赤い林檎

文字数 3,020文字

ううん、むにゃむにゃ。

ふわーあ。

よく寝た。

さあ、今日もガンバロー!

フフ、いつも薫の肌はすべすべだなあ。

ユーリィ、私、今日は早起きなのよ?

そんなに死にたかったの?

ボウガンをしまって、茜!

さあさあ、授業に行こうよ!


キンコンカーンと予鈴が鳴る。

僕らは部屋を出て、教室へと向かった。


みんな、オハヨー!

授業の前に嬉しいお知らせよ。

なんとなんと、今日。新たに一組。

カップルが誕生したのです!

百合ちゃん、リーシャちゃん、オメデトウ!

二人の女子生徒が頬を赤らめながら教壇の前に出る。

以前から噂のあった二人で、お互いをパートナーだと認め合った女子同士の確かな自信と信頼に溢れた目でお互いを見つめている。

一方、その二人と相部屋だったはずの女子生徒は沈痛な表情で二人を見つめている様子が胸に刺さった。

百合という女子生徒は、「私たち、晴れて結ばれることになりました!」と笑みを浮かべ、リーシャの方も微笑んで「みんな、これからもよろしくね!」と自信たっぷりに言う。

クラス中から祝福の拍手が起きる。

同時に、

ゴーーン。

ゴーーン。と晴れやかな鐘の音が学園中に鳴り響いていた。

祝福の鐘

カップルが出来たことを全生徒に知らせるための鐘だ。

あの二人は、前から公認の仲だったものね。

……やっぱりいいわね。私もそういう人と一緒になりたいな……!

ねえ、薫?

うん……

もちろん、薫の運命の人は俺でしょ!


あれ、どうしたの? 浮かない顔で。

だってさ……選ばれなかった方は、別校舎に移動することになるんだよ……?

なんだか、可哀そうだよ……

さあ、みんなも二人に負けないように、恋に勉強に頑張ろうね!

……さあ、由紀ちゃんも元気を出して!

由紀ちゃんには、新たな校舎で新たな出会いがあるわ!

先生、一生応援するからね!

……

はい……そうですよね。

百合、リーシャ……私は今日でお別れだけど、二人とも頑張ってね!

百合とリーシャは涙ぐみながら、「私たち三人、ずっと一緒よ」と由紀という女子生徒の元へ行き、三人で抱きしめあっている。

その感動的な光景に、もらい泣きする生徒も続出している。

さて、二人のカップルができた記念に、今日のお昼は久々にを食べましょう!

やったあ!


一か月ぶりの肉だ!


これなら、ガンガンカップリングしていって欲しいよ。

そうよね。

主よ、お恵みに感謝いたします……


ほらほら、薫もそんなに悲しんでばっかいないで、まず自分が楽しまないとさ。

由紀は美人だし、きっと新しい校舎で恋人が見つかるわよ。

そうだね……

そして、昼時が来る。

食事当番の生徒たちが、普段畑で育てている麦から作ったパンを並べてくれる。

そして、先生ロボがお待ちかねの鳥肉を持ってくる。

調理師免許を持つ先生ロボによる鶏肉のムニエルには、特製のソースがかけられており、湯気がもうもうと立っていて食欲をそそる。

さあさ、召し上がれ~

ほらー、薫くん。ぼやっとしてると、先生が食べちゃうよー。

はーい。

いただきまーす!

モグモグ。美味しい~。

いと慈悲深き主よ、自然のお恵みに感謝いたします。

はー、美味しい!

どうせ全部胃の中に収まるのに、なんでイチイチ感謝してるのさ。
全てのお恵みは主のおかげよ。
一神教ってどこか危なっかしいイメージがあるんだよね。無神論の俺からするとさ。
ユーリィ、昔の日本はほとんどがあなたのように無神論だったそうよ。その代わり、「会社」と「お金」この二つに従僕して、大半の人が奴隷制度さながらに働いていたの。産業革命が起きようが、IT革命が起きようが、どれだけ便利になろうが、ひたすら会社からの高い評価とお金、この二つのために奴隷のように働いていたの。
古代ローマ時代の兵士の週労働時間は100時間・・・けれど、2000年代の日本人は120時間働いていたの。きっと、彼らは自分に自信がなかったのよ。だから、会社や上司からの評価がないと、自分を支えられないの。私のように主からの加護を感じていれば、会社や他人に隷属する必要なんて無いもの。
今はお金なんて無いし、企業もない。みんなでのんびり畑を耕しながら暮らしているだけだから、隷属させられる心配なんて無いさ。
それに、一神教同士の対立からのテロ抗争が、第四次世界大戦の引き金になったはずなんじゃないかな?

……なんですって、ユーリィ。もう一度言ってみなさい。

主が大戦を引き起こしたとでも言いたいの?

ああ、何度でも言うね。一神教なんて、争いの元になるだけさ・・・なあ、薫はどう思う?

モグモグ。

ムグウウウウンン。ウググ!?

モグモグ!

ゴクゴクリ。

ぷはあっ!

あー、美味しかった!

ごちそうさまでした!

あれ? どーしたの、二人とも?

プ・・・クスクス。アハハ。

いえ、私も食べるわね。

折角の恵みの日に喧嘩しててバカみたいだわ。

いただきまーす。

全く、羨ましいよね、天然系はさ……いっつもお気楽で。

さー、みんな。お肉食べ終わったかなー?

じゃあ、お片付けしましょうね。

今週のお片付け当番は、薫くんとユーリィ君だったね!

じゃあ、みんなは教室で、由紀ちゃんとの最後のお別れ会の準備をしましょう!

薫君とユーリィ君は、きちんと全部を倉庫にしまっといてね。

はーい。行こうよ、ユーリィ。
ユーリィ、変なことしたらボウガンが狙ってるからね。

人を、色情魔みたいに・・・

いくらなんでも、由紀のお別れの日にそんなことしないよ。さあ、薫。さっさと済ませよう。

みんな……ありがとうね。私、このクラスのこと一生忘れないから!

僕とユーリィは、食堂の皿を持って倉庫へと向かっていた。

基本的にこの学園で使ったものは、全部その日の内にここにしまうことになっている。

真っ暗!

さて、ここに置いて・・・と。

ユーリィも……

隙アリ!

うわっ、ちょ……ダメだよ!

ああっ、どうしていっつも……!

ムフフ回が無いとつまらないだろう?

ほれほれ、薫のすべすべの太もも。

い、いっつも無理やりこういうシーンになってるよ!

……ああん。

あ・・・だ、ダメっ!

ムフフ。

ワキに太ももにまさぐりまさぐり……さて、ひとしきり薫の体を触った所でと。ねえ、薫。

そろそろ教えて欲しいな。

俺と茜のどっちが好きなの?

ええっ、そんな急に……!

そんなの……だ、だって選んだらどっちかとはお別れなんだよ!?

僕ら、十五年もずっと一緒なのに……

そんなのイヤだよ……!

けど……ずうっと、三人とも仲良しじゃいれないんだよ?

そうかもしれない……

けど、僕はずっと一緒でいたいもん。

三人でずうっと一緒に……

……

そっか。分かった分かった。あまりいじめるのはよそう。

というより、ここに来た真の目的を話すよ。

えっ、目的って何……?

由紀のお別れ会で先生の注意を引いてる間に学園の秘密を探ることさ。

夕べ取ってきたLGBT計画ファイルの続きを探りたい。

あ、そーいうことだったのか……

アハハ、僕さっきのも本気にしちゃったよ。

ユーリィは演技が上手いなあ。

……

ほんとに、天然でイヤになるよ。

まあいっか。さて、職員室にでも行くとするかな。

まだ、先生以外は誰も入ったことないんだから。

う、うん。そうだね。

俺は疑問に思うことがあったんだ。

そもそも、なんでここ……俺と薫しか男がいないの? ってね

別校舎に移ったんだ、って聞かされてたけど、確かに変だよね。

それと……そもそももう一つ思うことがある。

俺の考えが間違ってればいいんだけどね。

ユーリィは一息ついてから言った。

そもそも別校舎なんてほんとにあるのか……?

由紀はほんとに別校舎に移されるのかってこと……

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登場人物紹介

薫。

少しおどおどした性格だが、実は芯の強さを内に秘めている。最近、ユーリィからのイタズラに困りながらも、内心で期待してしまっている自分も感じている。同時に、隣で見守っている茜のことも気になっており・・・?

茜、十六歳の美少女。

薫に手を出そうとするユーリィを戒めるのが自分の務めだと思っている。

薫に対しては「お姉ちゃん」と自称するが兄妹ではない。

ユーリィ。十五歳でロシア人とのハーフ。

ひたすら薫に抱きつき、なんとか自分のものにしようとしている。

勉強も体育も学年一位。

しかし同時に、この世界に大人がいないことに違和感も覚えている。

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