五話 『恋バナ』

文字数 2,467文字

今日もササーキとタバラは闇市ジャッコス改めイェオンモールにやってきていた。
しゃり……しゃり……
しゃり……しゃり……
ハーゲンダッツも美味いが、やはり行き着くところはガリガリ君だな
ハーゲンダッツは一日一個までって店長に言われてしまいましたからね(あっ、ジョーカーを引いてしまった……)
まぁ、タダで食えるだけヨシとしようじゃないか。(このまま勝ち抜かせてもらうぞ……)
あっ、ササーキさんとタバラさん。こんにちは、今日も来ていたんですね
おう、ゾンビ。まぁ、いつも通り勇者の仕事だよ。夕飯までまだ時間があるし、家に居てもママがうるさいからな
そうなんですね。ところで、ふたりとも何してるんですか?
んっ、これか? ただのババ抜きだよ(しまった、ジョーカー引いてしまった。しかしこのゾンビ、近くで見ると迫力あるな……)
トランプいいですね。安価でいつまでも飽きないゲームの定番と言えばこれですよね
金がないからな。ほんとはナンテンドースイッチが欲しいんだが、ママが買ってくれるわけないし
ところでゾンビさん、なんだか口調が変わりましたね
へへへ、わかりました? あのね、ぼく気づいたんですよ。以前の自分は無理したんだって。背伸びして背伸びして、ゾンビらしく見られようと必死だったんです
どう見ても醜いゾンビだから安心しろ(くそっ、タバラ! そっちじゃない。こっちを取れ)
おっと、やりました。私の勝ちですね
負けた。お前のポーカーフェイスは全然読めないよ
ササーキさんも最初より強くなっていますよ。でも、負けは負けです。罰ゲームは“Truth or Dare”にしましょう
とゅる………………
あっ、すみません。ネイティブのやつがつい出てしまいました。まぁ、日本語で言うなら“真実か挑戦か”ってとこですかね
なんだそのゲームは?
アメリカの若者たちの間では定番になりつつあるゲームですね。罰ゲームを受ける人は質問に真実で答えるか、出された課題に挑戦するかを選ぶんです
究極の選択だな。例えば、挑戦だったらどんなことをやらされるんだ?
選ぶ前に聞くのはなしですよ、ササーキさん
選ぶ前に聞くのはなしですよ、ササーキさん
そうか。野暮なことを聞いてしまったな。じゃあ、“真実”を選ばしてもらおうか
わかりました。では、質問しますね。ササーキさんは好きな人っていますか?
………………
……………………
……………………
そんなにキラキラした目でピュアな質問ができる君の心が本当に羨ましいよ
なんだか修学旅行の夜を思い出しますね
だめでした……?
いや、君はそのままでいてくれ
で、実のところどうなんですか?
まぁ、若かりし頃は恋多き男として浮名を流したものだが……
なにひとつ実らなかった恋というやつですね
いや、うん、まぁ、それはそうなのだがな
過去なんて水に流しましょう。要は気の持ち方しだい。いつだって今がスタート地点なんですから
ゾンビさんが言うと説得力が増しますね
好きな人はいない。もう愛だの恋だの浮かれるような歳でもないしな。もし万が一、今からでも俺を好きになってくれる人が現れでもしたら、その時は全力で応えたいと思うが……
急に話し始めたと思ったら、なんだか凄くリアルな言葉ですね
絶望しているのか、希望を持っているのかよくわからない感じですね
この言われようはなんだ。こっちは誠意を持って真実を告白したのに……
そういえばササーキさん、知ってます? 最近ハリネズミカフェってのが原宿とかで流行っているらしいですよ
残念ながら知らないな……(今の俺の話はまったく掘り下げてくれないのか……)
このところ話題になってるみたいですね。ぼくも美容室の雑誌で目にしただけですが、なんでも世界初らしいですよ。ハリネズミは夜行性なのかどうかで議論もあったりして、そもそもカフェで出すべき生き物なのか? なんて、色々と賛否両論はあるようですが、おさえておいて悪くないキーワードですね
そんなものをありがたがる連中がいるのか。ネズミならそこら中走り回ってるじゃないか
あれは巨大人食いネズミじゃないですか。魔物なんかカフェに出したら大変ですよ
しかし、そんなものに高い金を払うモノ好きもいるもんだな。いや、待てよ……ってことは……
どうしたんです、ササーキさん?
なにか良いアイデアでも思いついたのか、ササーキは突然立ち上がると、スタスタと歩き出した。
店長、ゾンビカフェをやろうと思うんだが!
おやおや、どういう風の吹き回しかな?(こっ、この人、ノックもせずに私のオフィスに⁉)
タダでとは言わん、取り分は八・二でどうだろう。決して悪い話ではないと思うんだが
興味深い話ではあるがな、ササーキくん……(えっ、なんの話? 私は何をすればいいの?)
では我々のビジネスの成功を願って、また会おう
ふっふっふっ、君が敵でなくて本当に良かったよ(えっ? えっ?)
あっ、ササーキさん、おかえりなさい。どうでした?
万事順調だ。あそこの角のスペースを見てくれ。ゾンビカフェの場所を確保した
あっ、ゾンビカフェやるんですか? いいアイデアですね
ターゲットはインスタ映えしか頭にない女子高校生から女子大生だ。少し物珍しいことすれば、ほいほい食いついてくるはず
今にも炎上しそうな発言ですね。下心もミエミエですし
それと店長の許可を貰って、サイゼリ屋からドリンクバー用のマシンを貰えることになった
初期投資ほぼゼロですか。あとは肝心の接客するゾンビをどこから見つけてくるかが課題ですね
パーティー用の被り物を百均ショップで買うってのはどうでしょう?
そうしよう。店長の名前を出せば無料になるから、貰ってきてくれ。内装に使えそうな道具も一緒に頼む
なんだかわくわくしますね。ぼくの知り合いにインテリア方面に造詣のあるゾンビ仲間がいるんですが、ちょっとかけあってみますよ
それじゃあ、みんな動き出してくれ。夕飯の時間には遅れるなよ。(これで俺は何もしなくても金が入ってくる)
こうしてこづかい稼ぎのため、ゾンビカフェを始めることになった三人。ぶじ開店することはできるのか?

次回に乞うご期待!

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 佐々木隼人(通称ササーキ)


本作の主人公にして、魔王打倒を夢見る異世界転生勇者。もとは栃木に住む無職のおじさんだったが、母親の作った夕飯を食べている最中に謎の死を遂げる。


それからなんやかんやあって魔境グンマーランドに降り立つ。ちなみに容姿はおじさんのまま。


好きな食べ物は卵かけご飯。

決め台詞は、「胃が痛い」。

基本的に優しい性格をしているが、それ故に人と上手く打ち解けられない一面もある。女性と話すのは特に苦手。


いつか元の世界に戻り、故郷のおふくろに孫の顔を見せてやりたいと願っている。

 ネタバラシおじさん(通称タバラ)


どこからともなく現れた謎のおじさん。ことあるごとに物語の核心を突いた鋭い指摘をする。

実は彼自身がササーキの特殊スキルであり、実はササーキにしか見えない亡霊でもあるという初期設定を持つ。(しかしその設定は一瞬にして灰となった)

意外とロマンティックな一面もあり、エッチなことは少し苦手。パンケーキ屋さんの情報だけは詳しい。

グンマーランドにあるショッピングモール、ジャッコスに行くのが趣味。いつの日か表参道でカフェ巡りをしたいと夢見ている。

 決め台詞は、「いったん寝てみましょう」。

ゾンビ


ごく普通の平凡なゾンビ。なんの前触れもなく登場し、しれっとササーキたちの仲間になる。意外と博識。意識は常に高くありたいと思っているため、流行には敏感で、世の中の動向にはアンテナを張り巡らせている。

自身が運営しているブログの事を記事と呼び、日々ネタ探しに奔走する。最近買ったMacbookは一番の愛用品。


尊敬する人物はスティーブ・ジョブズ。

好きな言葉は『コミット』、『スキーム』、『シナジー』など。

謎のゲーム実況者


(ただいま出演交渉中)

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色