3. 瞑想

文字数 1,072文字



対馬(つしま)は、深い瞑想(めいそう)の中で、長い長い旅をした。

小梅(こうめ)と分かれた対馬は、祈り岩の上で、いつもとは(ちが)瞑想(めいそう)姿勢(しせい)をとった。日々の瞑想なら、わざわざ足を()必要(ひつよう)などはない。肉体(にくたい)(おも)さを意識(いしき)しないで()姿勢(しせい)なら、どんな形でも、対馬はすぐに、純粋(じゅんすい)意識(いしき)バイブレーションだけの境地(きょうち)に入って行けた。

しかし対馬(つしま)は今、人間時代(にんげんじだい)の自分に会いに行こうと考えている。対馬(つしま)小梅(こうめ)と話しながら、チラッと自分の過去(かこ)が見えた時、すっかり忘れていた「あること」に気がついた。

その時見えた「人間界(にんげんかい)対馬(つしま)は、「虹の谷の対馬」と明らかに(ちが)う。その違いは、どう表現(ひょうげん)したら良いのか、上手(うま)く考えがまとまらないが、「人間界の対馬」と、それを見ているはずの「虹の谷の対馬」に、()いて言えば、「水」と「水蒸気(すいじょうき)」のような・・・そんな密度(みつど)と、運動量(うんどうりょう)(ちが)いがあることを感じたのである。

対馬(つしま)は、両足(りょうあし)()んで「結跏趺坐(けっかふざ)」の姿勢(しせい)をとった。

おそらく、人間界で瞑想(めいそう)をする時に(この)まれていた姿勢(しせい)だろう、と考えての選択(せんたく)だった。対馬(つしま)予想(よそう)的中(てきちゅう)した。630年もの間忘(あいだわす)れていた、あの感覚(かんかく)がだんだん対馬に(よみがえ)ってきた。

手の(おも)み、指が()れる感触(かんしょく)(あたま)の角度、足の(ねじ)れ、(はだ)温度(おんど)心臓(しんぞう)鼓動(こどう)(した)(うご)き、音を(とら)えるときの鼓膜(こまく)()れ・・・・対馬の(ほそ)身体(からだ)、その細胞(さいぼう)ひとつ一つの息遣(いきづか)いが、手に取るように感じられてきたのだ。

「ありがたい。わたし、きっと()()うわ。」

対馬(つしま)()(もど)した人間(にんげん)細胞感覚(さいぼうかんかく)は、スーッと、(かく)されていた、大切な記憶(きおく)(かぎ)()けて行った。

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登場人物紹介

虹の谷にやって来て630年。祈祷師の「対馬」ですの。いつも、あなたの幸せを祈っているわ ❤️

小梅よ。虹の谷の門番であるケンさんと結婚して、私も門番をやっているの。ワクワクドキドキ、お気に入りの仕事よ。

門番のケンだよー。虹の谷の異界から最近、人間界が見えるんだよ。どうなることやら・・・。顔だけで門番になったから、この仕事怖いんだよな。まあ、今は小梅が手伝ってくれるから良いけど。

さくらよー。虹の谷の女性リーダーは、代々「さくら」を名乗ることになっているの。将来は、虹の谷のリーダーになるんだけど、今は、まだ子供よ。

虹の谷一の物知りと言われているスーワだよ。多くの知識をフル活用して、この虹の谷の一大事を乗り越えていくんだ。楽しみにしててね!

サルタンだよー。河童たちに、何百年かぶりに、石碑の中から引っ張り出されたよ。人間時代は、仙人界に憧れていろいろ修行したんだけどね、本物の異界に住んでる河童たちと友達になるとは、思っても見なかったなあ。

ケトだよ。虹の谷は面白いよ。水浴びしたり、毎日、虫や鳥と遊んでる。スーワがパパで、ママはマンバ、お兄ちゃんはナトって言うんだ。ナトはすぐ、ひとりでどこか行っちゃうから、僕はいつもさくらちゃんと一緒にいるんだ。

平標山の仙人、たいらっぴょんじゃ。虹の谷には、小富士仙人という、えらい仙人がおるんだがの。旅に出たまま、ちっとも帰ってこんから、ワレが時々、虹の谷を見廻ることになってるんじゃが、子供たちが可愛くてなあ、けっこう楽しくやっておる。

小富士仙人。留守をたいらっぴょんに任せて、長いこと旅に出ていたんだが、やっと、物語の最後に間に合うように、帰ってこられたよ。

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