5. 船の道

文字数 3,128文字



(ふね)には「(ふね)(みち)」がある。

(てん)には「(てん)(みち)」がある。北緯34度27分。

北緯34度27分、
対馬(つしま)一族(いちぞく)が、(くに)()われ商人(しょうにん)()()み、この(しま)にやってきた(ふね)(みち)だ。

それは「天帝(てんてい)」がしろしめす(みち)でもあった。「(あめ)御中主(みなかぬし)(てん)()(なか)(かがや)ける北極星(ほっきょくせい)のことだ。天帝(てんてい)()ばれるこの(ほし)目印(めじるし)となって、(ふね)(まよ)いなく(すす)んだ。
そして、緯度(いど)()()ぐに(むす)んだこの(みち)が、(とき)(たが)えて出航(しゅっこう)した同族(どうぞく)たちが()(まち)に、確実(かくじつ)(みちび)いてくれるのだ。

対馬(つしま)は今、この(しま)を出る。一緒(いっしょ)()らした島民(とうみん)半分(はんぶん)はこの島に(のこ)ることになる。

(わか)れの挨拶(あいさつ)は、(みなと)高台(たかだい)、北緯34度27分、わたつみの(やしろ)

朝廷(ちょうてい)劣勢(れっせい)()たされているとは言え、対馬(つしま)の一族を(はこ)定期船(ていきせん)は、同じようにやって来る。川を(さかのぼ)って(あきな)いに出る島の(ふね)に、()()()えて、何ごとも()かったように、対馬たちをを乗せて出航(しゅっこう)するだろう。

対馬(つしま)(わか)れる(うみ)見渡(みわた)して、琵琶(びわ)()き、西(にし)(うみ)からやってきたという先祖(せんぞ)(つた)えた(うた)を、唄った。


『 (ねむ)れぬ仙人(せんにん)(ほし)を見た。

天地(てんち)をつなぐ、スーザンの(いわ)で、(いただき)で。
三国中(さんごくじゅう)から学人(がくと)ぜんぶを、かき(あつ)め、(あたま)(ひね)った。

(たたか)いはもう、たくさんだ。
人にも(しず)かな、あの()(とお)(かがや)きを。

天地未(てんちいま)(わか)れず。

さあ、大地(だいち)(はか)ろう、(てん)のものさしで。
さあ、(くに)(つく)ろう、(ほし)(なら)って。
 
あの(ほし)だけが、(わたし)たちの「みかど」。
(もと)(つづ)けるのは、(てん)(ことわり)

あなたは(ひがし)()きなさい。

北緯34度27分。
さあ、中原(ちゅうげん)()でよ。
三国一(さんごくいち)(おし)えをもって。
(むす)ばれワイガの河口(かこう)から。

北緯34度27分。
半島(はんとう)(はな)()いたなら、(てん)(まる)くて、()四角(しかく)。大きな(つか)(しる)しなさい。

北緯34度27分。 
小島(こじま)(みなと)()いたなら、浜石高(はまいしたか)く、()()げて。(たず)ねられたら「(てん)(みち)」だと(こた)えなさい。

北緯34度27分。
わたしはあなた、めぐり(うた)
あなたはわたし、もどり(うた)
国産(くにう)みの(おや)「あ・わ」なる(みち)()びなさい。
綿積(わたつ)み、麻積(あさつ)み、(きぬ)()み、さあ、()をかけ(いで)よ。 』


そして対馬(つしま)は、(はま)(つく)られた「(てん)(みち)しるべ」の石積(いしず)みに、(わか)れの石をひとつのせた。
対馬は(みずか)ら、(むね)(そこ)(しず)めたままだった、あの日の(せつ)なさの(かたまり)(いま)、その手ですくい()げて、安堵(あんど)とも、開放(かいほう)とも言える(なみだ)(なが)したのだった。


もう大丈夫(だいじょうぶ)(わたし)はもう祈祷師(きとうし)(むすめ)であることも(こわ)くない。「(にじ)(たに)」の一大事(いちだいじ)はきっと()り切れる。

「あの日(わたし)は、(むね)(つぶ)れるほど、(さび)しかったけれど、ホントはワクワクもしていたのよ。だって(しま)から出たことが()かったんですもの。新しい世界(せかい)()()むんですもの。・・・・この(たび)(はなし)は、虹の谷のみんなにも、いつか()かせてあげたいわ。」

(いの)(いわ)の上の対馬(つしま)は、一旦(いったん)結跏趺坐(けっかふざ)姿勢(しせい)()いた。


今度(こんど)は「小富士仙人(こふじせんにん)」を(さが)すのよ。お(おねが)い、(こた)えて頂戴(ちょうだい)。」

対馬(つしま)は、長く白い(ころも)()た「小富士仙人(こふじせんにん)」を(なつか)かしく思い出した。私たちの「虹の谷」が、こんな大変(たいへん)(とき)に、いったい何処(どこ)(たび)しているって()うの ?

そして仙人(せんにん)の、あの(つつ)()まれるようなおおらかな波動(はどう)(さがし)し出して、()びかけた。瞑想(めいそう)の中なら、こんなテレパシーみたいなことも容易(ようい)にできるのだが、対馬(つしま)は、一度も(ため)したことがなかった。しかし、今はこれしか方法(ほうほう)がない。

小富士仙人(こふじせんにん)何処(どこ)にいらっしゃるの ?」

応答(おうとう)はびっくりするほど、すぐにあった。つぶった目の裏に、小富士仙人がテレビ電話(でんわ)のように()かび上がってきた。

「お(ひさ)しぶりだ、対馬(つしま)。ここだよ、ここだ。」

小富士仙人(こふじせんにん)は、富士山(ふじさん)()た。
富士山(ふじさん)特別(とくべつ)な山なのは、人間界(にんげんかい)仙人界(せんにんかい)も同じで、毎日(まいにち)、多くの仙人(せんにん)(おとず)れるので、(いそが)しくて、なかなか(かえ)れないのだと言う。
それにしたって長旅(ながたび)すぎる。
だいたい、こんなにすぐ連絡(れんらく)()れるのなら、時々相談(そうだん)()ってもらっていれば良かった、と後悔(こうかい)しながら、対馬は、今日(きょう)の「一大事(いちだいじ)」についての報告(ほうこく)をし、助言(じょげん)(もと)めた。
小富士仙人(こふじせんにん)は、うんうんと()いて、(おどろ)(ふう)でも、(あわ)てる ふうでもなく、淡々(たんたん)対馬(つしま)質問(しつもん)(こた)えた。そして、最後(さいご)にこう言った。

相変(あいかわ)わらず、お(じょう)さんだなあ。あっはっは。何を見ても、まあ、うろたえずにやりなさい。」

「もうー、(たよ)りになるのかしら、ならないのかしら ?」

小梅(こうめ)たちは、もう三の()がりに(あつ)まっているだろう。対馬(つしま)は、(いそ)いで(いの)(いわ)から()()りた。


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登場人物紹介

虹の谷にやって来て630年。祈祷師の「対馬」ですの。いつも、あなたの幸せを祈っているわ ❤️

小梅よ。虹の谷の門番であるケンさんと結婚して、私も門番をやっているの。ワクワクドキドキ、お気に入りの仕事よ。

門番のケンだよー。虹の谷の異界から最近、人間界が見えるんだよ。どうなることやら・・・。顔だけで門番になったから、この仕事怖いんだよな。まあ、今は小梅が手伝ってくれるから良いけど。

さくらよー。虹の谷の女性リーダーは、代々「さくら」を名乗ることになっているの。将来は、虹の谷のリーダーになるんだけど、今は、まだ子供よ。

虹の谷一の物知りと言われているスーワだよ。多くの知識をフル活用して、この虹の谷の一大事を乗り越えていくんだ。楽しみにしててね!

サルタンだよー。河童たちに、何百年かぶりに、石碑の中から引っ張り出されたよ。人間時代は、仙人界に憧れていろいろ修行したんだけどね、本物の異界に住んでる河童たちと友達になるとは、思っても見なかったなあ。

ケトだよ。虹の谷は面白いよ。水浴びしたり、毎日、虫や鳥と遊んでる。スーワがパパで、ママはマンバ、お兄ちゃんはナトって言うんだ。ナトはすぐ、ひとりでどこか行っちゃうから、僕はいつもさくらちゃんと一緒にいるんだ。

平標山の仙人、たいらっぴょんじゃ。虹の谷には、小富士仙人という、えらい仙人がおるんだがの。旅に出たまま、ちっとも帰ってこんから、ワレが時々、虹の谷を見廻ることになってるんじゃが、子供たちが可愛くてなあ、けっこう楽しくやっておる。

小富士仙人。留守をたいらっぴょんに任せて、長いこと旅に出ていたんだが、やっと、物語の最後に間に合うように、帰ってこられたよ。

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