14. 伝心

文字数 4,600文字



河童(かっぱ)たちは、なんの武器(ぶき)()っていない。
労働(ろうどう)ということについては、その概念(がいねん)すらないのだ。人間界(にんげんかい)では、(なに)かの(とき)に「(はば)()かせる」と()う、「お(かね)」も、()たことがない・・・。税金(ぜいきん)なんて請求(せいきゅう)されたら、どうすりゃいいんだ ?

そこも()えて()かねばならない。(にじ)(たに)会議(かいぎ)は、トラツグミが()きだす(ころ)まで(つづ)いた。

(なが)時間(じかん)(つい)やして、予想(よそう)される問題(もんだい)一通(ひととお)りの(さく)(こう)()えると、サルタンが、人間界(にんげんかい)に、(なん)らかの書面(しょめん)(おく)っておこうと()いだした。人間と対面(たいめん)してから(はじ)めて「言葉(ことば)(つう)じない」とわかったのでは、お(はなし)にならないからだ。

たいらっぴょんが、何百年(なんびゃくねん)(まえ)記憶(きおく)辿(たど)って、言葉(ことば)()こし、スーワが、驚異的(きょういてき)知識力(ちしきりょく)で、現代(げんだい)(ぶん)現代(げんだい)文字(もじ)にまで(つく)()えて、小梅(こうめ)が、(ささ)()(たた)き、わらびの()っこを(のり)にして(かみ)()き、対馬(つしま)(すす)のインクで丁寧(ていねい)清書(せいしょ)した。

そして、ファーッと()安堵(あんど)のため(いき)同時(どおじ)に、(おそ)(ねむ)りについたのだった。

正体(しょうたい)なく(ねむ)った河童(かっぱ)たちも、()()(まえ)(さむ)さと(とり)(こえ)()こされて、会議(かいぎ)行方(ゆくえ)心配(しんぱい)したものたちも、ボチボチと(もど)ってきている。

広場(ひろば)(まえ)のたまりは、(あさ)水浴(すいよく)()河童(かっぱ)たちで、ちょうどいっぱいになったところだった。

「ああ、ひと仕事(しごと)()えた(あさ)水浴(みずあ)びは最高(さいこう)気持(きも)ちがいいねえ。」

(あん)(じょう)、ひときわ(おお)きい(みず)しぶきはサルタンだ。サルタンが(かお)(あら)うたび、()ってきた子河童(こがっぱ)たちが、(あたま)から(みず)(かぶ)って、(うれ)しそうにキャッキャ(さわ)いでいる。

()つけたっ。」

(はじ)めて大人(おとな)たちの会議(かいぎ)出席(しゅっせき)したケトは、ちょっと背伸(せの)びしたい気分(きぶん)でサルタンを(さが)していた。

(ゆう)べは、突然(とつぜん)別世界(べつせかい)()ってしまったようなさくらや、大人(おとな)河童(がっぱ)たちの真剣(しんけん)さに気圧(けお)されて、キョロキョロと()(うご)くばかりで、(こえ)()なかったケトだが、()()ますと、あることに()がついた。それをなんとしても、サルタンに()いて()しかったのだ。

「おお、ケトか。(ゆう)べはいい()だったな、お(つか)れさま。」

「ねえねえねえ、ねえ、サルタン。みんなが(つく)ってた、人間(にんげん)への「あの書面(しょめん)」て()うモノさあ。どうやって、人間(にんげん)(わた)すの ? 」

「うっ、うーん。」

「ねっ、ねっ、(わた)せないよねえ。まだ、人間(にんげん)はちゃんと()えないし、(おと)()こえない。」

「うっ、うーん。」

「ねっ、ねっ、(ぼく)(おも)いついたの。これって、いい質問(しつもん) ? すごい ? 大人(おとな)会議(かいぎ)()ってもいいこと ? 」

「うっ、うーん。こりゃまいったなあ。」

このやりとりは(とお)くまで()こえて、たちまちふたりは大勢(おおぜい)(かこ)まれた。

「そうだよなあ、ケト。」

(わた)(かた)()づかなかった大人(おとな)たちは、(ほか)になにも()えず、(のぼ)ったばかりの朝日(あさひ)()らした、ケトの(かお)だけが得意(とくい)そうだ。


クァータ、クァータ、クァータッ !

突然(とつぜん)独特(どくとく)(こえ)でけたたましくカラスが()いた。時折(ときおり)この(たに)にやって()使(つか)いのカラスだ。

カラスに(うなが)されて、一同(いちどう)見上(みあ)げたマナンタグラの中腹(ちゅうふく)には、一点(いってん)(ちい)さな(ひかり)があった。(のぼ)っていく朝日(あさひ)()びて山肌(やまはだ)金色(きんいろ)(かがや)きだすと、その(ひかり)もだんだんと(おお)きく(つよ)くなっていくではないか。

なにごとが()こったかと凝視(ぎょうし)する河童(かっぱ)たちの()が、(ひかり)()れてくると、(なか)(ひと)のシルエットが()えてきた。あーーっ、あの、八角蓮(はっかくれん)のような髪型(かみがた)には見覚(みおぼ)えがある。

小富士仙人(こふじせんにん) !」

「ここまでよくやったなあ。感心(かんしん)して()ていたぞ。」

(おお)きな威厳(いげん)ある(なつ)かしい(こえ)()こえて、小富士仙人(こふじせんにん)空中(くうちゅう)(すべ)るように()りてきた。

(おも)いもかけない出来事(できごと)に、(ゆう)べからの()()めていた(いと)()れたように、さくらがワーワー(おお)きな(こえ)と、大粒(おおつぶ)(なみだ)()()らして、()きついて()った。

書面(しょめん)は、わたしが(とど)けよう。」

さくらにもらい()きしたのか、小富士仙人(こふじせんにん)帰還(きかん)(うれ)しいのか、書面(しょめん)人間(にんげん)(とど)くことに安心(あんしん)したのか・・・・河童(かっぱ)たちは、こみ()げる気持(きも)ちを言葉(ことば)にできず、(かお)をくしゃくしゃにして何度(なんど)(うなず)いていた。

「みな、()決心(けっしん)した。(たい)したものだ。万端(ばんたん)準備(じゅんび)をするとは、えらかったぞ、さくら。万端(ばんたん)準備(じゅんび)は、すでに『成就(じょうじゅ)』みたいなものだ。」

対馬(つしま)がやっと(われ)()(もど)して、挨拶(あいさつ)(すすみ)()た。

小富士仙人(こふじせんにん)さま、お(かえ)りなさい。その()(まと)った(ひかり)は、修行(しゅぎょう)成就(じょうじゅ)したのですね。」

「ああ。対馬(つしま)よ、相変(あいか)わらず(かん)()いのう。そうだよ、わたしはどの周波帯(しゅうはたい)でも()()ができる。書面(しょめん)は、わたしが(とど)けよう。」

「おいおい、小富士仙人(こふじせんにん)。ずいぶん勿体(もったい)ぶった登場(とうじょう)じゃのう。しかしよくまあこんなに・・・ピッカピカになって・・ワレも(うれ)しいよ。おめでとう! 祝福(しゅくふく)じゃ ! 」

たいらっぴょんが仙人棒(せんにんぼう)水気(すいき)(あつ)めて()(まわ)すと、小富士仙人(こふじせんにん)(かがや)きに、(おう)きな(にじ)がかかった。小富士仙人の(たび)は、修行(しゅぎょう)だったのか・・・。河童(かっぱ)たちは、()たっきり(かえ)ってこなかった小富士仙人の旅の成功(せいこう)を、()(たた)大声(おおごえ)()げて祝福(しゅくふく)した。

(なが)いこと留守番(るすばん)ありがとう、たいらっぴょん。お(れい)に、おぬしに(なら)って『神々(かみがみ)計画(けいかく)』を()()るコツをちょっとだけ(おし)えよう。この(にじ)(たに)のモノが翻弄(ほんろう)されぬようにの。」

小富士仙人(こふじせんにん)披露(ひろう)した、たいらっぴょんの(くち)マネに、みな(わら)いながらも、ゴクッと(いき)()んだ。(おと)()こえるほどに。

「おいおい、そんなに心配(しんぱい)しなくも()いんだよ。()いか、本当(ほんとう)(かみ)は「宇宙(うちゅう)理法(りほう)」、われわれ生命体(せいめいたい)は、もともと宇宙(うちゅう)(ことわり)(なか)じゃ。そちらはなるようにしかならんし(さから)えん。」

小富士仙人(こふじせんにん)は、さくらの(あたま)(いとお)おしそうに()でた。大仙人(だいせんにん)昇格(しょうかく)した小富士仙人は、すぐまた神仙会(しんせんかい)(もど)らなければならない。(なつ)かしい河童(かっぱ)たちの(かお)を、ひとりひとり見回(みまわ)して、「(こころ)はいつも(つた)わっているから大丈夫(だいじょうぶ)だ。」と()(つた)えた。

(おぼ)えておくが()いぞ。」

人間(にんげん)河童(かっぱ)も、もともと、(おも)った(とお)りにしか、現実(げんじつ)(うご)いていないのだ。しかし、人間のほとんどは、思った通りにならないのが人生(じんせい)だと(おも)()んでいる。これから地球(ちきゅう)神々(かみがみ)計画(けいかく)で『(おもい)いと現実(げんじつ)』も統合(とうごう)される。もう(ウソ)もつけんし、他人(たにん)自分(じぶん)(だま)せない時代(じだい)()るのだ。自分が(おも)(えが)世界(せかい)が、現実(げんじつ)になるスピードはどんどん(はや)まるだろう。自分の()きる世界を、自分で(つく)り、自分で()きていくのじゃ。」

小富士仙人(こふじせんにん)は、対馬(つしま)から、人間宛(にんげんあて)の「書面(しょめん)」を()()ると、名残(なごり)()しそうに両手(りょうて)()げた。

(にじ)(たに)河童(かっぱ)たちよ、(おそ)れずに、十分(じゅうぶん)(たの)しい(ゆめ)を、(うつく)しい夢を()るが()いぞ。」

小富士仙人(こふじせんにん)は、(おお)きな(にじ)だけを(のこ)して、また()ってしまった。
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登場人物紹介

虹の谷にやって来て630年。祈祷師の「対馬」ですの。いつも、あなたの幸せを祈っているわ ❤️

小梅よ。虹の谷の門番であるケンさんと結婚して、私も門番をやっているの。ワクワクドキドキ、お気に入りの仕事よ。

門番のケンだよー。虹の谷の異界から最近、人間界が見えるんだよ。どうなることやら・・・。顔だけで門番になったから、この仕事怖いんだよな。まあ、今は小梅が手伝ってくれるから良いけど。

さくらよー。虹の谷の女性リーダーは、代々「さくら」を名乗ることになっているの。将来は、虹の谷のリーダーになるんだけど、今は、まだ子供よ。

虹の谷一の物知りと言われているスーワだよ。多くの知識をフル活用して、この虹の谷の一大事を乗り越えていくんだ。楽しみにしててね!

サルタンだよー。河童たちに、何百年かぶりに、石碑の中から引っ張り出されたよ。人間時代は、仙人界に憧れていろいろ修行したんだけどね、本物の異界に住んでる河童たちと友達になるとは、思っても見なかったなあ。

ケトだよ。虹の谷は面白いよ。水浴びしたり、毎日、虫や鳥と遊んでる。スーワがパパで、ママはマンバ、お兄ちゃんはナトって言うんだ。ナトはすぐ、ひとりでどこか行っちゃうから、僕はいつもさくらちゃんと一緒にいるんだ。

平標山の仙人、たいらっぴょんじゃ。虹の谷には、小富士仙人という、えらい仙人がおるんだがの。旅に出たまま、ちっとも帰ってこんから、ワレが時々、虹の谷を見廻ることになってるんじゃが、子供たちが可愛くてなあ、けっこう楽しくやっておる。

小富士仙人。留守をたいらっぴょんに任せて、長いこと旅に出ていたんだが、やっと、物語の最後に間に合うように、帰ってこられたよ。

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