第12話:競馬、武久さんの身の上話

文字数 2,034文字

 昼食後、馬券売り場に行き馬券を買い観覧席の見やすい場所に陣取った。やがてレースでは波乱なく展開。13番と4番のトップ争いでゴールした。その結果、1着、1番人気の13番コスモバルクで2着が2番人気の4番ホオキパウェーブで、単勝が130円で馬連は4番13番「順不同可」で410円となった。嵯峨夫妻の儲け9千円、武久さんの儲け15500円だった。この日も本八幡の居酒屋で生ビールで乾杯した。

「かなり飲んで真弓さんが武久さんに奥さんはと唐突に聞いた」
「武久さんが、俺は他人に縛られのが嫌いで結婚できない性分だと告げた」
「でも女が嫌いとかオカマという訳でもな良い女は、大好き」
「時としてムラムラとくることも、まだあると、にやけた顔になった」
「何かの女性とつき合い結婚してくれないのと言って去って行った女も数人いた」

「しかし、俺と同じ様に他人に縛られるのが嫌いな女性も多かった」
「今でも一緒に温泉旅行へ行ったり海外旅行へ出かける女も数人いる」
「それで、満足しているって訳さとあっけらかんと語った」
「こんな俺だが、1つだけルールを設けて女性とつき合っている」
「絶対に子供作らないって事さと言うと急に寂しそうな顔になり目頭を熱くした」

「俺も昔は、普通に恋愛して結婚して2,3人の子供を作る」
「やがて、子供達が結婚して孫ができると言う、普通の人生を予想した」
「証券会社に入り3年目の冬、会社の女性と親しくなりてデートを重ね結婚を約束した」
「そんな女性が現れた。あの頃は、本当に人生バラ色だった」
「その後、結婚しようと考えていた矢先、会社の健康診断で彼女に乳がんがあることが判明」。

「でも彼女は、何も言わず、一身上の都合と言う理由で、俺に別れを言わず、退社した」
「その後、人事部で同期の男に事情を話し、どこにいるのか聞き出した」
「そして、彼女の実家の電話番号を聞き出し、直ぐに電話をした」
「すると、今、福島の大学病院に入院してると言われた」
「翌日、会社を休んで、その病院に行き彼女の病室に見舞いに行った」
「最初、何しに来たのよと言った。そこで、何言ってるんだ気になって仕方ない」
「だから来たんだというと彼女の顔が急に泣き顔に変わりボロボロと泣き出した」
「乳がんで、余命半年、あと3ヶ月なのよと打ち明けた」
「それを聞いた時は、頭を強く殴られたような強烈な衝撃をくらった」

「マジかよと聞くと、こんな事、嘘を言って何になるのとやけになりながら言った」
「少しして興奮が冷めると今度、彼女は、武久さん抱いて今日は、じっと私を抱いてと言った」
「すると彼女は、俺のシャツがびしょびしょになるまで号泣した」
「それを聞いていた俺も涙が止めどもなく流れた」
「しばらくして、彼女が、今日は、わざわざ、本当にありがとう」

「これで、最愛の人との今生の別れができたわとつぶやいた」
「本当に素晴らしい人生の1ページを作ってくれてありがとうと告げた」
「この時、俺は、どうして良いのかわからなくなった」
「すると、部屋をノックする音がして、彼女の両親が入ってきてた」
「そして、あなたが、武久さんですかと聞かれ、えーと答えた」

「うちの娘は、大学を出て、希望通り大手証券会社に就職した」
「会社で仕事をして素晴らしい人と巡り会ったと喜んでいた」
「そんな矢先、会社の検診で乳がんが見つかった」
「まだ若い事もあって悪化のスピードが速く余命3ヶ月と宣告されました」
「武久さん、良かったら、また是非、娘の病室に来て下さいね」

「そして、うちの娘を最後まで見てやって下さいと言うと大粒の涙を流した」
「俺もたまらない気持ちになり涙がこみ上げてきた:
「その後、気を落ち着けて、毎月、1,2回、病室に顔を出すと彼女に告げて病院を出た」
「こうして木枯らしが吹き始め11月になり、12月を迎え仕事を終えた」
「12月28日、彼女の病室を訪ねると既にそこには、いなかった」

「看護婦さんに聞くと病状が悪化して集中治療室に入ったと教えられた」
「しかし、そこの病院では、集中治療室は、面会謝絶になっている」
「仕方なく近くに宿を取り、12月末、亡くなったと知らされ、死に顔を見た」
「彼女の安らかな顔を見ると、何もしてやれなかった自分を悔いた」
「そして5日後、1月2日、早めに葬儀に参列し彼女と永久との別れを惜しんだ」

「それを聞いていた真弓さんは、ハンカチを濡らし話を聞いていた」
「そうですか、そんな事があったのですかと言った」
「嵯峨は、何も言わず、静かに聞いていたが、目を真っ赤にしていた」
「神様って時として惨いことをするとぽつりと告げた」

 その話が、終わると居酒屋の精算を終えてタクシーで家に帰った。やがて秋が足早にやってきた。10月23日、17時56分新潟県中越地方を震源としてマグニチュード6.8と言う最大規模の地震が起きた。震源直上の川口町では最大震度7を観測した。震度7を観測したのは、1995年の阪神・淡路大震災以来9年ぶり、観測史上2回目であった。
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