10. サルタン

文字数 3,956文字



「ねえねえ、それからどうなったの?」

河童(かっぱ)たちはまだまだ()きたい。サルタンが「道祖神(どうそじん)」から()てきた理由(わけ)は、つまりは「(にじ)(たに)」ができた理由(わけ)でもあろう。

「そりゃ、トト神仙人(かみせんにん)のことだからさ。しっかり(やつ)らと交渉(こうしょう)して、(そん)した(ぶん)まで()(かえ)してくれたさ。鉱夫(こうふ)農夫(のうふ)も、お(かね)()てるようになったんだ。もちろん、ワシたちの協力(きょうりょく)もたいしたものだったんだよ。うんうん。」

「ふうーん、サルタンてすごいのね。きっとそういう(ひと)だと(おも)っていたわ !」

「いや、うーん・・・さくらちゃん。(つづ)きがあるんだ。その続きの(ほう)なんだよ、トト神仙人(かみせんにん)(おこ)らせたのは。もらったお(かね)(うれ)しすぎてな、鉱夫(こうふ)農夫(のうふ)()こりも、博打(バクチ)ってのをはじめたんだ。()ければ、(かね)()られてすっからかん、()って(かね)()にすりゃ、(さけ)びたり。トト神仙人が大変(たいへん)交渉(こうしょう)して(もら)ってくれた(かね)は、ぜーんぶ(さけ)になって()えちまったのさ。「この(おお)バカ(もの)めがーーーーーー ! 」って。あん(とき)は、あの白根山(しらねやま)まで()()いたからなあー。(やま)(いわ)(もり)()れてなあ、博打小屋(ばくちごや)なんぞ、ぺしゃんこさ。」

「まーーーーーーっ、大変(たいへん)。それを、サルタンが(たす)けてあげたの、ねっ ?」

さくらの予想(よそう)に、サルタンは(しぶ)(かお)になってうなだれ、(くび)(よこ)()った。

「いやー、いっしょに(さけ)()んでたんだ。」

アッハッハ。河童(かっぱ)たちは(わら)(ころ)げた。(あか)(かお)のサルタンが、うまそうに(さけ)()んでる姿(すがた)想像(そうぞう)しただけでも愉快(ゆかい)だ。(くわ)えて、トト神仙人(かみせんにん)から(おも)いっきり(おこ)られて、(しぼ)んでいく姿(すがた)まで想像(そうぞう)してしまったのだから、可笑(おか)しくてしかたない。(うつく)しいとはいえ、いささか退屈(たいくつ)なこの(たに)に、この珍客(ちんきゃく)人間(にんげん)社会(しゃかい)というのは、結構(けっこう)おもしろいのかも()れない。

「まあ、それで、肝心(かんじん)(はなし)(はい)ろう。ワシが道祖神(どうそじん)から()てきた理由(わけ)ってのは・・・。」

()てきた理由(わけ)ってのはー? 」

「トト神仙人(かみせんにん)の「温情(おんじょう)」とも「(ばつ)」とも()えるな。だいたい仙人(せんにん)ってのは、鉱山(こうざん)()つけたり、薬草(やくそう)選定(せんてい)したり、食料(しょくりょう)栽培方法(さいばいほうほう)(かんが)えたり、(ほし)()めば、天気(てんき)()てる、(あめ)だって()らせるのさ。だからワシも仙人(せんにん)のもとで修行(しゅぎょう)してたんだけど、本当(ほんとう)は、仙人(せんにん)一番(いちばん)特徴(とくちょう)ってのは『人生(じんせい)のあり(かた)についてメチャクチャうるさい』って、ところなんだよ。」

「この(へん)(やま)は、(かなら)仙人(せんにん)がいるけど、人生(じんせい)のあり(かた)について、メチャクチャうるさい(ひと)たちなの ? 」

小梅(こうめ)がびっくり(まなこ)になっている。()ってる仙人(せんにん)たちを(おも)()かべて、そうは(おも)えないけどなあ、と言いたそうだ。
仙人席(せんにんせき)にいるたいらっぴょんが、またピクンとした。

「たしかだ、小梅(こうめ)さん、ワッハッハ。仙人(せんにん)てカッコイイだろ ? ワシみたいなチョイ(わる)(けい)には、たまらん魅力(みりょく)さ。だから修行(しゅぎょう)(はい)るんだけど、そこが『キモ』なんだよ。仙人(せんにん)てのはさ、自然(しぜん)一体(いったい)になって、『その()』を使(つか)えるから、あんなことができるんだ。その修行は、めちゃ(たの)しい。呼吸法(こきゅう)だとか、食事法(しょくじほう)だとか、ヒントもくれる。だけどな・・・・ 」

「だけど・・・・(なん)なの ?」

不老不死(ふろうふし)の「天界仙人(てんかいせんにん)」になるには、1200もの善行(ぜんこう)(とく)()まなくちゃなんないんだよ。「地上仙人(ちじょうせんにん)」になるのだって800さ。ワシはな、798まで頑張(ガンバ)った。ずいぶん(ひと)(よろこ)ばせもしたし、(たす)けもしたよ。その功績(こうせき)で、長生(ながい)きもしてたんだ。」

河童(かっぱ)たちは(いき)()んだ。もしかして・・・(あと)のふたつは・・・。

「ああ、ご想像(そうぞう)(どお)りさ。ヘソが(まが)がった。だいぶ(くに)ができた(ころ)な、(くに)制度(せいど)(ととの)えば整うほど、窮屈(きゅうくつ)でさ、反乱(はんらん)(おこ)しちまった。それでもまあ()ったんで、歴史書(れきししょ)(つく)ろうって(はなし)になって・・・・ワシは、その()きっぷりにまた・・・激怒(げきど)しちまったのさ。」

サルタンは、ため(いき)をついて(とお)くを()た。(いま)でも(くや)しいらしい。

小梅(こうめ)さんも対馬(つしま)さんも、「猿田彦大神(さるたひこのおおかみ)」って石碑(せきひ)が、道祖神(どうそじん)石碑(せきひ)一緒(いっしょ)にあったの(おぼ)えているだろ ? あれも、ワシらのこと。この(くに)歴史書(れきししょ)にも、道案内(みちあんない)したことは()いてある。だけど、名前(なまえ)が『(さる)』なんだよ、(さる)。サルタンだから『猿田(さるた)』、(おとこ)だから(ひこ)さ。いっくら(あか)(がお)だって、この当て字はないだろ ? この(くに)最初(さいしょ)()たサルタンには、サロメって(おく)さんもいたんだ。そしたら当て字が『猿女(さるおんな)』ってんだ。(ほか)のサルタンたちも、(おこ)って(くに)(かえ)っちまったさ。」

スーワはいたく同情(どうじょう)した。歴史書(れきししょ)に出てくる道案内(みちあんない)の「サルタヒコ」は、(たし)かに40cmもある(はな)と、ホウズキのように(あか)(かがや)()()った大男(おおおとこ)だ。サルタンと同族(どうぞく)なのは(ちが)いなかろう。この(くに)人間界(にんげんかい)では、(たた)ると神格(しんかく)神社(じんじゃ)(くらい)(たか)くなる。噴火(ふんか)(しず)める神社は、山が火を()くたび、(くらい)()がっていく。言うなれば、神様(かみさま)をもちあげて(なぐさ)める習慣(しゅうかん)があるのだ。猿田彦(さるたひこ)に「大神(おおかみ)」と()いているのは、サルタンのスネ具合(ぐあい)が、「(たた)り」に匹敵(ひってき)する(ほど)だったのではなかろうか ? よほど(くや)しかったに(ちが)いない。

(つぎ)は「天狗(テング)」。これもワシらの一族(いちぞく)のこと。天狗(テング)ってのは「(なが)(ぼし)」のことでな、当時(とうじ)は、不吉(ふきつ)なことが()こると()われて、めちゃ(きら)われてた。キャラバンへの()てこすりのようなもんだ。まあ、ヘソ()げて色々(いろいろ)やらかしたからな、仕方(しかた)ないけど。そしたらトト神仙人(かみせんにん)が、生涯(しょうがい)()けた仕事(しごと)なのに、そんな(ふう)()ばれたままじゃ(しの)びないって。ほとぼりが()めたら、頭冷(あたまひ)やして、名誉回復(めいよかいふく)できるように、しばらくは異界(いかい)結界番(けっかいばん)しとけって・・・そのまま650(ねん)さ。()こしてもらって(たす)かったよ。ワッハッハ。」

河童(かっぱ)たちは、なんだかジーンときた。(にじ)(たに)では、(くや)しいことなど、もう何百年(なんびゃくねん)()こったことがない。よく()からない感情(かんじょう)だが、(むね)のあたりがジーンと(しび)れて、サルタンを()きしめてあげたい気分(きぶん)になっているのだ。


(しず)かに()いていた対馬(つしま)が、ホロホロと(なみだ)をこぼした。

「サルタン、すっかり(おも)()したわ。(わたし)も、しばらく異界(いかい)()(かく)しとけ、って小富士仙人(こふじせんにん)()われてこの(たに)()たのよ。」

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登場人物紹介

虹の谷にやって来て630年。祈祷師の「対馬」ですの。いつも、あなたの幸せを祈っているわ ❤️

小梅よ。虹の谷の門番であるケンさんと結婚して、私も門番をやっているの。ワクワクドキドキ、お気に入りの仕事よ。

門番のケンだよー。虹の谷の異界から最近、人間界が見えるんだよ。どうなることやら・・・。顔だけで門番になったから、この仕事怖いんだよな。まあ、今は小梅が手伝ってくれるから良いけど。

さくらよー。虹の谷の女性リーダーは、代々「さくら」を名乗ることになっているの。将来は、虹の谷のリーダーになるんだけど、今は、まだ子供よ。

虹の谷一の物知りと言われているスーワだよ。多くの知識をフル活用して、この虹の谷の一大事を乗り越えていくんだ。楽しみにしててね!

サルタンだよー。河童たちに、何百年かぶりに、石碑の中から引っ張り出されたよ。人間時代は、仙人界に憧れていろいろ修行したんだけどね、本物の異界に住んでる河童たちと友達になるとは、思っても見なかったなあ。

ケトだよ。虹の谷は面白いよ。水浴びしたり、毎日、虫や鳥と遊んでる。スーワがパパで、ママはマンバ、お兄ちゃんはナトって言うんだ。ナトはすぐ、ひとりでどこか行っちゃうから、僕はいつもさくらちゃんと一緒にいるんだ。

平標山の仙人、たいらっぴょんじゃ。虹の谷には、小富士仙人という、えらい仙人がおるんだがの。旅に出たまま、ちっとも帰ってこんから、ワレが時々、虹の谷を見廻ることになってるんじゃが、子供たちが可愛くてなあ、けっこう楽しくやっておる。

小富士仙人。留守をたいらっぴょんに任せて、長いこと旅に出ていたんだが、やっと、物語の最後に間に合うように、帰ってこられたよ。

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