003.イカれた変態は、毒突き、我が道を進む!

文字数 3,702文字

一月後(ひとつきご)、世界は、人類(じんるい)は、仮想現実の世界を再び構築していた。破壊された【マザーアース】に代わり、補助管理脳(アシスタントマネージメントブレイン)の一つが主導管理脳(メインマネージメントブレイン)【エルダーアース】としてバージョンアップしたのだった。
 
インダストリア社は、本社爆発時に亡くなった前社長に代わり、新たに新社長が就任(しゅうにん)した。

新社長は、FHSLG【アルグリア戦記】のサービス開始を宣言し、挿入歌(そうにゅうか)には【マザーアース】を破壊し、仮想現実世界を崩壊(ほうかい)させたテロリスト達の曲が、圧倒的得票差で選ばれた。

FHSLG【アルグリア戦記】は現実の一秒で、三千百十万四千秒の仮想現実のゲーム世界を楽しめる。ゲーマーと呼ばれるゲーム愛好家(マニア)達は、(こぞ)って【アルグリア戦記】に乗めり込んでいった。



ファンタジーなゲーム世界で繰り広げられる戦いの歴史。アルグリア大陸を統一するのは、果たして誰なのか? 【アルグリア戦記】の公式ホームページには、初回購入者一千万人のプレイヤーネームが、ゲームの進行度(しんこうど)によってランキングされていた。

毎月、ランキングの順位ごとに、特別な特典がプレイヤーに授与(じゅよ)された。 

ランキング上位のプレイヤーはゲーマー達にとって、(あこが)れであり、まさしく神だった。





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師匠(ししょう)、俺挑戦して来ます! 鬼畜仕様(きちくしよう)と名高い、最高の七段階目の最難度のシナリオを! 聞いてますか、師匠(ししょう)?』



俺は、MMOWG(多人数参加型戦争ゲーム)【矛盾(バストーロ)】で、師事(しじ)したプレイヤーネーム【クマメタル】こと師匠(ししょう)応答(おうとう)を求めた。



師匠(ししょう)はゲームネームと同じくイカれた人だった。【クマメタル】とは、【マザーアース】を破壊した五人組【超極悪人(オーバーヒール)】のリーダーの名前だった。イカれたプレイヤーネームが登録(とうろく)を認められた理由は知る(すべ)もないが、正常(せいじょう)な人物は決して付ける事のない名前だった。 

俺は再度、師匠(ししょう)応答(おうとう)を求めたが、自分の世界に(ひた)っているであろうイカれた変態が応答(おうとう)するとは思えなかった。



『カルマ! 皆殺(みなごろ)しって、最高だな!!! 何も考える必要がない、ただ全てを殺すだけだ! なあ、カルマ?』



イカれた変態は、どうやら俺の言葉を聞いてはいなかったようだ。(たし)かに戦闘中のトランス状態の師匠(ししょう)に、応答(おうとう)を求めた俺が馬鹿(ばか)だった。



MMOWG【矛盾(バスターロ)】に()いて、対戦相手から()(きら)われていた師匠(ししょう)は、(さわ)らぬDQN()(たた)()しの文言(もんごん)()(まま)に、【凶神(オーバーヒール)】と呼ばれていた。



師匠(ししょう)の戦いのルールは、()られたら()(かえ)すと言うシンプルで徹底(てってい)したスタイルだった。



(さわ)らなければ、近付かなければ何事も起こらない。()れを理解した対戦相手は師匠(ししょう)徹底的(てっていてき)に無視した。()ない者として空気として扱ったが、イカれた変態は『毒饅頭()喰らえ(攻撃しろ)!』と対戦中の戦場を暢気(のんき)横断(おうだん)して見せたのだった。

何処(どこ)の世界にも、思慮(しりょ)の浅い新人(ルーキー)()るものだ。 

暢気(のんき)に戦場を闊歩(かっぽ)するたった一人の師匠(ししょう)に、何を(おそ)れる事があるのかと攻撃を加えた。たった一人の(おろ)(もの)が、所属する連盟(ギルド)崩壊(ほうかい)(みちび)いたのだった。



矛盾(バスターロ)】のプレイヤー達は、師匠(ししょう)に対して専門の監視体制(かんしたいせい)を共同で()き、イカれた変態が出現すると警戒注意情報(けいかいちゅういじょうほう)が飛び()った。



師匠(ししょう)、今はどのキャラアバターでプレイしているんです? 俺は今度【カルマ】でプレイしますよ!』



『ふっ、ふはははは~! カルマが【カルマ】をプレイするのか? まあ、楽しんで来い! 鬼畜(きちく)のシナリオって(やつ)をな! ()れと俺は今【ピグリス】でプレイしている。最高だぞ【マンドラゴラ】は、ふっはははは~!』



『へぇ~、モンスタープレイですか? ()()()()()()()師匠(ししょう)なら、人種種族なんか(そもそ)も関係ないですし、【アルグリア戦記】を楽しんでますね!』



『ああ、(たま)らないぜ! ノンプレイヤーキャラアバターも本物(ほんもの)同然(どうぜん)だしな! (ただ)、ゲームのエフェクト処理(しょり)だけが、()の世界が仮想現実の中だって主張(しゅちょう)している。其処(そこ)だけが不満だがな!』



『いやいや、()れがあるから安全にプレイが出来るんですよ? でないと精神がマジで()られてしまいます!』



【アルグリア戦記】では、血は流れない。(ただ)、エフェクト処理(しょり)()されるだけだ。傷口(きずぐち)からエフェクトが()()ちるように表現されており、()れはプレイヤーの精神を(まも)(ため)のゲームシステムだった。



プレイヤーの精神を保護するゲームシステムの中には、感覚調整(かんかくちょうせい)システムがある。



()れはプレイアバターの感覚(かんかく)調節(ちょうせつ)するもので、感覚(かんかく)を低く調整(ちょうせい)すれば痛覚(つうかく)(にぶ)り痛みを感じなくなる。逆に高く調整(ちょうせい)すれば感覚(かんかく)鋭敏(えいびん)になり、少しの痛みも激痛(げきつう)に感じる。(ゆえ)感覚調節(かんかくちょうせい)システムの設定を高くする場合は、全ての責任の所在(しょざい)をプレイヤーであると認め、了承(りょうしょう)した者だけが感覚調整(かんかくちょうせい)で三十パーセント以上に調整(ちょうせい)が可能になるのだった。

(ただ)()れはプレイヤー(みずか)らが、(おのれ)生殺与奪(せいさつよだつ)(けん)を【アルグリア戦記】に譲渡するサインでもあった。ゲーマーの中には、ゲームに命を文字通り賭ける命知らずのプレイヤーも多く存在した。

()の命知らずのゲーマーを、人は【廃人(アウトダイバー)】と呼んだ。



俺の感覚調整(かんかくちょうせい)は百パーセントで、鋭敏(えいびん)()ぎる感覚(かんかく)即死(そくし)レベルの激痛(げきつう)を感じる事も、常人(じょうじん)以上の能力を発揮(はっき)する事も可能だった。

有識者(ゆうしきしゃ)の間では、【アルグリア戦記】はゲーム形態(けいたい)()いて、レベル制なのかスキル制なのかと当初(とうしょ)議論(ぎろん)されたが、結論(けつろん)としてはリアルシミュレーション制とでも言うべき形態(けいたい)だった。

レベル制とは、レベルが上がれば上がるほど強くなるシステムで、レベル差が戦いの勝敗(しょうはい)(けっ)するゲーム形態(けいたい)だ。

スキル制とは、スキルの特異性(とくいせい)熟練度(じゅくれんど)と組み合わせにより、戦いの結果が左右されるゲーム形態(けいたい)だ。

リアルシミュレーション制とは、レベル制の能力値とスキル制の技術の組み合わせの(みょう)を元にしたシステムで、現実で修得(しゅうとく)している技術をレベル・スキルのアシスト無しで、実現可能なゲーム形態(けいたい)だった。

所謂(いわゆる)、リアルチートと()われるプレイヤーが有利なゲーム仕様だった。



レベルの強さとスキルの強さの絶妙(ぜつみょう)なバランス調整(ちょうせい)の上で成り立つ【アルグリア戦記】が、神ゲー(神の如き高評価の面白いゲーム)と()われる由縁(ゆえん)は、ゲーム製作会社の開発職人(クリエーター)達が本気で本物を創り上げる為に、()()()()()()で【アルグリア世界】を創造したからだった。



インダストリア社の新社長も、熱く語っていた。



『プレイヤーである君達に問う! 異世界に転生したくはないか? 人生をやり直したくはないか? 君達の行動次第で【アルグリア大陸】の歴史を(おのれ)(いろ)()(なお)せ! 人生がやり直せないって誰が決めた? 俺が許そう、自由に生きろ! 君達が何色に染まろうと自由だ! ・・・・・・だが、()のゲーム世界がもしかしたら現実世界ではと、疑いを君達が持った時、ゲーム世界は現実世界に変わる。そして君達は気付くだろう【アルグリア世界】が君達のもう一つの現実世界だと! 君達自身でゲーム世界【アルグリア戦記】が、()()の現実世界だと(たし)かめろ! プレイヤー達よ、(おのれ)の全てをアルグリアの歴史に(きざ)め!』 





FHSLG【アルグリア戦記】の世界には四十七の人類(じんるい)国家(こっか)が存在し、その住民(キャラアバター)の一人をプレイして、大陸の統一(とういつ)制覇(せいは)を目指してゲームは展開(てんかい)する。

(ただ)し、アルグリア語を話す人類(じんるい)の国が四十七国家であり、アルグリア語を話せない所謂(いわゆる)、モンスターと()われる魔物にもコミニュニティーが存在した。

プレイヤーの中には、モンスタープレイに()まる者も多く、シナリオの進め方によっては【十の災厄(アンタッチャブル)】と呼ばれる、アルグリア大陸に十個体しか存在しないユニーク個体でプレイする事も可能だった。



『では、師匠(ししょう)! 楽しんで来ます!』



『おう、楽しんで来い! またなカルマ!』





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俺はカルマとの通信(つうしん)を切り、目の前の自分が()した結果を、唯々(ただただ)見つめていた。人類(じんるい)()われるアルグリア語を話す者達が、自分達の正義を振り(かざ)した結果が広がっていた。



死屍累々(ししるいるい)(しかばね)が横たわる戦場において、動くものは自分以外には存在をしない。阿鼻叫喚(あびきょうかん)地獄(じごく)絵図(えず)其処(そこ)顕現(けんげん)していたのだった。



よくやるよ、カルマ。鬼畜仕様(きちくしよう)のマゾシナリオなど、何が楽しくて挑戦(ちょうせん)するのか、俺には全くカルマの気持ちが(わか)らなかったが、アイツはゲーム馬鹿(ばか)だったと()う理由で納得(なっとく)はした。



現実の人生全てをゲームに(ささ)げた廃人(アウトダイバー)の中の廃人(アウトダイバー)、【廃神(オーバーアウト)】と呼ばれるゲーム(のう)の変態がプレイヤーネーム【カルマ】の正体(しょうたい)だった。 



『もう一つの現実世界ねぇ、ふん、(くだ)らない! 肉を()ち、熱く(てつ)(くさ)い血を()びる(よろこ)びが無くて、何が現実だ! 本物の血の(にお)いとは、全く()てねえじゃねえか!』



プレイヤーネーム【クマメタル】は、そう毒突(どくづ)くと虹色(にじいろ)の体を(うごめ)かせながら、プレイアバター【ピグリス】として花弁(かべん)を大きく開き、自分以外の生物を体内に取り込み消化(しょうか)させていった。



アルグリア大陸の四十七人類(じんるい)国家及び数多(あまた)のモンスターコミュニティーを掌中(しょうちゅう)(おさ)めずに、全ての勢力を倒す殲滅(せんめつ)プレイヤーである【クマメタル】にとって、【アルグリア戦記】とは()()()()()息抜(いきぬ)きに(ほか)ならない。

攻撃されなければ、攻撃をしないルールを持つ【クマメタル】は、俺を攻撃しろ、毒饅頭(どくまんじゅう)()らえと、移動不可能(いどうふかのう)(はず)の【マンドラゴラ】で、今日も暢気(のんき)に【アルグリア大陸】を闊歩(かっぽ)していた。







To be(続きは) continued(また次回で)! ・・・・・・
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