006.ゲーム脳の変態は、道無き未知を、歓喜して進む!
文字数 2,408文字
母ちゃんと一緒に谷底まで落ちていく。三百十九回目の落下になると、感情は麻痺し、俯瞰で自分を見ている事に気付く。但し、両親の死をゲームだと割り切れるほど、俺は強くないようだ。
此処までは試行錯誤をした結果、自分でも満足がいくルートで推移している。後はあの場所までの、最適解を導き出すだけだった。
母ちゃんに別れを告げた俺は、いつもチクっと胸に痛みを感じていた。
「あぅあぅあぅ!(よし! いくぞ!)」
道無き道だと思っていた雪が積もる谷底を、俺は匍匐前進で颯爽と進み始めた。
「あぅ!(此処までは、間違いない!)」
追手の赤色の印も、母ちゃんの灰色の印に辿り着いた。俺がいないので、周辺を探索しているようだ。
脳裏に浮かぶ周辺地図と、白一色の白銀世界とを擦り合わせながら、慣れた動きで時間を稼ぐ。
後残り二十三分と十四秒で、俺は行動不能になる!
「あぅあぅ!(此処までは、問題はないか!)」
追手が、俺の匍匐前進の痕跡を発見するのに、後三十二秒。
吹雪始めた粉雪が、俺の痕跡を隠している。
俺は今、谷底にある氷道の割れ目の前にいた。
俺は翔べる! そう信じて、思いっきり後ろ足で氷道を蹴飛ばした。
ヒュ――――――――――――!
勿論翔べる筈もなく、割れ目の中に落ちていったのだった。
「おい! 此処で痕跡が消えているぞ!?」
「こりゃ、此の割れ目の中に落ちたんじゃないか?」
追手の三人組は、割れ目を覗き、降りるか断念するか思案中のようで、割れ目地点から暫く動かない。
「あぅ!(成功だ!)」
脳裏に浮かぶ周辺地図の赤色の印が、遠ざかっていく。
三百十九回目で、初めて追手を撒いたのだった。真逆割れ目に飛び込むが正解だとは思わなかった。引っ掛け問題なんか出すんじゃない! ワクワクするだろう! 俺は此のルートを設定した制作者に賛辞を送る! スッゲぇ面白い!
おっと、喜んでいる場合じゃない。残り十九分五十八秒だった。
ズボッと突き刺さった雪のクッションから抜け出した俺は、目的地に向かって進み始めた。
此処は洞窟になっているのか?
鍾乳洞のように、氷柱が天井を埋め尽くしている。俺は奥へ奥へと匍匐前進で進んでいく。そろそろ身体が悴み、スピードが落ちる時間だ。
只、寒風が吹かないのは、ありがたかった。此れで少しでも、寒さで身体が麻痺してくる時間を稼ぎたい。
地味に匍匐前進は、辛い。洞窟の中は、底冷えがして、一段と凍えが進む。
ああ、感覚が無くなって来た。時間は残す処、一分四十八秒。自分の行動限界時間との戦いだった。
フウッと、寒風が吹く。
メキッ!
ズブッ!
天井の氷柱が地面に突き刺さる。其の衝撃で、次々と氷柱が時間差で落ちて来た。
うっひょー、何だ此処に来て、最高のアトラクションじゃないかと、ゲーム脳の変態は歓喜に沸いたのだった。
<<個体名【カルマ】の生命力が【0】になりました!>>
あっ!
----------
「お帰りなさいませ、【カルマ】さま。プレイ時間は【百八十一日十八時間四十九分二十二秒】でした。プレイ結果によって、【三百八十三】英雄ポイントを獲得です! リスタートされますか、それともプレイアバター【カルマ】でのプレイを終了されますか?」
ふー、スッゴく痛かった。氷柱が身体に突き刺さり、五体が爆散するなんてヤバ過ぎる。天井を見上げながら、突き進むには無理がある。行動限界時間まで残り一分四十三秒。一気に匍匐前進で進み抜けないと往けない。正解のルートがある筈だ。ふむ、試行錯誤するしかないな。考えてみれば、解る事だ。ふっふふふふ。楽しい、久々にワクワクが止まらない。あの先には、何があるんだろう。何が待っているんだろう。
「・・・・・・リスタートのようですね、【カルマ】さま。現在【創造神の試練】総プレイ時間が、【五万七千九百八十九日二十三時間三分四十八秒】でご座います。精神に異常数値が、若干出ていますが、如何されますか?」
「ああ、氷柱に刺されて、身体が四散した痛みで、異常数値が出たんだと思うよ? まあ気にする程でもないから、心配させてゴメンね、ジョドー! 楽しかった、最高のシナリオだね! 此れを作った制作者は、天才だ! でも、少し疲れたから一旦【ゲームアウト】するよ! ありがとう、ジョドー!」
「・・・・・・・・・」
無表情の執事は、何も言わずに、黙った儘だった。
あ、あれ? バグかな、ジョドーが固まった?
「ジョドー、大丈夫?」
「・・・・・・失礼致しましたカルマさま。問題ありません。ゲームアウトまで、三! 二! 一! ご利用ありがとうご座いました! またのお越しをお待ちしております!」
「ありがとう、ジョドー! また来るよ!(ジョドーがバグるなんて、初めてだ。やっぱり第二陣一千万人が増えるから、其の調整の所為かな?)」
【カルマ】の身体が、徐々にエフェクト処理され分解されて、消えていく。
【アルグリア戦記の総合案内人】であるジョドーは、プレイヤーネーム【カルマ】を見送った後、嘆息した。
現在プレイ中の一千万のプレイヤーの中で、シナリオ【創造神の試練】を連続総プレイ時間で【五万七千九百八十九日二十三時間三分四十八秒】もプレイするプレイヤーは皆無だった。
プレイヤーの多くは「何だ此の鬼畜無理ゲー(鬼畜過ぎて、クリアは無理だろって言うゲーム)は!」と罵詈雑言を撒き散らして、別のシナリオに変更して二度と【創造神の試練】をプレイしないのがジョドーの日常だった。
「くっくくくく。流石は、カルマさま! 【廃神】と呼ばれる常人の斜め上を、颯爽と駆け抜けるお方だ! 確かカルマさまの感覚調整システムは、驚愕の百パーセント! 通常(現実世界の痛覚は五十パーセント)の痛覚の二倍! 身体を氷柱に刺されて四散したなどと、普通は其の衝撃の激痛で、精神が即死するのですが。此のジョドー、思わずフリーズしてしまいました!」
To be continued! ・・・・・・
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)