第4話 世界の試み

文字数 1,501文字

 この世は善良な弱者に対して厳しい。コロナの世界もその傾向が顕著だ。中華が世界にのさばっている。誰も中華に逆らえない。国連ですらそうだ。これまでは米国が問題視されていた。中華はそれより酷い。繁栄振りはローマ帝国並みだが、信徒への迫害も劣らずだ。平然と核実験を行っている。核は確かに強大な抑止力になるが、誤って使えば世界を滅ぼすものだという現実を無視してはいまいか。我々はたった70年で戦禍の恐怖を忘れてしまったのか。空想や小説で戦争を描くのは一向に構わない。漫画でもよく題材にされている。
 だが、現実で起こしていけないのが戦禍なのだ。我々が英雄譚に浸れている内は未だ良い。だが、現実は過酷だ。英雄は独裁者を生む。トランプ政権は中華幻想論に終止符を打った。それだけでも歴史に名を遺した大統領として存在するだろう。「自由で開かれたインド太平洋」がどれ程有効だろうか。軍を再編しなければ、米国に未来はない。中華は甘い国ではない。敵は容赦なく踏みつぶす国であるという認識が世界には足りていない。他国を借金漬けにして利子の見返りとして原油を無料で貰う方法などこれまでになかった。あったかも知れないが、これほど世界規模で行う国は中華において他にない。
 だが、皮肉にも中華が倒れれば世界も傾く。そこまでの力を持ってしまったのだ。徹底的な管理社会でコロナすらも制圧しようとするその様はある意味超大国だ。欧米が遺伝治療の研究が遅れているのを良いことに苦しんでいる人々を臨床試験に使っているのは中華なのだ。方法が卑劣などという話ではない。困っている患者に手を差し伸べるのは良いことなのだから。動機が不純なのだ。世界を支配する為の道具としかみなしていないから困るのだ。新しい人種は中華の中で産まれる可能性も高い。それが現行人類にとって吉となるか凶となるかは判らないが。今の時代は幾つかの意味合いで分岐点に差し掛かっているとも言える。人工的な生物の生誕、量子コンピュータの台頭、環境問題への適応。新しい人種はこれらの問題に適応するか解決するかも知れないが現行人類は果たしてどうなるのか。一部の現行人類は支配者層として生き残るだろう。残った人類は劣等種と扱われるかも知れない。機械が人権を手にして経済の主流になる可能性は否定出来ない。自然エネルギーの利用率が高まれば機械に利するのは当然の条件だ。ひょっとすると我々は旧人類として扱われるかも知れない。遺伝的に優れた種族と機械知性体が共存する未来とは果たしていかなるものであろうか。自然分娩によって産まれる生命でなく人工機械で産まれる時代がすぐに来ているのかも知れない。
 近頃、巷では量子暗号が騒がれているが、これも又何らかの方法で破られる未来がそう遠くない時代に来ているのではないか。歴史上理論的に破れないとされた暗号が破られた例は珍しくない。量子コンピュータがあれば、その分だけ攻勢を強められるのだから可能性は無ではない。
消費社会も変化している。我々はこれまで消費すれば経済は循環すると盲目的に信じていた。だが、地球のごみ問題や温暖化は我々の意識を変えつつある。消費するのではなく循環型へと世界はゆったり移行している。かつてはごみや肥料としてしか扱われてなかったものが日常生活品になることも珍しくなくなった。プラスティックはポリタンクやマットに転化され、食品廃棄物は北アフリカに投棄することにより自然環境の再生を試みようとしている。中村医師は死の最期までアフガニスタンで水路の復旧に努めていた。世界には悪しき人々もいるが、善良な人々も又いる。そう思うと僅かに安堵する。
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