七話 『闇の遊技 前編』

文字数 1,803文字

ササーキとタバラは闇の遊技場があると噂されるイェオンモールの最下層を目指し、幾多の苦難に挑むのであった。


立ちはだかる強大な魔物、少しでも気を抜けば一瞬にして命を奪う凶悪な罠━━邪悪な生命体の血管を彷彿とさせる入り組んだ迷宮。その地面に散らばる白骨死体たちが道のりの困難さを物語っている。


そう、すべてはおっぱいを揉むためである!

ササーキさん、バインミーって知ってます?
どうせ女どもが好みそうなシャレた食いもんかなんかだろう?
ベトナムのサンドイッチで最近流行りなんですよ。フランスパンに切れ込みを入れてサラダやお肉を入れてスイートチリソースとか東南アジア風のソースをかけるんです
俺が知らないのは、たいてい腹の足しにもならねえ流行りもんだな。しゃれたカフェ風の店なら牛丼出したって、インスタ映えだのなんだの言って女が群がるんだろうよ
それでね、エッグコーヒーってのがありまして。これもベトナムの飲み物なんですけどね。ふんわり泡立てた卵の甘みと苦めに入れたコーヒーの絶妙なハーモニーが……
甘みと苦味ならブラックサンダーとインスタントコーヒーで十分だろ。スタバでなんちゃらフラペチーノの新作だとか原宿のパンケーキが柔らけえとかなんとか、しゃらくせえ
なんなんですか、さっきから呪詛の言葉ばっかり。辛辣すぎですよ。私はササーキさんと食べに行けたらなって思ってるだけなのに
……タバラよ。ふと思ったんだが、仮に脱衣ゲームで相手を打ち負かしたとしても、おっぱいを揉めるとは限らないんじゃないか。むしろおさわり禁止のイメージがあるんだが
すっぽんぽんにした後がササーキさんの腕の見せどころですよ。たくみな話術と駆け引きで最後のゴールを決めてください
それができないから苦悩しているのだという話を前回さんざんしたと思っていたんだが
それなら金を積みましょう。このところ食費も浮いて、貯金もたまってきたことですし。ササーキさんには土下座という必殺技もあるじゃないですか
こうして数多の苦難をかいくぐり、二人はイェオン最下層へと到達した。

しかし、そこに広がるのは地上とはまったく異質の世界だった。

ここがイェオン迷宮の最下層……殺伐とした雰囲気は想像を遥かに上回るな
火を焚いたドラム缶を囲み、非合法の博打に興じる日雇い労働者たち。些細な口論から殴り合いの喧嘩を始める者は後を絶たない。その日の食べ物にも困った路上生活者が餓死する時を、ハイエナたちが今か今かと待ち構えている。
ほんとにあれが闇の賭博場なのか? どう見てもボロいプレハブ小屋にしか見えないが……
殺伐とした広場に一つだけひっそりとたたずむ古めかしい小屋。二人は吸い込まれるように、小屋の中へと足を踏み入れた。

煙草の煙が充満する室内には、ポーカーテーブルやスロットマシン、ルーレット台など、ありとあらゆる博打が繰り広げられていた。

ササーキさん、これが市場を牛耳るイェオンの裏の顔にして真実の姿なんですよ。地上世界は氷山の一角に過ぎません
普通の賭博場とも言えるが、こんなところで本当に脱衣ゲームなんて……っ⁉ まさか、あれか?
薄暗い室内の、さらに奥に進んだ暗い一角に、場違いなほどに美しいブロンドの女がたたずんでいた。謎めいた怪しい雰囲気を身にまとい、口元には意味ありげな微笑をたたえている。
ふふふふ、いらっしゃい。今日はどんな遊びをしにきたの?
………………
(ササーキさん、気絶しているっ⁉ まさか母親以外の女性から話しかけられたからじゃ……)
(タバラ、俺はどうしたらいいんだ……?)
(むっ、脳内に直接⁉ ササーキさん、いつの間にそんな能力を?)
美女と会話するという極限の状況まで追い込まれたササーキはテレパシー能力を開花させたのであった。
(ササーキさん! ここはストレートに行きましょう!)
(………………?)
しかし、この能力は一方通行であった!

他人の心の声は聞き取れない!

おほんっ、えー。ぶしつけではありますが、この人がですね……
ふふふ、ここに来る男の目的はみんな一緒。脱衣ゲームがしたいんでしょ?
それなら話がはやい。さっそくデュエルしましょう
ごくり……
ちなみにネタバレなんですが。この謎の美女は実はCIAのエージェントで、イェオンの実態を探るために潜入捜査をしているところなんですよ
そんなことはどうでもいい。早くおっぱいを揉みたいと思うササーキであった。

次回、『闇の遊技 後半』へ続く。

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登場人物紹介

 佐々木隼人(通称ササーキ)


本作の主人公にして、魔王打倒を夢見る異世界転生勇者。もとは栃木に住む無職のおじさんだったが、母親の作った夕飯を食べている最中に謎の死を遂げる。


それからなんやかんやあって魔境グンマーランドに降り立つ。ちなみに容姿はおじさんのまま。


好きな食べ物は卵かけご飯。

決め台詞は、「胃が痛い」。

基本的に優しい性格をしているが、それ故に人と上手く打ち解けられない一面もある。女性と話すのは特に苦手。


いつか元の世界に戻り、故郷のおふくろに孫の顔を見せてやりたいと願っている。

 ネタバラシおじさん(通称タバラ)


どこからともなく現れた謎のおじさん。ことあるごとに物語の核心を突いた鋭い指摘をする。

実は彼自身がササーキの特殊スキルであり、実はササーキにしか見えない亡霊でもあるという初期設定を持つ。(しかしその設定は一瞬にして灰となった)

意外とロマンティックな一面もあり、エッチなことは少し苦手。パンケーキ屋さんの情報だけは詳しい。

グンマーランドにあるショッピングモール、ジャッコスに行くのが趣味。いつの日か表参道でカフェ巡りをしたいと夢見ている。

 決め台詞は、「いったん寝てみましょう」。

ゾンビ


ごく普通の平凡なゾンビ。なんの前触れもなく登場し、しれっとササーキたちの仲間になる。意外と博識。意識は常に高くありたいと思っているため、流行には敏感で、世の中の動向にはアンテナを張り巡らせている。

自身が運営しているブログの事を記事と呼び、日々ネタ探しに奔走する。最近買ったMacbookは一番の愛用品。


尊敬する人物はスティーブ・ジョブズ。

好きな言葉は『コミット』、『スキーム』、『シナジー』など。

謎のゲーム実況者


(ただいま出演交渉中)

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