第3話 現代の病と自分の過ち

文字数 2,050文字

 現代の我々に根付いているのは何であろうか? 憎悪かも知れない。虚無かも知れない。我々は病んでいる。それも度し難い程に。
 経済と言う歯車を回す為に労働と言う潤滑油を絶え間なく消費している。人間はどうかしている。消費活動そのものが地球に悪影響を与えたとしても何ら知らぬ存ぜぬだ。人間が持ち込んだ外来種が既存の種を脅かし、絶え間ない電力供給が化石燃料を膨大に消費していようとも世界は今日も平然としている。為政者らに賛辞を贈ろう。彼らは国民生活の水準を危惧する大義の下、環境を破壊し続けるであろう。全ては我々を護る為の決断なのだ。為政者ら自身と我々を護る為の大いなる決断なのだ。後代の人々が何を抱えこもうとも知らぬ存ぜぬと突き通す覚悟があるのだ。世界は大いに堕落している。そして、我々も同じく堕落している。未来を保証するものは聖典以外にない。けれども信仰の死滅しかけた自分には未来を語る権利はどこにもなかった。多くの人々の未来が暗い様に自分も又暗き沼に沈んでいた。身体が動かない。心に活気がない。虚無だ。世界を覆う闇に自分も敗残していた。
 「お前の神は何処にいる?」と世の人が問えば「神は我々の心に住み給う」と答える。しかれど、世は反復する。「お前の神は何処にいる?」永遠の神学論争である。
 そして、私自身も疑ってしまうのだ。「私の神は何処にいるのだろうか」、「神は沈黙されておられる」
 疑いは祝福を遠ざけるものである。疑わないで信じる者は幸いである。「知の無知」と言うものだろうか。神が人間に与えた理性では神を解せない様に、唯ひたすらに無知に無邪気に神の懐に飛び込んでいくのが、神を知る術の一つではないだろうか。
 人は無垢な存在を好む。赤子の無垢な姿が人々を捉えて離さない様に。神も又無垢な御方であり、人を惹き付ける。神は純粋を求められる、人の欲望を快く思わない。故に対極なのだ。まあ、精確に言えば、神の対極は敵対者サタンなのであるが。悪、これ即ち単純なまでの狡猾さである。人々にその存在を信じさせず、あたかも空想の生き物の様にしている。しかし、悪魔は我々の中に住み、常に誘惑する。その時、信仰のしっかりしている者は誘惑には乗らない。誘惑に乗るのは欲深い者なのだ。足ることを知れ、と神は言われる。確かにその通りだ。だが、人間はそうは動かない。地上の栄華を見た時、誰もが一度が憧れる筈だ。権力は人を変え、月日は人を変える。権威をもつ者は幸いであり、不幸でもある。だが、貧困に喘ぐ者達はどうなるだろうか。腐敗している権力者を不幸と言うなら貧困者も又不幸とも言える。
 幸せは安息の内にある。それは何だ、と問えば多種多様な答えが返ってくる。教会に行くこと、寺社に行くこと、モスクに行くこと、シナゴークに行くこと、人それぞれだ。幸せは人の数の分だけある。人は不幸にばかり目を落としやすい。だが、不幸には価値はある。辛酸を味わらなければ人の不幸など共感出来ない。そういった意味合いでは最下層にいる人々は共感し易いのだろう。彼らの悲哀に耳を傾ければ、彼らの人生の壮絶さが少しでも解ろうか。そういった意味合いでコロナウィルスは世界を変えた。人類の共通の敵が現れて人を思いやる気持ちが世にかすかではあるが出てきている。勿論、誹謗中傷も多いのも事実だが。もしかしたらコロナウィルスは世界を変えるかも知れない。従来になかった発想を世の中にもたらし、新しい代謝を引き起こすかも知れない。唯、残念なのはそれまでに多くの犠牲が払われることだ。億を超える感染者を出し、死者数も段違いに多い。その中で中華は高笑いし、米国は衰える。貧しき民が死んで行く。哀しむべきことなのだ。誰かを失うのはもうごめんだった。愛犬が死んだ時、自分は祈れなかった。最期になり、苦しむ愛犬の情報を聴いていながら神を信じることが出来なかった。その後、仕事を辞し、祖母の看病に携わる。母と祖母は犬猿の仲だった。本来なら施設に入るべきだったのだが、社会的弱者にその余裕はない。祖母は辛かっただろう。母も疲れた様子だった。弟も家族から距離を置いていた。叔父夫婦は金の計算しかしていなかった。祖母が亡くなった時も自分の貯蓄を崩して祖母を見送った。愛犬がいなくなってから我が家は寂しくなった。どうして自分は母と会いたくないばかりに愛犬の傍にいなかったのだろう? 我が身が可愛かったのだ。だからこそ今の苦しみがあるのか。仕事を辞した後、親友が自死した。理由は解からない。いや、本当は判っているのだ。親友は苦しかった。経済的にも仕事の環境の上でも。そこに加えて自分が祖母の介護の為に仕事を辞すと言い去ったのだ。その孤独はどれ程のものだろうか。きっと親友は絶望したのだ。善良な人だった親友は天国で愛犬と出会っているのだろうか。私は後どれ程の人々を見送らなければならないのか。私の罪はどれほど増すのであろうか。天高く上り詰めても尚貪欲な傲慢が自分を縛り付けるのが容易に視えていた。
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