二話 「地面に埋まった自由の女神像の意味するものは」

文字数 1,396文字

よいちょ、よいちょ……おちごとおちごと
脚立の上で精一杯背伸びをし、棚の中の皿を懸命に取ろうとする幼い方の妹(12歳)を、ササーキは優しい眼差しで見守っていた。
(じいぃぃぃ……)
ササーキさん、エッチなのはいけないと思います。
君、まだいたの? もう少しでパンツ見えそうだから、ちょっと黙ってて
私がいま注意したのはそのことなんですけど
しかしキミ、汗の量がすごいな。もとから汗かきなのか? それとも何か重大な意味が隠されているのだろうか?
…………
(なにか言えよ……)
ササーキが切なる想いをそっと胸にしまいこんだその時━━台所から一人の美しい女性が現れた。麗しきその立ち姿は聖女か、女神かと見紛うほどだ。

そう。聖光気とおぼしき凄まじい輝きのオーラを放つその人は、何を隠そうこの地におけるササーキの母親だった。

(聖光気が分からない人は幽遊白書を読もう。そっちの方が面白いはずだ)

やぁ、母さん。昼飯はまだかな?(今日もエロい雰囲気だな)
ひるめしだとぉっ⁉ なに寝言ほざいてるんだいっ!  働かざる者食うべからずだよ! ふらふらしてる暇あるならハロワでも行ったらどうなんだい⁉
ここを出よう、タバラ。母さんの逆鱗に触れると厄介だ。
もう触れてますよ(タバラって私のことだろうか……)
きぇぇぇっ! ふたりとも、二度とこの家に戻ってくるんじゃないよっ!
真夏の炎天下。庭に出たササーキは、勇者としての特訓をはじめた。

魔王打倒、それこそが勇者の使命である。

勇者に怠けている暇などないのだ。

ふんっ、ふんっ、ふんっ!
ササーキさん、急に何はじめたんです?
見てわからないか? 剣の練習だ。素振りはすべての基礎だからな。ふんっ、ふんっ!
木の枝を振ってるだけでしょ。私には、働けと言われて現実逃避してるようにしか見えませんが
俺は勇者だっ!
とつぜん大声出さないでくださいよ。近所に響きますよ。
俺は勇者だっ!
語気を強めたところで現実は何もくつがえりませんよ。なんなんですか
ふんっ、ふんっ、ふんっ……ふぅ……
話は変わりますが、ジャッコスモールに行きません? ここにいても暑いだけですし
名案だ。そうしよう
かくして、ふたりの壮大な旅がはじまった。目指すはジャッコスショッピングモール、どんな手練の冒険家も背筋を冷やすと言われている魔の商店街である。


むっ、あそこに何かいる。タバラ、道の真ん中にいるあれはなんだ?
わんっ、わんっ!
あれは地獄の番犬ケロベロスですね
意気揚々と旅をはじめた二人の前に、行く手を阻む巨大な魔物の影が!
タバラ、まわり道だ
それがいいですね
公園の裏を通れば逆に早い……って、うわっ⁉
進路を変えたササーキであったが、地面に埋まっていた固い物体に足を取られた。バランスを崩し、転倒してしまう。
くっ、いてて……なんだ? 地面に何か埋まっているぞ……
ササーキは素手で地面を掘り起こした。少しだけ片腕と頭を地上に見せているそれは、何かの像のようであった。
こ、これは自由の女神……タバラ! これを見てくれ!
これは……何ですか? 何を意味しているんです?
(地面に埋まった自由の女神……いったいこれはどういうことなんだ? 像が意味すること……)
(早くアイスが食べたい)
つまり……なんなんだ? さっぱりわからん
ササーキさん、そんなことより先を急ぎましょう
それがいい。行こう。(ジャコスでアイスでも食うか)
(今日はなにもネタバレしなかったな……)
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登場人物紹介

 佐々木隼人(通称ササーキ)


本作の主人公にして、魔王打倒を夢見る異世界転生勇者。もとは栃木に住む無職のおじさんだったが、母親の作った夕飯を食べている最中に謎の死を遂げる。


それからなんやかんやあって魔境グンマーランドに降り立つ。ちなみに容姿はおじさんのまま。


好きな食べ物は卵かけご飯。

決め台詞は、「胃が痛い」。

基本的に優しい性格をしているが、それ故に人と上手く打ち解けられない一面もある。女性と話すのは特に苦手。


いつか元の世界に戻り、故郷のおふくろに孫の顔を見せてやりたいと願っている。

 ネタバラシおじさん(通称タバラ)


どこからともなく現れた謎のおじさん。ことあるごとに物語の核心を突いた鋭い指摘をする。

実は彼自身がササーキの特殊スキルであり、実はササーキにしか見えない亡霊でもあるという初期設定を持つ。(しかしその設定は一瞬にして灰となった)

意外とロマンティックな一面もあり、エッチなことは少し苦手。パンケーキ屋さんの情報だけは詳しい。

グンマーランドにあるショッピングモール、ジャッコスに行くのが趣味。いつの日か表参道でカフェ巡りをしたいと夢見ている。

 決め台詞は、「いったん寝てみましょう」。

ゾンビ


ごく普通の平凡なゾンビ。なんの前触れもなく登場し、しれっとササーキたちの仲間になる。意外と博識。意識は常に高くありたいと思っているため、流行には敏感で、世の中の動向にはアンテナを張り巡らせている。

自身が運営しているブログの事を記事と呼び、日々ネタ探しに奔走する。最近買ったMacbookは一番の愛用品。


尊敬する人物はスティーブ・ジョブズ。

好きな言葉は『コミット』、『スキーム』、『シナジー』など。

謎のゲーム実況者


(ただいま出演交渉中)

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