13.  決心

文字数 3,287文字



たいらっぴょんの(はなし)()(のが)すまいと河童(かっぱ)たちが近寄(ちかよ)ったので、(いの)(いわ)はひとまわり(おお)きな(かたまり)()える。河童たちの気持(きも)ちを反映(はんえい)するのか、(きり)までが()てきた。やっと対馬(つしま)が、()をまとめて(こえ)にした。

「ありがとう、たいらっぴょん(さま)(はじ)めて()くことなので、びっくりしましたけど、これから、(わたし)たちの世界(せかい)も、(ひがし)西(にし)(みなみ)(きた)統合(とうごう)されたように、人間界(にんげんかい)と統合されるのですね。」

「ああ、そうじゃ。」

(にじ)(たに)では、門番(もんばん)のケンさんが一番(いちばん)心配性(しんぱいしょう)だ。

「おらあ、()いたことがある。人間界(にんげんかい)河童(かっぱ)は、みんな(みどり)だって。おらたちは(しろ)だあ。たいらっぴょん(さま)、人間界の(はだ)(いろ)差別(さべつ)する習慣(しゅうかん)は、ちゃんと(おわ)わっているんだろかなあ。」

「そんつらこたあ、堂々(どうどう)としていりゃいいんだ !」

(うしろ)(ほう)から、サルタンが()()てるように()った。()()いた河童(かっぱ)たちは、サルタンの真顔(まがお)()ることになって、この(くに)黄色(きいろ)人間界(にんげんかい)()きてきた「(あか)(ひと)」の苦労(くろう)が、否応(いやおう)なく(つた)わって()た。

(いろ)ばかりじゃないんだ。河童(かっぱ)たちは(ちい)さく、人間(にんげん)たちは(おお)きい。河童たちは()べなくても()きて()けるが、人間は、()に3()も食べるのだ。河童はスマホが使(つか)えない、人間はテレパシーが使えない。われわれは、お(かね)なんて()たこともない。だけど人間(にんげん)は、お金のあるなしが、人生(じんせい)まで左右(さゆう)するなんて()うじゃあないか。

統合(とうごう)されてから、調和(ちょうわ)できるまで、われわれ河童(かっぱ)はどうすればいいのだ 。具体的(ぐたいてき)になればなるほど、不安(ふあん)(ふく)らんで河童(かっぱ)たちの(あたま)()(めぐ)っている。


しばらくすると、(きり)(なか)から、()(とお)(こえ)がした。

心配(しんぱい)しててもキリがないわ。きっと(たの)しいこともあるでしょう。しっかり対策(たいさく)()って、万端(ばんたん)準備(じゅんび)をしましょう。」

「えっ ? 」

(こえ)()()った河童(かっぱ)たちは、一様(いちよう)に、(おどろ)いた。

てっきり「対馬(つしま)」だと、みんなが(おも)ったその(こえ)は、なんと、あの(おさな)くやんちゃな「さくら」だったのだ。いつも()(きず)だらけのさくらが、いつの()にか「少女(しょうじょ)」と()うにふさわしくなって、(うす)(きり)(なか)に、(すず)しい姿(すがた)()っていた。

「さくらさん、さくらさんなの !?

「この(たに)のリーダーは、代々(だいだい)『さくら』を名乗(なの)ることになっている。」(にじ)(たに)では、何百年(なんびゃくねん)もこう()(つた)えられてきた。

そして、(たに)での役割(やくわり)(おう)じて、身体年齢(しんたいねんれい)変化(へんか)するのだ。

しかし、もう(だれ)先代(せんだい)のリーダーを()たことがなく、さくらはずっと(おさな)いままで、(たに)河童(かっぱ)たちは、ただの御伽噺(おとぎばなし)(かん)(はじ)めていたところだったのだ。

小富士仙人(こふじせんにん)(たび)()(とき)対馬(つしま)小梅(こうめ)がさくらの世話係(せわがかり)()いつかったものの、自分(じぶん)たちは相応(そうおう)(とし)(かさ)ねてゆくのに、(とう)のさくらは、くったくない子供(こども)笑顔(えがお)で、しょうもない悪戯(わるさ)(くり)(かえ)すばかり。いっこうに成長(せいちょう)する気配(けはい)()えなかったのだ。

さくらの身体(からだ)変化(へんか)()づいた河童(かっぱ)たちが、さくらを連呼(れんこ)している。小梅(こうめ)(うれ)しさを(こら)えきれずに、(いの)(いわ)()()った。

大丈夫(だいじょうぶ)よ、みんな。さくらさんを()て。こんなことが()こるんですもの、人間界(にんげんかい)統合(とうごう)したって、きっと()()れるわ。さくらさん、心配(しんぱい)してたのよ、ね〜、みんな ? 」

「ワアーーーッ !」

さくらは、心持(こころも)(なが)くなった(あし)や、ちょっとだけ(ふく)らんだ(むね)を、自分(じぶん)(たし)かめて、()ずかしそうに両手(りょうて)(ほほ)()てて、(ちい)さな(こえ)()った。

「わたしも。」

「アッハッハ。さくらちゃん、自分(じぶん)でも心配(しんぱい)してたのかい ? そうは見えなかったなあ ! 」

(おお)いに(わら)って、河童(かっぱ)たちはいつもの陽気(ようき)さをやっと()(もど)した。

「さくらさん、成長(せいちょう)おめでとう。さあこちらへ ! ご挨拶(あいさつ)をしたら、統合(とうごう)()けて、さっそく万端(ばんたん)準備(じゅんび)()()かりましょう ! 」

対馬(つしま)(うなが)されたさくらは、()ずかしそうに、それでも堂々(どうどう)とした足取(あしど)りで、(いの)(いわ)(のぼ)った。

「みなさん、ありがとう。わたしね、さっき『決心(けっしん)』したのよ。人間界(にんげんかい)統合(とうごう)しても、わたしたち河童(かっぱ)は、これからもずっと(しあ)せな河童(かっぱ)たちであり(つづ)けるんだって。そしたらね、(あつ)いものが、お(なか)からもお(さら)からも、身体中(からだじゅう)(あふ)れてきたの。みんなが(こころ)をしっかり()めれば、(つぎ)にやることは、自然(しぜん)とわかって()()がするの。きっと大丈夫(だいじょうぶ)。」

今日(きょう)という()は、なんて素晴(すば)らしいのだろう。心配(しんぱい)していた悪戯(いたずら)()のさくらが(うつく)しい少女(しょうじょ)になって、(わか)いリーダーに(そだ)つべく、(いま)自分(じぶん)たちに『決心(けっしん)』が大切(たいせつ)だと(さと)している。さくらを見上(みあ)げる河童(かっぱ)たちの(むね)にも、ジーンと(ひび)(あつ)(なみ)がやって()た。

「みなさんがわたしのことを心配(しんぱい)しているのは()ってたの。でも、山桜(ヤマザクラ)が『(はな)は、()(あた)たってから()くものよ』って(なぐさ)めてくれたから・・・。わたしの身体(からだ)()わったのは、きっと()()らせ。わたしも大人(おとな)たちの会議(かいぎ)にしっかり参加(さんか)したいの。(ほか)子供(こども)たちも。よろしくお(ねが)いします。」
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登場人物紹介

虹の谷にやって来て630年。祈祷師の「対馬」ですの。いつも、あなたの幸せを祈っているわ ❤️

小梅よ。虹の谷の門番であるケンさんと結婚して、私も門番をやっているの。ワクワクドキドキ、お気に入りの仕事よ。

門番のケンだよー。虹の谷の異界から最近、人間界が見えるんだよ。どうなることやら・・・。顔だけで門番になったから、この仕事怖いんだよな。まあ、今は小梅が手伝ってくれるから良いけど。

さくらよー。虹の谷の女性リーダーは、代々「さくら」を名乗ることになっているの。将来は、虹の谷のリーダーになるんだけど、今は、まだ子供よ。

虹の谷一の物知りと言われているスーワだよ。多くの知識をフル活用して、この虹の谷の一大事を乗り越えていくんだ。楽しみにしててね!

サルタンだよー。河童たちに、何百年かぶりに、石碑の中から引っ張り出されたよ。人間時代は、仙人界に憧れていろいろ修行したんだけどね、本物の異界に住んでる河童たちと友達になるとは、思っても見なかったなあ。

ケトだよ。虹の谷は面白いよ。水浴びしたり、毎日、虫や鳥と遊んでる。スーワがパパで、ママはマンバ、お兄ちゃんはナトって言うんだ。ナトはすぐ、ひとりでどこか行っちゃうから、僕はいつもさくらちゃんと一緒にいるんだ。

平標山の仙人、たいらっぴょんじゃ。虹の谷には、小富士仙人という、えらい仙人がおるんだがの。旅に出たまま、ちっとも帰ってこんから、ワレが時々、虹の谷を見廻ることになってるんじゃが、子供たちが可愛くてなあ、けっこう楽しくやっておる。

小富士仙人。留守をたいらっぴょんに任せて、長いこと旅に出ていたんだが、やっと、物語の最後に間に合うように、帰ってこられたよ。

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