7. 道祖神

文字数 3,287文字



道祖神(どうそじん)」は、あっけないほど簡単(かんたん)()り出せた。

四人が(いそ)いで()かった四の()がりで、(なら)んだ石碑(せきひ)(うしろ)(さか)(ころ)がっていたのだ。(にじ)(たに)深雪(ふかゆき)()され(ころ)()ちて、何年分(なんねんぶん)()もった()()の中に、(もぐ)ってしまったのだろう。
なるほど、人間界(にんげんかい)区長(くちょう)記録(きろく)(どお)り、他の場所(ばしょ)から(あつ)められたと言う石碑(せきひ)たちは、(なん)となくよそよそしく一列(いちれつ)(なら)んでいた。

道祖神(どうそじん)さま、さくらがなでなでしてあげるね、()っこっちゃって()かなかった ? スーワさん、神様(かみさま)って、みんなを(たす)けてあげるのに助けてもらえないなんて、ちょっとかわいそうじゃない ?」

対馬(つしま)は対馬で、先祖(せんぞ)大陸(たいりく)から(わた)ってきたのを思い出したばかりだ。スーワから、道祖神(どうそじん)は、先祖(せんぞ)と同じように大陸から、道中安全(どうちゅうあんぜん)の神として(わた)ってきたと聞いて、(みょう)親近感(しんきんかん)()いていた。

人間(にんげん)たちが、仙人(せんにん)(うらな)いばかりを(たよ)らずに、自立すると()めたら、結界(けっかい)自然(しぜん)()けるのだという。(たし)かに、かつては大切(たいせつ)にされたであろう道祖神(どうそじん)が、こんなふうに()まっているのだから、今の人間たちが、ちっとも(たよ)っちゃいないのは間違(まちが)いない。苦笑(にがわら)いだ。



結界(けっかい)は、ここに()ることにしましょう !」

予定(よてい)より、一段下(いちだんした)()がりなので、人間(にんげん)たちは、いよいよ(ちか)い。さくらは、(はじ)めて見る本物(ほんもの)迫力(はくりょく)(おどろ)いて、スーワの(うしろ)にしがみついた。人間たちは、河童(かっぱ)たちの3(ばい)ほども大きくて、ふたつ下の()がりを、のっそのっそと(おも)たそうに(ある)いている。

道祖神(どうそじん)」は、水かきがついた河童(かっぱ)たちの手で、表面(ひょうめん)(ぬぐ)われて、垂直(すいちょく)()(なお)された。

異界(いかい)のモノと、人間たちの(ちがい)いは、自然界(しぜんかい)とどれだけ近いバイブレーションで()きているかーーー、ただそれだけだ。異界(いかい)のモノたちは、石のことを思いやるだけですぐに同調(どうちょう)できる。きっとこの人数(にんずう)が「共振(きょうしん)」すれば、水晶玉(すいしょうだま)道祖神(どうそじん)(いし)のパワーが、異界(いかい)周波数(しゅうはすう)(きざ)んで、この(たに)をもう一度(いちど)(おお)ってくれるに(ちが)いない。

対馬(つしま)は大きな呼吸(こきゅう)をひとつして、ゆっくりと3回なでた水晶玉(すいしょうだま)を、道祖神(どうそじん)の前に置き、今度(こんど)は、道祖神ごとぎゅーーーっとした。

水晶(すいしょう)さん、お(ねが)い !」

一瞬(いっしゅん)きらめいた水晶玉(すいしょうだま)(ひかり)が、(ふる)びた(こけ)だらけの道祖神(どうそじん)をフワーっと(つつ)んだ。

「ワーーーーっ、また()ただよー。」

今度(こんど)はまるで、アラジンの魔法(まほう)のランプのように、怪物(かいぶつ)が出てきて、怪物の(ほう)から(たず)ねてきたのだ。

「うー〜ーん、あんたたちは、(だれ)だっけね。」

ケンさんが(こわ)がって、物見(ものみ)(すぎ)()()った。

「私は対馬(つしま)。この(にじ)(たに)祈祷師(きとうし)ですの、無礼(ぶれい)(ゆる)しを。もしかして、あなたは小富士仙人(こふじせんにん)やトト神仙人(かみせんにん)から、この(たに)結界番(けっかいばん)()いつかっていませんでしたか?」

「ああーー、いかにも。」

怪物(かいぶつ)は、昼寝(ひるね)最中(さいちゅう)だったんだぞ、とでも言いたげに(ねむ)たそうだ。

車社会(くるましゃかい)になった人間(にんげん)たちは、路傍(ろぼう)石碑(せきひ)に「ありがとう」とも「よろしく」とも、(こえ)をかけはしないだろう。そして、河童(かっぱ)たちはどうかと言えば、この道祖神(どうそじん)が、自分たちの谷の結界番(けっかいばん)をして、(まも)ってくれていたなどと、これっぽっちも()らなかったのだ。ひとり()()(した)にいたのでは、(ねむ)くなってしまうのは、いたし(かた)ない。対馬(つしま)(すく)なからず、この怪物(かいぶつ)のような「道祖神(どうそじん)」に同情(どうじょう)した。

「あれをご(ごらん)くださいまし。」

道祖神(どうそじん)自身(じしん)は、もともと人間(にんげん)河童(かっぱ)も見えるのだが、ただならぬ形相(ぎょうそう)でやってくる大勢(おおぜい)の人間を見て、(あか)い目をパチクリさせた。

「そうなのです。近年(きんねん)、この(たに)異界(いかい)人間界(にんげんかい)が、(みょう)(ちか)づいてきております。このままでは、いずれ人間にも私たちの姿(すがた)が見えるようになるでしょう。この虹の谷の面々(めんめん)が、()対策(たいさく)()れるまで、(しば)しの(あいだ)、むかし小富士仙人様(こふじせんにんさま)たちが()られた結界(けっかい)を、もとのレベルまで(つよ)めていただきとう(ぞん)じます。」

人間(にんげん)たちは、もうすぐそこで、これ以上(いじょう)説明(せつめい)する時間(じかん)がない。

御免(ごめん) ! 」

対馬(つしま)は、有無(うむ)()わさず、怪物(かいぶつ)(あたま)をゆっくり3(かい)なでて、水晶玉(すいしょうだま)と、道祖神(どうそじん)と、道祖神から出てきた怪物(かいぶつ)を、一緒(いっしょ)にぎゅぎゅーーっと()きしめた。ケンさんが物見(もの)(すぎ)から()()りて、スーワが、小梅(こうめ)が、さくらが・・・・対馬の(あたま)を3(かい)なでて、渾身(こんしん)(ちから)()めて、ぎゅぎゅーっとした。

「わっわっわーーーーーっ。」

(おど)ろいた怪物(かいぶつ)(こえ)同時(どうじ)に、キラキラと(ひか)る、大きな虹色(にじ)(まく)谷中(たにじゅう)にひろがっていく。

そして、谷中(たにじゅう)()めきった虹色(にじいろ)がスッーと()えると、そこは(かわ)のせせらぎと(とり)(こえ)だけが()こえる、(しず)かで(うつく)しい(むかし)ながらの、自分(じぶん)たち河童(かっぱ)()む、いつもの(たに)だ。

()(かえ)ると、もう目を()らしても、オブラートの(うす)さほどにも()えない人間たちが、目の前をのっそのっそと(とお)()ぎて行った。()()ばされた怪物(かいぶつ)は、(すぎ)の木に()っかかって目を(まわ)している。いずれこの怪物も、「(にじ)(たに)」の友人(ゆうじん)になるのだろう。


ーーー結界(けっかい)()られた。たぶん。
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登場人物紹介

虹の谷にやって来て630年。祈祷師の「対馬」ですの。いつも、あなたの幸せを祈っているわ ❤️

小梅よ。虹の谷の門番であるケンさんと結婚して、私も門番をやっているの。ワクワクドキドキ、お気に入りの仕事よ。

門番のケンだよー。虹の谷の異界から最近、人間界が見えるんだよ。どうなることやら・・・。顔だけで門番になったから、この仕事怖いんだよな。まあ、今は小梅が手伝ってくれるから良いけど。

さくらよー。虹の谷の女性リーダーは、代々「さくら」を名乗ることになっているの。将来は、虹の谷のリーダーになるんだけど、今は、まだ子供よ。

虹の谷一の物知りと言われているスーワだよ。多くの知識をフル活用して、この虹の谷の一大事を乗り越えていくんだ。楽しみにしててね!

サルタンだよー。河童たちに、何百年かぶりに、石碑の中から引っ張り出されたよ。人間時代は、仙人界に憧れていろいろ修行したんだけどね、本物の異界に住んでる河童たちと友達になるとは、思っても見なかったなあ。

ケトだよ。虹の谷は面白いよ。水浴びしたり、毎日、虫や鳥と遊んでる。スーワがパパで、ママはマンバ、お兄ちゃんはナトって言うんだ。ナトはすぐ、ひとりでどこか行っちゃうから、僕はいつもさくらちゃんと一緒にいるんだ。

平標山の仙人、たいらっぴょんじゃ。虹の谷には、小富士仙人という、えらい仙人がおるんだがの。旅に出たまま、ちっとも帰ってこんから、ワレが時々、虹の谷を見廻ることになってるんじゃが、子供たちが可愛くてなあ、けっこう楽しくやっておる。

小富士仙人。留守をたいらっぴょんに任せて、長いこと旅に出ていたんだが、やっと、物語の最後に間に合うように、帰ってこられたよ。

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