たいらっぴょんの
話を
聞き
逃すまいと
河童たちが
近寄ったので、
祈り
岩はひとまわり
大きな
塊に
見える。河童たちの
気持ちを
反映するのか、
霧までが
出てきた。やっと
対馬が、
場をまとめて
声にした。
「ありがとう、たいらっぴょん
様。
初めて
聞くことなので、びっくりしましたけど、これから、
私たちの
世界も、
東と
西、
南と
北が
統合されたように、
人間界と統合されるのですね。」
「ああ、そうじゃ。」
虹の
谷では、
門番のケンさんが
一番心配性だ。
「おらあ、
聞いたことがある。
人間界の
河童は、みんな
緑だって。おらたちは
白だあ。たいらっぴょん
様、人間界の
肌の
色で
差別する
習慣は、ちゃんと
終わっているんだろかなあ。」
「そんつらこたあ、
堂々としていりゃいいんだ !」
後の
方から、サルタンが
吐き
捨てるように
言った。
振り
向いた
河童たちは、サルタンの
真顔を
見ることになって、この
国の
黄色い
人間界で
生きてきた「
赤い
人」の
苦労が、
否応なく
伝わって
来た。
色ばかりじゃないんだ。
河童たちは
小さく、
人間たちは
大きい。河童たちは
食べなくても
生きて
行けるが、人間は、
日に3
度も食べるのだ。河童はスマホが
使えない、人間はテレパシーが使えない。われわれは、お
金なんて
見たこともない。だけど
人間は、お金のあるなしが、
人生まで
左右するなんて
言うじゃあないか。
統合されてから、
調和できるまで、われわれ
河童はどうすればいいのだ 。
具体的になればなるほど、
不安は
膨らんで
河童たちの
頭を
駆け
巡っている。
しばらくすると、
霧の
中から、
透き
通る
声がした。
「
心配しててもキリがないわ。きっと
楽しいこともあるでしょう。しっかり
対策を
練って、
万端の
準備をしましょう。」
「えっ ? 」
声を
目で
追った
河童たちは、
一様に、
驚いた。
てっきり「
対馬」だと、みんなが
思ったその
声は、なんと、あの
幼くやんちゃな「さくら」だったのだ。いつも
擦り
傷だらけのさくらが、いつの
間にか「
少女」と
言うにふさわしくなって、
薄い
霧の
中に、
涼しい
姿で
立っていた。
「さくらさん、さくらさんなの
!? 」
「この
谷のリーダーは、
代々『さくら』を
名乗ることになっている。」
虹の
谷では、
何百年もこう
言い
伝えられてきた。
そして、
谷での
役割に
応じて、
身体年齢が
変化するのだ。
しかし、もう
誰も
先代のリーダーを
見たことがなく、さくらはずっと
幼いままで、
谷の
河童たちは、ただの
御伽噺と
感じ
始めていたところだったのだ。
小富士仙人が
旅に
出る
時、
対馬と
小梅がさくらの
世話係を
言いつかったものの、
自分たちは
相応に
年を
重ねてゆくのに、
当のさくらは、くったくない
子供の
笑顔で、しょうもない
悪戯を
繰り
返すばかり。いっこうに
成長する
気配が
見えなかったのだ。
さくらの
身体が
変化に
気づいた
河童たちが、さくらを
連呼している。
小梅が
嬉しさを
堪えきれずに、
祈り
岩に
飛び
乗った。
「
大丈夫よ、みんな。さくらさんを
見て。こんなことが
起こるんですもの、
人間界と
統合したって、きっと
乗り
切れるわ。さくらさん、
心配してたのよ、ね〜、みんな ? 」
「ワアーーーッ !」
さくらは、
心持ち
長くなった
足や、ちょっとだけ
膨らんだ
胸を、
自分で
確かめて、
恥ずかしそうに
両手を
頬に
当てて、
小さな
声で
言った。
「わたしも。」
「アッハッハ。さくらちゃん、
自分でも
心配してたのかい ? そうは見えなかったなあ ! 」
大いに
笑って、
河童たちはいつもの
陽気さをやっと
取り
戻した。
「さくらさん、
成長おめでとう。さあこちらへ ! ご
挨拶をしたら、
統合に
向けて、さっそく
万端の
準備に
取り
掛かりましょう ! 」
対馬に
促されたさくらは、
恥ずかしそうに、それでも
堂々とした
足取りで、
祈り
岩に
登った。
「みなさん、ありがとう。わたしね、さっき『
決心』したのよ。
人間界と
統合しても、わたしたち
河童は、これからもずっと
幸せな
河童たちであり
続けるんだって。そしたらね、
熱いものが、お
腹からもお
皿からも、
身体中に
溢れてきたの。みんなが
心をしっかり
決めれば、
次にやることは、
自然とわかって
来る
気がするの。きっと
大丈夫。」
今日という
日は、なんて
素晴らしいのだろう。
心配していた
悪戯っ
子のさくらが
美しい
少女になって、
若いリーダーに
育つべく、
今、
自分たちに『
決心』が
大切だと
諭している。さくらを
見上げる
河童たちの
胸にも、ジーンと
響く
熱い
波がやって
来た。
「みなさんがわたしのことを
心配しているのは
知ってたの。でも、
山桜が『
花は、
陽が
当たってから
咲くものよ』って
慰めてくれたから・・・。わたしの
身体が
変わったのは、きっと
良い
知らせ。わたしも
大人たちの
会議にしっかり
参加したいの。
他の
子供たちも。よろしくお
願いします。」