12. 神々の計画

文字数 6,138文字



キョトンとする河童(かっぱ)たちを尻目(しりめ)に、たいらっぴょんは(りん)として(つづ)けた。あれほど会議(かいぎ)発言(はつげん)するのを(いや)がっていたのに、いったん(こえ)()してみると、言葉(ことば)自然(しぜん)(はら)(なか)から、()いて()る。

「これからはな。知恵(ちえ)時代(じだい)二極(にきょく)()けて(まな)んだことを統合(とうごう)し、『調和(ちょうわ)』させてゆく時代(じだい)じゃ。統合(とうごう)は、すでに(はじ)まっとる。(まな)びの出来次第(できしだい)で、時間(じかん)はかかるかも()れんが、いずれ調和(ちょうわ)してくるだろう。」

「ねえねえねえねえ、たいらっぴょんさまったら。(なに)のことかさっぱりわからないわ。 いったい全体(ぜんたい)(なに)を『統合(とうごう)』するって()うの ?」

小梅(こうめ)指摘(してき)されて、たいらっぴょんは一度(いちど)深呼吸(しんこきゅう)をした。

「ありとあらゆるもの、だ。二極(にきょく)()けて人間(にんげん)(まな)んできたモノ、(すべ)てが統合(とうごう)される。」

「えっー? それって、いっくら(なん)でも無理(むり)があると(おも)うんだけど・・・・。」

スーワが反論(はんろん)すると、サルタンが、わが()()たりと()わんばかりに同調(どうちょう)した。

「そうだろ、スーワ ! あらゆるモノって、『(ひがし)西(にし)も、(みなみ)(きた)も、(うえ)(した)も、(ひだり)(みぎ)も、(おとこ)(おんな)もだろ。金持(かねも)ちと貧乏(びんぼう)親分(おやぶん)子分(こぶん)もだぜ。どうやったら統合(とうごう)できるというんだい。さっぱり(かみ)さまの()()れねえ。それを(かみ)さまは、人間(にんげん)たちに()らせろって、ワシに命令(めいれい)してきたんだ。」

「ああ、(かみ)使(つか)いに()こされたおぬしは、()たフリをしたんだっけな、サルタン。」

「うっ・・・・そうだ。」  

また(いた)いところを()かれたサルタンだが、河童(かっぱ)たちは(わら)いながらも、サルタンの()(ぶん)(もっと)もだと思った。

「ワレがおぬしの()わりに()らせておいた。おぬしが一向(いっこう)()きんからの。道祖神(どうそじん)猿田彦(さるたひこの)大神(おおかみ)石碑(せきひ)(おが)んだ(もの)自動的(じどうてき)理解(りかい)できるようにしておいた。おぬしは結構(けっこう)人気(にんき)があるんだな。この(あた)りじゃ神々(かみがみ)計画(けいかく)()ってた人間(にんげん)大勢(おおぜい)おろうさ。」

(なん)だって〜 ! そんなメチャクチャなっ ! 」

「おぬしだって、神仙会(しんせんかい)(はし)くれじゃ。奴隷(どれい)解放(かいほう)した(かみ)が、重要(じゅうよう)命令(めいれい)(そむ)けば、どれほど(たた)るか()っておろう ? 感謝(かんしゃ)してもらいたい。」
 
大人(おとな)たちの会話(かいわ)をよそに、ケトとさくらは、(いま)まで()いたクイズの(なか)一番面白(いちばんおもしろ)いと、()(かがや)かせていた。

「さくらちゃん、(さかな)みたいに、()(よこ)()いたら、いっぺんに(ひがし)西(にし)()えるかも()れないよ。(みぎ)(ひだり)大丈夫(だいじょうぶ)。」

人間(にんげん)()(よこ)()くようになるの ? 」

「うん、絶対(ぜったい)()たってるよ、さくらちゃん。」

(なに)()ってんの、人間(にんげん)()(よこ)()いたからって、(すべ)てが(かがや)時代(じだい)になるはずないじゃない。」

「うーん、そうかなあ。たいらっぴょんさま、(ひがし)西(にし)はどうやって統合(とうごう)するの ? 」

「あっはっは。()どもは可愛(かわい)いのう。」

目尻(めじり)()れて、いつもの調子(ちょうし)(あや)うく(もど)りかけたたいらっぴょんだったが、(あわ)てて(くび)()り、(おお)きく(むね)()って、(すべて)ての河童(かっぱ)たちに()()けた。



「よーく()いてくれ。人間界(にんげんかい)(むずか)しい(はなし)をする。ワレの性格(せいかく)からすると、一生(いっしょう)一度(いちど)しか()えん。子供(こども)には()からんかも()れん。しかし、一人(ひとり)ひとりがしっかり()いて、この(にじ)(たに)今後(こんご)方針(ほうしん)()すんだ。」

()河童(かっぱ)たちも、(はな)すたいらっぴょんも、ゴクリと(ツバ)()()んだ。

(いま)、この(くに)人間界(にんげんかい)は、令和元年(れいわがんねん)。その(まえ)は『平成(へいせい)』と()った。『()(たいら)かになりて(てん)()る』という意味(いみ)元号(げんごう)じゃった。日本(にほん)天皇(てんのう)陛下(へいか)というのは、神官王(しんかんおう)にほかならんでの。今じゃ、元号(げんごう)使(つか)っておるのは日本(にほん)くらいなもんだが、元号は神々(かみがみ)意思(いし)(おも)って()い。これがかつて、奴隷(どれい)解放(かいほう)し『人間界(にんげんかい)修復(しゅうふく)する』と宣言(せんげん)した(かみ)の『仕上(しあ)げの合図(あいず)』となったのじゃ。」

平成(へいせい)元年(がんねん)、まず『東西(とうざい)調和(ちょうわ)する』という神宣言(かみせんげん)()た。サルタンが(うたが)ったのも無理(むり)はない。()らされた仙人(せんにん)たちにも、(かみ)意志(いし)理解(りかい)した(もの)はほとんどおらん。しかし人間界(にんげんかい)では、あっという()に『東西(とうざい)分断(ぶんだん)象徴(しょうちょう)・ベルリンの(かべ)』ってのが崩壊(ほうかい)した。人間界では『東西(とうざい)問題(もんだい)』というての。ベルリンと()(おう)きな都市(とし)を、戦争(せんそう)()った(がわ)が、資本主義(しほんしゅぎ)社会主義(しゃかいしゅぎ)(かか)げて、半分(はんぶん)ずつ占領(せんりょう)すると()う、どうしょうもない時代(じだい)じゃった。東西(とうざい)はあっけなく統合(とうごう)された。おそらく、東側(ひがしがわ)広報官(こうほうかん)が、フラフラっと(かみ)意志(いし)(しゃべ)っちゃったんだろうな『今日(きょう)から自由(じゆう)だよ』ってな。かつて奴隷(どれい)解放(かいほう)した、あの(とき)のように。(かべ)はな、殺到(さっとう)した市民(しみん)たちが、(うれ)しそうに(こわ)しておったよ。(ちが)(かんが)(かた)出会(であ)った(とき)は、両方(りょうほう)()いとこだけしか(のこ)れないだろう ? それが統合(とうごう)理由(りゆう)だそうだ。」

「そういうことかあ、(かみ)さまには、神さまの思考(しこう)レベルってもんがあるんだな。()たフリして(わる)かったよ。」

サルタンとたいらっぴょんは、横目(よこめ)でチラッと自分(じぶん)気持(きも)ちを(おく)()った。

「その(あと)すぐに(かみ)は『資本主義(しほんしゅぎ)()わるという前提(ぜんてい)で、社会主義(しゃかいしゅぎ)から解体(かいたい)する』という宣言(せんげん)をした。平成(へいせい)になってたった3(ねん)、ソビエト連邦(れんぽう)って巨大(きょだい)社会(しゃかい)主義(しゅぎ)世界(せかい)崩壊(ほうかい)したんじゃ。一方(いっぽう)資本(しほん)主義(しゅぎ)は、()()えれば「()(なか)金次第(かねしだい)」って方法論(ほうほうろん)でもあってのう。解体(かいたい)()最中(さいちゅう)だ。」

河童(かっぱ)には、お(かね)ってないけど、あんまり()くないモノなのかしら ? 」

小梅(こうめ)質問(しつもん)はいつもストレートだ。

「いや、便利(べんり)ではある。何千年(なんぜんねん)機能(きのう)してきた社会(しゃかい)システムの()っこじゃよ。しかし(かみ)はあっさりと『お(かね)をなくす』と宣言(せんげん)たんじゃ。」

ほーっ、サルタンは感嘆(かんたん)した。サルタンもそうなりゃいいなーと、(ひそ)かに(おも)っていた一人(ひとり)だったのだ。ただこれは、まだカードになっただけ。今後(こんど)どうなるのか様子(ようす)()るしかない。

人間界(にんげんかい)には『南北(なんぼく)問題(もんだい)』ってのもあっての。()つものと持たぬもの、(ゆた)かな(くに)(まず)しい国の格差(かくさ)問題(もんだい)じゃ。アフリカに、この問題の象徴(しょうちょう)のような(くに)政策(せいさく)があったのじゃ。『アパルトヘイト政策(せいさく)』。法律(ほうりつ)白人(はくじん)有色人(ゆうしょくじん)権利(けんり)差別(さべつ)してな。白人が、有色人を(やす)労働力(ろうどうりょく)として使(つか)っておった。有色人(ゆうしょくじん)鉱山(こうざん)労働者(ろうどうしゃ)賃金(ちんぎん)は、白人(はくじん)の20(ぶん)の1というデタラメさだ。(かみ)はまた宣言(せんげん)した『南北(なんぼく)統合(とうごう)する』とな。平成(へいせい)になってたった6(ねん)、アパルトヘイトは撤廃(てっぱい)されたよ。平成10年には、137もの(くに)署名(しょめい)して、アパルトヘイトは『人道(じんどう)(たい)する(つみ)』と規定(きてい)されたんじゃ。(じつ)のところ、仙人界(せんにんかい)がしっかり協力(きょうりょく)約束(やくそく)したのは、これらを()てからじゃ。ワレも神々(かみがみ)本気(ほんき)()()がしたよ。」

まあーっ、(かみ)さまってすごすぎる。河童(かっぱ)たちも人間(にんげん)たちと(おな)じように神さまを()たことがない。しかし、奴隷(どれい)解放(かいほう)したという(かみ)自分(じぶん)が人間界を修復(しゅうふく)すると()ってしまった神の、(あつ)(おも)いは(なん)となく(つた)わってきた。

「いくら(かみ)さまだって、突然(とつぜん)そんなことができるわけではない。人間(にんげん)たちは準備(じゅんび)し『その(とき)』が()たのじゃ。」

わかりの()(もの)は、河童界(かっぱかい)(なん)準備(じゅんび)もしていないことに(かんが)()たって、またゴクリと(ツバ)()んだ。

「ある(とき)神々(かみがみ)は、()(さき)協力(きょうりょく)すると()った仙人(せんにん)に『統合(トウゴウ)する道具(どうぐ)』を()せたらしい。コンピューターと()うての。(うみ)のように情報(じょうほう)()まっていて、いつでも()しいだけ()()せる。インターネットというのが(ととの)って、世界(せかい)情報(じょうほう)共有(きょうゆう)できるのだ。それぞれ専門的(せんもんてき)にやってきた研究(けんきゅう)全人類(ぜんじんるい)()()える時代(じだい)になったと()ってもいい。」

()いたことがある。(ぼく)もコンピューターの仕組(しく)みに(なら)って、(あたま)(なか)整理(せいり)してみたら、とても都合(つごう)()いんだ。」

なるほど、さすがスーワだ。もう人間界(にんげんかい)便利(べんり)なところを()()れている。

(いま)や『都市(とし)田舎(いなか)』も、『発信者(はっしんしゃ)受信者(じゅしんしゃ)』も関係(かんけい)ない。人間界(にんげんかい)は、大人(おとな)子供(こども)も、学歴(がくれき)(かね)のあるなしも、国籍(こくせき)だって、統合(とうごう)された世界(せかい)()かっていると()っていいだろう。当事者(とうじしゃ)以外(いがい)だれも想像(そうぞう)しなかっただろう、(おとこ)と男、(おんな)と女でさえ結婚(けっこん)できる時代(じだい)になったんじゃ。それさえ平成(へいせい)になって、たった13(ねん)だ。」

河童(かっぱ)たちの(なか)には、家族(かぞく)()らしている(もの)も、いない者もある。しかし、こんな結婚(けっこん)(だれ)想像(そうぞう)したことがなかった。サルタンも初耳(はつみみ)らしく、()をぱちくりさせるばかりで、言葉(ことば)()ない。

「そして(かみ)はな・・・。『人間(にんげん)はいつでも、どこでも、(だれ)とでも(つな)がれるようになる』と()ってきた。ワレは、人間たちも、仙人(せんにん)河童(かっぱ)たちと(おな)じに、テレパシーを使(つか)えるようになるのだと(おも)ったよ。ところが人間界(にんげんかい)には人間界のやり(かた)がある。()(ひら)くらいのしゃべる機械(きかい)をみんなが()ってな、それで(つな)がるのだ。地球(ちきゅう)隅々(すみずみ)までの情報(じょうほう)をひとりひとりが()()れられる。いろいろな研究(けんきゅう)一気(いっき)(すす)み、今後(こんご)(なに)()てくるか・・・仙人界(せんにんかい)にも想像(そうぞう)がつかんのだ。」

河童(かっぱ)たちからは、ほーっ、というため(いき)だけが()れた。

「ワレが(おし)えられるのは、ここまでじゃ。」
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登場人物紹介

虹の谷にやって来て630年。祈祷師の「対馬」ですの。いつも、あなたの幸せを祈っているわ ❤️

小梅よ。虹の谷の門番であるケンさんと結婚して、私も門番をやっているの。ワクワクドキドキ、お気に入りの仕事よ。

門番のケンだよー。虹の谷の異界から最近、人間界が見えるんだよ。どうなることやら・・・。顔だけで門番になったから、この仕事怖いんだよな。まあ、今は小梅が手伝ってくれるから良いけど。

さくらよー。虹の谷の女性リーダーは、代々「さくら」を名乗ることになっているの。将来は、虹の谷のリーダーになるんだけど、今は、まだ子供よ。

虹の谷一の物知りと言われているスーワだよ。多くの知識をフル活用して、この虹の谷の一大事を乗り越えていくんだ。楽しみにしててね!

サルタンだよー。河童たちに、何百年かぶりに、石碑の中から引っ張り出されたよ。人間時代は、仙人界に憧れていろいろ修行したんだけどね、本物の異界に住んでる河童たちと友達になるとは、思っても見なかったなあ。

ケトだよ。虹の谷は面白いよ。水浴びしたり、毎日、虫や鳥と遊んでる。スーワがパパで、ママはマンバ、お兄ちゃんはナトって言うんだ。ナトはすぐ、ひとりでどこか行っちゃうから、僕はいつもさくらちゃんと一緒にいるんだ。

平標山の仙人、たいらっぴょんじゃ。虹の谷には、小富士仙人という、えらい仙人がおるんだがの。旅に出たまま、ちっとも帰ってこんから、ワレが時々、虹の谷を見廻ることになってるんじゃが、子供たちが可愛くてなあ、けっこう楽しくやっておる。

小富士仙人。留守をたいらっぴょんに任せて、長いこと旅に出ていたんだが、やっと、物語の最後に間に合うように、帰ってこられたよ。

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