完全版【001】:変態は歓喜し、鬼畜無理ゲーは泪を溢す!(1)

文字数 13,299文字

連邦暦(れんぽうれき)四千五百六十七年、人類(じんるい)は現実の一秒が三百六十日に相当する仮想現実の世界を初めて構築(こうちく)した。()れを成したのは医療研究機関であるインダストリア社だった。

インダストリア社は人間の機械生命体化(きかいせいめいたいか)を為し遂げた医療研究機関のパイオニアで、現在は不老不死(ふろうふし)研究に力を入れており、研究の副産物(ふくさんぶつ)として現実の一秒が三千百十万四千秒に相当する仮想現実の世界を創り上げた。



そうして、前人未踏の仮想現実の世界を構築したインダストリア社は、医療研究(いりょうけんきゅう)母体(ぼたい)とした多角経営(たかくけいえい)に乗り出し、仮想現実世界を基盤(きばん)としたビジネスモデルを世界に提案し、世界は()恩恵(おんけい)により(いちじる)しい発展を()げるかに見えた。

だが、()恩恵(おんけい)を十二分に受けられたのは()()()()()()()だった。

最大延長(マキシマムエクステンション)】時間での研究開発が仮想現実世界で進められる内に、仮想現実での生活と現実の生活との間での順応(じゅんおう)差異(さい)に、人間の脳の認識(にんしき)が耐えられ無い事が判明した。現実の一秒で仮想現実世界の三百六十日を体験後に、ログアウトして現実の生活との認識(にんしき)の擦り合わせが困難な事例が多発し、()()()()()()()()()()()使()()は困難になった。

こうして、()()()()()()()()()()()()()()()()な現実の一秒が仮想現実世界での二十四秒を、【最大延長(マキシマムエクステンション)】時間とした規定が、()()()()()()()()()原則(げんそく)となった。

現実の一秒が【仮想現実世界の三百六十日】と【仮想現実世界での二十四秒】と比較すると格差は明らかではあるが、()れでも現実の一秒が仮想現実世界では二十四倍に為る恩恵(おんけい)人類(じんるい)(いちじる)しい発展を与えた。



()恩恵(おんけい)により人類(じんるい)余暇(よか)有意義(ゆういぎ)に過ごせるように、インダストリア社のゲーム開発部門では、数々(かずかず)の仮想現実ゲームを発売展開していく。



時は流れ百八十三年後、インダストリア社は、人間の脳の認識(にんしき)の限界を克服(こくふく)するシステムを完成させ、(まん)()して現実の一秒が三千百十万四千秒の仮想現実に相当するFHSLG(ファンタジー歴史シミュレーションゲーム)【アルグリア戦記】を発表した。

FHSLG【アルグリア戦記】は、多人数参加型のゲームとして当初開発をスタートさせたが、多人数ではログイン時間の差異(さい)によって、プレイヤー(かん)連携(れんけい)に大きな齟齬(そご)が発生した。()れはゲームの世界観である、歴史変革(れきしへんかく)を楽しむには向いていなかった。



()の理由から、FHSLG【アルグリア戦記】は、一人用ゲームとして発売され、長きに渡ってゲーム愛好家(マニア)に愛され続けられる事となる。



連邦暦(れんぽうれき)四千七百五十年六月、インダストリア社は、FHSLG【アルグリア戦記】のゲーム発売を記念して、仮想現実世界でのお祭りイベントを開催(かいさい)すると発表した。



イベントの内容は、ゲーム挿入歌(そうにゅうか)一般公募(いっぱんこうぼ)で、プロ・アマ・音楽ジャンル問わず、ゲームプレイヤーの(たましい)()さぶる自信こそが、唯一の応募の条件だった。

開催場所(かいさいばしょ)は、仮想現実世界【ヴァルハラ】で、審査員(しんさいん)はイベントに参加する権利を(ゆう)するFHSLG【アルグリア戦記】をサービス開始前に事前購入した一千万人と、インダストリア社の主導管理脳(メインマネージメントブレイン)【マザーアース】だった。





世相(せそう)として、仮想現実世界に()いてテロ行為が多発していた。人類(じんるい)貧富(ひんぷ)の差が顕著(けんちょ)に現れる現代、富裕層(ふゆうそう)であるハイブランドの住民をターゲットにしたものだった。

仮想現実でのテロ行為により、精神に致命傷(ちめいしょう)を受け脳死するケースが多発していた。テロリストの多くは、何等(いずれ)かの思想を(もっ)て正義を主張する者達だった。



仮想現実世界のテロリストとして、単独でのテロ行為で殺傷(さっしょう)した総数(そうすう)百万人越えのテロリストだけで結成した五人組が、当日【ヴァルハラ】のイベントにアーティストとして参加すると表明(ひょうめい)していた。

アーティスト名は、【超極悪人(オーバーヒール)】で、世界を崩壊(ほうかい)させると宣言(せんげん)していた。事実、彼等(かれら)出現(しゅつげん)により、イベントは異様(いよう)な盛り上がりを見せた。

彼等(かれら)の演奏に(たましい)()さぶられ、()のまま昇天(しょうてん)したイベント参加者もいたが、彼等(かれら)の目的は違った。彼等(かれら)(しん)の目的は、【マザーアース】で、主導管理脳(メインマネージメントブレイン)が管理するハイブランドの住民達の思考データだった。

ハイブランドの一握(ひとにぎ)りが人類世界(じんるいせかい)を支配している。()の多くが機械生命体(きかいせいめいたい)となって、永遠の命を()ており、テロ対策として思考データを【マザーアース】に保存(ほぞん)していた。



思考データがある限り、何度でも(よみがえ)機械生命体(きかいせいめいたい)抹殺(まっさつ)を、テロリスト達は目論(もくろ)んでいた。



メタルサウンドが()(ひび)き! メタルシャウトが、(たましい)()らす!

エレキの旋律(せんりつ)が、(たましい)即死(そくし)させ、爆破(ばくは)し、誘爆(ゆうばく)させる!

ベースの調(しら)べが、(たましい)存在(そんざい)確定(かくてい)させる!

弾詰(たまづ)まりのないツーバスの連撃(れんげき)が、的確(てきかく)(たましい)をドラミングする!

ボーカルの(さけ)びが、(たましい)直撃(ちゃくげき)し、()さぶる!

魂の慟哭(メタルサウンド)が、境界線(きょうかいせん)無視(むし)し、破壊(はかい)し、殲滅(せんめつ)する!

超極悪人(オーバーヒール)】の演奏時間四分十一秒後、仮想現実世界【ヴァルハラ】は崩壊(ほうかい)した。

()れと同時に、インダストリア本社が大爆発を起こし、主導管理脳(メインマネージメントブレイン)【マザーアース】は破壊された。

世界は(やみ)に閉ざされた。

仮想現実の世界で、人生を謳歌(おうか)していた人類(じんるい)鉄槌(てっつい)(くだ)った瞬間だった。

貧困層(ひんこんそう)のアンダーグラウンドの住民が、富裕層(ふゆうそう)のハイブランドの住民に対し、少なからず溜飲(りゅういん)を下げた瞬間でもあった。





一月後(ひとつきご)、世界は、人類(じんるい)は、仮想現実の世界を再び構築していた。破壊された【マザーアース】に代わり、補助管理脳(アシスタントマネージメントブレイン)の一つが主導管理脳(メインマネージメントブレイン)【エルダーアース】としてバージョンアップしたのだった。
 
インダストリア社は、本社爆発時に亡くなった前社長に代わり、新たに新社長が就任(しゅうにん)した。

新社長は、FHSLG【アルグリア戦記】のサービス開始を宣言し、挿入歌(そうにゅうか)には【マザーアース】を破壊し、仮想現実世界を崩壊(ほうかい)させたテロリスト達の曲が、圧倒的得票差で選ばれた。

FHSLG【アルグリア戦記】は現実の一秒で、三千百十万四千秒の仮想現実のゲーム世界を楽しめる。ゲーマーと呼ばれるゲーム愛好家(マニア)達は、(こぞ)って【アルグリア戦記】に乗めり込んでいった。



ファンタジーなゲーム世界で繰り広げられる戦いの歴史。アルグリア大陸を統一するのは、果たして誰なのか? 【アルグリア戦記】の公式ホームページには、初回購入者一千万人のプレイヤーネームが、ゲームの進行度(しんこうど)によってランキングされていた。

毎月、ランキングの順位ごとに、特別な特典がプレイヤーに授与(じゅよ)された。 

ランキング上位のプレイヤーはゲーマー達にとって、(あこが)れであり、まさしく神だった。





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師匠(ししょう)、俺挑戦して来ます! 鬼畜仕様(きちくしよう)と名高い、最高の七段階目の最難度のシナリオを! 聞いてますか、師匠(ししょう)?』



俺は、MMOWG(多人数参加型戦争ゲーム)【矛盾(バストーロ)】で、師事(しじ)したプレイヤーネーム【クマメタル】こと師匠(ししょう)応答(おうとう)を求めた。



師匠(ししょう)はゲームネームと同じくイカれた人だった。【クマメタル】とは、【マザーアース】を破壊した五人組【超極悪人(オーバーヒール)】のリーダーの名前だった。イカれたプレイヤーネームが登録(とうろく)を認められた理由は知る(すべ)もないが、正常(せいじょう)な人物は決して付ける事のない名前だった。 

俺は再度、師匠(ししょう)応答(おうとう)を求めたが、自分の世界に(ひた)っているであろうイカれた変態が応答(おうとう)するとは思えなかった。



『カルマ! 皆殺(みなごろ)しって、最高だな!!! 何も考える必要がない、ただ全てを殺すだけだ! なあ、カルマ?』



イカれた変態は、どうやら俺の言葉を聞いてはいなかったようだ。(たし)かに戦闘中のトランス状態の師匠(ししょう)に、応答(おうとう)を求めた俺が馬鹿(ばか)だった。



MMOWG【矛盾(バスターロ)】に()いて、対戦相手から()(きら)われていた師匠(ししょう)は、(さわ)らぬDQN()(たた)()しの文言(もんごん)()(まま)に、【凶神(オーバーヒール)】と呼ばれていた。



師匠(ししょう)の戦いのルールは、()られたら()(かえ)すと言うシンプルで徹底(てってい)したスタイルだった。



(さわ)らなければ、近付かなければ何事も起こらない。()れを理解した対戦相手は師匠(ししょう)徹底的(てっていてき)に無視した。()ない者として空気として扱ったが、イカれた変態は『毒饅頭()喰らえ(攻撃しろ)!』と対戦中の戦場を暢気(のんき)横断(おうだん)して見せたのだった。

何処(どこ)の世界にも、思慮(しりょ)の浅い新人(ルーキー)()るものだ。 

暢気(のんき)に戦場を闊歩(かっぽ)するたった一人の師匠(ししょう)に、何を(おそ)れる事があるのかと攻撃を加えた。たった一人の(おろ)(もの)が、所属する連盟(ギルド)崩壊(ほうかい)(みちび)いたのだった。



矛盾(バスターロ)】のプレイヤー達は、師匠(ししょう)に対して専門の監視体制(かんしたいせい)を共同で()き、イカれた変態が出現すると警戒注意情報(けいかいちゅういじょうほう)が飛び()った。



師匠(ししょう)、今はどのキャラアバターでプレイしているんです? 俺は今度【カルマ】でプレイしますよ!』



『ふっ、ふはははは~! カルマが【カルマ】をプレイするのか? まあ、楽しんで来い! 鬼畜(きちく)のシナリオって(やつ)をな! ()れと俺は今【ピグリス】でプレイしている。最高だぞ【マンドラゴラ】は、ふっはははは~!』



『へぇ~、モンスタープレイですか? ()()()()()()()師匠(ししょう)なら、人種種族なんか(そもそ)も関係ないですし、【アルグリア戦記】を楽しんでますね!』



『ああ、(たま)らないぜ! ノンプレイヤーキャラアバターも本物(ほんもの)同然(どうぜん)だしな! (ただ)、ゲームのエフェクト処理(しょり)だけが、()の世界が仮想現実の中だって主張(しゅちょう)している。其処(そこ)だけが不満だがな!』



『いやいや、()れがあるから安全にプレイが出来るんですよ? でないと精神がマジで()られてしまいます!』



【アルグリア戦記】では、血は流れない。(ただ)、エフェクト処理(しょり)()されるだけだ。傷口(きずぐち)からエフェクトが()()ちるように表現されており、()れはプレイヤーの精神を(まも)(ため)のゲームシステムだった。



プレイヤーの精神を保護するゲームシステムの中には、感覚調整(かんかくちょうせい)システムがある。



()れはプレイアバターの感覚(かんかく)調節(ちょうせつ)するもので、感覚(かんかく)を低く調整(ちょうせい)すれば痛覚(つうかく)(にぶ)り痛みを感じなくなる。逆に高く調整(ちょうせい)すれば感覚(かんかく)鋭敏(えいびん)になり、少しの痛みも激痛(げきつう)に感じる。(ゆえ)感覚調節(かんかくちょうせい)システムの設定を高くする場合は、全ての責任の所在(しょざい)をプレイヤーであると認め、了承(りょうしょう)した者だけが感覚調整(かんかくちょうせい)で三十パーセント以上に調整(ちょうせい)が可能になるのだった。

(ただ)()れはプレイヤー(みずか)らが、(おのれ)生殺与奪(せいさつよだつ)(けん)を【アルグリア戦記】に譲渡するサインでもあった。ゲーマーの中には、ゲームに命を文字通り賭ける命知らずのプレイヤーも多く存在した。

()の命知らずのゲーマーを、人は【廃人(アウトダイバー)】と呼んだ。



俺の感覚調整(かんかくちょうせい)は百パーセントで、鋭敏(えいびん)()ぎる感覚(かんかく)即死(そくし)レベルの激痛(げきつう)を感じる事も、常人(じょうじん)以上の能力を発揮(はっき)する事も可能だった。

有識者(ゆうしきしゃ)の間では、【アルグリア戦記】はゲーム形態(けいたい)()いて、レベル制なのかスキル制なのかと当初(とうしょ)議論(ぎろん)されたが、結論(けつろん)としてはリアルシミュレーション制とでも言うべき形態(けいたい)だった。

レベル制とは、レベルが上がれば上がるほど強くなるシステムで、レベル差が戦いの勝敗(しょうはい)(けっ)するゲーム形態(けいたい)だ。

スキル制とは、スキルの特異性(とくいせい)熟練度(じゅくれんど)と組み合わせにより、戦いの結果が左右されるゲーム形態(けいたい)だ。

リアルシミュレーション制とは、レベル制の能力値とスキル制の技術の組み合わせの(みょう)を元にしたシステムで、現実で修得(しゅうとく)している技術をレベル・スキルのアシスト無しで、実現可能なゲーム形態(けいたい)だった。

所謂(いわゆる)、リアルチートと()われるプレイヤーが有利なゲーム仕様だった。



レベルの強さとスキルの強さの絶妙(ぜつみょう)なバランス調整(ちょうせい)の上で成り立つ【アルグリア戦記】が、神ゲー(神の如き高評価の面白いゲーム)と()われる由縁(ゆえん)は、ゲーム製作会社の開発職人(クリエーター)達が本気で本物を創り上げる為に、()()()()()()で【アルグリア世界】を創造したからだった。



インダストリア社の新社長も、熱く語っていた。



『プレイヤーである君達に問う! 異世界に転生したくはないか? 人生をやり直したくはないか? 君達の行動次第で【アルグリア大陸】の歴史を(おのれ)(いろ)()(なお)せ! 人生がやり直せないって誰が決めた? 俺が許そう、自由に生きろ! 君達が何色に染まろうと自由だ! ・・・・・・だが、()のゲーム世界がもしかしたら現実世界ではと、疑いを君達が持った時、ゲーム世界は現実世界に変わる。そして君達は気付くだろう【アルグリア世界】が君達のもう一つの現実世界だと! 君達自身でゲーム世界【アルグリア戦記】が、()()の現実世界だと(たし)かめろ! プレイヤー達よ、(おのれ)の全てをアルグリアの歴史に(きざ)め!』 





FHSLG【アルグリア戦記】の世界には四十七の人類(じんるい)国家(こっか)が存在し、その住民(キャラアバター)の一人をプレイして、大陸の統一(とういつ)制覇(せいは)を目指してゲームは展開(てんかい)する。

(ただ)し、アルグリア語を話す人類(じんるい)の国が四十七国家であり、アルグリア語を話せない所謂(いわゆる)、モンスターと()われる魔物にもコミニュニティーが存在した。

プレイヤーの中には、モンスタープレイに()まる者も多く、シナリオの進め方によっては【十の災厄(アンタッチャブル)】と呼ばれる、アルグリア大陸に十個体しか存在しないユニーク個体でプレイする事も可能だった。



『では、師匠(ししょう)! 楽しんで来ます!』



『おう、楽しんで来い! またなカルマ!』





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俺はカルマとの通信(つうしん)を切り、目の前の自分が()した結果を、唯々(ただただ)見つめていた。人類(じんるい)()われるアルグリア語を話す者達が、自分達の正義を振り(かざ)した結果が広がっていた。



死屍累々(ししるいるい)(しかばね)が横たわる戦場において、動くものは自分以外には存在をしない。阿鼻叫喚(あびきょうかん)地獄(じごく)絵図(えず)其処(そこ)顕現(けんげん)していたのだった。



よくやるよ、カルマ。鬼畜仕様(きちくしよう)のマゾシナリオなど、何が楽しくて挑戦(ちょうせん)するのか、俺には全くカルマの気持ちが(わか)らなかったが、アイツはゲーム馬鹿(ばか)だったと()う理由で納得(なっとく)はした。



現実の人生全てをゲームに(ささ)げた廃人(アウトダイバー)の中の廃人(アウトダイバー)、【廃神(オーバーアウト)】と呼ばれるゲーム(のう)の変態がプレイヤーネーム【カルマ】の正体(しょうたい)だった。 



『もう一つの現実世界ねぇ、ふん、(くだ)らない! 肉を()ち、熱く(てつ)(くさ)い血を()びる(よろこ)びが無くて、何が現実だ! 本物の血の(にお)いとは、全く()てねえじゃねえか!』



プレイヤーネーム【クマメタル】は、そう毒突(どくづ)くと虹色(にじいろ)の体を(うごめ)かせながら、プレイアバター【ピグリス】として花弁(かべん)を大きく開き、自分以外の生物を体内に取り込み消化(しょうか)させていった。



アルグリア大陸の四十七人類(じんるい)国家及び数多(あまた)のモンスターコミュニティーを掌中(しょうちゅう)(おさ)めずに、全ての勢力を倒す殲滅(せんめつ)プレイヤーである【クマメタル】にとって、【アルグリア戦記】とは()()()()()息抜(いきぬ)きに(ほか)ならない。

攻撃されなければ、攻撃をしないルールを持つ【クマメタル】は、俺を攻撃しろ、毒饅頭(どくまんじゅう)()らえと、移動不可能(いどうふかのう)(はず)の【マンドラゴラ】で、今日も暢気(のんき)に【アルグリア大陸】を闊歩(かっぽ)していた。





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「マスター! マスター! 起きて下さい!」



大声で俺を呼び続ける声に反応をして、目を覚ました。



「う、うん? どうしたんだ、ミリィ!」



状況判断が出来ないままで、呼び声の主に俺を起こすと言う、暴挙(ぼうきょ)の理由を(たず)ねた。 



栄養摂取(えいようせっしゅ)、運動、シャワーをお願いします!」



ああ、俺が頼んで()いて、どうしたんだもないよな。



俺は現実の世界に舞い戻り、現実の身体に栄養補給(えいようほきゅう)と、適度(てきど)な運動後にシャワーを浴びる為に、(きし)むベッドチェアーから降り立った。【仮想現実装置(ダイブトリッパー)】を右耳から外した俺は、【家庭用自動人形(オートドール)】ミリィに食事内容をいつものように丸投(まるな)げして、重力運動室(トレーニングルーム)のドアを開け日課(にっか)の運動を始めたのだった。



「ミリィ! 明日も同じように、よろしく! じゃ行って来る!」



俺は最低限の身体のメンテナンスと栄養補給(えいようほきゅう)をして、再び【ダイブトリッパー】を右耳に装着(そうちゃく)し、「ダイブ!」と(つぶや)き仮想現実の世界へ意識を()ばした。



「いってらっしゃいませ、マスター!」



【オートドール】であるミリィは、いつも通りマスターを仮想現実世界に送り出し、室内の清掃(せいそう)を始めるのだった。



()容姿(ようし)は、何処(どこ)から見ても黒髪の美少女()のもので、透き通る白肌(しろはだ)(まと)う白と黒のメイド服が、一部の嗜好家(しこうか)には(たま)らない雰囲気(ふんいき)(かも)し出していた。





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『ぽ~ん♪ マスター、ようこそ仮想空間へ! 本日のご用命(ようめい)を、お(うかが)いします!』



仮想現実の世界の入口である【ポータルサイトの案内人】の【ナリア】が、いつもの(ごと)く行き先を(たず)ねる。



『やあ、ナリア! 【アルグリア戦記】で頼む!』



(あお)(ひとみ)(あお)毛玉(けだま)(ごと)(たぬき)が、了解(りょうかい)とばかりに、空中(くうちゅう)可愛(かわい)らしく(うなず)く。



『いってらしゃいませ、マスター!』



『ああ、行って来る!』 





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『【カルマ】さま! ようこそ、【アルグリア戦記】へ! 本日はどのシナリオで、アバタープレイを始められますか?』




純白(じゅんぱく)の空間に浮かぶ執事服に身を包んだ黒猫の姿の、【アルグリア戦記の総合案内人】である【ジョドー】が、慇懃(いんぎん)な動作でカルマを迎えた。



『ああ、ジョドー。今回は【創造神の試練】の【カルマ】でプレイするよ!』



『なるほど、愈々(いよいよ)と言うところですか、【カルマ】さま。【アルグリア戦記】ランキング一位(トップ)のご出陣(しゅつじん)、私ジョドーも胸が高鳴ります!』



全く感情を表に出さないポーカーフェイスの執事に、カルマは内心(ないしん)苦笑(くしょう)をしながらも、ゲームスタートの準備を始める。

従来(じゅうらい)であれば、シナリオを選択し、プレイアバターを選択後にカスタムをするところだが、生憎(あいにく)【創造神の試練】の選択アバターは、シナリオ限定アバター【カルマ】のみで、カルマ以外に選択肢(せんたくし)がない。

()(どころ)か、能力値(筋力・耐久力・知力・敏捷・器用・魅力)が【1】で固定(こてい)(個体レベルが上がっても能力値は一切(いっさい)上がらない)で、スキル(才能)も【0】で固定(こてい)(スキルを一切(いっさい)修得(しゅうとく)出来ない)、おまけにアイテムの持ち込みも不可(ふか)子孫(しそん)での継承(けいしょう)プレイも不可(ふか)(しば)要素(ようそ)(かたまり)が、鬼畜(きちく)仕様(しよう)のシナリオ【創造伸の試練】だった。



『現在まで(だれ)一人(ひとり)として、クリアしたプレイヤーが()ない【創造神の試練】をクリア出来るのは、【カルマ】さまを()いて(ほか)には()られないと愚考(ぐこう)します』



執事の言葉には、(うれ)いがあった。顔には全く表さない感情(かんじょう)が、ノンプレイヤーキャラアバターであるジョドーの(こころ)(うち)にあった。



【アルグリア戦記の総合案内人】であるジョドーとしても、(だれ)攻略(こうりゃく)出来ないシナリオは、プレイヤーからのクレームも膨大(ぼうだい)だった。

AI(人工知能(じんこうちのう))搭載のジョドーがサービスを提供(ていきょう)同時(どうじ)接続(せつぞく)接客(せっきゃく)対応(たいおう)している)するプレイヤーは、一千万人。もう直ぐ第二陣として、加えて一千万のプレイヤーを迎える執事としては、頭が痛いところなのだろう。



『ははは、ジョドーの期待に応えられるように、楽しんでくるよ!』



『ありがとうございます! 【カルマ】さま、準備が整いました! ()()()()!』



『行って来ます!』



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「おぎゃああああああああああああああああああ~!」



「マルナよくやった! 元気な男の子だ! ・・・・・・よし! 【カルマ】と名付けよう!」



「カルマ、うっ、うう・・・・・・生まれてき、てくれて・・・・・・あり、がとう~」



()れが、【創造神の試練】か、始まりは案外(あんがい)(ほか)のアバターと、(あま)り変わりはないようだな。
 


下調べは勿論(もちろん)していない。そんな勿体(もったい)ない事は出来ない。どんな困難(こんなん)が待ち受けているのか、想像(そうぞう)するだけでご(はん)三杯(さんばい)()えるな!



何々(なになに)、現在地はマルカ王国の辺境(へんきょう)のラック村か、両親は父親が【カリトリアス・エルブリタニア】で、母親が【マルゲレーナ・アルバビロニア】・・・・・・え、マジか! マジですか? そうですか・・・・・・

()の【アルグリア大陸】には、四十七の人類(じんるい)国家(こっか)数多(あまた)のモンスターのコミュニティーが存在する。【アルグリア戦記】は()の中から、プレイアバターを選択してゲームを始める。

ゲームクリアとは、全ての勢力(人類(じんるい)国家(こっか)とモンスター)を支配下に置きアルグリア大陸を統一(とういつ)制覇(せいは)する事だった。

人類(じんるい)国家(こっか)大陸(たいりく)統一(とういつ)制覇(せいは)の可能性が、戦力的に高い国家が(いく)つか存在した。()の内の二つの国家(こっか)の名前が、俺の両親の家名(かめい)にある。

【アルバビロニア大帝国】、エルフが統治(とうち)するアルグリア大陸のほぼ中央に位置する軍事(ぐんじ)超大国(ちょうたいこく)だ。

【エルブリタニア帝国】、アルバビロニア大帝国と同じくエルフが統治(とうち)する強国(きょうこく)で、二つの国は隣接(りんせつ)している。

()大国(たいこく)の二つが俺の実家(じっか)と言う事になる。もうヤバい感じしかしない。見るからに粗末(そまつ)な部屋に大国(たいこく)皇子(おうじ)皇女(おうじょ)って、もう()()ちしかないじゃないですか~!

あ、あれ、ちょっと待てよ。()れって最高の家柄(いえがら)じゃないか! 上手くやれば、どっちの国も継承(けいしょう)出来る血統(けっとう)って事だ。



でも今まで(だれ)一人(ひとり)として、プレイヤーはクリアーしていない。()の事実から、プレイアバター【カルマ】に掛けられた、(しば)りの過酷(かこく)さが(うかが)える。
 


()れでは、お待ちかねのステータス確認と行きますか! 俺は脳裏(マインド)に自分のステータス情報を表示した。



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【情報表示】:▼

氏名(NAME):【カルマ】

個体LV:【1】

備考:▼

年齢:【0歳】

種族:【森精霊人(エルフ)普精霊人(ヒューマン)混血(クオーター)

身分:【未設定】

職業:【未設定】

称号:【未設定】

才能(スキル):【0】※封印(ふういん)

説明:▼
運命(うんめい)宿命(しゅくめい)(もう)()

【状態表示】:▼

生命力(HP):【6/6】

魔力(MP) :【8/8】

精神力(MSP):【9/9】

持久力(EP):【3/3】

満腹度(FP):【11/100】

【能力表示】:▼

筋力(STR)  :【1】※封印(ふういん)

耐久力(VIT) :【1】※封印(ふういん)

知力(INT)  :【1】※封印(ふういん)

敏捷(AGI)  :【1】※封印(ふういん)

器用(DEX)  :【1】※封印(ふういん)

魅力(CHA)  :【1】※封印(ふういん)


【部隊編成表示】:▼

統率力(LEA):【未設定】

攻撃力(OFF):【未設定】

防御力(DEF):【未設定】

機動力(MOB):【未設定】

持久力(END):【未設定】/【未設定】

戦法力(TAC):【未設定】/【未設定】

士気力(MOR):【未設定】/【未設定】

詳細:▼

主将:【未設定】

副将:【未設定】

副将:【未設定】

部隊:【未設定】

戦法:【未設定】

特性:【未設定】

説明:【未設定】



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(なん)だ、封印(ふういん)って? (ふう)じているなら、もしかしたら、解けるって事じゃないか、(しば)りが解けるなら楽勝(らくしょう)だけど、其処(そこ)まで(やさ)しくはないな。()れなら、(そもそ)も、ランカーがクリア出来ないのは可笑(おか)しい。



(なん)だかワクワクするな! ()れじゃ、恒例(こうれい)の生命力と魔力と精神力上げと(まい)りますか!



はぁぁぁぁぁぁぁぁ~、ふぉぉぉぉぉぉぉぉ~、丹田(たんでん)から身体中を魔力で循環(じゅんかん)させ、魔力を操作(そうさ)する。従来(じゅうらい)()の二つの動作で、スキル【魔力循環(まりょくじゅんかん)LV1】と【魔力操作(まりょくそうさ)LV1】が獲得(かくとく)出来たが・・・・・・



はてさて、封印状態(ふういんじょうたい)でスキルは修得不可(しゅうとくふか)何処(どこ)まで生命力と魔力を上げれるかが重要(じゅうよう)なポイントとなる。



魔力を(わざ)枯渇(こかつ)させて、生命力を魔力に充当(じゅうとう)し生命力ギリギリを攻めるやり方で、従来(じゅうらい)はスキル【魔力回復(まりょくかいふく)LV1】・【生命力回復(せいめいりょくかいふく)LV1】・【精神耐性(せいしんたいせい)LV1】・【痛覚耐性(つうかくたいせい)Lv1】が獲得(かくとく)出来た。

だが、スキル修得不可(しゅうとくふか)では、只々(ただただ)激痛(げきつう)に苦しむだけかも知れない。まあ、()れでもやるんだけどね。



赤ん坊では、出来て匍匐前進(はいはい)くらいだから、スキル【肉体強化(にくたいきょうか)LV1】が獲得(かくとく)出来ない状態(じょうたい)で、()たして何処(どこ)まで、持久力を(きた)えられるか。スゲぇドキドキする!




おっと、満腹度が危険域(ハザードエリア)に達しそうだ!



「おぎゃああああああああああああああああああ~!」



「よ~し、よしよし~お(なか)()いたの~? 泣かないで~」



ウグウグっ! ・・・・・・(かあ)ちゃん、・・・・・・母乳(ぼにゅう)美味(うま)()ぎる・・・・・・、ゲポっ!



よ~し! やるぞ~! 脳裏情報(マインドインフォメーション)に浮かぶ、魔力の自然回復数値の時間と消費数値のバランスが重要(コツ)だ。

身体の内と外に魔力を流す、従来(じゅうらい)()れで、スキル【肉体強化(にくたいきょうか)LV1】が獲得(かくとく)出来るのだが、封印(ふういん)修得(しゅうとく)不可(ふか)だし、魔力枯渇(まりょくこかつ)()に生命力を魔力に充当(じゅうとう)する行為は、激痛(げきつう)只々(ただただ)(あじ)わう拷問(ごうもん)のような行いだった。 

普通の神経(しんけい)の持ち主なら、絶対にしようとも思わない。おまけに、感覚調整(かんかくちょうせい)システムの推奨(すいしょう)パーセンテージ三十(それ以上は精神に何等(なんら)かのダメージを与える)のところを、百パーセントに設定している。

()れでも嬉々(きき)として、激痛(げきつう)の先の()()()()夢想(むそう)するだけで、(しあわ)せなのがプレイヤーネーム【カルマ】だった。



「なあ、マルナ。カルマから魔力の波動(はどう)を感じないか?」



「ええ、感じるわ~。流石(さすが)、私達の子供ね~」



「だよな! 俺もそう思ってたんだ! はっははは~!」



良かった、(とう)ちゃんも(かあ)ちゃんも天然(てんねん)設定(せってい)で、助かった~! 

神経質(しんけいしつ)な両親の場合、最悪(さいあく)気味(きみ)(わる)がられて捨てられた経験をしているカルマは、ホッと胸を()()ろしたのだった。







(やく)半年(はんとし)ほど()った頃、運命(シナリオ)歯車(はぐるま)が、(つい)に動き出した。カルマは逸早(いちはや)異変(いへん)を感じ取っていた。生後(せいご)十日(とおか)()ぎくらいに、不審な六人一組(シックスマンセル)斥候部隊(せっこうぶたい)がラック村に隠密潜入(ステルス)して()たからだ。



何故(なぜ)、身動き取れない赤ん坊の身でそれが解ったのか、()れはゲームシステムの恩恵(おんけい)だった。脳裏(マインド)に浮かぶ周辺地図(しゅうへんちず)脳裏地図(マインドマップ))で、簡単に味方と敵を識別(しきべつ)出来た。人物情報で、所属している勢力も解る。全て情報表示で数字と文言(もんごん)で確認出来るからだった。



()の【アルグリア世界】の住民からしたら、十分チートな能力だった。鑑定系(かんていけい)のスキルがあれば、もっと詳細(しょうさい)に情報を獲得(かくとく)出来るが、無くても十二分(じゅうにぶん)にありがたい力だった。



カルマとしては、両親に異常(いじょう)を伝えたい(ところ)だったが、伝える(すべ)が無かった。言葉は「あぅあぅあぅ!」くらいしか話せず、筆記(ひっき)で伝えようにも、何故(なぜ)か物が持てない! 流石(さすが)に筋力【1】ポイントでも羽ペンくらい持てる(はず)だが、持てない。地面に書こうにも、外は極寒(ごくかん)氷雪地帯(ひょうせつちたい)だった。



異変(いへん)を知らせる事が出来ずに、(つい)運命(シナリオ)の日を迎えた。
 



「うわぁぁぁ~! 盗賊(とうぞく)だぁ~! 襲撃(しゅうげき)だぁ~!」



「ぎゃあああああ~!」



ラック村は、盗賊(とうぞく)(よそお)った武装集団(ぶそうしゅうだん)襲撃(しゅうげき)を受けたのだった。父親のカルスは、()の声を聞くや(いな)や、母親のマルナと赤ん坊のカルマを逃がすべく行動に移した。

こんな寒村(かんそん)限界集落(げんかいしゅうらく)に、夏期(かき)でも雪が溶けない豪雪地帯(ごうせつちたい)を超えて、盗賊(とうぞく)が来るなど、自分達親子が目当(めあ)てだとしか、カルスには思えなかった。



「マルナ! どうやら囲まれているようだ! 俺が(おとり)になる、お前はカルマを連れて逃げろ!」



カルスとの一瞬(いっしゅん)目配(めくば)せで、マルナはカルマを()き、(うなず)き返す。



「解ったわ! カルス、死んじゃ駄目よ! 直ぐ追い掛けて来てね!」



「ふっ、閃光(せんこう)()われた俺だぜ! 直ぐ追い付くさ!」



「カルマ、お出掛(でか)けしましょう?」



「ははは、とんだお出掛(でか)けだ! 直ぐ追い付く! マルナ、カルマを頼んだぞ! 愛してる!」



「カルス! ・・・・・・」



二人は抱き合い、接吻(せっぷん)()わし屋外(おくがい)慎重(しんちょう)に出たのだった。外は盗賊(とうぞく)(よそお)った集団によって、家は燃やされ、住民は問答無用(もんどうむよう)で殺されていた。



裏山(うらやま)から、ハルベルト山脈に抜ける道に、山小屋がある! 其処(そこ)で落ち合おう!」



そう言い(はな)つとカルスは、剣を(にぎ)()め、住民を(おそ)っている明らかに訓練を受けた集団に()()んで行った。

()の言葉を聞くと同時に、マルナはカルマを()(かか)え、裏山(うらやま)道無(みちな)き道を進むのだった。





(とう)ちゃん、いくら昔は冒険者で鳴らしたと言っても、相手は殺しを専門とする暗殺部隊(あんさつぶたい)百名が相手だ! 勝ち目は無いよ!

情報が全て解るカルマは、冷静に状況を分析(ぶんせき)していた。

あれ、()れってヤバくない?



「はぁ、はぁはぁはぁ!」



(かあ)ちゃんも運動(うんどう)不足(ぶそく)で体力が落ちてるから、追手(おって)を振り切れるかは難しい。

くっ、父ちゃんが()られた!

脳裏地図(マインドマップ)の父親の(しるし)灰色(はいいろ)に変わる。そして、母親と自分の青色の(しろし)に迫る、敵の赤色の(しるし)

()の赤色の(しるし)が、点滅(てんめつ)をし始めたのを確認したカルマは、追手に追いつかれた事を知った!



「はぁ、はぁはぁ。カルマ、貴方(あなた)は私が守る!」



いつもおっとりした母親の決死(けっし)覚悟(かくご)が、カルマの集操感(しょうそうかん)を押し上げる。



ヒュ―――――――! ガッ!



「当たったぞ! 追え逃がすな!」



「「「はっ!」」」



矢を右肩に受けたマルナは、()れでもカルマさえ無事なら問題ないと、雪の道を逃げ進む。



「おい、其処(そこ)までだ!」



マルナは追い詰められていた。道無(みちな)き雪に()もれた山道は、女の身で追手(おって)を振り切る事は出来なかった。 



貴方(あなた)(たち)一体(いったい)何者(なにもの)? 間違っても盗賊(とうぞく)では無いわね?」



「ふっはははは! ()れを知って如何(どう)する? 今頃は【カリトリアス】殿下(でんか)も、()の世とお別れしているだろうよ! 安心して、親子三人で冥府(アンダーワールド)旅立(たびだ)て!」



「おい、(しゃべ)()ぎだ!」



(かま)うものか、どうせ此処(ここ)で死ぬんだからな!」



貴方(あなた)(たち)、私が(だれ)か知らないようね?」



「ああ、知る必要が無いからな! 死ね!」



暗殺者(あんさつしゃ)がマルナに殺到(さっとう)しようとした時、後ろへ後退(あとずさ)ったマルナの足下が(くず)れ、マルナが悲鳴(ひめい)()げながら峡谷(きょうこく)谷底(たにぞこ)へと落ちて行く。

 

「ちっ! 手間(てま)を掛けさせる! 死体は回収(かいしゅう)する命令だぞ!」



仕方(しかた)ない、()りるぞ!」



「お前は、(かしら)報告(ほうこく)に行け!」



「はっ!」



四人の暗殺者(あんさつしゃ)(たち)は、即座(そくざ)に行動に(うつ)った。一人は本隊(ほんたい)に状況を知らせに。残りの三人は母子(ぼし)遺体(いたい)回収(かいしゅう)する為に。
  






くっ、此処(ここ)何処(どこ)だ? あっ、(かあ)ちゃんは?



あっ、(かあ)ちゃん・・・・・・!



母親は子供を守る為に、魔力で自分の身体では無く子供を(つつ)み、子供を優しく(かか)えながら、守るように死んでいたのだった。



「あぅあぅあぅ・・・・・・」



カルマの声は(はは)には、もう届かない。カルマ自身も極寒(ごくかん)谷底(たにぞこ)では、()(まま)では(こご)()ぬしかない。



追手も諦める気配は無い。脳裏地図(マインドマップ)の赤色の(しるし)が、カルマの青色とマルナの灰色(はいいろ)(しるし)を、目指して近付いて来る。



そんな状況でも、カルマは冷静に分析(ぶんせき)を開始する。現在地の確認。追手(おって)到着(とうちゃく)予想(よそう)時刻(じこく)。自分のHP(生命力)。自分の身体の調子。全てを確認したカルマが出した結論(けつろん)は、()()()()に向かう事だった。




運命(シナリオ)には、必ず思惑(おもわく)がある。(げき)なら演出家(えんしゅつか)の。映画(えいが)なら監督(かんとく)の。小説(しょうせつ)なら作者(さくしゃ)の。()の世界(ゲーム)なら神(運営)の思惑(おもわく)が必ず存在(そんざい)する。



無ければゲームが進まないし、面白くないと確信するゲーム脳の変態は、常人(じょうじん)思考回路(しこうかいろ)とは別の思考で、自分独自(じぶんどくじ)の答えを(みちび)()す!



()()()()



カルマは自分の(みちび)()した答えに向かって、匍匐前進(はいはい)を開始する。此処(ここ)からは時間との戦いだった。

(かじか)む身体で、(こご)える手足で、赤ん坊は一心不乱(いっしんふらん)匍匐前進(はいはい)で進む。

脳裏情報(マインドインフォメーション)に浮かんでいるのは、HP(生命力)の残数値(ざんすうち)と、匍匐前進(はいはい)のスピードを上げる(ため)に使用するMP(魔力)数値、スピードを維持するEP(持久力)数値、そして燃料であるFP(満腹度)数値だった。

極寒(ごくかん)()えはHP(生命力)を、極寒(ごくかん)(いた)みはMSP(精神力)を徐々(じょじょ)(けず)っていく。(かじか)む手足が、徐々(じょじょ)機動力(きどうりょく)を落としていく。スピードを上げるMP(魔力)を使用すると、FP(満腹度)の減りが早くなる。スピードの強弱(きょうじゃく)によって、EP(持久力)が下がっていく。 

手足の感覚(かんかく)も、寒さで(すで)に無い。身体を動かしているようで、動いている気がしない。



ヤバい!



<<個体名【カルマ】のHP(生命力)が【0】になりました!>>



あっ!




----------





「お帰りなさいませ、【カルマ】さま。プレイ時間は【百八十一日十八時間二十五分十三秒】でした。プレイ結果によって、獲得(かくとく)した英雄(えいゆう)ポイントは【三百七十七】です! リスタートされますか、それともプレイアバター【カルマ】でのプレイを終了されますか?」



ふー、全く駄目だった。雪の降り積もっている中を、闇雲(やみくも)に進むのは自殺行為(じさつこうい)だ。先ず吹雪(ふぶ)くと(いき)が出来ない。

必ず正解(せいかい)のルートがある(はず)だ。考えてみれば、解る事だ。マルカ王国の辺境(へんきょう)の村、ハルベルト山脈、答えは()()()に必ずある。ふっふふふふ。楽しい、久々(ひさびさ)にワクワクが止まらない。



「・・・・・・リスタートのようですね、【カルマ】さま? 最高(さいこう)難易度(なんいど)のシナリオは、如何(いかが)だったでしょうか?」



「ああ、勿論(もちろん)リスタートで頼むよ【ジョドー】! 最高に興奮(こうふん)したよ! 最高(さいこう)のシナリオだ!」



無表情の執事が間抜(まぬ)けにも、口をアングリと()けた(まま)(しば)(かた)まっていたのは決して錯覚(さっかく)では無かった。 



「・・・・・・ゴホン! 左様(さよう)でご()いましたか、お気に()して頂いたご様子。()のジョドー、感無量(かんむりょう)にご()います! 準備が整いました! ()()()()!」



「ありがとう、ジョドー! 行って来るよ!(へぇ、()()()()以外にも、バリエーションがあったんだ!)」



【カルマ】の身体が、徐々(じょじょ)にエフェクト処理(しょり)され分解(ぶんかい)されて、消えて行く。

【アルグリア戦記の総合案内人】であるジョドーは、プレイヤーネーム【カルマ】を見送った後、現在プレイ中の一千万のプレイヤーの中で、鬼畜(きちく)最高(さいこう)難度(なんど)のシナリオ【創造神の試練】をプレイ後に、クレーム以外の言葉を、()してや賛辞(さんじ)の言葉を、初めて聞いた事に(ようや)く気が付いた。



「くっくくくく。色々(いろいろ)常人離れ(アウト)過ぎて、禁止(きんし)事項(じこう)斜め上を行く(オーバー)流石(さすが)は【廃神(オーバーアウト)】と呼ばれる【カルマ】さまです。()のジョドー、()()()()()()()()()()()()()()()()!」





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「おぎゃああああああああああああああああああ~!」



「マルナよくやった! 元気な男の子だ! ・・・・・・よし! 【カルマ】と名付けよう!」














【アルグリア戦記】には、セーブ機能(きのう)は存在しない。全て最初からのスタートと()る。()()()()()で、セーブなどは出来る(はず)もない。此処(ここ)は【アルグリア世界】、もう一つの現実の世界。現実の一秒が、三千百十万四千秒に相当(そうとう)する仮想の現実世界。現実の一時間が、百二十九万六千日(三千五百五十年と二百五十日)に相当(そうとう)する【悠久(ゆうきゅう)歴史(れきし)(きざ)世界(せかい)】。



()たして、【アルグリア世界】は、仮想の現実世界なのだろうか? ()れとも、実はもう一つの現実世界【異世界(いせかい)】なのだろうか? ()の答えは【プレイヤー】だけが知っている。







To be(続きは) continued(また次回で)! ・・・・・・
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