九話 『新しいアイスの味』

文字数 1,947文字

しゃり…………しゃり…………
しゃり………しゃり………
なんだか暇だな、タバラ
なんだか暇ですね、ササーキさん
しゃり……しゃり……
はやく仕事を探して働けってママが言ってましたよ
ん? その話の笑いどころはどこなんだ?
別に漫談でも落語でもないですよ、これは。従ってオチもありません。笑えない現実があるだけですよ
はぁ……寂しいな……
すみません、そんなに落ち込むとは思いませんでした
いや、それとは全然関係ないんだ。この夏休みがいつかは終わると考えるとなんだか寂しい気持ちでいっぱいになってな
見事に関係ないですね。もう少しぐらい私の言葉が響いて欲しかったですよ
君のは借り物の言葉だ。誰かが使い古した陳腐な台詞じゃ俺の胸には響かないよ
えぇ……でも、永遠に夏休みだからいいんじゃないですか?(いつの間にか私が叱られている……)
おっと。これはこれは、ササーキさん、タバラさん。どうもこんにちは!
これはこれはゾンビさん、久しぶりですね。ゾンビカフェの調子はどうですか?
へへへ、今は開店に向けてあちこち走り回っているところですよ。内装に照明に、それとやっぱり料理とコーヒー豆にはこだわりたいですしね。やりだすと止まりませんよ、これが
ゾンビのくせに味なんてわかるのか? 鼻とか溶けかけてるぞ
……えぇ、まぁ。とにかく毎日が充実してて楽しいですよ。それだけは確かですね
以前と違って、なんだか生き生きしてますもんね
死んでるぞ
…………
…………
……色々あるだろうが、ゾンビカフェなんて斬新で良いアイデアじゃないか。力になれることがあれば言ってくれ
アイデアを出したのはササーキさんですよ。途中で丸投げしたのもササーキさんです
そうそう、力と言えばですね。これは頼み事ってわけではないんですが、人手が足りなくてですね
ゾンビなんだから、誰かに噛みつけば仲間にできるだろ?
あっはっは。その手がありましたか。さすがササーキさんですね。でもね、ボクはこう思うんですよ。持って生まれた容姿や才能で勝負するのは少し違うなって。あくまでごく普通の人間として挑戦していきたいんですよ。これはボクの人生のテーマでもあるんですが
でもお前ゾンビだろ?
えぇ、まぁ……確かに人間ではないですね……もはや……はぃ…………
ちょっとササーキさん……悪気はないんだと思いますが……
ん? どうした?
では、ボクはこの辺で失礼します……開店したらまた招待しますよ……ははは…………
あっ、去ってしまった……
俺がいつまでも童貞で、友だちがいないのも、こういうところが原因なのかもしれんな
(自覚があったのか……)
ところでガリガリ君の新しい味が食べたくなってきたな
えっ? はいっ?
毎日食べてるせいか、そろそろ新鮮味が欲しいなってな
確かに、ソーダとメロンソーダとチョコミントのヘビーローテですもんね
斬新さとか奇抜さは望んでないんだが、ローテのメンバーにもう少し新顔を加えられたらいいのだが
むぅん。店長に頼むって手もありますが、工場で生産してないものまではさすがに……
かといって工場のある埼玉まで行く余裕もないしな。俺の要望を聞いてくれるとも思えんし
というかここが異世界ってこと忘れてません? そもそもグンマーランドの外なんて行けないでしょう
……そういえばそうだったな

(しかしそうなると、店にある商品はどうやって輸送されてきているのかという話になるが……いや、考えるのはやめよう)

そういえば、ササーキさん。要望って今言ってましたね。何か食べたい味があるんですか?
ふふふ、まぁな。これを聞いても驚くなよ?
わくわくしますね
俺の望みの味はだな。今までありそうでなかったジンジャエール味だ。ローテに組み込むには、甘みをおさえ、さっぱりした酸味要因が欲しいところだ
確かに食べ続けてるとソーダでさえ甘みが強いと感じるときがありますもんね
それとだな……
まだあるんですね
それはずばりエクレア味だよ。この際原価は度外視するが、表面にぱりぱりしたチョココーティングを施し、本体にはチョコとカスタードを混ぜたガリガリアイス。それとここがポイントなのだが、アイスの中心にとろりとした濃厚なカスタードソースを配置するんだ。これが俺が考えに考え抜いたアイデアだ
なんていうか意外と真面目に考えてたんですね
いくら夏場で暑いとはいえ、ソーダ系の爽やかなものを食べ続けていると、たまにはミルクやチョコ系の濃厚な甘さが欲しくなるからな
真面目に考えているだけに、机上の空論感からくる虚しさがすごいですけどね……あっ、でも
どうした? 巨乳のJKでもいたか?
違いますよ。なければ作れば良いんですよ
なるほど、巨乳のJKと付き合いたい
幸いここはイェオンモール。材料や道具ないくらでも揃えられますよ
次回、『アイスを作ってみよう』をお楽しみに
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登場人物紹介

 佐々木隼人(通称ササーキ)


本作の主人公にして、魔王打倒を夢見る異世界転生勇者。もとは栃木に住む無職のおじさんだったが、母親の作った夕飯を食べている最中に謎の死を遂げる。


それからなんやかんやあって魔境グンマーランドに降り立つ。ちなみに容姿はおじさんのまま。


好きな食べ物は卵かけご飯。

決め台詞は、「胃が痛い」。

基本的に優しい性格をしているが、それ故に人と上手く打ち解けられない一面もある。女性と話すのは特に苦手。


いつか元の世界に戻り、故郷のおふくろに孫の顔を見せてやりたいと願っている。

 ネタバラシおじさん(通称タバラ)


どこからともなく現れた謎のおじさん。ことあるごとに物語の核心を突いた鋭い指摘をする。

実は彼自身がササーキの特殊スキルであり、実はササーキにしか見えない亡霊でもあるという初期設定を持つ。(しかしその設定は一瞬にして灰となった)

意外とロマンティックな一面もあり、エッチなことは少し苦手。パンケーキ屋さんの情報だけは詳しい。

グンマーランドにあるショッピングモール、ジャッコスに行くのが趣味。いつの日か表参道でカフェ巡りをしたいと夢見ている。

 決め台詞は、「いったん寝てみましょう」。

ゾンビ


ごく普通の平凡なゾンビ。なんの前触れもなく登場し、しれっとササーキたちの仲間になる。意外と博識。意識は常に高くありたいと思っているため、流行には敏感で、世の中の動向にはアンテナを張り巡らせている。

自身が運営しているブログの事を記事と呼び、日々ネタ探しに奔走する。最近買ったMacbookは一番の愛用品。


尊敬する人物はスティーブ・ジョブズ。

好きな言葉は『コミット』、『スキーム』、『シナジー』など。

謎のゲーム実況者


(ただいま出演交渉中)

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