赤い林檎2

文字数 2,575文字

由紀ちゃん、本当にくよくよしないでね。別校舎で、また素晴らしい出会いがあるわ! 恋に勉強にいつまでも頑張り続けてね。先生は一生応援してるんだから。

・・・はい、先生。

私、みんなのことずっと忘れません・・・。

由紀、あなたみたいな可愛い子、他のクラスじゃ誰も放っとかないわよ。

茜・・・。

フフっ、私ね、今だから言えるけど、実は貴方に惹かれてた時期もあったのよ。

ええっ、そんな・・・それは嬉しいけど・・・

でも・・・

分かってるって!

ほんとに、薫くんはニブいよね~。見ていてもイライラしちゃう。

恐竜並よ、あの子は・・・

理解者の由紀がいなくなるのが、本当に寂しいわ。

ところで、薫君たち遅いわねえ・・・

どうしたのかしら?

あ・・・。

き、きっとユーリィがまたおかしなイタズラしてるんですよ・・・!

ほんとに困った奴で・・・!

その頃、僕たちは職員室を調べまわっていた。

例の「LGBT計画ファイル」・・・その全貌を突き止めなければいけない。

ここには、何か恐ろしい秘密が隠されている・・・そんな気がしてならない。

どう? ユーリィ・・・何か見つかった?

うーん、埃だらけだなあ。

そうだね・・・俺が気になるのは、ちょうど薫の足元。

ちょっと、足を開いてみて。

こうかな?

フフ。そして、さらに上の方つつつと指をすべらせて。

むっちりすべすべのモモが可愛いね。

ああっ。

もう、新年早々、何やってんの!

まず、一発やらないとね。

さて、俺はすでにあるモノを見つけたよ。

どれどれ「補完・LGBT計画ファイル」か。


ええっ、それを先に言ってよ。さあ、中を見ようよ。


ふむ・・・これは・・・ヤバイかもね。

『・・・すでに狂った計画を、さらに推し進めるための計画。それが進んでいるというのが実態だ。すでにアンドロイドの機能は破損しており、元々の目的であった『子孫の繁栄と差別のない社会』という所からかけ離れ、『強い遺伝子を残す』という筋書きに乗っ取られたプログラムで動いている・・・か・・・』

ふむふむ・・・こりゃ、思っていた以上にヤバイよ。

どういうこと?

僕には、なんのことやらサッパリ。

つまり・・・・要約すると。


由紀は殺される、ってこと。


・・・・・・

さあ、お別れ会もそろそろ終わりね。

由紀ちゃんも、みんなとの挨拶は済ませたわね?

はい、先生。

じゃあ、先生と一緒に別校舎までいきましょうね。

そうだわ、先生から最後にプレゼントがあるの。

さあ、これよ。綺麗な林檎菓子でしょう?

これは、”お別れ林檎”・・・この学園で、仲間から離れることになった子のためのお守りのお菓子よ。


お別れ林檎・・・?

ええ、先生の特製品なの。さあ、食べて頂戴。


・・・? はい。

・・・待って、先生。

・・・そんなお菓子作りの趣味なんてあったっけ?

・・・そんなに美味しそうなら、私も食べてみたいな。

・・・茜?

あらあら、食いしん坊さんね、茜ちゃん。

そんなに言うなら、みんなで一緒に食べましょうか!

さあ、包丁でザクザクと・・・。

さあ、みんな一つずつ召し上がれ。

さあ、特別の綺麗なお皿に飾り付けたわよ。

美しい細工の施された林檎型の洋菓子。

先生ロボの手で綺麗に切り分けられたそれを、生徒たちは口に入れていく。

「おいし~」

「先生ってなんでもできて凄い!」

生徒たちは大喜びだ。

・・・・・・・?

どうしたの、茜ちゃん?

食べないなら、先生が食べちゃうぞおー。パクリ。

うーん、美味しい!

やあ、茜。今、帰ったよ。

由紀、遅れてすまないね。

由紀ちゃん、遅くなってごめんね!


みんなに見送られて、由紀ちゃんは幸せものね。

さあ、そろそろ別校舎のみんなが待ってるわ。

先生と一緒に途中まで行きましょうね。

はい、先生。

みんな・・・またね。お手紙書くからね。

先生ロボと由紀は、二人で歩いて行った。

ちょうど別校舎があるという方角の道を曲がった所で、先生ロボと由紀は別れた。

由紀はこれから別校舎でまた、自分のパートナーを探すのだ。

二人とも随分と時間がかかったわね~。

ユーリィ、収穫はあったんでしょうね?

そっちこそ、先生ロボの行動に気を付けたかい?

由紀の身の安全のためにもね。

それが、私も気を付けておいたんだけど、林檎菓子もみんな食べてるし、特に問題はないみたいね。

貴方が言うのは少し心配のしすぎなんじゃない・・・?

そーだよ。

あの優しい先生が、由紀ちゃんを殺すだなんて、そんなはずがないよ!

・・・俺の杞憂だったかな?


なら、いいんだけれどね。

一方由紀は、夕日の中を歩きながら少し熱を感じていた。

少し食べ過ぎたのだろうか?

汗っぽいし、少し胃の中がもたれている。

なーにやってんだろ、私。

別校舎のみんなの前で、吐きでもしたら悲惨よ。

・・・

すでに、こっぴどくフられているっていうのに。

由紀は人差し指を喉の奥につっこんでみた。

情けないが、新しいクラスメイトの前で吐くよりはよほどいい。


げえええっ。

ふうっ・・・


えっ!?

何、この赤いの・・・

血・・・!?

(血をこんなに吐いたら、死んじゃう)

(だ、誰か、助けて・・・! 先生!)

由紀はよろよろと歩いていった。

そうだ、別校舎に行けば新しい先生がいる。


しかし、そこにあったのは信じられないような・・・

無数の墓石だった。

(ど、どうして? ここは別校舎のはず。どうしてこんなに死人が!?)
(死にたくない・・・先生・・・誰か・・・)
さあ、特別の綺麗なお皿に飾り付けたわよ。

(そうだ・・・あの時、何故か先生はわざわざ新しいお皿に林檎のお菓子を)

(そして、食べ終わったら妙に念入りに拭いてたっけ・・・)

(そういえば、今までにも別校舎に行った子から手紙とか来たことなかった・・・)

(そして、先生は優しいけど、自分のこととか学園のことについて話してくれたことなかった・・・)

(みんな・・・みんな・・・気を付けて)

(その先生は・・・バ・・・ケ・・・モ・・・ノ・・・)

ウフフ、本当にいい子ね、由紀ちゃん。

わざわざここまで来てくれてから死んでくれて。

墓石まで運ぶ手間が省けるわ。

さて、シャベルでザクザク~と。

けれど、由紀ちゃんみたいないい子ばかりとも限らないのかもしれない。

どうも、学園の秘密を探ろうとしているイケナイ子がいるようね。

いずれお仕置きが必要になるかも。

これも、学園の未来のため。

そして、子供たちのためよ。

私はプログラム通りに任務を遂行するまでだわ。

さあて、ザクザク、シャベルでザクザク~。


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登場人物紹介

薫。

少しおどおどした性格だが、実は芯の強さを内に秘めている。最近、ユーリィからのイタズラに困りながらも、内心で期待してしまっている自分も感じている。同時に、隣で見守っている茜のことも気になっており・・・?

茜、十六歳の美少女。

薫に手を出そうとするユーリィを戒めるのが自分の務めだと思っている。

薫に対しては「お姉ちゃん」と自称するが兄妹ではない。

ユーリィ。十五歳でロシア人とのハーフ。

ひたすら薫に抱きつき、なんとか自分のものにしようとしている。

勉強も体育も学年一位。

しかし同時に、この世界に大人がいないことに違和感も覚えている。

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