四話 『さらに隠されていたジャッコスの真相』

文字数 2,858文字

あ゛あ゛あ゛〜
しゃり……しゃり……
ぱく……ぱく……
今日もササーキとタバラは闇市ジャッコスモールへと足を運んでいた。

施設の中央にある円形のソファーに座り、アイスを食べながら束の間の休息を楽しむ二人である。


ササーキさん、いくら暑いからってお腹を丸出しにするのはやめましょう。はしたないですよ
なぁ、タバラよ。おかしいとは思わないか?
えっ、なにがです?
俺がこうしてガリガリ君を食べているのに、なぜ君はのうのうとハーゲンダッツを食べているんだ?
あ゛ぁ゛……ニンゲン……食イタイ……
ササーキさんがガリガリ君がいいとおっしゃってたので買ってきました。何かおかしいことでもありますか?
俺とて、仮に選べるならハーゲンダッツを食いたいところだったさ
あっ、ササーキさんもハーゲンダッツが良かったんですね。買ってきましょうか?
話をよく聞け、タバラよ。それと、そこのゾンビ。俺が話している時に、視界にちらちら入ってくるな
あ゛あ゛〜
我々のあいだに座るのか? まぁいい、ふたりともよく聞け
コレハ……説教デスカ……?
もしもの話だ。お前が腹をすかせた学生だったとしよう。ある日の放課後、お前は友人から夕飯を誘われた。なに食いたい? って一応希望を訊かれたとする。そんな時、お前は食いたいものとしてすきやばし次郎って名前を出すのが適切だと思うか?
仮定の話が多すぎて、ぜんぜん頭に入ってこなかったです
タトエ話トシテ……アマリ……ウマクナイ……
そういう率直な意見は傷つくからやめてくれないかな。たとえがうまいとかうまくないって話ではないんだよ
すきやばし次郎ってのがよくわからないですが、それは何かちょっとしたギャグのつもりで挟んだんですか? シンプルにただの高級レストランでは駄目だったんですか?
ちょっとしたギャグとか言わなくていいから。余計に恥ずかしくなるから。ってか、俺の言いたいことちゃんと汲み取ってるよね?
ぜんぜんわかりません
嘘だろ? まぁ、いい。俺が本当に言いたいことはだな。人には身分相応の選択肢があるということだ
身ノ丈ニ合ッタ……生活……ダイジ……
あっ、謎のたとえよりそっちの方が分かりやすいですね
……………………
タバラよ、俺たちはママにお使いを頼まれている。そのことは忘れてないよな?
はい、そのために二千円ほどお金をあずかりました
残金はいくらだ?
えぇと、だいたい五百円ってところですね
ハーゲンダッツ三つも買ってんじゃねぇよ!
ひとつだけ買えとは言われてませんからね
俺が一個なら君も一個だろ、常識的に考えて。というか、三つ全部食べてしまったというのか?
だって、一口欲しいとか言わなかったじゃないですか。ササーキさん、女子高校生を見てばっかりで……
えっ、三つもあるのに願っても一口しかくれないつもりだったの? そっちの方が凄くショックだよ。なんていうか君は本当に、なんていうか……
人デナシ……
そう、それだよ! 人でなしだよ、君は
ちょっと、待ってくださいよ。それって私だけの責任ですか?
なに、どういう意味だ?
ジャッコスに来る途中でアツイアツイって言ってジュース何本も買ったのは誰です?
それは仕方ないだろ? 脱水症状になったら困ってしまうじゃないか
イタミワケ……
その通りですよ。私はその分のお金をアイスに使ったんです。私だってアイス食べないと脱水症状になってしまいますからね。ここは痛み分けということで、どっちが悪いとかやめましょ?
いやいや、やめましょって言うのは俺の役割だから。それに濃厚クリーミィなハーゲンダッツで水分補給なんてできないからね。ガリガリ君ならまだしも
争ッテイル場合ジャナイ……夕飯ナントカシナイト……
わっ、ちょっ、えっ⁉ なにこの人⁉
おつり……忘れてますよ……
わっ⁉ なんだ、店員さんか(意外とおっぱい大きいな)
はい……十三円……次は気をつけて……それじゃあ……ふふっ
へっ、へい、どうも。気をつけます(かなりおっぱい大きかったな)
貴重ナ金……タバラ……キヲツケテ……
おっぱい
やや手持ちは増えましたが、食材を買うには少し足りませんね
弱った……。何も買えないわけではないが、このままではママの質問攻めにあうのは必至だ
あれは恐ろしいですね。心をえぐりとるような圧迫感の波状攻撃、納得のいく答えが出させるまで解放してもらえないですよ
途方に暮れる三人の元に、ただならぬオーラを漂わせながら何者かが近づいてくる。

そう、彼こそは闇のカリスマッ! ジャッコスの店長である!!

ふふふ、何かお困りのようだね。よろしければ私が助けになろうじゃないか
金に困っている。二千円ほどあれば嬉しい
屈服ガ早イ……
お、お前は‼ 人身売買組織の元締めにして、海外の麻薬カルテルと繋がっていて、そのカルテルのボスと懇意にしている、とある富豪の商売仲間の友人の嫁の知り合いの彼氏が高位の魔物で、その上司が魔王、つまりササーキさんの父親であるところのジャッコスの店長⁉ 要するに、魔王と深い繋がりがあるんですよっ!
(ここぞとばかりにネタバレしたな……)
魔王? ふっ、なんのことかわからないな。それはそうと私は金が有り余っている上に困っている人を見逃せない性格でね
自慢ではないがおおいに困っている
ふふふ、そうだろう。それでは、どうだい? 二千円と言わず、二万円ほど君にあげるというのは。もちろん無償でだ。私は決して見返りを求めない人間なんだよ
ソレガコノ男ノヤリ方……人ノ弱ミに漬ケ込ム……ダメダ、ササーキ……受ケトルナ……
ちなみにこのゾンビ、元は人間なんですけどジャッコス店長に騙されてこんな醜い姿にされたんですよ(今の私、イキイキしている)
ふざけやがって! 俺が……この俺が……金なんかいるかっ!
なっ⁉ (えっ、急にどうしたの⁉ さっきと言ってること違うじゃん)
俺をなめるのもいい加減にしろ! そんな大量のおつりなんて持って帰ったらママに取られておしまいだろうが!
んんっ⁉
二万円分、スーパーの食材をくれ!
えぇっ⁉ あ……あぁ……いいだろう。二万円分なりなんなり、いくらでも持って帰るといい
ばかやろうっ! そんなに持って帰ったら手が痛くなるだろうがっ!
むぅ……(な、なにいってるの?)
今日の分は今日の分! 明日は明日の分ってことに決まってるだろ! もちろんアイスの値段は別だからな!
…………ふふふふふ。そうくるか。なるほど、面白い。君のような人間は初めてだよ。(えぇ、なにこの人? 凄くずうずうしいんだけど。別ってどういうこと?)
俺もあんたみたいに良い人は初めてだよ!
くっくっくっくっ……(えぇ? 怒られてるの? 認められてるの?)
ササーキさん、私勘違いしてたんですけど、ここジャッコスじゃなくてイェオンモールでした。少し前に名前が変わったんです
タバラが指差すその先には、確かにイェオンと書かれた看板があった。
なんでもいいから、早く食材買って帰ろうぜ
賛成……ヤキニク食ベタイ……
私は味噌ダレ派なんですよね。千切りキャベツにバウンドさせて食べるのが好きなんです
いらっしゃいませ〜
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登場人物紹介

 佐々木隼人(通称ササーキ)


本作の主人公にして、魔王打倒を夢見る異世界転生勇者。もとは栃木に住む無職のおじさんだったが、母親の作った夕飯を食べている最中に謎の死を遂げる。


それからなんやかんやあって魔境グンマーランドに降り立つ。ちなみに容姿はおじさんのまま。


好きな食べ物は卵かけご飯。

決め台詞は、「胃が痛い」。

基本的に優しい性格をしているが、それ故に人と上手く打ち解けられない一面もある。女性と話すのは特に苦手。


いつか元の世界に戻り、故郷のおふくろに孫の顔を見せてやりたいと願っている。

 ネタバラシおじさん(通称タバラ)


どこからともなく現れた謎のおじさん。ことあるごとに物語の核心を突いた鋭い指摘をする。

実は彼自身がササーキの特殊スキルであり、実はササーキにしか見えない亡霊でもあるという初期設定を持つ。(しかしその設定は一瞬にして灰となった)

意外とロマンティックな一面もあり、エッチなことは少し苦手。パンケーキ屋さんの情報だけは詳しい。

グンマーランドにあるショッピングモール、ジャッコスに行くのが趣味。いつの日か表参道でカフェ巡りをしたいと夢見ている。

 決め台詞は、「いったん寝てみましょう」。

ゾンビ


ごく普通の平凡なゾンビ。なんの前触れもなく登場し、しれっとササーキたちの仲間になる。意外と博識。意識は常に高くありたいと思っているため、流行には敏感で、世の中の動向にはアンテナを張り巡らせている。

自身が運営しているブログの事を記事と呼び、日々ネタ探しに奔走する。最近買ったMacbookは一番の愛用品。


尊敬する人物はスティーブ・ジョブズ。

好きな言葉は『コミット』、『スキーム』、『シナジー』など。

謎のゲーム実況者


(ただいま出演交渉中)

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