六話 『哀しみの詩』

文字数 1,666文字

しゃり……しゃり……
しゃり……しゃり……
今日も暑いな
今日も暑いですね
あっ、ササーキさんとタバラさん。こんちゃっす。ゾンビカフェの進捗具合はどうですか?
ゾンビカフェ……?
やだな、ササーキさん。インスタ映えに群がる女子たちをターゲットに小金を稼ごうと目論んだ挙げ句、すぐに面倒くさくなって投げ出した例の計画ですよ
あぁ、そのことか。あれはな、元々ナンテンドースイッチ欲しさに始めようと思ったわけだが
よく考えてみたら、店長の名前を出せばゲーム機のひとつやふたつ手に入れられるって気づいたんですよね
そういうことだ。今回はいい教訓になったよ
完全なる盲点でしたね。というわけで、さっそくゼロダの伝説をプレイしてるってわけです
一回死んだら次は俺の番だからな
ちょっと待ってくださいよ。ドリンクバーとか、せっかくサイゼリ屋から運んできたのに
無限にあるから君も好きに飲んでいいぞ
コーラをジンジャエールで割るのが私のおさすめです。ほどよく甘みがおさえられて、さっぱり飲めますよ
自分で飲んでどうするんですか。それに、ぼくが集めたゾンビ仲間はどうなるんです?
やりたいならやってもいいぞ
そんな勝手な……あっ、いいんですか?
俺は別にアイデア料とか言わないから、思う存分大空に羽ばたいてくれ
翼はありませんが、ぼくなりに頑張って見ようと思います
君はまだ気づいてないだけさ。背中には透明な翼があるってことを。目を閉じて、両手を広げてごらん
…………とりあえず、ありがとうございます
(Jポップの歌詞かな……?)
ゾンビは仲間たちを集め、さっそくゾンビカフェの内装造りに取り掛かりはじめた。
しゃり……しゃり……
しゃり……しゃり……
なぁ、タバラ。真剣な悩みがあるんだが
どうせくだらない悩みだと思いますが、聞きましょう
おっぱいが揉みたい
………………
本当に揉みたい。死ぬまでに一度でいいから揉んでみたいんだ
これほどまでに悲痛な魂の叫びがあったでしょうか。胸がじんじんと痛みますよ
女性の胸の柔らかさは、その人の二の腕の柔らかさに近いのだという。しかし二の腕さえ触れない自分はどうすればいいのだ?
確かに……二の腕を触らしてと頼む勇気があるなら、こんなに苦悩はしませんよね
少なめの水で溶いた片栗粉の感触が近いと聞けば迷わず試してみた。時速六十キロで走る車から手を外に出したときの空気の感触がまさにそれと聞いた時も母さんに頼んで車を出してもらった
もう回想するのはやめましょうよ……
肉まんの触り心地がおっぱいと完全に一致、なんて聞いた日のことは忘れない。母さんが泣くまで土下座を繰り返して、夕飯を巨大肉まんにしてくれと頼み続けたものさ
胸が苦しいですよ。っていうかその情熱があるなら自分で作りましょ?
情熱でなんとかなるなら、とっくに童貞を捨てとるわっ!
急に大声出さないでくださいよ。そこまでできるなら、もうお母さんに頼めば良かったじゃないですか
何回か頼んでみたさ
えぇ…………冗談で言ったのにほんとに頼んでいたとは……さぞ、お母さんも引いておられたでしょう
あぁ……泣きながら揉ませてくれたよ……あの時は俺も泣いた。そして限りなく虚しかった
母にも驚きですが、エピソードが悲惨すぎますよ。救いようがない
ピュアな恋がしたい
いまさら挽回しようとしても手遅れですよ。まぁ、ある意味ピュアな欲望でしたけどね……
タバラ、君は意外と胸があるな……
そういえばササーキさん、あることを思い出したのですが。イェオンモールのドヤ街に怪しげな店がいくつかあるとか
む、ドヤ街というのは日雇い労働者たちが住むイェオン最下層にある区画のことか
なんでも非合法のカジノや賭博場など普通ではあまり見られない店がひっそりやっているそうですよ
カジノに賭博? 思ってた店と少し違うな
お金を払って揉むだけじゃ達成感がないじゃないですか
いよいよ話が見えなくなってきたな
決まってるじゃないですか、脱衣ゲームですよ。麻雀にポーカー、ササーキさんの得意なゲームで勝負しましょ
なるほど、うまくいけばいいが……
次回、イェオン最下層に挑む の巻。お楽しみに。
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登場人物紹介

 佐々木隼人(通称ササーキ)


本作の主人公にして、魔王打倒を夢見る異世界転生勇者。もとは栃木に住む無職のおじさんだったが、母親の作った夕飯を食べている最中に謎の死を遂げる。


それからなんやかんやあって魔境グンマーランドに降り立つ。ちなみに容姿はおじさんのまま。


好きな食べ物は卵かけご飯。

決め台詞は、「胃が痛い」。

基本的に優しい性格をしているが、それ故に人と上手く打ち解けられない一面もある。女性と話すのは特に苦手。


いつか元の世界に戻り、故郷のおふくろに孫の顔を見せてやりたいと願っている。

 ネタバラシおじさん(通称タバラ)


どこからともなく現れた謎のおじさん。ことあるごとに物語の核心を突いた鋭い指摘をする。

実は彼自身がササーキの特殊スキルであり、実はササーキにしか見えない亡霊でもあるという初期設定を持つ。(しかしその設定は一瞬にして灰となった)

意外とロマンティックな一面もあり、エッチなことは少し苦手。パンケーキ屋さんの情報だけは詳しい。

グンマーランドにあるショッピングモール、ジャッコスに行くのが趣味。いつの日か表参道でカフェ巡りをしたいと夢見ている。

 決め台詞は、「いったん寝てみましょう」。

ゾンビ


ごく普通の平凡なゾンビ。なんの前触れもなく登場し、しれっとササーキたちの仲間になる。意外と博識。意識は常に高くありたいと思っているため、流行には敏感で、世の中の動向にはアンテナを張り巡らせている。

自身が運営しているブログの事を記事と呼び、日々ネタ探しに奔走する。最近買ったMacbookは一番の愛用品。


尊敬する人物はスティーブ・ジョブズ。

好きな言葉は『コミット』、『スキーム』、『シナジー』など。

謎のゲーム実況者


(ただいま出演交渉中)

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