十一話 『今回もネタバレなしっ!』

文字数 2,241文字

ある日の夕暮れ時、ササーキとタバラは必死の形相で家路を急いでいた。
ひぃ……ひぃ……もう走れねえよっ!
ササーキさん! 急がないと、夕飯抜きにされてしまいますよ!
飯抜きは死ぬぞ! くそ、イェオンでの修行に根詰めすぎた!
ぐうたらしてただけでしょ! ササーキさん、ラストスパートですよ!
なんとか間に合うかに思われたが、二人が恐る恐る玄関を開けたとき、仁王立ちで待ち構える鬼がそこにいた。
こんな遅くまでどこほっつき回ってたんだい!
ひぇっ
ママさん、非常に申し訳ないです
謝ったって無駄だよ! どうせまたハロワにも行かずに、ふらふらしてたんだろっ!
俺は勇者だから……
あぁっ⁉ なんだいっ? もういっぺん言ってみなっ‼‼
いえ、なんでもないです……
可愛い娘二人が腹をすかせて待ってるってのに、お前らは買い物すらまともにできないのかい!
ママさん、材料ならここに……
材料だけ持ってこられても、こっちは作る手間も時間も必要なんだよ! 罰として、お前らの夕飯は抜きだからねっ
そ、そんなぁ…………
なんだい、文句でもあんのかい!
ママさん、実は今日ササーキさんが面接を受けまして……
(おいっ、タバラなんてこと言うんだ⁉)←テレパシー
へぇ、そいつは朗報だね。で、結果はどうだったんだい? 落ちたってんじゃあ、身も蓋もない話さね
み、見事……採用……されました……
ほう、そいつはめでたいことさ。しかしだね、二人とも! 間違っても、嘘はついちゃあいないだろうね
ぶるぶるぶる……
(やめろタバラ! まだ間に合うから冗談だと言え!)←テレパシー
ふんっ、それで遅れたって言いたいんだね。いいだろう、就職祝いに今日は特別に夕飯を出したげるさ
すたすたと台所に消えていくママ。

残されたタバラはほっと胸をなでおろしたものの、ササーキの顔は依然として青い。

なんて嘘をつくんだ、タバラっ! 取り返しのつかないことになってしまったぞ!
ササーキさん、よく考えてくださいよ。夕飯抜きはさすがに死んでしまいます
だからってあんな嘘つく必要はないだろ⁉ もっと良い言い訳なり、誤魔化し方があったんじゃないのか
そんなのありませんよ。ママさんの蓄積された怒りメーターはもはや限界突破してることぐらい気づいているでしょ
…………
そういうところですよ
そういうところとか言うなよ、頼むから
すみません……。でも、逆にいい機会じゃないですか。これを機に働きましょうよ
働くのに良い機会なんてあるものかっ! 働いたら大切なものを失ってしまうじゃないか!
いったい何を守ってたんですか? そもそもあなたに失うものなんてないでしょう
無慈悲にも程があるだろ!
とりあえず今日を生き抜けるんだから、いいじゃないですか。夕飯を楽しみましょ
ふふふ、さぁお待ちかねの夕飯よ。たんと召し上がれ
……な……なんだこれは……⁉ タバラ、これはなんなのかと訊いているッ⁉
わ、私に訊かないでくださいよ!
これは……食べ物なのか……本当に⁉
グミ……とそうめん……グミそうめん?
だしの香りとフルーティな香りが混ざり合って……これは……
就職祝いだ、よく味わえよ。今回はあえて嘘かどうかは追求しないでやる!
(食えるか、こんなもん!)
せめて別添えなら良かったのに……
どうした? 早く味わいな。せっかく私が作ったご飯が食べられないとでも言うのかい?
ササーキさん、ママさんの右手に包丁が……
わかっている……わかっているから落ち着かせてくれ……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
ササーキが限界まで追い詰められたその時だった!
この感覚……また時が止まったのか……?
━━━━
━━━━
やはり止まっている! このササーキが危うくグミそうめんを食わされて死ぬところだったぜ……
ママには悪いがこのままグミそうめんはゴミ箱に捨てさせていただく……
無事グミそうめんをゴミ箱に葬り、何食わぬ顔で席に戻るササーキ。


そして時は動き出す━━

ふう、美味い飯だったぞ。ママ、ありがとう。ごちそうさん!
ほう、何がごちそうさんだって? 器にはまだ残ってるじゃないか
ははっ、なにいってんだ。俺はちゃんとぺろりと………………なっ⁉ なん……だと……?
ぺろりと、なんだって? よく聞こえなかったねぇ……
(そんなはずはない。俺は確かに時を止めて、グミそうめんを葬り去ったはず……なのに……)
ふふふふ、どうした? 早く食べないとめんが伸びちまうよ!
まさか……動けたというのか、ママッ!
さあな……なんのことだ……?
ならばもう一度……
時よ止まれッ
…………
やはり……気のせいだったのか……? いや、もうどっちでもいい! 器ごと窓の外に捨てさせてもらうぞ!
止まった時の世界でササーキが腕を大きく振りかぶった、その時━━
ササーキさん、意外とこのグミそうめん美味しいっすよ
…………(タバラが俺の止まった時の世界に入門した……)
…………(この汗かき男……できるッ。私の出番がなくなったわ……)
もちゃもちゃもちゃ……ごきゅっ
ねっ?
確かに……食べられないこともない……ただ、量が少ないな……
まぁ、食べられるだけありがたいと思いましょ
━━そして、特にどうと言うわけでもないところで時は動き出す。
ふんっ、これでわかったかい? ちゃんと給料を持ってきたときは娘たちと同じ飯を食わせてやるよ! しかし、就職したというのが嘘だとわかった時は…………
わかったときは…………
お前らに待っているのは死より恐ろしい地獄だッッ!
ヒェッ
わかったらくそして寝ろっ!
とりあえずぶん殴られなくて良かったと思うササーキであった。
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登場人物紹介

 佐々木隼人(通称ササーキ)


本作の主人公にして、魔王打倒を夢見る異世界転生勇者。もとは栃木に住む無職のおじさんだったが、母親の作った夕飯を食べている最中に謎の死を遂げる。


それからなんやかんやあって魔境グンマーランドに降り立つ。ちなみに容姿はおじさんのまま。


好きな食べ物は卵かけご飯。

決め台詞は、「胃が痛い」。

基本的に優しい性格をしているが、それ故に人と上手く打ち解けられない一面もある。女性と話すのは特に苦手。


いつか元の世界に戻り、故郷のおふくろに孫の顔を見せてやりたいと願っている。

 ネタバラシおじさん(通称タバラ)


どこからともなく現れた謎のおじさん。ことあるごとに物語の核心を突いた鋭い指摘をする。

実は彼自身がササーキの特殊スキルであり、実はササーキにしか見えない亡霊でもあるという初期設定を持つ。(しかしその設定は一瞬にして灰となった)

意外とロマンティックな一面もあり、エッチなことは少し苦手。パンケーキ屋さんの情報だけは詳しい。

グンマーランドにあるショッピングモール、ジャッコスに行くのが趣味。いつの日か表参道でカフェ巡りをしたいと夢見ている。

 決め台詞は、「いったん寝てみましょう」。

ゾンビ


ごく普通の平凡なゾンビ。なんの前触れもなく登場し、しれっとササーキたちの仲間になる。意外と博識。意識は常に高くありたいと思っているため、流行には敏感で、世の中の動向にはアンテナを張り巡らせている。

自身が運営しているブログの事を記事と呼び、日々ネタ探しに奔走する。最近買ったMacbookは一番の愛用品。


尊敬する人物はスティーブ・ジョブズ。

好きな言葉は『コミット』、『スキーム』、『シナジー』など。

謎のゲーム実況者


(ただいま出演交渉中)

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