十七話 『ヘッドハンティング』

文字数 2,028文字

〜グンマーランドが誇る巨大電気街。その一角にある冥土カフェ『冥土りーみん』


生ビールが運ばれて来ると、待ってましたとばかりにタバラが料理を注文しはじめた。


 

それじゃあ、とりあえずレバニラとエビチリと小籠包を一人前ずつ
うけたまわっしゃあぁい! にーはおっ!
中華だったのかよ。薄々それっぽい匂いしてるなとは思ってたけどよ
暑い日は中華居酒屋に限りますね。ビールの次はキンキンに冷やした紹興酒にしましょう
ミスマッチもいいとこだろ。この内装とメイド服と中華料理。こんな店やろうって考えた痴れ者は誰だよ
へいっ! ニラレバおまちっ!
はええよ!
さすが火の芸術とも言われる中華ですね。提供スピードが段違いだ
オプションで『萌え萌えあっちむいてホイ』もできますよ!
萌え萌えあっちむいてほい〜? なんだかキュンとする響き! ぜひやってみましょうよササーキさん!
せっかくアッツアツで来たのに、わざわざ利点を消してどうするんだよ。料理人泣かせだろ
冥土さん、もしゲームで勝ったら、何か良いことあるんですか?
ご主人様が勝てば、私が直々に『ふぅふぅ♡』して『あ〜ん♥』で、食べさせて差し上げますよ!
だから熱々で食べさせろって。中華は火傷しながら食うくらいでちょうどいいんだよ
まぁまぁ、ササーキさん。気持ち程度のふぅふぅですから……
千回ふぅふぅします!

冷める冷めないの問題じゃねぇだろ! 何の儀式だよ! ふぅふぅが終わるのずっと見守ってるのか⁉

ふぅふぅしてる間、ご主人さまには先に料理を食べててもらいます
なおさら儀式の様相を呈するだろ! 食べてる横で延々とふぅふぅされてて、どんな気持ちでいればいいんだっ?
まぁまぁ、落ち着いて。それで、もし私たちが負けたらどうなるんでしょうか?
はいっ、小籠包の中のスープをご主人さまの目に流し込みますっ!
なるほど! 小籠包と言えば熱々スープこそが真骨頂ですものね!
おかしいよね⁉ タバラ、お前の反応はそれでいいのか? スープを目に入れるとか、普通に刑事事件だわ!
じゃあ、そのオプション追加で……
却下! あんたはもう良いから、追加で炒飯持ってきてくれ!
うけたまわっしゃっす! らっしゃい! にーはお!
あぁ、残念。せっかく冥土カフェに来たんだから萌え萌えゲームしたかったなぁ
勝っても負けてもみんな不幸にしかならんだろ……
あっ、でもこの料理どれも美味しいですよ! 味だけで勝負できるレベルだ!
なぜ色々余計なことをしたのか。一層謎だな……
店が繁盛してるわけですね。ゾンビカフェを成功に導くヒントがきっとこの店のどこかにあるはずです
ヒントも何も、いま自力でその答えにたどり着いたろ。余計な事せずに、美味い飯を出せばいいだけだって
しかし、美味いですね。箸が止まりませんよ! 食べても食べても胃袋が料理を欲しがる!
(どっかで聞いたことある台詞だな……)確かにうまい。本場の中国人が作ってるのか……っ⁉
どうしたました、ササーキさん?
タバラ、あれを見てみろ! 厨房のとこっ!
ほらっ、あれだっ! キノコの化け物だ! あいつあんなとこに!
すごくピンクの菌糸類がどうかしたんですか?
記憶喪失かよ……ほら、お前が先生とか呼んで崇め奉ってたろ。あれ、キノコ先生だよ、キノコ・デラックス!
キノコ先生ですか? 何言ってるんです? 全然、違うじゃないですか
一緒だろ! 完全に一致! どう見てもキノコ先生だろ!
どうも料理長の(リー)です。お味はいかがですか?
は、ハァッ⁉
これはどうも、はじめまして。こんなに美味くて本格的な中華料理は久しぶりです。李さんは大陸からいらしたんですか
そうです。祖国を追われた私は、中華鍋と中華包丁だけを抱え、親友と二人ではるばるアキハ……いえ、グンマーランドにやって来ました
(いま秋葉原と言いかけなかったか……?)
どうも。私が李の親友にして、ここの店長である(ミン)です
一緒じゃねえかっ! 顔一緒だろ、ふたりとも! ついでに言うと、キノコ先生とも瓜二つじゃねえか!
キノコ先生?
キノコ先生?
謎がとけました! ここで働く冥土さん、そして李さんと明さん! 全部合わせて冥土りーみんだったんです!
んなこたぁ、どうでもいいわっ! なんだよ⁉ キノコ先生は死んだはずじゃなかったのか? この世界はどうなってるんだ?
こいつらは所詮菌類ですので、菌種が同じならだいたい同じような見た目になるんじゃないでしょうか。ササーキさんだって、しめじの見分けなんてできないでしょ?
そういうことだと思います
そういうことだと思います
なるほど……
へいっ! 炒飯おまちっ!
話は変わりますが。冥土さん、どうです? うちのゾンビカフェで働いてみませんか?
へい、らっしゃい!
よければ私たちも雇ってください。料理の腕なら自信がありますよ
経営や店舗の運営なら任せてください
やりましたね、ササーキさん! キノコ先生の穴が埋まりましたよ
むしろ俺たちがここで働いた方がいい気がするが、君がいいって言うんならいいんだろ
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登場人物紹介

 佐々木隼人(通称ササーキ)


本作の主人公にして、魔王打倒を夢見る異世界転生勇者。もとは栃木に住む無職のおじさんだったが、母親の作った夕飯を食べている最中に謎の死を遂げる。


それからなんやかんやあって魔境グンマーランドに降り立つ。ちなみに容姿はおじさんのまま。


好きな食べ物は卵かけご飯。

決め台詞は、「胃が痛い」。

基本的に優しい性格をしているが、それ故に人と上手く打ち解けられない一面もある。女性と話すのは特に苦手。


いつか元の世界に戻り、故郷のおふくろに孫の顔を見せてやりたいと願っている。

 ネタバラシおじさん(通称タバラ)


どこからともなく現れた謎のおじさん。ことあるごとに物語の核心を突いた鋭い指摘をする。

実は彼自身がササーキの特殊スキルであり、実はササーキにしか見えない亡霊でもあるという初期設定を持つ。(しかしその設定は一瞬にして灰となった)

意外とロマンティックな一面もあり、エッチなことは少し苦手。パンケーキ屋さんの情報だけは詳しい。

グンマーランドにあるショッピングモール、ジャッコスに行くのが趣味。いつの日か表参道でカフェ巡りをしたいと夢見ている。

 決め台詞は、「いったん寝てみましょう」。

ゾンビ


ごく普通の平凡なゾンビ。なんの前触れもなく登場し、しれっとササーキたちの仲間になる。意外と博識。意識は常に高くありたいと思っているため、流行には敏感で、世の中の動向にはアンテナを張り巡らせている。

自身が運営しているブログの事を記事と呼び、日々ネタ探しに奔走する。最近買ったMacbookは一番の愛用品。


尊敬する人物はスティーブ・ジョブズ。

好きな言葉は『コミット』、『スキーム』、『シナジー』など。

謎のゲーム実況者


(ただいま出演交渉中)

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