来るな……

ねえねえ、

一緒に個人情報保護部入ろうよ?

なんか面白い先輩ばかりだったし

すごい楽しそうじゃん!

――『楽しそうじゃん!』、だと!?

クソッ、この女


何言ってんだ?

頭おかしいのか?

まぁまぁ地獄だったろうが!

昨日だけでビッチキラー先輩に

何十回舌打ちされたと思っているんだ?


下手すると百回に到達する勢いだぞ?

こいつのメンタルは鋼鉄製なのか? アイアンハートなのか?

もしくはやはりドMか? ドMなのか?


ビッチキラー先輩が舌打ちする度に、背筋に電流が走ってゾクゾクするとか


そういう性癖の類いか!?

朝っぱらからいろんな意味で

エキサイトしているナナシ。


しかも背後から

再び誰かが声を掛けて来る。

ナナシくん、ごきげんよう

振り返るとそこには

微かに笑みを浮かべた美女が立っていた。

――知らない美女に話し掛けられる、だと!?

気品溢れる清楚なお嬢様風の美女


おそらく上級生であろう大人っぽさを備え


どこかのご令嬢といった雰囲気がある……

とりあえず挨拶した方がいいのだろうが……


こいつ、一体誰だ?

こんな美女に知り合いなどおらんぞ……

いや、それ以前に

知り合いに女がいない!

そもそもこの三年間で

話したことがある女は片手で充分こと足りる


しかも母親と

この三日前にはじめて会ったナナミを入れてだ

つまり、女の顔を忘れられる程に

女と接触していないのだ


そんな俺が知らないとなると


もうそれはまったく知らない女ということで、問題はないだろう


おそらくは向こうの人間違いか、勘違いだ

…………。

――ここはもう、男子向けではあるが


相手は自分のことを知っている風なのに

自分が相手を思い出せない時の技を使うしかあるまい

相手の名前には決して触れない


返事はすべて相槌系

「へぇ」とか「そうなんだぁ」が望ましい


気のない返事をしてのらりくらりとやり過ごす

完璧ではないか


まぁこれは親や先生に怒られた時にも応用が効く

便利な技ではあるがな

……あぁ、あぁ、

おはよう、ございます……

――しかしこれは一体どういうことだ?


今しがた年に三回女子と話せる契約は満了したばかりだぞ

もしかして……


高校生となって心身共に成長した俺は


一年の内に女子と話せる回数が増えたのか?

おそらく……

少なくとも年に五回は話せるようになっているだろう

ビッチキラー先輩、

おはようございます!

――ビ、ビッチキラー先輩、だと!?

ば、馬鹿なっ!!


この目の前にいる美女が


某団体所属みたいな白頭巾を被って、凶暴性をむき出しにした狂犬


ビッチキラー先輩だと言うのかっ!?

チッ!

ソッポを向いて舌打ちする眼前の美女。


その眉間にはしわが寄り、

険しい顔が若干引きつっている。

――なるほど……


この舌打ちは、

昨日何百回も聞いて


今なお耳から離れない

あの舌打ちに間違いない

ナナミは白頭巾から見えていた目元、目の形状などで


この美女がビッチキラー先輩であることを


一目で見抜いたというのか?

『ビッチキラー』というのは、

部活内での呼び名だから


部活外では『サイ子』と呼んでもらえるかしら?

あなた達と同じく、

学籍番号末尾三桁が『315』で『サイ子』よ

普段は白頭巾ではないんですか?

まぁ、普段からあの格好というのは、まだ学校側にもさすがに認められていないわね

――そりゃ、まぁ

風紀の乱れどころではないからな……


大炎上案件だろ、あれ

それに私の場合は


普段と素顔を隠している時の

比較検証が必要になる訳だから


ずっと顔を隠していると実験にはならないのよね

声も落ち着いていて、品の良い大人の女性を感じさせるサイ子先輩。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色