第10話 西洋の特異点・キリスト教

文字数 1,773文字

 だが、2500年から2000年前の期間で世界の在り方は劇的に変化することになる。東洋では仏教に誕生、西洋ではキリスト教の誕生である。特にキリスト教は独特な発展を遂げてきた。イエス・キリストを主として崇めるこの宗教はイスラエルで生まれた。この宗教はユダヤ教に起源を持つ。
 ユダヤ教は古代時代にアブラハムという人物が神の御声を聴いて成立した宗教である。十戒や出エジプト記などは世界的にも有名な話だ。全知全能の神と契約を結んだアブラハムの子孫達がユダヤ教徒だ。
 ユダヤ教には救世主伝承がある。救世主とはメシアのことである。苦しんでいるユダヤ民族を救うべく神が遣わす全イスラエルの王となる人物が将来現れて解放してくれるという伝承だ。これは創世記にもみられるので、かなり古い時代からメシア思想はあったと思われる。
 ユダヤ民族は途中から王制になる。初代王はサウルだが、有名なのはダビデ王やソロモン王だろう。メシアはダビデ王家の血筋から生まれると伝えられてきた。
 今からおよそ2000年前、ダビデの末裔であるヨセフは後に神の母と呼ばれるマリアと婚約していた。しかし、マリアは処女懐胎していた。マリアを愛していたヨセフはマリアの為に密かに婚約を解消しようとした。しかし、天使の御告げによってマリアの子を神の子だと知らされ、結婚する。
 当時、ローマ帝国の支配下にあって住民登録の為に故郷に戻ろうとした途中にマリアは産気づいた。宿もなく、イエスは粗末な洞窟で生まれた。それを祝ったのは東方の三博士や羊飼い達だった。博士達はバビロン捕囚の時代に伝えられていたメシアが現れる予兆を観測し、羊飼い達は天使の大群のお告げにより神の独り子のところに参ったのだ。イエスを神の独り子と呼ぶのは父なる神ご自身が直接産んだことに由来する。故にイエスは神と等しいとされる。それ以外の被造物はイエスの形を模倣して創られたものである。聖霊は神の息である。この一見三つに見えるものが一つの神として成立しているのが三位一体論である。これは理性で理解するより信仰によって信じる信条に近いものである。
 その後、イエスを暗殺しようと企てたヘロデ王を天使のお告げにより知ったヨセフはマリアを連れてエジプトに逃れる。王が死した後、ナザレに住む様になった。イエスは当時では誰にも理解出来ない隣人愛を説いた。神愛とも呼ばれるこの思想は特異なもので当時の貧困層に大きな支持を得ていた。
 しかし、時の権力者達はイエスを恐れた。そして嫉妬した。そして、イエスを十字架刑にまで追い込むのである。ちなみにこれらの出来事は旧約聖書で預言されていたもので神の御計画の一部であったことが今日の伝承として伝わっている。死したイエスは復活し、天に昇り全能の父の右に座し給えり、弟子達はその後宣教の為に世界各地に旅に出た。
 キリスト教の特色として女性の権利擁護、福祉の発展などがある。それが信徒の獲得に繋がったかは不明だが。303年頃、アルメニア王国がキリスト教を国教化し、続いて350年頃現在のエチオピアに当たるアスクム王国がキリスト教国となる。決定的だったのは西洋の中心であったローマ帝国が380年にキリスト教国となったことであった。
 当初、ローマ帝国内には様々な教派があり、多様な考え方が存在した黄金期でもあった。その後、西方教会と東方教会に別れ、正統信仰を主張するようになる。キリスト教は従来の多神教の文化を吸収する特色もあり、しばしの間上手くいっていた。
 だが、西方教会の代表である旧教会とドナトゥス派の対立から旧教会は次第に穏健主義から護教の為なら戦争も止むを得ない立場になっていった。結果として古代から続く文明の叡智を一時的に破壊することもあった。
 しかし、旧教会の凄まじいところは神への探求、即ち真理の探究の為にあらゆる研究に熱意を注いだ面にもあった。商業、農業の発展により、勢力拡大を図った。結果として文明的にはイスラム教が上でもその知識を吸収し、更に海外領土を増やしていくことになった。
 旧教会の腐敗により誕生した新教会でも真理への探究は熱心に続けられ、フロンティア開拓に繋がった。その背後に先住民族の犠牲があったのも事実だが。
 新大陸の発見と共にキリスト教が世界の中心となった。その出来事が五百年前である。
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