9. 会議 

文字数 4,600文字



(ぼく)(いや)だよ。ママとはぐれたら、どうするの ? お(ねが)い、小富士仙人(こふじせんにん)に、もう一回(いっかい)頑丈(がんじょう)結界(けっかい)()ってもらって !」

(にじ)(たに)一番年下(いちばんとしした)の「ケト」が、必死(ひっし)(うった)えるので、会議(かいぎ)()はざわついていた。

ケトは、スーワの息子(むすこ)で、ママは、(おな)異界(いかい)(とお)(くに)にいる。この国だけが人間(にんげん)と同じ階層(かいそう)になったら、ママの国はどうなるの ? たしかにケトの不安(ふあん)は、(ほか)河童(かっぱ)たちの(むね)をキュンとさせた。スーワは、なだめるのに大慌(おおあわ)てだ。

大丈夫(だいじょうぶ)、この(たに)と同じ階層(かいそう)にある国なんだから、ママの国もいずれ、人間界(にんげんかい)一緒(いっしょ)になるんだよ。」

「ホント ? 絶対(ぜったい)ホントだね ?」

うなづくスーワを()て、大人(おとな)の河童たちは、ほっとした(こえ)()らした。だが、ケトにはまだ納得(なっとく)いかないことがある。

「だって、さくらちゃんが、人間(にんげん)たちは(こわ)かったって言ってたよ。(ぼく)友達(ともだち)をとって()べられちゃうかも()れないんだ。」

スーワはピンときた。先日(せんじつ)結界(けっかい)()(なお)(さわ)ぎの様子(ようす)が、さくらから(つた)わっているらしい。

あの(とき)道祖神(どうそじん)石碑(せきひ)から()てきた怪物(かいぶつ)は、「サルタン」と()ばれて、もうこの(にじ)(たに)にすっかり馴染(なじ)んでいる。人間界(にんげんかい)修行(しゅぎょう)して、(この)んで異界暮(いかいぐ)らしをしてたと()い、人間時代(にんげんじだい)(とお)()が「サルタン」だったんだそうだ。あの一件以来(いっけんいらい)、さくらにずいぶんと()に入られて、用心棒(ようじんぼう)()ねた(あそ)相手(あいて)として()(まわ)されていた。どうもケトは、さくらに(あそ)んでもらえなくなってすねているらしい。

(ほか)河童(かっぱ)たちは、いつもサルタンとさくらの様子(ようす)を、(こわ)目付(めつ)きで見張(みは)っているケトに気付(きづ)いていて、(すく)なからず心配(しんぱい)していた。

「あっはっは、ケト(くん)(おも)()めちゃったねえ。大丈夫(だいじょうぶ)だ、サルタンはまー、独特(どくとく)のお(かお)だけど、さくらちゃんをとって()ったりはしないよ。スーワ、サルタンを正式(せいしき)にみんなに紹介(しょうかい)してあげたらどうだい ?」

「ああ、そうだね。みなさんこちらが、小富士仙人(こふじせんにん)やトト神仙人(かみせんにん)依頼(いらい)で、もう何百年(なんびゃくねん)も、(にじ)(たに)結界(けっかい)(まも)ってくれていたサルタンです。サルタン、自己紹介(じこしょうかい)と、道祖神(どうそじん)石碑(せきひ)からあなたが()てきた理由(わけ)を、(くわ)しく()かせて下さい。」

(いの)(いわ)に上がったサルタンは、ケトに(ゆび)とウインクで相図(あいず)(おく)ると、今度(こんど)(すべ)ての河童(かっぱ)()かって両腕(りょううで)をあげ、その(あか)(がお)満面(まんめん)()みにして、茶目(チャメ)()たっぷりのお辞儀(じぎ)をした。

「あー、サルタンと(もう)す。ワシはむかし、大陸(たいりく)から()たもんで、まーこの(かお)じゃ。カッパさんに()かって()うのも(なん)だけど・・・特別(とくべつ)なこの(かお)目立(めだ)ちすぎて(こま)っては、おる。ハッハッハッ。河童(かっぱ)()らう趣味(しゅみ)はないんで安心(あんしん)してくれ。あー、今日(きょう)()()は、愉快(ゆかい)じゃのう、いやめでたい。」

()ればケトはまだ自分(じぶん)(にら)んでいる。サルタンは仕方(しかた)なく大昔(おおむかし)自分(じぶん)のことまで(はな)(はじ)めた。

「ワシはな、大陸(たいりく)道案内(みちあんない)して、旅人(たびびと)(おく)(とど)ける仕事(しごと)で、この(くに)()てのー。ほら、ラクダの(たい)()んで(すす)む、キャラバンてやつじゃよ。まー、国の使節(しせつ)商人(しょうにん)用心棒(ようじんぼう)ってとこだな。ワシの国じゃ、王族(おうぞく)がその隊長(たいちょう)(つと)めることも(おお)かったんでね、族長(ぞくちょう)って意味(いみ)で『サルタン』て言うんだ。ワシが王族(おうぞく)ってわけじゃあ()いが、大昔(おおむかし)のことだからね、キャラバンでやって()た『外人(がいじん)』は、この(くに)じゃ、みんなサルタンさ。ワッハッハッ。」

そうか、道案内(みちあんない)をするから「道祖神(どうそじん)」てことなんだあ。(ほか)河童(かっぱ)たちもウンウンとうなづきながら、(はじ)めて()(はなし)興味津々(きょうみしんしん)で、(からだ)()()してきた。

「ほーっ。それがなんでこんな山奥(やまおく)に ?」

山奥(やまおく)って言っても、(むかし)商人(しょうにん)(かわ)(ふね)(のぼ)って()るからね。ここはバカでかい『利根川(とねがわ)』の源流(げんりゅう)だ。銚子(ちょうし)から入っても、東京湾(とうきょうわん)から(はい)っても、ここに辿(たど)()くのさ。川沿(かわぞ)いには、(まち)ができてな、水田(すいでん)(まち)をつくるために()(いし)(つか)(つく)って目印(めじるし)にしてたんだよ。だから、(おお)きな(まち)には大きな(つか)がある。でえーっかい開拓(かいたく)をして、でぇーっかい(つか)自分(じぶん)(はか)(つく)ってもらうのが、族長(ぞくちょう)名誉(めいよ)って時代(じだい)だったんだよ。ここら(あた)りは、木材(もくざい)鉱物(こうぶつ)産地(さんち)だからね、でかい(つか)()いけど、(ふね)(うえ)から、()(しろ)(かがや)山並(やまな)みが()えた(とき)には、おーっ、(かみ)(やま)だと思ったもんだよ。」

「そうでしょう、そうでしょう、それで ?」

「ああ、トト神仙人(かみせんにん)矢瀬向(やぜむ)こうの山々(やまやま)仕切(しき)っていたんで、ワシらは、トト神山(かみやま)裏山(うらやま)()()いたのさ。この(あた)りで()れた(きん)(ぎん)や、()毛皮(けがわ)を、朝廷(ちょうてい)幕府(ばくふ)時代(じだい)になっても、商人(しょうにん)たちに()ってたんだよ。トト神山(かみやま)金山(きんざん)だったのさ。」
 
「へーっ、トト神山(かみやま)って金山(きんざん)だったの ? ()れたのは水晶(すいしょう)だけじゃないのね。」

河童(かっぱ)たちは、(まつ)りの余興(よきょう)()るように、(とお)大陸(たいりく)(みち)をよく()っていると()隊長(たいちょう)「サルタン」の(はなし)()まれていった。この異界(いかい)には、商売(しょうばい)ってのがないのだ。(くわ)えて「(もの)()べる」と()習慣(しゅうかん)もないし、金銀(きんぎん)(かざ)習慣(しゅうかん)もない。ほとんどの河童(かっぱ)(はじ)めて()く「人間界情報(にんげんかいじょうほう)」だった。ただし、サルタンが人間(にんげん)だった(ころ)の、大昔(おおむかし)人間界(にんげんかい)(はなし)ではある・・・・。

「ところがな、ひっどい時代(じだい)()たんだよ。この(あた)りは()(くに)だったのさ。わしらが(つく)ったんだよ、()(くに)を。」

道案内(みちあんない)()うからには、サルタンたちは(ひと)(はこ)んだのだ。王族(おうぞく)国際結婚(こくさいけっこん)だって、キャラバンあってこそ。サルタンには、たくさんの入植者(にゅうしょくしゃ)技術者(ぎじゅつしゃ)案内(あんない)して、この(くに)一緒(いっしょ)(つく)ってきたと()自負(じふ)がある。

「ワシたちは目立(めだ)つからな、あっという()有名人(ゆうめいじん)さ。()りない人材(じんざい)をあっちへ紹介(しょうかい)、こっちに紹介(しょうかい)して、気心知(きごころし)れたものたちと協力(きょうりょく)して、(ゆた)かな(くに)になってったのさ。それがなー、(ゆた)かになると(ねら)われるんだなー、これが。見知(みし)らぬ(やつ)らが()て『ここは(おれ)領地(りょうち)だ』とか言って、ワシらをいいように使(つか)うんだ。(こめ)綿(めん)(あさ)もよこさないで、(きん)(ぎん)()()っていく。それも一度(いちど)二度(にど)じゃないからな。そりゃ、トト神仙人(かみせんにん)(おこ)るわなあー。挙句(あげく)に、トト神仙人の(ちから)見抜(みぬ)ける(やつ)らが()て『敵対(てきたい)する国の跡取(あとと)りを(のろ)(ころ)してくれ』とか言ったもんで、仙人界全体(せんにんかいぜんたい)逆鱗(げきりん)()れたのさ。グワーーーンッて、大地(だいち)までが()れたよ、あん(とき)は。」

仙人席(せんにんせき)にいるたいらっぴょんがピクンとした。あの(とき)出来事(できごと)(おぼ)えている。あの(とき)今日(きょう)のように「仙人会議(せんにんかいぎ)」が(ひら)かれて・・・でも、たいらっぴょんの性格(せいかく)では、「(のろ)い」を(たの)まれることなど(けっ)してないので、想像(そうぞう)すらできず・・・・やっぱり今日(きょう)のように「意見(いけん)(もと)められませんように」と、ただただ(いの)っていた・・・・・そこに、グワーーーンッと。

たいらっぴょんの(かお)は、どんどん(しぶ)くなっていく。反対(はんたい)河童(かっぱ)たちの()はワクワクで(かがや)いてきた。
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登場人物紹介

虹の谷にやって来て630年。祈祷師の「対馬」ですの。いつも、あなたの幸せを祈っているわ ❤️

小梅よ。虹の谷の門番であるケンさんと結婚して、私も門番をやっているの。ワクワクドキドキ、お気に入りの仕事よ。

門番のケンだよー。虹の谷の異界から最近、人間界が見えるんだよ。どうなることやら・・・。顔だけで門番になったから、この仕事怖いんだよな。まあ、今は小梅が手伝ってくれるから良いけど。

さくらよー。虹の谷の女性リーダーは、代々「さくら」を名乗ることになっているの。将来は、虹の谷のリーダーになるんだけど、今は、まだ子供よ。

虹の谷一の物知りと言われているスーワだよ。多くの知識をフル活用して、この虹の谷の一大事を乗り越えていくんだ。楽しみにしててね!

サルタンだよー。河童たちに、何百年かぶりに、石碑の中から引っ張り出されたよ。人間時代は、仙人界に憧れていろいろ修行したんだけどね、本物の異界に住んでる河童たちと友達になるとは、思っても見なかったなあ。

ケトだよ。虹の谷は面白いよ。水浴びしたり、毎日、虫や鳥と遊んでる。スーワがパパで、ママはマンバ、お兄ちゃんはナトって言うんだ。ナトはすぐ、ひとりでどこか行っちゃうから、僕はいつもさくらちゃんと一緒にいるんだ。

平標山の仙人、たいらっぴょんじゃ。虹の谷には、小富士仙人という、えらい仙人がおるんだがの。旅に出たまま、ちっとも帰ってこんから、ワレが時々、虹の谷を見廻ることになってるんじゃが、子供たちが可愛くてなあ、けっこう楽しくやっておる。

小富士仙人。留守をたいらっぴょんに任せて、長いこと旅に出ていたんだが、やっと、物語の最後に間に合うように、帰ってこられたよ。

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