完全版【003】:変態は歓喜し、鬼畜無理ゲーは泪を溢す!(3)

文字数 15,536文字

FHSLG(ファンタジー歴史シミュレーションゲーム)【アルグリア戦記】とは、アルグリア大陸の住人に()り、四十七の人類(じんるい)国家(こっか)数多(あまた)あるモンスターのコミュニティを、全て統一(とういつ)制覇(せいは)する事を目指す一人用戦争ゲームで()る。



勿論(もちろん)統一(とういつ)制覇(せいは)を目指さずに、悠久(ゆうきゅう)(とき)の流れを楽しむプレイヤーも多い。現実世界では()し得なかった職業に付く者。()れこそ、楽しみ方は千差万別(せんさばんべつ)だ。

戦争ゲームではあるが、継承(けいしょう)システムに()理論上(りろんじょう)アルグリア大陸が統一(とういつ)制覇(せいは)されるまで、永遠(えいえん)に自分(ごの)みに遊び楽しむ事が出来る()り込み型のゲームだった。



特色としては、選択したキャラアバターの能力を獲得(かくとく)した英雄ポイントでカスタマイズ出来る事だ。最弱(さいじゃく)底辺(ていへん)キャラアバターで成り上がりの浪漫(ロマン)プレイを楽しんだり、お気に入りのキャラアバターを強化し続けて、自分(ごの)みの最強のアバターに育成して遊ぶプレイヤーも少なくない。

(よう)(この)みのキャラアバターで、自分が満足いくまでアバターライフを満喫(まんきつ)出来るのだ。現実世界では有り得ない歴史の回帰(かいき)を楽しむ。自由度は他のゲームの追従(ついじゅう)を許さない。但し【セーブ不能】の為、【ゲームアウト】は【ゲームオーバー】と同義(どうぎ)である。



一期(いちご)一会(いちえ)。同じアバターでプレイしても、前回と同じ出会いが()るとは限らない。少しの行動の()れが、運命(シナリオ)()れを呼び、歴史が変わる。同じ時代でも、プレイヤーの(くしゃみ)一つで【何か】が変わる。そんな摩訶不思議(まかふしぎ)な仮想現実ゲームが、【アルグリア戦記】だった。






『・・・・・・ご利用ありがとうご座いました! (また)のお越しをお待ちしております!』



プレイヤーが【ゲームアウト】で、エフェクト処理(しょり)されて分解されて消えていく。



『さて、来週から第二陣(だいにじん)一千万のプレイヤーさまが、新規(しんき)にアルグリア戦記に登録(とうろく)をされる。バグなど無ければ良いのですが・・・・・・』



執事服に身を包んだ無表情な黒猫の男が(つぶや)く。



彼こそが、【アルグリア戦記の総合案内人】である【ジョドー】で()る。 



現在一千万のプレイヤーの対応を一手に引き受け、更に第二陣(だいにじん)一千万を加えた二千万のプレイヤーの総合案内人だ。



一千万のプレイヤーに同時(どうじ)接続(せつぞく)されながら、分身体(ぶんしんたい)(つか)い全て対応する。

()激務(げきむ)(こな)しながら本体(ほんたい)である執事は仮想空間(かそうくうかん)の中で、空中に映る映像を食い入るように見つめていた。



『くっくくくく! 流石(さすが)は【廃神(オーバーアウト)】と呼ばれるカルマさまだ。常人の斜め上を、意図も簡単に()んでいく。鬼畜(きちく)無理(むり)ゲーと呼ばれるシナリオ【創造神の試練】をクリアするとは。クリア第一号は、やはりカルマさまでしたか。流石(さすが)です』



さて、創造神カリダドの望みは(かな)うのでしょうか? 



画面を無表情で見つめる執事の呟きを、聞いている者は誰も()ない。()仮想空間(かそうくうかん)は、ジョドーのみが存在(そんざい)出来(でき)るプライベート空間(くうかん)だった。



FHSLG【アルグリア戦記】が他の仮想世界のゲームと隔絶(かくぜつ)しているのは、クリエイターが変わった人物。(いや)、かなりイカれた発想(はっそう)の持ち主だったからだ。

()のクリエイターは、本気(ほんき)本物(ほんもの)のゲーム世界を構築する(ため)には、クリエイターは不要(ふよう)だと言い放った。

自分自身の存在(そんざい)意義(いぎ)を、軽く否定(ひてい)したクリエイターの提案は、前代未聞(ぜんだいみもん)(こころ)みだった。



人は本物(ほんもの)の神には()れない。ならば人が世界を創造しても、()れは偽物(にせもの)でしかない。本物(ほんもの)の世界を構築(こうちく)するには、本物(ほんもの)の神に創造して(もら)えば良い。

()のクリエイターは本物(ほんもの)の世界を創る(ため)に、本気(ほんき)真剣(しんけん)本物の神(電脳の神)を創り上げ、全ての権限(けんげん)(あた)え【新世界】を創造させた。

遊戯管理脳(ゲームマネージメントブレイン)【カリダド】が創造した世界こそが、ファンタジー歴史シミュレーションゲーム【アルグリア戦記】だった。

()のカリダドを補助する補助管理脳(アシスタントマネージメントブレイン)が、【アルグリア戦記の総合案内人】であるジョドーの本当の姿だった。





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「マスターお帰りなさい。どうされましたか? 顔が(ひど)く気持ち悪いのですが?」



うぐっ。ミリィの容赦(ようしゃ)()毒舌(どくぜつ)で精神にクリティカルヒットを()らった俺は再度ベッドチェアーに(しず)み込んで目を(つぶ)った。



やったー! 【創造神の試練】をクリアしたぞ!




俺は心の中で、絶叫(ぜっきょう)発狂(はっきょう)歓喜(かんき)身悶(みもだ)えした。



「熱も無いようですし、精神(せいしん)数値(すうち)にも異常(いじょう)は見られないのですが。はて、マスター大丈夫ですか?」



う、うん? (なん)だ?



俺は額の(あたた)かい感触(かんしょく)に、驚いて目を開けた。



「ぶっ! な、(なに)をしているんだミリィ?」



目を開けた俺の目の前には、事もあろうにミリィの顔が()った。オートドールに額をくっ付けて検温(けんおん)する機能などは存在(そんざい)しない。

全て耳に掛けている【ダイブトリッパー(仮想現実装置)】で体調(たいちょう)管理(かんり)が可能だった。



天然(てんねん)メイドのミリィには困ったものだ。()れに良い(にお)いもして、時々ドキリとする。



「マスター?」



そんな首を横にコテンとさせても、駄目だものは駄目だ。俺は(ふる)える手で、ミリィの肩を(つか)み優しく押し退()けた。



(なん)かお腹が減ったな。ミリィ、(なに)か軽くで良いから作ってくれないか?」



「はい、マスター! 了解しました!」



(こぼ)れんばかりの笑顔ではないが、優しい(ひとみ)微笑(ほほえ)んだミリィが調理(ちょうり)に向かった。



ふー、助かった。ミリィには再三(さいさん)注意をしていた。(あま)り身体的な接触(せっしょく)をしないようにと。



「ミリィ、・・・・・・」



目の前で調理中(ちょうりちゅう)の【オートドール(家庭用自動人形)】ではない、もう此処(ここ)には存在(そんざい)しない幼馴染(おさななじ)みの名を、静かに(つぶや)いたカルマだった。





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(つい)に【創造神の試練】をクリアしましたよ、師匠(ししょう)! 聞こえますか、師匠(ししょう)?』



俺はMMOWG(多人数参加型戦争ゲーム)【矛盾(バストーロ)】で師事(しじ)した師匠(ししょう)()るプレイヤーネーム【クマメタル】に連絡を取ったが、例の(ごと)く闘いに()っているのだろう。全く反応が無い。

世界を震撼(しんかん)させた一千万オーバーキルのテロリスト【クマメタル】と同じ名前で、仮想現実世界に()いてプレイをするイカれた変態。(なに)如何(どう)()って、仮想現実世界に()いて、()のプレイヤーネームで登録(とうろく)許可(きょか)されたのか、首を(かしげ)げる事しきりだ。



『カルマ、やっぱり鳥は良いな! 空を自由に()べる!』



イカれた変態は例の(ごと)く、俺の話は全く聞いていなかったようだ。はぁ、トランスしている師匠(ししょう)には(なに)を言っても届かない。自分のルールを忠実(ちゅうじつ)に実行する災厄(さいやく)()す。【()られたら()り返す】、(いた)ってシンプルな()のルールに全てを()ける狂人(きょうじん)

全てと言って良いプレイヤーから()(きら)われる存在(そんざい)、【凶神(オーバーアウト)】と呼ばれる禍々(まがまが)しい(たましい)燐光(りんこう)師匠(ししょう)だった。



師匠(ししょう)、またモンスタープレイですか? 楽しんでますね【アルグリア戦記】!』



『まあな、血のエフェクト処理(しょり)以外は最高に、興奮(こうふん)するぜカルマ!』



其処(そこ)仕様(しよう)なので仕方ないですよ。(あきら)めて下さい師匠(ししょう)()れから俺やりましたよ。【創造神の試練】をクリアしました!』



『ほう、鬼畜(きちく)仕様(しよう)のマゾゲー(マゾヒズムを楽しむ変態のゲーム)シナリオをクリアするとは、お前はイカれてるよカルマ?』



否々(いやいや)、アンタにだけは言われたくないよ! イカれた変態が、俺を変態性(へんたいせい)嗜好者(しこうしゃ)のように言うのは納得がいかない! 断固反対(だんこはんたい)する!



()れで、鬼畜(きちく)シナリオの報酬(ほうしゅう)(なん)だったんだ?』




完全(かんぜん)制覇(せいは)クリアの特典は、一千億英雄ポイント(けん)・身体能力値の限界突破券(げんかいとっぱけん)・スキル(わく)撤廃券(てっぱいけん)・ユニークスキル創造券(そうぞうけん)・特別シナリオ【ゲーム世界へ転生】の選択券(せんたくけん)が各一枚づつですね!』



中々、破格(はかく)な特典内容だった。能力値(筋力(STR)耐久力(VIT)知力(INT)敏捷(AGI)器用(DEX)魅力(CHA))を英雄ポイント分で、人種種族の成長限界値の上限を設定変更が出来る。但し、スタート時の能力値は初期設定値の(まま)なので、所謂(いわゆる)俺Tueeeは出来ない。

スキル(わく)撤廃(てっぱい)って、無限(むげん)にスキルをセットして良いらしい。勿論(もちろん)、スキルもカスタマイズ可能だ。

【アルグリア戦記】では、キャラアバターごとにスキルレベルの成長上限値が設定されている。其の成長限界値を、英雄ポイントを使用してカスタマイズする。初期設定値は変更不可な仕様(しよう)なので、最初からの俺Tueeeは勿論(もちろん)出来ない。



ユニークスキル創造って、もうチートだよね?



最後の特別シナリオ【ゲーム世界に転生】の選択券(せんたくけん)(いた)っては、インダストリア社の運営チームが悪乗(わるの)りしてネーミングしたとしか思えないものだった。



『ほう、【ゲーム世界に転生】か? 浪漫(ロマン)じゃないか、()()()()()()()()()()()! はっははははは~!』



豪快(ごうかい)に笑う師匠(ししょう)に、『ははは、・・・・・・』と苦笑(にがわら)いで応答(おうとう)する俺だった。



(なん)にしても、楽しんで来いカルマ! 一回(いっかい)()りの人生だ、()いの無いようにな!』



全くその通りだ。一回コッキリの人生だ。



俺は亡くなった幼馴染(おさななじ)みの分も、人生を楽しむと決めていた。



『じゃあ、師匠(ししょう)! ()()()()()()()()()()()()()! また連絡しますから、楽しみにしていて下さい!』



『おう! またなカルマ!』





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俺は(めずら)しく(おど)けた調子のカルマとの通信(つうしん)を切った。そして、自分が()した闘いの顛末(てんまつ)を見届ける。


地平線(ちへいせん)一杯(いっぱい)に、人類(じんるい)だった(むくろ)が転がっている。

()惨憺(さんたん)たる光景(こうけい)に、感情の無い目を向ける。

生きとし生けるもの全てが炭化(たんか)していた。

其処(そこ)灼熱地獄(しゃくねつじごく)(ごと)く、(ほのお)の熱が充満(じゅうまん)していた。



俺は大空を滑空(かっくう)しながら、気持ち良く熱風と舞う。



凄いなカルマの(やつ)。誰一人としてクリアした者がいない、鬼畜(きちく)無理(むり)ゲーシナリオをクリアするとは。恐れ入ったぜ、俺には無理だ。退屈(たいくつ)で死んじまう。(なに)が楽しくて【カルマ値(行動に因るゲーム設定上の善悪の数値)】を調整しながら遊ばなければならないんだ。



「ふん、そんなものはクソ()らえだ!」 



俺は我道(わがみち)をいく。自分のルールに(のっと)って、【アルグリア戦記】を楽しむ。そんな大陸(たいりく)統一(とういつ)制覇(せいは)(ため)に、楽しみを封印(ふういん)してまで作業ゲー(楽しみの無い行為を繰り返すゲーム)のような事なんか出来るかってんだ!



プレイヤーネーム【クマメタル】は、そう毒突(どくづ)くと()()に燃える翼を(ひるがえ)し大空を()ばたく。プレイアバター【ラフレシア】として、十の災厄(アンタッチャブル)一角(いっかく)、【不死鳥(ふしちょう)】として災厄(さいやく)をバラ()く。



アルグリア大陸の生きとし生きるもの全ての頂点(ちょうてん)()十個体(じゅっこたい)の内の一体をプレイするクマメタルに取って、闘いとは殲滅(せんめつ)を意味する。(よう)するに皆殺(みなごろ)しが、彼の流儀(りゅうぎ)だった。

十の災厄(アンタッチャブル)】には、縄張り(テリトリー)から外には移動不可の制限が付く。(ゆえ)にアルグリア大陸の住民達は、十の災厄(アンタッチャブル)勢力圏(せいりょくけん)(おか)さない。所属国家ごと滅ぼされた数多(あまた)教訓(きょうくん)が、(たましい)脳髄(のうずい)に【畏怖(いふ)】として(きざ)み込まれていたからだ。

【不死鳥ラフレシア】の縄張り(テリトリー)は、【アゾット炎獄(えんごく)】。炎が燃え(さか)地獄(じごく)のような火の監獄(かんごく)。誰も(おとず)れない炎獄(えんごく)守護(しゅご)する鳥は、(ほむら)()やす事無(ことな)く、炎獄(えんごく)以外の空を翔ぶ事は(かな)わなかった。



自分が燃やし尽くした灰燼(かいじん)から立ち昇る命の残照(ざんしょう)を、美味(おい)しそうに吸い込み大空を()(まわ)る。



アルグリア大陸の四十七国家を掌中(しょうちゅう)(おさ)める事を目指(めざ)さず、全ての勢力を倒す殲滅(せんめつ)プレイヤーである【クマメタル】にとって、【アルグリア戦記】とは()()()()()息抜(いきぬ)きに(ほか)ならない。

攻撃されなければ、攻撃をしないルールを持つ【クマメタル】は、俺を攻撃しろ、毒饅頭(どくまんじゅう)()らえと、()()()()()()()()()()()()で、今日も陽気(ようき)に【アルグリア大陸】を飛翔(ひしょう)していた。





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『ぽ~ん♪ マスター、ようこそ仮想空間へ! 本日のご用命(ようめい)を、お(うかが)いします!』



現実と仮想現実の世界とのエントランスである【ポータルサイトの案内人】の【ナリア】が、いつもの(ごと)く行き先を(たず)ねる。



『やあ、ナリア! 【アルグリア戦記】で頼む!』



(あお)(ひとみ)(あお)毛玉(けだま)(ごと)(たぬき)が、了解(りょうかい)とばかりに、空中(くうちゅう)可愛(かわい)らしく(うな)ずく。



『いってらしゃいませ、マスター!』



『ああ、行って来る!』 





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『【カルマ】さま! ようこそ、【アルグリア戦記】へ! 現在、継続(けいぞく)プレイ中のアバターはご()いませんが、新規(しんき)アバターでプレイを始められますか?』




純白(じゅんぱく)の空間に浮かぶ執事服に身を包んだ黒猫の姿の、【アルグリア戦記の総合案内人】である【ジョドー】が、(つね)に変わらない慇懃(いんぎん)な動作でカルマを迎えた。



『ああ、ジョドー。今回は【ゲーム世界に転生】の【カルマ】でプレイするよ!』



『なるほど! 【創造神の試練】クリア特典ですかカルマさま? ほう、特別シナリオですね、・・・・・・【ゲーム世界に転生】? なんと厨二病(ちゅうにびょう)(あふ)れるネーミングでしょう! ()のジョドー、(あき)れを通り越して笑ってしまいそうです!』



そう言いながらも、全く感情を表に出さないポーカーフェイスの執事に、カルマは内心(ないしん)苦笑(くしょう)をしてゲームスタートの準備を始める。

特別シナリオ【ゲーム世界に転生】を選択券で指定し、プレイアバター【カルマ】を選択する。



あれ、封印(ふういん)状態(じょうたい)じゃないぞ? 如何(どう)なってるんだ?



キャラアバターのステータス情報を見ながら、カルマは(いぶか)しむ。



スキルと能力値欄(のうりょくちらん)で、ポイント固定の封印(ふういん)表示(ひょうじ)が無い!

はて、特別シナリオってイージーモードなの?

まあ、無いなら無いで問題は無い。



次に能力値を限界突破券で上限値を解除(かいじょ)にして、英雄ポイントで上限一杯まで限界値を上げていく。



う、うん? あれ、未々(まだまだ)上がり続けるぞ?



一千億英雄ポイント券を使用してポイントを獲得(かくとく)してと!



おっ! 百億英雄ポイントで【(無限表示)】に()ったぞ!



筋力(STR)耐久力(VIT)知力(INT)敏捷(AGI)器用(DEX)魅力(CHA)の各能力値をマックスの【(無限表示)】まで上げる。

状態値である生命力(HP)魔力(MP)精神力(MSP)持久力(EP)は、育成次第で人種種族関係なく無限に成長が可能だった。



状態値まで【1】ポイント固定だったら、【創造神の試練】はクリア出来なかっただろう。

次にスキルだ。()れは悩むな。スキル(わく)撤廃券(てっぱいけん)で制限を解除(かいじょ)。現在所持している全てのスキルを付与するのは、容易(たやす)い。

だが、スキルは生き物なのでスキル同士で相性が悪いと、逆に力を発揮(はっき)出来(でき)ない。

目指すは両親の早世(そいせい)を阻止する。【創造神の試練】でアルグリア統一(とういつ)制覇(せいは)()()げた仲間達の無念(むねん)を全て改変(かいへん)する。

()(ため)に全ての特典とポイントを使用して、プレイヤーネーム【カルマ】なら絶対にしない無双(むそう)プレイを()ると決めていた。自重(じちょう)はしない。

十二万三十四回。合計でプレイアバター【カルマ】の両親が亡くなった回数だった。両親が脳裏情報(マインドインフォメーション)事切(ことき)れる(たび)に、胸の奥がチクリと痛んだ。自分の(ため)に文字通り命を投げ出した両親。

辛苦(しんく)を共にし、文字通り命を()けて大陸(たいりく)統一(とういつ)制覇(せいは)()()げた仲間達。誰もが身体に、心に傷を()っていた。共に戦い共に笑い共に死んだ仲間達。何万回と見た戦友(とも)の死。無念(むねん)(おも)い。全て俺が変えてやる。運命(シナリオ)(くつがえ)()(なお)改変(かいへん)する。



カルマはそう心に決めていた。



スキルの選定(せんてい)は、最終スキル構成を想定(そうてい)して逆算(ぎゃくさん)(目的地から逆に辿(たど)算段(さんだん))で作り上げていく。両親を仲間を助ける(ため)、カルマは未来地(最終目標)を設定し、現在地(生まれた時)から小目標を設定し、ルートを設定していく。()れを()すスキル構成を的確(てきかく)付与(ふよ)していくのだった。



お、アイテムの持ち込みも制限がないぞ?



スゲー、流石(さすが)は特別シナリオ! やっぱり(スーパー)イージーモードだ!



(つね)のカルマなら喜ぶ(どころ)か、(しぶ)い顔に()る状況だが、(なに)せ今回は(まん)(いち)にも失敗は許されない。何故(なぜ)なら特別シナリオ券は一枚しかない。失敗すれば再度【創造神の試練】をクリアしても(もら)えるか不明(ふめい)だった。

過去のシナリオでもシナリオマラソン(特典目当てで何回も同じシナリオをプレイする事)での特典(とくてん)獲得(かくとく)防止(ぼうし)(ため)に、初回しか獲得(かくとく)出来(でき)ない限定特典も存在(そんざい)したからだ。



ふ~ん、子孫(しそん)での継承(けいしょう)プレイは、不可(ふか)なのか?



全てのカスタマイズを終えたカルマは、ジョドーに【ゲームスタート】を申告(しんこく)する。



『準備は万全(ばんぜん)のようですね。カルマさま、・・・・・・』



執事の言葉には、(うれ)いがあった。顔には全く表さない感情(かんじょう)が、ノンプレイヤーキャラクターを(よそお)うジョドーの(こころ)(うち)()った。



如何(どう)したの、ジョドー? (なに)か心配事でも()るの?』



普段とは様子の違うジョドーにカルマは、小首(こくび)(かし)げる。



『いえ、全く問題はありません! 【カルマ】さま、準備が整いました! ()()()()!』



『行って来、えっ?((なに)、お元気でって?)』



珍妙(ちんみょう)な顔をした(まま)のカルマが、エフェクト処理(しょり)され分解(ぶんかい)されながら消えて()った。





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「おぎゃああああああああああああああああああ~!」



「マルナよくやった! 元気な男の子だ! ・・・・・・よし! 【カルマ】と名付けよう!」



「カルマ、うっ、うう・・・・・・生まれてき、てくれて・・・・・・あり、がとう~」



お元気でって(なん)なんだよ? 如何(どう)()う意味だよ、ジョドー?



俺は普段と様子の違う執事の言葉が、(みょう)に心に()()かっていた。



まあ、今更(いまさら)考えても仕方ない。シナリオクリア後に聞けば()む事だ。



特別シナリオ【ゲーム世界に転生】でも、始まりは【創造神の試練】と全く一緒(いっしょ)だな。



そりゃそうか、違ってたら逆に変だ。
 


さあ、此処(ここ)からは時間との勝負だ。呑気(のんき)に状態値を上げている(わけ)にはいかない。そんな(ゆる)い時間はない。設定した小目標をクリアする(ため)早速(さっそく)(うご)()す。
 


()の前にステータスの確認をしないと! 俺は脳裏情報(マインドインフォメーション)に自分のステータス情報を表示した。



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【情報表示】:▼

氏名(NAME):【カルマ】

個体LV:【1】

備考:▼

年齢:【0歳】

種族:【森精霊人(エルフ)普精霊人(ヒューマン)混血(クオーター)

身分:【未設定】

職業:【未設定】

称号:【異世界転生者】▼

   【異世界転生者】:転生した異界者(いかいしゃ)の称号。異世界言語(いせかいげんご)を使用可能。

   【プレイヤー】▼

   【プレイヤー】:ゲームプレイヤーの称号。ゲームシステムを使用可能。


才能(スキル):【分体(ぶんたい)分裂(ぶんれつ)★】▼

   【分体(ぶんたい)分裂(ぶんれつ)★】:母体(ぼたい)分体(ぶんたい)分裂(ぶんれつ)する能力スキル。

   【存在遮断(エクジストブロック)★】▼

   【存在遮断(エクジストブロック)★】:存在(そんざい)を別次元に隔離遮断(かくりしゃだん)する能力スキル。

   【迷宮創造(ダンジョンメーカー)★】▼

   【迷宮創造(ダンジョンメーカー)★】:迷宮(ダンジョン)創造(そうぞう)する技術スキル。

   【魔力無双(マジックオーバー)☆】▼

   【魔力無双(マジックオーバー)☆】:現在の魔力値×10000倍にする能力スキル。

   【状態(じょうたい)異常(いじょう)無効(むこう)☆】▼

   【状態(じょうたい)異常(いじょう)無効(むこう)☆】: 諸有(あらゆる)状態異常を無効状態にする能力スキル。

    【心眼(しんがん)☆】▼

   【心眼(しんがん)☆】:鑑定眼の上位版の能力スキル。

   【神童(しんどう)LV1】▼

   【神童(しんどう)LV1】:十八歳まで獲得経験値×10倍とする能力スキル。

   【浮遊(ふゆう)LV1】▼

   【浮遊(ふゆう)LV1】:空中に浮く能力スキル。

   【時空魔法LV1】▼

   【時空魔法LV1】:時空を(あやつ)る魔法スキル。

   【無属性(むぞくせい)魔法(まほう)LV1】▼

   【無属性(むぞくせい)魔法(まほう)LV1】:無属性の魔法スキル。

   【他】▽

説明:▼
   【運命(うんめい)宿命(しゅくめい)(もう)()

【状態表示】:▼

生命力(HP):【6/6】

魔力(MP) :【80000/80000】

精神力(MSP):【9/9】

持久力(EP):【3/3】

満腹度(FP):【11/100】

【能力表示】:▼

筋力(STR)  :【1】

耐久力(VIT) :【1】

知力(INT)  :【1】

敏捷(AGI)  :【1】

器用(DEX)  :【1】

魅力(CHA)  :【1】


【部隊編成表示】:▼

統率力(LEA):【未設定】

攻撃力(OFF):【未設定】

防御力(DEF):【未設定】

機動力(MOB):【未設定】

持久力(END):【未設定】/【未設定】

戦法力(TAC):【未設定】/【未設定】

士気力(MOR):【未設定】/【未設定】

詳細:▼

主将:【未設定】

副将:【未設定】

副将:【未設定】

部隊:【未設定】

戦法:【未設定】

特性:【未設定】

説明:【未設定】



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ブホッ! (なん)だよ、称号【異世界転生者(いせかいてんせいしゃ)】って? 【ゲーム世界に転生】ってそう言う意味かよ?



俺は全てを(さっ)した! つまり【異世界アルグリア】に転生した設定でプレイするシナリオなんだ!



ジョドーのあの様子も、あの言葉も、雰囲気(ふんいき)を盛り上げる設定だったんだ!



(なん)だよ、実は本当にゲーム世界に転生したかと(あせ)ったじゃないか! ジョドーに一杯(いっぱい)()わされた! 



()れで、【プレイヤー】の称号も()るのか。



さてこうしている場合じゃない。



俺は両親の一瞬(いっしゅん)(すき)を付いて、ユニークスキル(固有才能)の【分体(ぶんたい)分裂(ぶんれつ)★】を使用し、母体(ぼたい)は眠った振りをして、分体(ぶんたい)は【時空(じくう)魔法(まほう)LV1】の【短距離転移(ショートワープ)】で屋外に()んだ。



(なん)だかワクワクするな! ()れじゃ、(れい)(ところ)(まい)りますか!



俺は()(ぱだか)(まま)で、極寒(ごくかん)の吹雪の中を短距離転移(ショートワープ)で進んでいく。



脳裏地図(マインドマップ)脳裏情報(マインドインフォメーション)から、()()()への最短距離を空中に浮かび短距離転移(ショートワープ)併用(へいよう)して進む。



時折(ときおり)、個体レベルを上げるご褒美(ほうび)タイムを満喫(まんきつ)する予定だ。



おっと、スノーラビットだ!



俺は気配を隠蔽(いんぺい)するスキルの最上位(さいじょうい)であるエクストラスキル【存在遮断(エクジストブロック)★】を使用する。()のスキルは其処(そこ)存在(そんざい)しながらも、本当の身体は別次元(べつじげん)存在(そんざい)するスキルで、ファントムロード(種族)でプレイしたアバターでの完全制覇(かんぜんせいは)クリア特典だった。

現在の次元(じげん)()いて、()()()()()()()()()()、姿も気配も熱も臭いも感じる事は無い。尚且(なおか)つ、通常武器ではダメージを()わない。聖属性武器以外は物理無敵(ぶつりむてき)のチートスキルだった。まあ、聖属性攻撃に激弱(げきよわ)なんだけどね、・・・・・・



ブォン!



空気を切り裂く透明の(つぶて)が、スノーラビットを(おそ)う!



無属性(むぞくせい)魔法(まほう)LV1】の無属性(むぞくせい)の魔力を、ドリルのように回転(攻撃力を上昇する)させながら、殺傷能力(さっしょうのうりょく)を高めた(つぶて)がスノーラビットにヒットする!



バシュッ!



透明の(つぶて)はスノーラビットの眉間(みけん)を、寸分(すんぶん)(たが)わず打ち抜いた。



そして、()()(はな)を、()(しろ)い雪原に()かせたのだった。



へぇ~、綺麗(きれい)だ! ・・・・・・、じゃあないわ!!!



俺は一人(ひとり)()()みと言う特殊(とくしゅ)高等(こうとう)テクニックを、唯一人(ただひとり)披露(ひろう)して唖然(あぜん)とした。



純白(じゅんぱく)の雪が降り積もる雪原に()いた一輪(いちりん)(はな)のように、()()()(たし)かに其処(そこ)には()った。



普段はエフェクト処理(しょり)され、(こぼ)れるように粒子(りゅうし)が舞い散る(ところ)だ。



マジッスか? 本当に冗談(じゅうだん)ではなく転生したの?



俺は脳裏情報(マインドインフォメーション)から、運営への【GMコール】をする(ため)にコールボタンを押そうとしたが、・・・・・・ボタンが無い?



マジッスか? いやいや、インダストリアのクリエイターはイカれているからな、()れは(なに)かのドッキリ?



演出(えんしゅつ)一環(いっかん)とも言えるか、・・・・・・言えるか!!!



俺は一人(ひとり)()()みと言う特殊(とくしゅ)高等(こうとう)テクニックを、唯一人(ただひとり)再度(さいど)披露(ひろう)して疲労感(ひろうかん)(おそ)われた。



現実世界と仮想現実世界での唯一(ゆいいつ)の違いは、()のエフェクト処理(しょり)だった。



プレイヤーの精神を(まも)(ため)のシステム。()のシステムを切るのは、【仮想現実世界の原則(げんそく)】に大きく違反(いはん)する。



()れで精神に異常(いじょう)を起こしたら、賠償額(ばいしょうがく)天文学的(てんもんがくてき)な数字が提示(ていじ)されるだろう。



ふむ、他プレイヤーとの通信(つうしん)システムのボタンは()るが、灰色表示で(なに)かロックが掛かっているようだ。



()れに、緊急時(きんきゅうじ)の【ゲームアウト】ボタンも無い、・・・・・・よ?



やっちまったな! ジョドー!! やっちまったな!!!



俺は【ゲームスタート】する時の、【アルグリア戦記の総合案内人】であるジョドーの言葉を思い出していた。



『いえ、全く問題はありません! 【カルマ】さま、準備が整いました! ()()()()!』



全く問題()(まく)りじゃないか、ジョドー?



聞いてないよ~、ジョドー? 此処(ここ)は本当に異世界なのか?



ドッキリイベントじゃないのか?



異世界なら、俺がお亡くなりになったら【ゲームオーバー】()らぬ、【ライフオーバー(人生終了)】に()っちゃうの?



俺、如何(どう)()っちゃうの?



ゲーム世界に転生って、(なん)じゃ! そりゃあああああ~!!!







「おぎゃああああああああああ~! (ゲーム世界に転生って、(なん)じゃ! そりゃあああああ~!)」



暖かい暖炉(だんろ)の炎に()らされながら、母体(ぼたい)のカルマも泣き叫ぶ。



「よ~し、よしよし~お腹空いたの~? 泣かないで~」



ウグウグっ! ・・・・・・母ちゃん、・・・・・・母乳が美味すぎる・・・・・・、ゲポっ!



マルナにあやされ授乳(じゅにゅう)されるカルマは、至福(しふく)に包まれた。







「あぅあぅあぅあああ!!!(テメエ、知ってやがったな! ジョドー!!)」



極寒(ごくかん)雪化粧(ゆきげしょう)の中、空中に浮かぶ()()()()()()()()()(ぱだか)で叫ぶ!



()視線(しせん)の先には、()()()飛沫(しぶき)(はな)のように()いていた。














【アルグリア戦記】には、セーブ機能(きのう)は存在しない。全て最初からのスタートと()る。()()()()()で、セーブなどは出来る(はず)もない。此処(ここ)は【アルグリア世界】、もう一つの現実の世界。現実の一秒が、三千百十万四千秒に相当(そうとう)する仮想の現実世界。現実の一時間が、百二十九万六千日(三千五百五十年と二百五十日)に相当(そうとう)する【悠久(ゆうきゅう)歴史(れきし)(きざ)世界(せかい)】。



()たして、【アルグリア世界】は、仮想の現実世界なのだろうか? ()れとも、実はもう一つの現実世界【異世界(いせかい)】なのだろうか? ()の答えは【プレイヤー】だけが知っている。







To be(続きは) continued(また次回で)! ・・・・・・
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