11. 秘密

文字数 6,404文字



対馬(つしま)がこぼす(なみだ)()て、(にじ)(たに)一大会議(いちだいかいぎ)広場(ひろば)は、(おどろ)きと戸惑(とまど)いで(おと)(うしな)っていた。

不意(ふい)(おとず)れた無音(むおん)空気(くうき)で、河童(かっぱ)たちの(こころ)に、(だれ)でも一度(いちど)(おそわ)われたことがあるだろう、究極(きゅうきょく)の「あの()い」が(しの)()ってきた。

自分(じぶん)(いま)、なぜ、(なん)のために、此処(ここ)にいるのだろう ?」

いつも理路整然(りろせいぜん)としているスーワの(あたま)(なか)さえも混乱(こんらん)した。なぜ自分(じぶん)は、()かれたように世界中(せかいじゅう)人間界(にんげんかい)歴史(れきし)調(しら)べているのだろう ? 記憶(きおく)にある(かぎ)り、ずっとそうなのだ。

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

沈黙(ちんもく)()えられなくなって、(おも)わず、(くち)(ひら)いてしまったのは「たいらっぴょん」だった。あてもなく、まじめにこの究極(きゅうきょく)()いに(こた)えようとすれば、たいていの(もの)(あたま)がおかしくなってしまうだろう。

「ワレから、(はな)そう。」

()たことのないたいらっぴょんの真顔(まがお)に、会場(かいじょう)沈黙(ちんもく)余計(よけい)()して、河童(かっぱ)たちの()()るような視線(しせん)が、たいらっぴょんに(むか)か っている。

地球(ちきゅう)には、(やま)ほどの神々(かみがみ)がおる。人間(にんげん)が、自然(しぜん)(かみ)(おそ)れたり、感謝(かんしゃ)しているうちは、まだ()かったのじゃ。人が増えて、集落が大きくなると、調子(ちょうし)()った人間(にんげん)たちは、神々(かみがみ)()をもって(たたか)ったんじゃ。(なが)(たたか)いの時代(じだい)だ。

そのぶん、神々(かみがみ)には、『後始末(あとしまつ)責任(せきにん)』がたっぷり(のこ)された。こじれた感情(かんじょう)民族(みんぞく)宗教(しゅうきょう)後継者争(こうけいしゃあらそ)い、(ひと)が人を支配(しはい)する仕組(しく)み。その後始末(あとしまつ)をする『神々(かみがみ)計画(けいかく)』ってもんがあるんだよ。(とき)()たんだ。」

()て、待ってくれ、たいらっぴよん。()ってもいいのかい ? それに()れちゃあなんない『(おきて)』があっただろ ? それに()れたら、永遠(えいえん)生命(いのち)()()げられるって。」

(おな)仙界(せんかい)目指(めざ)した(もの)として、サルタンが心配(しんぱい)になって忠告(ちゅうこく)した。

「いや、いいんだサルタン。神々(かみがみ)計画(けいかく)なんて、(うら)(おもて)もあるんだ。この平和(へいわ)(たに)河童(かっぱ)たちが、それを()らずに翻弄(ほんろう)されるのを、ワレは、()とうない 。」

サルタンは、(あき)れたように(くび)(よこ)()って、たいらっぴょんの()をじっと()た。

「わかったよ。そこまで()うなら、ワシも協力(きょうりょく)するよ。(ただ)(たの)しくやってくれ。アンタの真顔(まがお)は、こっちの調子(ちょうし)(くる)っちまう。」

「このお調子者(ちょうしもの)めがっ ! それが、おまえの修行(しゅぎょう)成就(じょうじゅ)せん理由(りゆう)だと、まだわからんかー ! 100年後(ねんご)、200年後、いや、仙人(せんにん)(こころざ)すなら、1000年後を見据(みす)えて、大真面目(おおまじめ)議論(ぎろん)するもんだ ! 」

「えっ、そう()るの ? 」

調子者(ちょうしもの)のように()えていた、たいらっぴょんが、お調子者だとサルタンを(しか)っている。失笑(しっしょう)()れている。大男(おおおとこ)のサルタンが(しか)られて、シュンとなる姿(すがた)可愛(かわ)いすぎる。こらえきれない(わら)いが(おお)きくなって、その()空気(くうき)がやっと(なご)んだ。


「さて。神々(かみがみ)計画(けいかく)について(はな)そう。」

(いの)(いわ)()った「たいらっぴょん」は、河童(かっぱ)たちのひとりひとりを()た。

「この(にじ)(たに)結界(けっかい)()ける。人間界(にんげんかい)()える、人間界からも河童(かっぱ)たちが()える・・・これは、神々(かみがみ)計画(けいかく)実施(じっし)(うつ)される合図(あいず)だ。」

(おび)えている河童(かっぱ)も、感慨深(かんがいぶか)そうに、(なみだ)()かべている河童もいる。

「まず、()っておこう。この(たに)には、(とお)いむかし人間界(にんげんかい)から()(もの)も、この谷で()まれた者もおる。この谷で生まれた者でさえ、先祖(せんぞ)はみな、人間界におったのだ。だから、人間界を(きらう)必要(ひつよう)も、(おそ)れる必要もない。自分(じぶん)遺伝子(いでんし)否定(ひてい)すれば、(だれ)(いじ)めていないのに、勝手(かって)自分(じぶん)(くる)しむでの。これも、苦しむ(もの)法則(ほうそく)じゃ。」

「さすが大仙人(だいせんにん)、たいらっぴょん(さま) ! 」

サルタンが(おお)きな拍手(はくしゅ)をして、また、たいらっぴょんに(にら)まれた。

「お追従(ついしょう)はいらんのだ ! 」

アッハッハッハッハー。
会場中(かいじょう)(おお)いに(わら)って、たいらっぴょんもいつもの愉快(ゆかい)仙人(せんにん)(もど)った。
ランララーン ! 
たいらっぴょんは、(たか)く上げた仙人棒(せんにんぼう)に、冷気(れいき)(あつ)め、ソフトクリームを(つく)ると子供(こども)たちに(くば)って「神々(かみがみ)計画(けいかく)(はじ)まり」を(うた)()せた。

「むかーし、むかし楽園(らくえん)に、アダムとイブが()んどった。」

大事(だいじ)な大事なふたつの秘密(ひみつ)。『知恵(ちえ)の秘密』と『生命(いのち)の秘密』。」

サルタンがたいらっぴょんに(つづ)けて(うた)うと、どうぞとスーワに()()()した。

「アダムとイブは『知恵(ちえ)秘密(ひみつ)』を()()して、(なが)い長い(たび)()た。(ひがし)()()は、ナーガとナーギ。(さら)(ひがし)へ、溥儀(ふぎ)とジョカ。いちばん(ひがし)()いたなら、ここ()(もと)のイザナギ、イザナミ。(ぜん)(あく)とを、(よう)(いん)とを、プラスとマイナスを、原因(げんいん)結果(けっか)をーーーー。『知恵(ちえ)種子(たね)』は朝日(あさひ)()かって、()かれて()った。」

たいらっぴょん「ああ、そうさ。だけど『生命(いのち)秘密(ひみつ)』はまだ秘密(ひみつ)。」


たいらっぴょん「むかーし、むかし。(とお)(いましめ)め。(かみ)はモーゼに()げたのさ。」

サルタン「わたしは奴隷(どれい)解放(かいほう)する(かみ)。あなたが(かみ)()んで()いのはわたしだけー。偶像(ぐうぞう)(つく)っちゃいけないよ。(かみ)名前(なまえ)気安(きやすく)()んじゃあいけないよ。」

河童(かっぱ)たち「ふむふむ。だけどなんでなの ? 」

たいらっぴょん「(かみ)は『()って()るもの』宇宙(うちゅう)理法(りほう)じゃ。偶像(ぐうぞう)(つく)れん、名前(なまえ)もないさ。」

河童たち「ふむ、ふむふむ。」

サルタン「これから、日曜日(にちようび)(やす)みだよー。この()は、(かみ)(おも)()してねー。」

小梅(こうめ)「まあ、日曜日(にちようび)(はたら)いてたの ? 」

サルタン「そうさ。(きみ)たちはもう、奴隷(どれい)じゃない。日曜日(にちようび)(やす)むんだー ! 」

たいらっぴょん「(とう)さん、(かあ)さん大事(だいじ)にするんだ。奴隷(どれい)()たちよ、もう(おう)のモノじゃあない。父母(ふぼ)(むね)(かえ)るんだ。」

サルタン「そしてー・・・・、(ころ)すなかれ。姦淫(かんいん)するなかれ、(ぬす)むなかれ、(うそ)をつくなかれー、だ。」

対馬(つしま)「そんなことする人たちが沢山(たくさん)いたってことかしら ? 」

サルタン「ピンポーン。王様(おうさま)けっこう自分勝手(じぶんかって)さ。人口増(じんこうふえ)えたら(ころ)しちまえ。よその(くに)から、(たから)(おんな)(はたけ)(うばっ)っちゃお !  (かみ)のお(かげ)()ちましたー ! 」

たいらっぴょん「(かみ)はそんなことしませんよー。ワッハッハ。勝手(かって)なのは、(おう)だけじゃあないんだよ。」

サルタン「ちょっとそこのお(ねえ)さん。(なが)睫毛(まつげ)一目惚(ひとめぼれ)れ。この髪飾(かみかざ)りは(きみ)のためにあるんだよ。」

たいらっぴょん「するとな。」

美子(みこ)さん「()ってー、(わたし)髪飾(かみかざ)りを(かえ)してちょうだい ! 」

アッハッハッハッハー。

たいらっぴょんが、(こえ)()として、ゆっくりと最後(さいご)のひとつを()った。人間界(にんげんかい)は、大抵(たいてい)ここから、(みち)(はず)して()たのだ。

「もひとつ大事(だいじ) ! (むさぼ)ることなかれ、欲張(よくば)っちゃあいけないよ。」

河童(かっぱ)たち「はーい。(むさぼ)ることなかれーーー! 」

みんなの(こえ)がハモったところで、たいらっぴょんが、オーケストラの指揮者(しきしゃ)のようなポーズで、(おと)()めた。


「これが『神々(かみがみ)計画(けいかく)』の発端(ほったん)じゃ。人間(にんげん)姿(すがた)をした神々(かみがみ)は、(もと)人間(にんげん)だったのじゃ。モーゼに(とお)(いまし)めを(あた)えたのも、そんな神々のひとりだ。『宇宙(うちゅう)理法(りほう)』はしゃべらんでの。この(かみ)は、有名(ゆうめい)な神ではなかったが、真面目(まじめ)で、(かしこ)くて、どうやったらこの(ころ)()い、(ぬす)()いだらけの人間の習慣(しゅうかん)(おわ)わりにできるか、いつも(かんが)えているような、(じょう)(あつ)(かみ)だったそうだ。奴隷(どれい)にされて、(おう)一存(いちぞん)(いのち)()たれる(もの)たちを()てな、義憤(ぎふん)()られて、つい()っちまったんだ。われが(たす)ける。この(かみ)世界中(せかいじゅう)人間界(にんげんかい)修復(しゅうふく)してやるぞー、って。」

「まあ、気概(きがい)あるステキな神さま《かみさま》だわ。」

こういう威勢(いせい)()さが、小梅(こうめ)大好(だいす)きなのだ。
河童(かっぱ)たちは、小梅とたいらっぴょんのやりとりに()き入った。

「ああ、そうとも。ただ人間(にんげん)自主的(じしゅてき)(まな)びを(おも)んじすぎるので、(なが)くてのう。計画(けいかく)(はじ)まって、3500(ねん)ほどになろうかの。」

「ねえ、その(あいだ)(かみ)さまは(なに)もしなかったの? 」

「いいや、唯一(ゆいいつ)(かみ)は『宇宙(うちゅう)理法(りほう)』と()ったじゃろ。モーゼに(とお)(いまし)めを(あた)えた(かみ)は、(かげ)から(みちび)いて『宇宙(うちゅう)理法(りほう)』を人間(にんげん)たちに(まな)ばせておる。つまり本当(ほんとう)の『(かみ)』を(まな)ばせておるのじゃ。科学(かがく)時代(じだい)()うてな。人間(にんげん)からなった神々(かみがみ)一緒(いっしょ)(まな)んどる。中途半端(ちゅうとはんぱ)だったからな。そうそう上手(うま)くはいかんで、長くかかっとるがの。」

「みんなが(わか)るには、(むずか)しすぎるんじゃあないの ? 」

「そうでもないさ。物質(ぶっしつ)はどう()()っているのか、(こころ)はどうなっているのか、(からだ)はどうなっているのか、地球(ちきゅう)はどうなっているのか、社会(しゃかい)はどうしたらうまくやっていけるのか、・・・。(むかし)は、(かぜ)だって神様(かみさま)じゃった。(いま)(かぜ)そのものを(まな)んどる。だけど『(あい)』だけだって、『(はな)』だけだって、『美貌(びぼう)』だけだっていいのさ。『(かみ)言葉(ことば)』だけを一生学(いっしょうまな)(ひと)もおる。ひとりひとつでいいんだ、普遍的(ふへんてき)なものを(さが)すんだよ。」

「ふーん。それが『知恵(ちえ)秘密(ひみつ)』なの ? 」

「ああ、どうやって(わか)らせようかという『(かみ)知恵(ちえ)』だよ、小梅(こうめ)さん。アダムとイブが()って()たのはヒントだけだ。(ぜん)(あく)(よう)(いん)、プラスとマイナス、原因(げんいん)結果(けっか)ーーーー。ふたつに()けて、両面(りょうめん)から(かんが)えると()かりがいいだろ。『その(かんが)(かた)』さ。あとは人間(にんげん)(かんが)えられるようになったんだよ。」

「なるほどー、その(かみ)さまはステキな教育者(きょういくしゃ)だわ。ねえ、たいらっぴょん(さま)(かんが)えると、ちょっと(むね)がキュキュンてなるの。(わたし)たちは、なぜ此処(ここ)にいるの ? 」

「『知恵(ちえ)時代(じだい)』はまもなく()わる。『生命(いのち)時代(じだい)』を(むか)えるためだ。」

「あーあー、たいらっぴょん、本当(ほんとう)()っちゃっていいんだな ? 」

サルタンは、まだたいらっぴょんの覚悟(かくご)危惧(きぐ)している。

「かまわんさ。」

みんながみんな、たいらっぴょんをジッと()た。

「と・う・ご・う・す・る・た・め・さ」

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登場人物紹介

虹の谷にやって来て630年。祈祷師の「対馬」ですの。いつも、あなたの幸せを祈っているわ ❤️

小梅よ。虹の谷の門番であるケンさんと結婚して、私も門番をやっているの。ワクワクドキドキ、お気に入りの仕事よ。

門番のケンだよー。虹の谷の異界から最近、人間界が見えるんだよ。どうなることやら・・・。顔だけで門番になったから、この仕事怖いんだよな。まあ、今は小梅が手伝ってくれるから良いけど。

さくらよー。虹の谷の女性リーダーは、代々「さくら」を名乗ることになっているの。将来は、虹の谷のリーダーになるんだけど、今は、まだ子供よ。

虹の谷一の物知りと言われているスーワだよ。多くの知識をフル活用して、この虹の谷の一大事を乗り越えていくんだ。楽しみにしててね!

サルタンだよー。河童たちに、何百年かぶりに、石碑の中から引っ張り出されたよ。人間時代は、仙人界に憧れていろいろ修行したんだけどね、本物の異界に住んでる河童たちと友達になるとは、思っても見なかったなあ。

ケトだよ。虹の谷は面白いよ。水浴びしたり、毎日、虫や鳥と遊んでる。スーワがパパで、ママはマンバ、お兄ちゃんはナトって言うんだ。ナトはすぐ、ひとりでどこか行っちゃうから、僕はいつもさくらちゃんと一緒にいるんだ。

平標山の仙人、たいらっぴょんじゃ。虹の谷には、小富士仙人という、えらい仙人がおるんだがの。旅に出たまま、ちっとも帰ってこんから、ワレが時々、虹の谷を見廻ることになってるんじゃが、子供たちが可愛くてなあ、けっこう楽しくやっておる。

小富士仙人。留守をたいらっぴょんに任せて、長いこと旅に出ていたんだが、やっと、物語の最後に間に合うように、帰ってこられたよ。

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