完全版【002】:変態は歓喜し、鬼畜無理ゲーは泪を溢す!(2)

文字数 13,420文字

(かあ)ちゃんと一緒に谷底まで落ちていく。三百十九回目の落下になると、感情(かんじょう)麻痺(まひ)し、俯瞰(ふかん)で自分を見ている事に気付く。但し、両親の死をゲームだと割り切れるほど、俺は強くないようだ。



此処(ここ)までは試行(しこう)錯誤(さくご)をした結果、自分でも満足がいくルートで推移(すいい)している。後はあの場所までの、最適解(さいてきかい)(みちび)()すだけだった。



(かあ)ちゃんに別れを告げた俺は、いつもチクっと胸に痛みを感じていた。



「あぅあぅあぅ!(よし! いくぞ!)」



道無(みちな)き道だと思っていた雪が積もる谷底を、俺は匍匐前進(はいはい)颯爽(さっそう)と進み始めた。



「あぅ!(此処(ここ)までは、間違いない!)」



追手(おって)の赤色の(しるし)も、(かあ)ちゃんの灰色(はいいろ)(しるし)辿(たど)()いた。俺がいないので、周辺(しゅうへん)探索(たんさく)しているようだ。

脳裏(マインド)に浮かぶ周辺(しゅうへん)地図(ちず)と、(しろ)一色(いっしょく)白銀(はくぎん)世界(せかい)とを()()わせながら、慣れた動きで時間(タイム)を稼ぐ。

後残り二十三分と十四秒で、俺は行動不能(お亡くなり)になる!



「あぅあぅ!(此処(ここ)までは、問題はないか!)」



追手(おって)が、俺の匍匐前進(はいはい)痕跡(こんせき)を発見するのに、後三十二秒。

吹雪(ふぶき)(はじ)めた粉雪(こなゆき)が、俺の痕跡(こんせき)(かく)している。



俺は今、谷底にある氷道(こおりみち)の割れ目の前にいた。

(アイ)(キャン)翔べる(フライ)! そう信じて、思いっきり後ろ足で氷道(こおりみち)蹴飛(けと)ばした。



ヒュ――――――――――――! 



勿論(もちろん)()べる(はず)もなく、割れ目の中に落ちていったのだった。







「おい! 此処(ここ)痕跡(こんせき)が消えているぞ!?」



「こりゃ、()の割れ目の中に落ちたんじゃないか?」



追手(おって)の三人組は、割れ目を(のぞ)き、()りるか断念(だんねん)するか思案中(しあんちゅう)のようで、割れ目地点から(しばら)く動かない。



「あぅ!(成功だ!)」



脳裏(マインド)に浮かぶ周辺(しゅうへん)地図(ちず)の赤色の(しるし)が、(とお)ざかっていく。



三百十九回目で、初めて追手(おって)()いたのだった。真逆(まさか)割れ目に飛び込むが正解だとは思わなかった。()()問題(もんだい)なんか出すんじゃない! ワクワクするだろう! 俺は()のルートを設定した制作者(クリエイター)賛辞(さんじ)を送る! スッゲぇ(おも)(しろ)い!



おっと、喜んでいる場合じゃない。残り十九分五十八秒だった。



ズボッと()()さった雪のクッションから抜け出した俺は、目的地に向かって進み始めた。



此処(ここ)は洞窟になっているのか? 



鍾乳洞(しょうにゅうどう)のように、氷柱(つらら)天井(てんじょう)を埋め尽くしている。俺は奥へ奥へと匍匐前進(はいはい)で進んでいく。そろそろ身体が(かじか)み、スピードが落ちる時間だ。



(ただ)寒風(かんぷう)()かないのは、ありがたかった。()れで少しでも、寒さで身体が麻痺(まひ)してくる時間を(かせ)ぎたい。



地味(じみ)匍匐前進(はいはい)は、(つら)い。洞窟(どうくつ)の中は、(そこ)()えがして、一段(いちだん)(こご)えが進む。



ああ、感覚(かんかく)が無くなって来た。時間は残す(ところ)、一分四十八秒。自分の行動(こうどう)限界(げんかい)時間(じかん)との戦いだった。 



フウッと、寒風(かんぷう)()く。



メキッ! 



ズブッ!



天井(てんじょう)氷柱(つらら)地面(じめん)()()さる。()衝撃(しょうげき)で、次々(つぎつぎ)氷柱(つらら)が時間差で落ちて来た。



うっひょー、(なん)此処(ここ)に来て、最高(さいこう)のアトラクションじゃないかと、ゲーム脳の変態は歓喜(かんき)()いたのだった。





<<個体名【カルマ】の生命力(HP)が【0】になりました!>>





あっ!




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「お帰りなさいませ、【カルマ】さま。プレイ時間は【百八十一日十八時間四十九分二十二秒】でした。プレイ結果によって、【三百八十三】英雄(えいゆう)ポイントを獲得(かくとく)です! リスタートされますか、それともプレイアバター【カルマ】でのプレイを終了されますか?」




ふー、スッゴく痛かった。氷柱(つらら)が身体に()()さり、五体(ごたい)爆散(ばくさん)するなんてヤバ()ぎる。天井を見上げながら、突き進むには無理がある。行動限界時間まで残り一分四十三秒。一気に匍匐前進(はいはい)で進み抜けないと()けない。正解(せいかい)のルートがある(はず)だ。ふむ、試行錯誤(トライエンドエラー)するしかないな。考えてみれば、解る事だ。ふっふふふふ。楽しい、久々(ひさびさ)にワクワクが止まらない。あの先には、(なに)があるんだろう。(なに)が待っているんだろう。



「・・・・・・リスタートのようですね、【カルマ】さま。現在【創造神の試練】(そう)プレイ時間が、【五万七千九百八十九日二十三時間三分四十八秒】でご座います。精神に異常(いじょう)数値(すうち)が、若干(じゃっかん)()ていますが、如何(いかが)されますか?」



「ああ、氷柱(つらら)()されて、身体(からだ)四散(しさん)した痛みで、異常(いじょう)数値が出たんだと思うよ? まあ気にする(ほど)でもないから、心配(しんぱい)させてゴメンね、ジョドー! 楽しかった、最高(さいこう)のシナリオだね! ()れを作った制作者(クリエイター)は、天才(てんさい)だ! でも、少し疲れたから一旦(いったん)【ゲームアウト】するよ! ありがとう、ジョドー!」 



「・・・・・・・・・」



無表情の執事は、何も言わずに、(だま)った(まま)だった。



あ、あれ? バグかな、ジョドーが(かた)まった? 



「ジョドー、大丈夫?」



「・・・・・・失礼(しつれい)(いた)しましたカルマさま。問題ありません。ゲームアウトまで、三! 二! 一! ご利用ありがとうご座いました! またのお越しをお待ちしております!」



「ありがとう、ジョドー! また来るよ!(ジョドーがバグるなんて、初めてだ。やっぱり第二陣(だいにじん)一千万人が増えるから、()調整(ちょうせい)所為(せい)かな?)」 



【カルマ】の身体が、徐々(じょじょ)にエフェクト処理(しょり)され分解(ぶんかい)されて、消えていく。



【アルグリア戦記の総合案内人】であるジョドーは、プレイヤーネーム【カルマ】を見送った後、嘆息(たんそく)した。



現在プレイ中の一千万のプレイヤーの中で、シナリオ【創造神の試練】を連続(れんぞく)(そう)プレイ時間で【五万七千九百八十九日二十三時間三分四十八秒】もプレイするプレイヤーは皆無(かいむ)だった。

プレイヤーの多くは「(なん)()鬼畜(きちく)無理(むり)ゲー(鬼畜(きちく)()ぎて、クリアは無理だろって言うゲーム)は!」と罵詈(ばり)雑言(ぞうごん)()()らして、別のシナリオに変更(へんこう)して二度と【創造神の試練】をプレイしないのがジョドーの日常(にちじょう)だった。



「くっくくくく。流石(さすが)は、カルマさま! 【廃神(オーバーアウト)】と呼ばれる常人(じょうじん)(なな)(うえ)を、颯爽(さっそう)()()けるお(かた)だ! (たし)かカルマさまの感覚(かんかく)調整(ちょうせい)システムは、驚愕(きょうがく)の百パーセント! 通常(現実世界の痛覚は五十パーセント)の痛覚の二倍! 身体(からだ)氷柱(つらら)()されて四散(しさん)したなどと、普通は()衝撃(しょうげき)激痛(げきつう)で、精神が即死(そくし)するのですが。()のジョドー、()()()()()()()()()()()()()()()!」





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『ぽ~ん♪ お帰りなさい、マスター! 【アルグリア戦記】は、如何(どう)でしたか?』



【ポータルサイトの案内人】のナリアに、いつもの(ごと)(むか)()れられる。

(あお)毛玉(けだま)(たぬき)は、空中で(つぶ)らな(あお)(ひとみ)好奇心(こうきしん)()き出しにして、愛苦(あいくる)しく聞いてくる。



『ナリア、(すご)く楽しかったよ! 今回は、鬼畜(きちく)仕様(しよう)と呼ばれるシナリオ【創造神の試練】でプレイをして最高だったよ!』



鬼畜(きちく)仕様(しよう)って(なに)、マスター?』



仮想現実世界のエントランスである【ポータルサイトの案内人】の【ナリア】は、プレイヤーネーム【カルマ】専属(せんぞく)育成型(ノーチュリングタイプ)ノンプレイキャラクターである。

現在、現実世界の一秒が、仮想現実世界【アルグリア戦記】では【最大延長(マキシマムエクステンション)】で三千百十万四千倍に相当(そうとう)する、【三千百十万四千分の一秒(三百六十日)の世界】を構築(こうちく)している。

此処(ここ)ポータルサイトでの時間の流れは、現実世界の一秒に対して二十四倍の【二十四分の一秒の世界】。()れが、()れまでの【仮想(ヴァーチャル)現実(リアリティ)規定(ルール)】の原則だった。

何故(なぜ)ならば人類(じんるい)世界(せかい)は、仮想現実の世界に生活の基盤(きばん)徐々(じょじょ)に置くようになったが、仮想現実の生活と現実の生活のバランス感覚(かんかく)(くず)れ、精神と記憶に異常(いじょう)(きた)事例(じれい)散見(さんけん)されたからだった。

()対策(たいさく)に、()()()()()()()()()()()()()な現実の一秒が仮想現実世界での二十四秒を、【最大延長(マキシマムエクステンション)】時間とした規定が()()()()()()()()()()()()()となったのは、必然の流れだった。

()れから百八十三年後、人間の脳の認識を克服するシステムとして、個人専用の【ポータルサイトの案内人】を設置した。



最大延長(マキシマムエクステンション)】の開発(かいはつ)当初(とうしょ)は、現実の世界の一秒が仮想現実の世界での三百六十日(三千百十万四千分の一秒)に相当(そうとう)する時間(じかん)経過(けいか)に、人間の脳と精神が()えられなかった。

最大延長(マキシマムエクステンション)での三千百十万四千分の一秒の世界を謳歌(おうか)していたのは、【不死身(ふじみ)機械(きかい)生命体(せいめいたい)】だけだった。

何故(なぜ)不死身(ふじみ)機械(きかい)生命体(せいめいたい)は、最大延長(マキシマムエクステンション)の世界に適応(てきおう)が出来たのか?

()の答えは至極(しごく)簡単(かんたん)だった。

不死身(ふじみ)機械(きかい)生命体(せいめいたい)は、(つね)記憶(きおく)のバックアップを()っていたからだった。



其処(そこ)で【生身(なまみ)人間(にんげん)】でも、記憶(きおく)のバックアップを可能にするシステム【ポータルサイト】が開発された。

現実世界と仮想現実世界のエントランスで、【記憶の記録(メモリーバックアップ)】をする個人専用の案内人(ナビゲーター)設置(せっち)された。

()れにより、人間の認識(にんしき)限界(げんかい)克服(こくふく)するシステムが完成したのだった。



では何故(なぜ)案内人は、育成型(ノーチュリングタイプ)になったのか?

インダストリア社の建前(たてまえ)としては、案内人の全て(表情・仕草・声など)でマスターに愛と信頼を向け、仮想現実と現実の世界で疲弊(ひへい)した精神(こころ)()やす効果があるからだった。

(ただ)し、本音としては、育成する過程(かてい)()ってマスターの思考・行動が案内人に反映(はんえい)されていく中で、論理(ろんり)(かん)の確認と危険(きけん)人物(じんぶつ)排除(はいじょ)を目的としていた。



鬼畜(きちく)仕様(しよう)って言うのは、(すご)くワクワクして、ドキドキする最高(さいこう)の内容・仕組みの事だよ、ナリア!』



『じゃあ、マスター! ナリアも鬼畜(きちく)仕様(しよう)の案内人になる! 鬼畜(きちく)のナリア! かっこい~!』



(あお)毛玉(けだま)が、空中で乱舞(らんぶ)して、喜びを身体全身で(あらわ)していた。



『えっ、そんなに鬼畜(きちく)仕様(しよう)(こだわ)らなくても良いんだ、・・・・・・よ?(え~と、マズったかな? まっ、()っか、特に問題はない(はず)だ!)』



(ところ)でマスター、()れから如何(どう)されますか? 少し精神に異常(いじょう)数値(すうち)が確認されますが?』



『ああ、別に大した事じゃないよ! 少し疲れたから、【ダイブアウト】するよ! じゃあ、(また)ねナリア!』



(あお)(ひとみ)(あお)毛玉(けだま)(ごと)(たぬき)が、了解(りょうかい)とばかりに、空中(くうちゅう)可愛(かわい)らしく(うなず)く。



『いってらしゃいませ、マスター!』



『ああ、行って来る!』





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「お帰りなさい、マスター? 早いお帰りですが、何かあったのですか?」



「ただいま、ミリィ! 大した事じゃない、少し疲れただけだよ!」



心配そうなミリィの声に、俺は、()()心配を掛けてしまったと反省した。俺が仮想現実世界にいた時間は、現実時間でたったの約二分四十九秒だった。

【ポータルサイト】内の時間の流れは、現実の【二十四分の一秒】で、【アルグリア戦記】内の時間の流れは、現実の【三千百十万四千分の一秒】。

全く凄い発明だ。たった数分で、悠久(ゆうきゅう)の時間を過ごせるんだからな。流石(さすが)は、インダストリア社だと俺は感心を(あら)たにした。




「精神に問題はないんですね?」



「・・・・・・少し、本のちょびっとだけ、異常(いじょう)数値(すうち)が出た
だけだ、・・・・・・よ?」



「ほう、どの口が(おっしゃ)るの・で・す・か?」



「ご(めん)なさい。ちょっとだけ、痛かった、・・・・・・ような?」



ああ、ああ~! ミリィの(ひとみ)が、徐々(じょじょ)に冷え込んでいく。ミリィの逆鱗(げきりん)()れてしまったようだ。だめだ、こりゃ。・・・・・・当分機嫌が悪いぞ。



ミリィは白いソファに腰を掛け、自分の(となり)に座りなさいと、ポンポンとソファを叩く。



「ご(めん)ね、ミリィ! 機嫌を直してよ!」



「マスター?」



はい、(ただ)(いま)。俺はミリィの(となり)に座り、ミリィが自分の(ひざ)を叩くと、観念(かんねん)して(ひざ)(まくら)のお世話になるのだった。

(やわ)らかい、(あたた)かくて、()(にお)いだ。

ミリィは、優しく俺の頭を静かに()で始める。()の内に、俺はいつの間にか静かに寝息を立てるのだった。



【オートドール】には感情が設定されていない。何故(なぜ)なら感情は、理性的な判断を狂わせる一種のバグを生む。其処(そこ)で販売元のインダストリア社は、感情の設定を無くし、人類(じんるい)補助(ほじょ)徹底(てってい)させた。

機械であるオートドールに感情は必要ない。只々(ただただ)、人間に奉仕(ほうし)する存在(そんざい)だった。



「マスター、無茶(むちゃ)をしないで下さいね、・・・・・・」



そう(やさ)しく、(かな)しく(つぶや)いたミリィの(ひとみ)から、(なみだ)(こぼ)()ちた。





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()れで、如何(どう)だ!」



俺は氷柱(つらら)落下(らっか)位置を、目視(もくし)脳裏(マインド)地図(マップ)を同時に()ながら、(かん)()()(かわ)して匍匐前進(はいはい)で進んでいく。

最初に氷柱(つらら)爆死(ばくし)してから、合計百五十八回。精神の異常(いじょう)数値(すうち)危険(きけん)規定(きてい)()に達しては、【ダイブアウト】してミリィに叱られ、膝枕(ひざまくら)(いや)される羞恥(しゅうち)プレーを送っていた。



「良し、行けるぞ!」



此処(ここ)半身(はんしん)を右側に回避(かいひ)此処(ここ)で三秒待つ、右にゴロン、三回(まわ)って、前へ(いつ)匍匐前進(はいはい)



残り行動制限時間(お亡くなりになる)まで、【五十二秒】!



おお! 抜けた! 俺は長い洞窟(どうくつ)のアトラクションを抜け、(あお)(じろ)(まぶ)しい広場に、慎重(しんちょう)匍匐前進(はいはい)で進んでいく。



脳裏(マインド)地図(マップ)表記(ひょうき)名称(めいしょう)が、【ハルベルト渓谷(けいこく)洞窟(どうくつ)】から【(はな)水晶(すいしょう)()】に変わる。



良し、成功だ! 俺は小躍(こおど)りする(いきお)いだったが、()のアバターネーム【カルマ】の身体では土台(どだい)無理(むり)だった。



(かべ)一面(いちめん)には、(あお)水晶(すいしょう)(はな)のように咲いていて、天井(てんじょう)の中心には、(あい)(はな)が咲き、()の周りに(あお)(はな)(あお)(はな)(あお)(はな)と囲む様に、水晶華(クリスタルフラワー)が咲き乱れていた。



慎重(しんちょう)慎重(しんちょう)に、俺は匍匐前進(はいはい)で進む。残り行動(こうどう)制限(せいげん)時間(じかん)が【二十秒】を切った。



「あぅ!(もう少しだ!)」



俺は、目的の大きな(あお)(じろ)い山に辿(たど)り着いた。

さあ、時間は無いぞ! 何処(どこ)だ、何処(どこ)なんだ?



俺は()()()()()(あお)(じろ)い山の周りを(まわ)り出す!

残り【十三秒】! くっ、何処(どこ)なんだ?



十二秒! 十一秒! 十秒! 九秒! 八秒! 七秒! あっ! 六秒! アレか? 



俺の脳裏(マインド)に、(ひら)くものがあった!



俺は残り時間【三秒】で、(あお)(じろ)い毛皮に(おお)われた山の乳房(ちぶさ)に吸い付いたのだった。



<<個体名【カルマ】が称号【氷狼(ひょうろう)加護(かご)】を獲得しました!>> 



やった、(なん)とか正解に辿(たど)り着いたようだ。

あ、あったかい、気持ち良い。(やわ)らかく(あたた)かい乳房(ちぶさ)で、至福(しふく)(とき)味合(あじわ)う俺だった。



「あぅあぅあぅ!(ウグウグっ! (ちち)美味(うま)()ぎる、ゲポっ!)」



俺の脳裏情報(マインドインフォメーション)に浮かぶ、ステータス表示の生命力(HP)は【1】ポイントでギリギリセーフだった。

間に合った・・・・・・



スゥー、スゥーーーーー



あっ、なんか、・・・・・・



安心した俺は、不覚(ふかく)にも睡魔(すいま)に負けて眠ってしまったのだった。





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【情報表示】:▼

氏名(NAME):【カルマ】

個体LV:【1】

備考:▼

年齢:【0歳】

種族:【森精霊人(エルフ)普精霊人(ヒューマン)混血(クオーター)

身分:【未設定】

職業:【未設定】

称号:【氷狼(ひょうろう)加護(かご)】▼

   【氷狼(ひょうろう)加護(かご)】:寒冷(かんれい)耐性(たいせい)(おおかみ)(けい)生物(せいぶつ)威圧(いあつ)魅了(みりょう)効果(こうか)

才能(スキル):【0】※封印(ふういん)

説明:▼
運命(うんめい)宿命(しゅくめい)(もう)()

【状態表示】:▼

生命力(HP):【1/549】 ↑543UP

魔力(MP) :【8/1999】 ↑1991UP

精神力(MSP):【9/1095】 ↑1086UP

持久力(EP):【1/21】 ↑15UP

満腹度(FP):【23/100】

【能力表示】:▼

筋力(STR)  :【1】※封印(ふういん)

耐久力(VIT) :【1】※封印(ふういん)

知力(INT)  :【1】※封印(ふういん)

敏捷(AGI)  :【1】※封印(ふういん)

器用(DEX)  :【1】※封印(ふういん)

魅力(CHA)  :【1】※封印(ふういん)


【部隊編成表示】:▽



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『おい、起きろ! おい!』



う、う~ん! ミリィ~もう少しだけ寝かしてよ~!

俺は微睡(まどろ)みの中で、ミリィに懇願(こんがん)した。



ドンッ! グハッ!



俺は背中を襲った突然の衝撃(しょうげき)に、一瞬(いっしゅん)で、息を吐き出し覚醒(かくせい)した。



くっ、痛い!



痛む背中に手を伸ばして(さす)りながら、俺は俺を襲った(あお)(じろ)い山を見上げたのだった。



「あぅあぅあぅ!((ひど)いな、叩き起こすなんて!)」



巫山戯(ふざけ)るな、お前は何者(なにもの)だ? 此処(ここ)がハルベルト山脈、(われ)縄張(なわば)りだと知っての狼藉(ろうぜき)か?』



俺を睥睨(へいげい)する(あお)(ひとみ)射貫(いぬ)かれたが、全く(こわ)くは無かった。此奴(こいつ)には、毎回お世話になっているからな。

(あお)(じろ)い毛皮に身を包んだ巨大な狼が、俺を威圧(いあつ)していたが、俺には()かない。

何故(なぜ)なら【アルグリア戦記】をプレイしていれば、必ず倒す相手だからだった。だが、現状の能力ではコイツには、(まん)(いち)にも勝てない。理由は簡単、コイツが【アルグリア戦記】で最強の十個体の内の一体だからだった。





アルグリア大陸には、決して触れて()らない存在(そんざい)がある。

()れは【十の災厄(アンタッチャブル)】と呼ばれている存在(そんざい)だった。アルグリアの住人達は、(たましい)に、脳髄(のうずい)()の恐怖を(きざ)み込まれている。

近年(きんねん)では、【十の災厄(アンタッチャブル)】の一体である【麒麟(きりん)】に()って、国が一つ滅んでしまった。()れも麒麟(きりん)の住む霊山(れいざん)不死山(ふじやま)】の禁忌(きんき)を破った事が原因で、一晩(ひとばん)一国(いっこく)()(ずみ)の様に消滅(しょうめつ)したのだった。

圧倒的(あっとうてき)な力で、人類(じんるい)超越(ちょうえつ)した存在(そんざい)。触れてはならない存在(そんざい)があると、アルグリアの住民達に知らしめる存在(そんざい)

住民達は神に祈りを(ささ)げ、心の安寧(あんねい)()る。

十の災厄(アンタッチャブル)】とは、絶対に触れてはならない【不可避(ふかひ)神罰(しんばつ)()のものだった。



さて、()れから如何(どう)するか? と考えたところで重大な事に気付いた。



(そもそ)も目的地である(あお)(じろ)巨狼(きょろう)辿(たど)り着いたが、現在(いま)の俺では勝てる(はず)もなく、全くのノープランだったと言う事に衝撃(しょうげき)(おぼ)えた。

まあ、行き当たりバ・・・・・・ゲフンゲフン! 臨機応変(りんきおうへん)に対応するスタンスだった。そう、そう言う事にしておこう。 



ふむ、(にら)んでいるな。そんなに見つめられると、・・・・・・()れるじゃないか。



「あぅあぅあぅ!(やあ、俺はカルマ! 何者(なにもの)もなにも、見た通り、赤ちゃんだ!)」



ドーン! 俺はペタンとお尻を地面に付けた状態で、堂々(どうどう)名乗(なの)りを()げた。そう、赤ちゃん言語(ことば)で!



ゴクリ、・・・・・・



さあ、如何(どう)(ころ)ぶか、出たとこ勝負の会話が続く。つ、・・・・・・続くよね? 行きなり戦闘とか、ご勘弁(かんべん)を。

俺が、巨狼(きょろう)をじ~っと見つめている。巨狼(きょろう)も俺を見つめる。お互い、目で語っていたが。



会話が全く成立していない? 俺はコイツの言葉が、聞こえる。コイツは、俺の赤ちゃん言語(ことば)を、解らない。

()れって、()んでるよね? そう俺が思っていると。



『カルマか、良い名前だ。だが、赤ん坊が一人で来る(ところ)では、ないぞ此処(ここ)は?』 



「あぅあぅ?(俺の言葉が、解るの?)」



『ああ、【念話(ねんわ)】で話しているからな! 想いを伝える事も、集中すれば相手の心の想いも聞ける! (ただ)、相手が心をブロックしていたら、聞こえないがな!」



へー、()れは初めて知った。念話(ねんわ)スキルって、一方通行(いっぽうつうこう)じゃなかったのか。()れは良い事を、聞いたな。



俺は、目の前の巨狼(きょろう)に、俺の事情(じじょう)を話した。天涯孤独(てんがいこどく)になった俺に、巨狼(きょろう)はやけに(やさ)しかった。

あれ、コイツこんな(やつ)だっけ? 疑問を浮かべる俺の視線(しせん)の先には、脳裏情報(マインドインフォメーション)の情報表示に記載(きさい)されている称号(しょうごう)があった。【氷狼(ひょうろう)加護(かご)】の称号(しょうごう)説明(せつめい)(らん)にある文言(もんごん)に意識を、集中させる。

すると浮かび()がって来る三角(さんかく)ボタンを、意識で押す。

何々(なになに)寒冷(かんれい)耐性(たいせい)と狼系生物へ威圧(いあつ)魅了(みりょう)効果(こうか)

マジか、俺は意識を集中して文言(もんごん)()る。

寒冷(かんれい)耐性(たいせい)、読んで字の(ごと)く寒さに耐性(たいせい)が付く。威圧(いあつ)は、狼系の生物を(したが)わせる力と。魅了(みりょう)は現在の【魅力(みりょく)()×10倍】か。

俺の状態表示の魅力(みりょく)()は、封印(ふういん)(ため)【1】ポイントで固定(こてい)だが、【アルグリア戦記】には隠された秘密がある。()れはマスクデータと呼ばれる(かく)された情報だった。()れの存在を理解している者は少ない。少なくとも、トップランカーは確実に()()()()()()()()()()()()()()()()(はず)だ。



データ表示に、表示されない(かく)された情報。俺の表面上の魅力(みりょく)()は、【1】ポイントだが、マスクデータ上は、【10】ポイントだ。狼系生物限定と言う注釈(ちゅうしゃく)は付くが。

FHSLG(ファンタジー歴史シミュレーションゲーム)【アルグリア戦記】に()いて、完全(かんぜん)制覇(せいは)でクリアするには、【マスクデータ】と【称号効果】、()の二つの理解が不可(ふか)(けつ)である。

完全(かんぜん)制覇(せいは)とは、アルグリア戦記に()いて、最上(さいじょう)最高(さいこう)結果(リザルト)である。通常の制覇(せいは)(なに)が違うかと言えば、不可避(ふかひ)神罰(しんばつ)である【十の災厄(アンタッチャブル)】の十個体全ての討伐(とうばつ)()に、アルグリア大陸全ての人類(じんるい)国家(こっか)と、モンスターのコミュニティを統一(とういつ)する事だった。



天涯(てんがい)孤独(こどく)、・・・・・・なら、大人になるまで、(われ)此処(ここ)で住めば良い』



えっ、マジッスか? 

俺にはコイツの行動が、()ぐに(わか)った! 他のゲームで何度か、こういったシーンを見た記憶(きおく)がある!

そう、コイツは、()()()のだ!


(たし)ラブファイト(恋愛)系のゲームだったなぁ。



もう、()の流れに乗るしかない。



「あぅあぅ!(よろしく、()()()!)」



()れが最適解(さいてきかい)だと、確信(かくしん)したカルマは、もう一人の()()微笑(ほほえ)んだのであった。







ウォーーーーーン!



狼の鳴き声が、渓谷(けいこく)木霊(こだま)する。狼の群れが、熊を包囲(ほうい)しながら、的確(てきかく)に傷を付け弱らせていく。

統率(とうそつ)された狼の群れは五匹。()の内の一匹の背に乗る上半身(じょうはんしん)(はだか)の若い男。

熊は身体中から、赤いエフェクトを()()らし、(つい)に倒された。



<<個体名【カルマ】の個体レベルが上がりました!>>



「良し、()ったな!」



スノーベアを倒した!

エフェクトが立ち(のぼ)(しかばね)脳裏情報(マインドインフォメーション)で、スノーベアの生命力が【0】ポイントになったのを確認してから、ゲームシステムの収納(しゅうのう)()れを瞬時(しゅんじ)回収(かいしゅう)した。



「アイン!」



()の言葉だけで、五匹は次の獲物(えもの)を目指すのだった。

狼の背に()られながら、五匹ながらも群れを統率(とうそつ)するカルマ。

白い雪原を疾走(しっそう)する狼の群れは、迷いのない動きで、スノーディアに(おそ)()かった。





あの日、母さんと家族となってから十八年が()った。俺も(ようや)成人(せいじん)だ。()の世界、アルグリア大陸の成人(せいじん)は十八歳。成人(せいじん)したら此処(ここ)から旅立つ計画に変わりはない。



身体は百七十五センチ(くらい)(ひとみ)の色は、(かあ)ちゃんと同じように(あお)く、髪は(とう)ちゃんと同じく金髪(きんぱつ)だ。(きた)え上げられた上半身(じょうはんしん)には、一切(いっさい)贅肉(ぜいにく)もなく(はがね)(ごと)くしなやかだった。

母親は生粋(きっすい)のエルフで、父親はエルフとヒューマンのハーフ。カルマは見た目はヒューマンだが、エルフとヒューマンのクォーターだった。



(ただ)、身体が大きくなって、個体レベルが上がっても、状態表示の能力値は【1】ポイントで固定(こてい)だ。いつか、封印(ふういん)()くか、()れとも【1】ポイントの()()()()()()()()(なに)かを(つか)むか、と期待の想いで胸が高鳴(たかな)っていた。



カルマ自身は()うに気付いる。()の可能性が、圧倒的に低い数値である事を。



そして、()の圧倒的に低い数値がカルマのトキメキを爆上(ばくあ)げさせていたのだった。

(なに)鬼畜(きちく)仕様(しよう)だ、()のシナリオは、(かみ)シナリオ! (かみ)ゲー((かみ)(ごと)き高評価のゲーム)じゃないか!

現在までの総死亡(ゲームオーバー)回数は、千五百十九回。

アルグリア大陸の一年は、一ヶ月が三十日で十二ヶ月の三百六十日。プレイヤーネーム【カルマ】の【創造神の試練】での総プレイ時間は、【一万千九百二十八年三百九日七時間三十二分三秒】に(およ)んでいた。

だが、現実時間では【約三時間十九分】しか()っていない。(まさ)しく悠久(ゆうきゅう)の歴史を(きざ)むゲームであった。



生肉(なまにく)も食べれるようになった。【ダイブアウト】して、ミリィの作る料理が美味(うま)()ぎて、涙を流した事も記憶に新しい。



(ただ)し、一切(いっさい)の武器が持てなかった。筋力値【1】ポイントは伊達(だて)ではなかった。耐久値【1】ポイントは、(かみ)装甲(そうこう)を超える弱さで、日々生命力(HP)を上げ続けていなければ、最悪の状況に追い込まれていただろう。

カルマは、()(かみ)シナリオ【創造神の試練】の楽しさに、面白さに、やり込みに歓喜(かんき)したのだった。



「良し! ゼイン!」



大きく強靱(きょうじん)な身体を持つスノーディアは、氷の枝分かれした角で、狼を()ぎ払おうとした一瞬(いっしゅん)(すき)を付いて、他の狼が(みぎ)(うし)(あし)()み付き負傷(ふしょう)させた。()拍子(ひょうし)に、身体のバランスが(くず)れ、地面に右後ろから(くず)れ落ちる。()(すき)を他の狼は(のが)さず、一気に首元へ牙を立てた。赤いエフェクトが、首元、足元から()れ出しスノーディアは()の動きを止めたのだった。

簡単に倒せた、予想外の収穫(しゅうかく)だった。

そうか、足元か、バランスを(くず)せば大物(おおもの)でも簡単に狩れるな。



お、もう一匹いるな。良し作戦会議(ブリーフィング)だ!



そうして、俺は仲間と意思(いし)疎通(そつう)(はか)るのだった。念話(ねんわ)スキルが(つか)えれば簡単だが、無いものは仕方がない。俺は身振(みぶ)手振(てぶ)りで、仲間の狼達に狩りの仕方と合図(あいず)を教えていく。



最初の群れの始まりは、一匹からだった。

俺が乗っている【アイン】は、最初は親とハグれた雪狼(スノーウルフ)の子狼(ころう)だった。

最初は(おび)えて、(ふる)えていたアインを介抱(かいほう)して、育てたのは俺だ。

勿論(もちろん)、アインと名付(なづ)けたのも俺で、アインがもう一人の家族になるのにそう時間は掛からなかった。



「良し、ゼイン!」



もう一匹のスノーディアも、ゼインが(とど)めを()し、(なん)なく倒した俺達は、母さんの待つ(ねぐら)に帰るのだった。



「ハウス!(家へ戻るぞ!)」



俺は群れに号令(ごうれい)()け、アインにしがみ付く。アイン達は、ゼイン以外は全員【シルバーウルフ】に進化した個体達だった。

今回の狩りは、ホワイトウルフから【ゼイン】を、シルバーウルフへと進化させる(ため)のものだったが、進化には(あと)(わず)かに経験値が足りない。

だが、無理は禁物(きんもつ)。アイン以外は、死んでしまっても再度復活するダンジョンモンスターだが、死んでしまうと俺の部隊(ぶたい)編成(へんせい)から(はず)れ、初期配置設定でのリスポーンとなる。

リスポーンされたダンジョンモンスターは、記憶も経験値も全て初期値に戻ってしまう。

死にはしないが、俺と経験した記憶が消えた個体は、再度(さいど)部隊(ぶたい)編成(へんせい)で組み込んで育成しても、前回と同じ個体には育たない。

能力数値や、スキルが同じでも、全く別の個体となる。

()れは想いが、共にした経験が違うからだった。俺の仲間は、()えの()く物じゃない。俺の手腕(しゅわん)(ひと)つで、アッサリ全滅(ぜんめつ)もあり()る。細心(さいしん)の注意と、大胆(だいたん)な行動のバランスを取りながら、ダンジョン【ハルベルト山脈】を今日も()()ける。



後もう少しで、【華水晶(はなすいしょう)()】がある洞窟(どうくつ)辿(たど)り着くと言う時、脳裏地図(マインドマップ)でアイスタイガーを発見した。



「アテンション!(警戒(けいかい)!)」



俺の号令(ごうれい)で、警戒(けいかい)陣形(じんけい)瞬時(しゅんじ)移行(いこう)するも、()の走りは止まらない。

何故(なぜ)なら、俺の部隊に編成(へんせい)している仲間とは、言葉は交わせないが、脳裏情報(マインドインフォメーション)共有(きょうゆう)する事は出来る。仲間は文字は読めないが、周辺(しゅうへん)地図(ちず)と俺の号令(ごうれい)瞬時(しゅんじ)部隊(ぶたい)行動(こうどう)移行(いこう)出来(でき)るのだった。



距離は遠くはなく、意識でクリック確定(かくてい)した俺の脳裏(マインド)地図(マップ)からは、獲物(えもの)(のが)れられない。

俺の部隊は、認識(にんしき)共有(きゅうゆう)している脳裏地図(マインドマップ)脳裏情報(マインドインフォメーション)の絵文字で、部隊指令を(はっ)する。アイスタイガーは、直ぐ近くに()るので、声が()げられない。黄色の印(イエローマーク)は、パッシブモンスターを表す。此方(こちら)認識(にんしき)すれば、点滅(てんめつ)する。()点滅(てんめつ)していないのは、風下(かざしも)から近付(ちかづ)認識(にんしき)されていないからだ。

【アルグリア戦記】では、(にお)いも(なに)もかもが、現実(げんじつ)同様(どうよう)に感じられる。唯一(ゆいいつ)(ちが)(ところ)は、血が流れないで、エフェクトが流れ(こぼ)れる事だけだった。血の鉄臭(てつくさ)(にお)いも、()()れればなんて事はない。


人間の()れって結構(けっこう)(すご)い。順応(じゅんのう)しないと生き残れない本能(ほんのう)なのだろうか。



()(かく)、アイスタイガーは強敵(きょうてき)だ。此処(ここ)のダンジョンにはリポップされないモンスター。つまり、ダンジョンモンスターではないフィールドモンスターだ。



迷い込んだか? ()れが一匹以上なら、母さんが(だま)っていない。何故(なぜ)なら、()のダンジョンであるハルベルト山脈は、母さんの縄張り(テリトリー)だ。母さんの()()()では、複数の進入を許さないからだった。



獲物(えもの)との距離が、二百メートルを切った。



(なん)とか気付かれずに、布陣(ふじん)()く事が出来そうだ!



俺は一息(ひといき)を付き、部隊全員に脳裏情報(マインドインフォメーション)で、ある絵文字を共有(きょうゆう)する。

良く見ると最高(さいこう)の形だった。絶好(ぜっこう)の場所で、絶好(ぜっこう)のタイミングで、俺は脳裏情報(マインドインフォメーション)骨付(ほねつ)き肉の絵文字を十から順番(じゅんばん)に減らしていき、攻撃のタイミングを()()()に伝える。



五秒! 四秒! 三秒! 二秒! 一秒! ゴー!



アイスタイガーの十時(じゅうじ)の方向から、シルバーウルフをリーダーとするホワイトウルフのベータ部隊が注意を引き付け、四時(よじ)の方向から俺のアルファ部隊がソッと(しの)()(ひそ)む。()れに(ともな)九時(くじ)の方向からガンマ部隊が陽動(ようどう)を行う。アイスタイガーは、狼の群れに威嚇(いかく)雄叫(おたけ)びを()げた。



もう()ぐだ。一時(いちじ)の方向からデルタ部隊が到着(とうちゃく)し、再々度(さいさいど)陽動(ようどう)()ける。さあ、仕上(しあ)げだ。



三方向(さんほうこう)威嚇(いかく)(うな)りを()げたアイスタイガーは、(ようや)く自分の不利(ふり)(さと)逃亡(とうぼう)(こころ)みる。だが遅かった。(すで)盤面(ばんめん)ではチェックメイトだった。



アイスタイガーの逃走(とうそう)ルート上で、雪の中に、(しげ)みに気配(けはい)(かく)したアルファ部隊の牙がアイスタイガーの四肢(しし)()らい()く。一方的な狩りだった。アイスタイガーは反撃(はんげき)すら行えずに、赤いエフェクトを()()らしながら絶命(ぜつめい)した。



<<個体名【ゼノン】の個体レベルが上がりました!>>

<<個体レベル【20】に達したので、【進化】が可能になりました!>>

<<進化先は【シルバーウルフ】・【シャドウウルフ】から選択可能!>>



ゼノンの個体情報を、脳裏情報(マインドインフォメーション)の画面で確認する。





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【情報表示】:▼

氏名(NAME):【ゼノン】

個体LV:【20】

備考:▼

年齢:【23歳】

種族:【白狼精霊人(ホワイトウルフ)

身分:【カルマ遊撃(ゆうげき)部隊(ぶたい)隊員(たいいん)

職業:【戦士】

称号:【プレイヤーの眷属(けんぞく)】▼

   【プレイヤーの眷属(けんぞく)】:ゲームシステムの一部を共有(きょうゆう)可能(かのう)

才能(スキル):▼
   【身体強化LV6】【寒冷耐性LV5】【牙撃LV6】【爪撃LV4】
   【疾走LV4】

説明:▼
【ハルベルト山脈を縄張りとするホワイトウルフ。プレイヤーの眷属(けんぞく)。】

【状態表示】:▼

生命力(HP):【78/78】 

魔力(MP) :【67/81】 

精神力(MSP):【54/58】

持久力(EP):【73/75】 

満腹度(FP):【31/100】

【能力表示】:▼

筋力(STR)  :【67】

耐久力(VIT) :【48】

知力(INT)  :【36】

敏捷(AGI)  :【93】

器用(DEX)  :【27】

魅力(CHA)  :【34】


【部隊編成表示】:▽



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ゼノンの種族に意識を集中させると、三角(さんかく)の表示が表れる。()れをポチッと意識(いしき)で押す。



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種族:【銀狼精霊人(シルバーウルフ)】▼

   【銀狼精霊人(シルバーウルフ)】:雪狼精霊人(スノーウルフ)の上位種族。
             寒冷地帯では、能力上昇(大)効果発生。



種族:【影狼精霊人(シャドウウルフ)】▼

   【影狼精霊人(シャドウウルフ)】:森狼精霊人(フォレストウルフ)の上位亜種族。
             スキル【影魔法】が使用可能。



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俺は迷いなく、シルバーウルフを選択(せんたく)した。

(まぶし)い光のエフェクトにゼノンは(つつ)まれ、分解(ぶんかい)され、(さい)構築(こうちく)されていく。



<<個体名【ゼノン】は【シルバーウルフ】に進化しました!>>



「良し、ハウス!(帰還する!)」



俺の号令(ごうれい)を聞いた部隊リーダーが、一吠(ひとほ)えをして、群れを統率(とうそつ)する。

 

周囲(しゅうい)にはスノーラット一匹いない。次にリポップされる(まで)の時間は、スノーラット・スノーラビットの下位(アンダー)魔物(モンスター)で三十分! スノーフォックス・スノーバードの中位(ミドル)魔物(モンスター)で六十分! スノーディア・スノーベアの上位(ハイ)魔物(モンスター)で六時間! スノーレオンの特殊(スペシャル)魔物(モンスター)が二十四時間だった!



(ちな)みに、スノーウルフは中位(ミドル)、ホワイトウルフは上位(ハイ)、シルバーウルフは最上位(ハイオーバー)のモンスターに分類(ぶんるい)される。



疾走(しっそう)する狼の群れの数は、二十匹。()の内の一匹の背に(また)がる若い半裸(はんら)の男。

彼らが、(ねぐら)に向かって走っていると、続々(ぞくぞく)と狼の群れが集まって来る。

狼の群れは、雪崩(なだれ)(ごと)(さか)さまに雪山を登っていく。()の数は、百数匹に(たっ)していたのだった。







ああ、見えた。あ、あれ? (かあ)さんが洞窟(どうくつ)の前で、仁王(におう)()ちしている。



見るからに機嫌(きげん)が悪い。あれ、(おれ)(なに)かしたっけ? 

全く(なに)心当(こころあ)たりがない。はて、なんだろうか?



「ストップ!(止まれ!)」



俺の号令(ごうれい)脳裏情報(マインドインフォメーション)とで、総数百二十匹の群れが行動を停止(ていし)する。 



カルマの強化された感覚(かんかく)が、強く激しく母親の機嫌(きげん)が最悪だと()げる。



(いや)、変な先入観(せんにゅうかん)は善くない。



(かあ)さんは、(なに)も言わないが、無言(むごん)威圧(いあつ)がハンパない。

俺の仲間(眷属(けんぞく))達も萎縮(いしゅく)して、五体(ごたい)投地(とうち)する者、腹を見せて降参(こうさん)服従(ふくじゅう)(れい)をする者もいる始末(しまつ)だ。

勘弁(かんべん)してくれよ、(かあ)さん。俺は嘆息(たんそく)を心の中で()きながら、(かあ)さんに挨拶(あいさつ)をする。



(かあ)さん、只今(ただいま)! 如何(どう)したの(めずら)しく洞窟(どうくつ)から出てきて? (なに)かあったの?」



俺の言葉に、(かあ)さんは重い口を開けた。



『カルマ、お前も成人(せいじん)だ! 大人になったお前に、伝えなければいけない事がある! 実は(われ)は【十の災厄(アンタッチャブル)】と呼ばれる(じゅう)盟約(めいやく)(けもの)一柱(いっちゅう)なのだ!』



「・・・・・・・・・・・・」



『全く驚かないんだな、カルマ?』



(かあ)さんは、不満そうに俺を見つめながら、鼻を鳴らす! 驚くも(なに)も、ずっと知っていたから仕方ないと、僕は心の中で毒突(どくづ)いた。 



「えっ!(いや)驚いた、・・・・・・よ? ()れが如何(どう)かしたの、(かあ)さん?」



俺の言葉に、何故(なぜ)(かあ)さんは、一瞬(いっしゅん)(かな)しそうな表情を見せた。



『【十の災厄(アンタッチャブル)】は(われ)だけではない! (われ)(ほか)にもアルグリア大陸には九柱(きゅうちゅう)存在(そんざい)する! 今のお前では、死ににいくようなものだ! 其処(そこ)でだ、お前には試練(しれん)を受けて貰う!』



試練(しれん)?(なんだ()れ、クエストかイベントかな?)」



此処(ここ)を旅立ちたければ、(われ)を倒して行け! ()れがお前に()せられた試練(しれん)だ!』
 


ドォーン! 



プチッ!



俺は()れを聞いて、堪忍袋(かんにんぶくろ)()が切れた。



(かあ)さん、(おこ)るよ! ()れは(ただ)(かあ)さんが俺と離れたくないだけだよね?」



明らかに俺の言葉に動揺(どうよう)する(かあ)さんが、静かに(つぶや)く。



『カルマ、(かあ)さんを()てる気なのか? (われ)はお前をそんな子に、育てた覚えはないぞ?』



そう(つぶや)(かあ)さんの(ひとみ)には、大粒(おおつぶ)の涙が()まりウルウルとしている。

(なに)(かく)そう【十の災厄(アンタッチャブル)】と(おそ)れられる俺の(かあ)さんは、最初に()ったあの日からデレデレにデレて、【親バカ(モンスターペアレント)】にバージョンアップしたのだった。














【アルグリア戦記】には、セーブ機能(きのう)は存在しない。全て最初からのスタートと()る。()()()()()で、セーブなどは出来る(はず)もない。此処(ここ)は【アルグリア世界】、もう一つの現実の世界。現実の一秒が、三千百十万四千秒に相当(そうとう)する仮想の現実世界。現実の一時間が、百二十九万六千日(三千五百五十年と二百五十日)に相当(そうとう)する【悠久(ゆうきゅう)歴史(れきし)(きざ)世界(せかい)】。



()たして、【アルグリア世界】は、仮想の現実世界なのだろうか? ()れとも、実はもう一つの現実世界【異世界(いせかい)】なのだろうか? ()の答えは【プレイヤー】だけが知っている。







To be(続きは) continued(また次回で)! ・・・・・・
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