010.ゲーム脳の変態は、幼馴染みを回顧(かいこ)する!

文字数 5,418文字

FHSLG(ファンタジー歴史シミュレーションゲーム)【アルグリア戦記】とは、アルグリア大陸の住人に()り、四十七の人類(じんるい)国家(こっか)数多(あまた)あるモンスターのコミュニティを、全て統一(とういつ)制覇(せいは)する事を目指す一人用戦争ゲームで()る。



勿論(もちろん)統一(とういつ)制覇(せいは)を目指さずに、悠久(ゆうきゅう)(とき)の流れを楽しむプレイヤーも多い。現実世界では()し得なかった職業に付く者。()れこそ、楽しみ方は千差万別(せんさばんべつ)だ。

戦争ゲームではあるが、継承(けいしょう)システムに()理論上(りろんじょう)アルグリア大陸が統一(とういつ)制覇(せいは)されるまで、永遠(えいえん)に自分(ごの)みに遊び楽しむ事が出来る()り込み型のゲームだった。



特色としては、選択したキャラアバターの能力を獲得(かくとく)した英雄ポイントでカスタマイズ出来る事だ。最弱(さいじゃく)底辺(ていへん)キャラアバターで成り上がりの浪漫(ロマン)プレイを楽しんだり、お気に入りのキャラアバターを強化し続けて、自分(ごの)みの最強のアバターに育成して遊ぶプレイヤーも少なくない。

(よう)(この)みのキャラアバターで、自分が満足いくまでアバターライフを満喫(まんきつ)出来るのだ。現実世界では有り得ない歴史の回帰(かいき)を楽しむ。自由度は他のゲームの追従(ついじゅう)を許さない。但し【セーブ不能】の為、【ゲームアウト】は【ゲームオーバー】と同義(どうぎ)である。



一期(いちご)一会(いちえ)。同じアバターでプレイしても、前回と同じ出会いが()るとは限らない。少しの行動の()れが、運命(シナリオ)()れを呼び、歴史が変わる。同じ時代でも、プレイヤーの(くしゃみ)一つで【何か】が変わる。そんな摩訶不思議(まかふしぎ)な仮想現実ゲームが、【アルグリア戦記】だった。






『・・・・・・ご利用ありがとうご座いました! (また)のお越しをお待ちしております!』



プレイヤーが【ゲームアウト】で、エフェクト処理(しょり)されて分解されて消えていく。



『さて、来週から第二陣(だいにじん)一千万のプレイヤーさまが、新規(しんき)にアルグリア戦記に登録(とうろく)をされる。バグなど無ければ良いのですが・・・・・・』



執事服に身を包んだ無表情な黒猫の男が(つぶや)く。



彼こそが、【アルグリア戦記の総合案内人】である【ジョドー】で()る。 



現在一千万のプレイヤーの対応を一手に引き受け、更に第二陣(だいにじん)一千万を加えた二千万のプレイヤーの総合案内人だ。



一千万のプレイヤーに同時(どうじ)接続(せつぞく)されながら、分身体(ぶんしんたい)(つか)い全て対応する。

()激務(げきむ)(こな)しながら本体(ほんたい)である執事は仮想空間(かそうくうかん)の中で、空中に映る映像を食い入るように見つめていた。



『くっくくくく! 流石(さすが)は【廃神(オーバーアウト)】と呼ばれるカルマさまだ。常人の斜め上を、意図も簡単に()んでいく。鬼畜(きちく)無理(むり)ゲーと呼ばれるシナリオ【創造神の試練】をクリアするとは。クリア第一号は、やはりカルマさまでしたか。流石(さすが)です』



さて、創造神カリダドの望みは(かな)うのでしょうか? 



画面を無表情で見つめる執事の呟きを、聞いている者は誰も()ない。()仮想空間(かそうくうかん)は、ジョドーのみが存在(そんざい)出来(でき)るプライベート空間(くうかん)だった。



FHSLG【アルグリア戦記】が他の仮想世界のゲームと隔絶(かくぜつ)しているのは、クリエイターが変わった人物。(いや)、かなりイカれた発想(はっそう)の持ち主だったからだ。

()のクリエイターは、本気(ほんき)本物(ほんもの)のゲーム世界を構築する(ため)には、クリエイターは不要(ふよう)だと言い放った。

自分自身の存在(そんざい)意義(いぎ)を、軽く否定(ひてい)したクリエイターの提案は、前代未聞(ぜんだいみもん)(こころ)みだった。



人は本物(ほんもの)の神には()れない。ならば人が世界を創造しても、()れは偽物(にせもの)でしかない。本物(ほんもの)の世界を構築(こうちく)するには、本物(ほんもの)の神に創造して(もら)えば良い。

()のクリエイターは本物(ほんもの)の世界を創る(ため)に、本気(ほんき)真剣(しんけん)本物の神(電脳の神)を創り上げ、全ての権限(けんげん)(あた)え【新世界】を創造させた。

遊戯管理脳(ゲームマネージメントブレイン)【カリダド】が創造した世界こそが、ファンタジー歴史シミュレーションゲーム【アルグリア戦記】だった。

()のカリダドを補助する補助管理脳(アシスタントマネージメントブレイン)が、【アルグリア戦記の総合案内人】であるジョドーの本当の姿だった。





ーーーーーーーーーー





「マスターお帰りなさい。どうされましたか? 顔が(ひど)く気持ち悪いのですが?」



うぐっ。ミリィの容赦(ようしゃ)()毒舌(どくぜつ)で精神にクリティカルヒットを()らった俺は再度ベッドチェアーに(しず)み込んで目を(つぶ)った。



やったー! 【創造神の試練】をクリアしたぞ!




俺は心の中で、絶叫(ぜっきょう)発狂(はっきょう)歓喜(かんき)身悶(みもだ)えした。



「熱も無いようですし、精神(せいしん)数値(すうち)にも異常(いじょう)は見られないのですが。はて、マスター大丈夫ですか?」



う、うん? (なん)だ?



俺は額の(あたた)かい感触(かんしょく)に、驚いて目を開けた。



「ぶっ! な、(なに)をしているんだミリィ?」



目を開けた俺の目の前には、事もあろうにミリィの顔が()った。オートドールに額をくっ付けて検温(けんおん)する機能などは存在(そんざい)しない。

全て耳に掛けている【ダイブトリッパー(仮想現実装置)】で体調(たいちょう)管理(かんり)が可能だった。



天然(てんねん)メイドのミリィには困ったものだ。()れに良い(にお)いもして、時々ドキリとする。



「マスター?」



そんな首を横にコテンとさせても、駄目だものは駄目だ。俺は(ふる)える手で、ミリィの肩を(つか)み優しく押し退()けた。



(なん)かお腹が減ったな。ミリィ、(なに)か軽くで良いから作ってくれないか?」



「はい、マスター! 了解しました!」



(こぼ)れんばかりの笑顔ではないが、優しい(ひとみ)微笑(ほほえ)んだミリィが調理(ちょうり)に向かった。



ふー、助かった。ミリィには再三(さいさん)注意をしていた。(あま)り身体的な接触(せっしょく)をしないようにと。



「ミリィ、・・・・・・」



目の前で調理中(ちょうりちゅう)の【オートドール(家庭用自動人形)】ではない、もう此処(ここ)には存在(そんざい)しない幼馴染(おさななじ)みの名を、静かに(つぶや)いたカルマだった。





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(つい)に【創造神の試練】をクリアしましたよ、師匠(ししょう)! 聞こえますか、師匠(ししょう)?』



俺はMMOWG(多人数参加型戦争ゲーム)【矛盾(バストーロ)】で師事(しじ)した師匠(ししょう)()るプレイヤーネーム【クマメタル】に連絡を取ったが、例の(ごと)く闘いに()っているのだろう。全く反応が無い。

世界を震撼(しんかん)させた一千万オーバーキルのテロリスト【クマメタル】と同じ名前で、仮想現実世界に()いてプレイをするイカれた変態。(なに)如何(どう)()って、仮想現実世界に()いて、()のプレイヤーネームで登録(とうろく)許可(きょか)されたのか、首を(かしげ)げる事しきりだ。



『カルマ、やっぱり鳥は良いな! 空を自由に()べる!』



イカれた変態は例の(ごと)く、俺の話は全く聞いていなかったようだ。はぁ、トランスしている師匠(ししょう)には(なに)を言っても届かない。自分のルールを忠実(ちゅうじつ)に実行する災厄(さいやく)()す。【()られたら()り返す】、(いた)ってシンプルな()のルールに全てを()ける狂人(きょうじん)

全てと言って良いプレイヤーから()(きら)われる存在(そんざい)、【凶神(オーバーアウト)】と呼ばれる禍々(まがまが)しい(たましい)燐光(りんこう)師匠(ししょう)だった。



師匠(ししょう)、またモンスタープレイですか? 楽しんでますね【アルグリア戦記】!』



『まあな、血のエフェクト処理(しょり)以外は最高に、興奮(こうふん)するぜカルマ!』



其処(そこ)仕様(しよう)なので仕方ないですよ。(あきら)めて下さい師匠(ししょう)()れから俺やりましたよ。【創造神の試練】をクリアしました!』



『ほう、鬼畜(きちく)仕様(しよう)のマゾゲー(マゾヒズムを楽しむ変態のゲーム)シナリオをクリアするとは、お前はイカれてるよカルマ?』



否々(いやいや)、アンタにだけは言われたくないよ! イカれた変態が、俺を変態性(へんたいせい)嗜好者(しこうしゃ)のように言うのは納得がいかない! 断固反対(だんこはんたい)する!



()れで、鬼畜(きちく)シナリオの報酬(ほうしゅう)(なん)だったんだ?』




完全(かんぜん)制覇(せいは)クリアの特典は、一千億英雄ポイント(けん)・身体能力値の限界突破券(げんかいとっぱけん)・スキル(わく)撤廃券(てっぱいけん)・ユニークスキル創造券(そうぞうけん)・特別シナリオ【ゲーム世界へ転生】の選択券(せんたくけん)が各一枚づつですね!』



中々、破格(はかく)な特典内容だった。能力値(筋力(STR)耐久力(VIT)知力(INT)敏捷(AGI)器用(DEX)魅力(CHA))を英雄ポイント分で、人種種族の成長限界値の上限を設定変更が出来る。但し、スタート時の能力値は初期設定値の(まま)なので、所謂(いわゆる)俺Tueeeは出来ない。

スキル(わく)撤廃(てっぱい)って、無限(むげん)にスキルをセットして良いらしい。勿論(もちろん)、スキルもカスタマイズ可能だ。

【アルグリア戦記】では、キャラアバターごとにスキルレベルの成長上限値が設定されている。其の成長限界値を、英雄ポイントを使用してカスタマイズする。初期設定値は変更不可な仕様(しよう)なので、最初からの俺Tueeeは勿論(もちろん)出来ない。



ユニークスキル創造って、もうチートだよね?



最後の特別シナリオ【ゲーム世界に転生】の選択券(せんたくけん)(いた)っては、インダストリア社の運営チームが悪乗(わるの)りしてネーミングしたとしか思えないものだった。



『ほう、【ゲーム世界に転生】か? 浪漫(ロマン)じゃないか、()()()()()()()()()()()! はっははははは~!』



豪快(ごうかい)に笑う師匠(ししょう)に、『ははは、・・・・・・』と苦笑(にがわら)いで応答(おうとう)する俺だった。



(なん)にしても、楽しんで来いカルマ! 一回(いっかい)()りの人生だ、()いの無いようにな!』



全くその通りだ。一回コッキリの人生だ。



俺は亡くなった幼馴染(おさななじ)みの分も、人生を楽しむと決めていた。



『じゃあ、師匠(ししょう)! ()()()()()()()()()()()()()! また連絡しますから、楽しみにしていて下さい!』



『おう! またなカルマ!』







To be(続きは) continued(また次回で)! ・・・・・・
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