禁止区域1

文字数 2,147文字

ふうふう。

山の風が気持ちいいね。

三人でピクニックなんて、久しぶりだね!

僕たちは、授業の終わりに学園を抜け出してきた。

この学園は周囲一帯を白い壁で囲んでいる。

「外部から危険な者が入ってこないように」と言い聞かされているけど、まるで僕らを閉じ込めているみたいに感じる時もある。

目的、忘れるなよ薫。

禁止区域を調べるために来たんだぜ?

けど、禁止区域を調べるといっても、侵入したら先生に連れ戻されちゃうんでしょ……?

第四時世界大戦では、危険な化学兵器がいっぱい使われて、今でも毒ガスが充満しているとか……

だから、あんな大きな壁で囲ってくれているんでしょう?

本当にそうなるのかは、まだ分からない。誰も試したこと無いんだからさ。

あっ、吊り橋だ!

大丈夫かな……?

風で軋んでるけど……

吊り橋……そうだ、薫。

一緒に渡ろうよ!

ほらほら、手を繋いで。


私とこの特殊ボウガンを忘れたの……?

あんた、吊り橋効果を狙ってるわね?


わわっ、茜!

吊り橋の上で出会った男女は、お互いの心拍数の上昇を恋愛感情だと錯覚してしまうという……

ユーリィはゲイだから、男同士でもその効果があると思ったようだけど、そうはいかないわよ。

吊り橋効果なんて卑怯よ!

さあ、薫。お姉ちゃんと一緒に行きましょうね。

ちっ、知ってたか。茜。

さあ、細い吊り橋だから気をつけてね。

お姉ちゃんの手を握って。

んもう。

そんな小さい子供じゃないんだから平気だよ!

よっと。

大体、高い所が苦手なのは茜でしょう?

まさか。

お姉ちゃんはとっくに克服してるわよ。


ギシギシリと軋む吊り橋。

さらに、夕暮れも近く、谷から風も強く吹いてきている。

あ、あら?

結構、高い……け、結構揺れる。

きゃわっ!?

か、風が!

きゃわわわ!

あ、茜! そんなにしがみついたら危ないよっ。

うわわっ。

(茜の胸があたって……)

だ、ダメだよっ。そんなにしたら……

ああっ!

大丈夫よ、お姉ちゃんがついてるからね!

さあ、一緒に……!

きゃあああ! 風が、揺れる! 落ちる!

主よ、薫だけでもお守りください!

そんなにくっついたら、あぶないよっ。

(それに茜の胸がくっついて、なんだかドキドキしちゃう……)
ほ、ほらほら。もう着くよ。はあはあ……あー、怖かった!

僕と茜は必死の思いで吊り橋を渡り切った。二人して地面に倒れこんでしまう。

はあはあ、だ、大丈夫だった?

お姉ちゃんがついているからね。

(う……まだ、ドキドキが収まらない)

う、うん。

(じとーっ)
な、なーによユーリィ。そのじとーっとした視線は!?
フン、わざとらしい。「吊り橋効果は卑怯」なんて、よく言えたもんだね。

わ、わざとじゃないわよ!

あんたと一緒にしないで!

まあまあ、落ち着いて!

さあ、そろそろ守護壁だよ。

僕らはあの壁の向こう側を目指してるんだから。

高さ三十メートル。

分厚くそびえ立つ白亜の壁。

通称、守護壁……!

僕たちを外部の野蛮な人間や汚染された大気から守ってくれている、そう言い聞かされている。

虎穴に入らずんば虎子を得ず……か。

何が隠されてるのかな?

けど、どうやってこの壁を超えるのよ? 入口なんてないし、梯子じゃとても届かないし。

そーだ、薫。

ちょっとそこに立って。

いくよ。

ユーリィは僕を壁際に立たせて、いきなり「ドン」を壁を突き出し始めた。
わわっ、急に何するの?

大昔の文献だと、こうするとドキドキして好きになってくれるというんだ。

ほらほら、ドンドン!

卑怯よ! 吊り橋効果の応用じゃない!

薫をそんな手でたぶらかそうなんて……!

フン、茜も狙ったくせに。

ほらほら、ドンドン。

わわっ、そんなにされたら……

あ。

うわーっ!

いきなり、壁が消えた。

僕とユーリィと茜は、三人とも暗い壁の中に転がり込んでいた。


アイタタ……

あっ、中だよ!

僕ら、守護壁の中に入ったんだ!

フっ。作戦通りだね。

ウソばっかり!

けど、やったわ……!

まさか、守護壁に内部があったなんて……

それに、なんだかあちこちに人が住んでいるみたいな形跡があるわ!

ど、どうする? ほんとに進むの……?

これ以上は、本当に危険だわ……!

入るにしても、もっと準備が必要だと思う!

茜にも一理ありか……もし、本当に危険な外敵がいるとすれば、もっと武器が必要かもね。


どうする、リーダー?

ええ、リーダーって僕のこと?

何言ってるの、薫しかいないでしょ。

薫の決定に従うわ。まあ、私の特殊ボウガンもあるし、進むのもいいかもね。

ううん……よし。


い、行こう!

もう、この先こんな機会は無いよ!

今日は、徹底的に調べるって決めたんだし、ちゃんとやり遂げようよ。

学園に秘密があるなら、先に進もうよ!

了解了解。

というか、そういうと思った。

のんびり屋なのに、一度決めるとテコでも動かないからね。

じゃあ、お姉ちゃんのそばにいてね。薫に危害を加える奴は、すぐに撃って仕留めるから。

僕らは懐中電灯の明かりを元に、一歩ずつ踏み出していった。

中は薄暗いけど、椅子やテーブルがあって、確かに誰かが住んでたみたいな痕跡がある。

そして、広い部屋にたどり着いた瞬間だった。

けたたましい警報音が鳴り響いたのだった。

侵入者です。侵入者です。これより、警戒モードに入ります。

それは、機械の合成音声。

けれど、先生ロボのそれとは違う。

ただ命令通り、侵入者を駆除するための、血の通っていない恐ろしい声だった……

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登場人物紹介

薫。

少しおどおどした性格だが、実は芯の強さを内に秘めている。最近、ユーリィからのイタズラに困りながらも、内心で期待してしまっている自分も感じている。同時に、隣で見守っている茜のことも気になっており・・・?

茜、十六歳の美少女。

薫に手を出そうとするユーリィを戒めるのが自分の務めだと思っている。

薫に対しては「お姉ちゃん」と自称するが兄妹ではない。

ユーリィ。十五歳でロシア人とのハーフ。

ひたすら薫に抱きつき、なんとか自分のものにしようとしている。

勉強も体育も学年一位。

しかし同時に、この世界に大人がいないことに違和感も覚えている。

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