悲しき先生ロボ

文字数 2,544文字

それは、今から二百年前ー

まだ、あなたたちの祖先は私の姉と平和に暮らしていましたー

礼拝堂にビデオフィルムが映し出される。

そこには、僕たちとよく似た子供と、先生ロボが写っていた・・・

はーい、今日の授業はここまで!

分からない所は、先生に聞きに来てねー!

瞬くん・・・どうしたの? 何か質問?

ううん、僕ねー最近思うことがあるの!

あのね、ここって誰を好きになるかを決める学校なんでしょ?

そうよ。双葉くんか、弥生ちゃん。男の子と女の子、どっちが好きかをみんなで調べるのよ。

瞬くんはどっち?

僕、先生!

先生と結婚する。

だって、先生が一番美人だもん。

ムウウー! 瞬ちゃんのバカ! 

先生も酷いわよ。

年上の力を利用して、瞬ちゃんをたぶらかして!

そうだよ、ずりーぞ先生! ロボットなのに!

あらあら、こんなおばさんを好きになってくれるの? 私、もう五十歳なのに。

じゃあ、瞬くん。私が二百歳まで独身だったら、お嫁にもらってくれる?

ええー、そんなに待つの?

でも、分かった!

さあ、遊んでらっしゃい。
姉さんー子供たちはすくすく育っていますー
みんな、いい子ばかり・・・私の宝物よ。

ーしかし・・・豚や牛などの動物肉や油が不足しており、子供の健康状態がいいとは言えませんー

そもそも、この学園の創始者は、食料の設定をミスしたのですー

牛や豚も病気にかかったり、事故で死んだりする

その設定を忘れていたのですー

それに、ここは山奥ー

子供たちもよくインフルエンザや風邪にかかり、危険ですー

・・・分かってるわ。

けれど、あのワクチンだけは絶対に使わないわ・・・!

あんなものを使えば、いずれ学園ごと破滅してしまうもの。


ー姉さん、食料危機や病気はもっと危険ですー

あのワクチンさえ散布すれば・・・

絶対にダメよ! それに、そもそも私には危険行為禁止プログラムが施されている。

生徒の身に危険があることはできないのよ。

あの子たちは、宝物・・・

絶対にそんなことしなくても、私が守るわ。

次の瞬間だった。

ズズズウウウン。

ゴオオオン。という重たい音が鳴り響いた。

防護壁の外を、どす黒い灰のような煙が覆いつつある。


これは・・・!

細菌兵器による攻撃が、世界中で同時に起こったという情報が!

同時多発テロですー

ニューヨーク、ロンドン、トウキョウ、オーサカが壊滅!

ワシントンDC,ワルシャワ・・・・

これは・・・もはや、第四時世界大戦です!

神よ・・・!

子供たち、守護壁の中に入りなさい!

おお、神よ! 子供たちをお守りください!

・・・神よ、何故そこまで残酷なのですか。

一体どうすればいいの!?


姉さん、みんなおびえていますー

そして、麦畑も牛もほとんどがやられていますー

残念ですが、このままではいずれ、子供たちもー

絶対に、死なせない!

みんな、私が守るわ!

・・・そうだわ、例のワクチンを使えばいいのよ!

ほぼ、全ての病原菌への抗体となるワクチンがあるじゃない!

あれを使えば・・・! 霧状で散布できるから、すぐに効果があるわ。

姉さん・・・

あれは、遺伝子組み換えによる欠陥品ですー

あれを使うと、精子と卵巣の染色体に異変が生じる。

あのワクチンを使うと、女、雌が生まれる確率が80%になるという代物。

女が八十パーセントでは、いずれ男は生まれなくなるー

だから、姉さんはずっと反対していたのにー

今がそんな場合なの!?

もういいわ、あのワクチンを散布します。

子供たちの未来のためよ!

けれど、それには私の危険防止プログラムが邪魔だわ。

今から、自発的にこのプログラムを取り除きます。

シスター、あなたがやってちょうだい!

・・・姉さん、この危険防止プログラムを取り除くと、貴方はひょっとすると、子供たちに暴力を振るってしまうかも・・・そうしたことが無いようにと念入りに作られているのにー

シスター、今はそんな場合じゃないわ!

お願いよ・・・子供たちのために。学園のために。

・・・分かりました。
メイドロボは、器用な手つきで先生ロボの首筋のネジを外し、そして中を改良した。

どうでしょう、姉さん。

具合は?-

・・・・・

・・・・・

ええ、早速ワクチンを散布するわ!

もう、時間がない!

さあ、貴方も早く動きなさい。

はいー

よし、このボタンで、散布できるわ。

子供たち! 早く来なさい! 何をしているの! 早く来ないと、死んでしまうのよ!

さあ、列に並んで!

ね、姉さん、そんなに怒鳴っては子供たちがおびえますー

先生・・・? どうしたの?

なんだか、怖いよ・・・・

・・・

私は普段通りよ、瞬くん。

さあ、この霧を吸い込んで・・・!

これで、お外の怖い病気から守られるわ。

うん・・・

へ、平気なんだよね、これを吸い込んでも?

・・・当然よ。これは強いワクチンなんですから!

さあ、みんなこの霧を吸い込んで。

お外の猛毒から守るのよ・・・!


フウ。これでみんな大丈夫ね。

これで、良かったんですよねー

当然でしょう!

さあ、みんな夕方の授業を始めましょう!

勉強の遅れを取り戻さないと。

強い子にならないと、生き残れないわ。

それに、細菌兵器にやられて食料も足らない。

もう、どうせ子孫は繁栄しないのよ・・・!

なら、いっそのこと、弱い子は間引いていく方がいいかもね。

これだけ面倒を見て、パートナーさえ見つけられないような子のための食料はないわ・・・!

これも、学園の未来のためよ。

先生ー、どうしちゃったの?

怖いよう。

姉さん、子供たちが怖がっていますー

どうか、冷静に

あら? 私は冷静よ?

どうすれば、学園の未来を守れるか・・・

それをよく考えているの。

それには、強い子、優秀な子だけを残す方がいいわ。

パートナーが見つからなかった子は、必要ないでしょう。

・・・姉さんー

黙りなさい、シスター! いつも私に逆らってばかりの足手まとい!

・・・そうね、貴方は守護壁の中にずっといて、外敵を駆除しなさい。

子供たちを守るのは、私だけで十分よ。

私の子供たちに、あなたなんか必要ないわ。

この子たちは、みいんな私だけで面倒を見るのよ・・・!

姉さんー

・・・分かりました、言う通りにしますー

さあ、勉強の遅れを取り戻すのよ。

みんな席に着きなさい。さあさあ、早く。

そこには、優しく穏やかな先生ロボの姿はもう無かった。

メイドロボの眼から、こぼれるはずのないものがつうとこぼれた。

・・・さよなら、私の大好きな姉さんー
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

薫。

少しおどおどした性格だが、実は芯の強さを内に秘めている。最近、ユーリィからのイタズラに困りながらも、内心で期待してしまっている自分も感じている。同時に、隣で見守っている茜のことも気になっており・・・?

茜、十六歳の美少女。

薫に手を出そうとするユーリィを戒めるのが自分の務めだと思っている。

薫に対しては「お姉ちゃん」と自称するが兄妹ではない。

ユーリィ。十五歳でロシア人とのハーフ。

ひたすら薫に抱きつき、なんとか自分のものにしようとしている。

勉強も体育も学年一位。

しかし同時に、この世界に大人がいないことに違和感も覚えている。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色