ラストボーイ2

文字数 3,077文字

もうっ、まーた壁に穴が開いちゃった……

これで、101個目だよ、茜。

ここは資源が限られてるんだから、もっとモノを大切にしないと!

薫。さっき、俺ら二人とも殺されかかってるのに、ほんとに几帳面だなあ。

ほんとに、小さい頃から変わらないね。モノを大切に、食べ物を大切にってね。

ま、俺は薫のそんな所が……

ユーリィが薫に手を伸ばした瞬間、ガチャリという音がした。

茜はまたしても、ボウガンに矢をつがえていた。

学習しないわね、ユーリィ……

私としても、できれば矢をムダにしたくないわ。

この矢は、食料確保のためだし、薫の言う通り貴重だものね。

あなたが、チョコマカと動くのを止めて、じっとしていてくれれば……

わーっ、落ち着いて、茜!

さあ、授業に行こうよ!

茜……そのボウガン卑怯じゃないかな?

ここの校則を忘れたの?

全ての恋愛は自由である

唯一の校則なんだよ?

ここの。

……もちろん、よーく知ってるわよ。

私たちは、この学園で生まれ育ったんですもの。

それを最近の君は、薫を取られたくないからって、ボウガンで邪魔してばっかりじゃないか。

私はね、大罪の内で最も罪深いものは色欲だと思うのよね。

イエス様も、大罪に「ポルノ」「売春」……そして、重大な罰の項目の中に「私通」と書かれてるわ。

それほどに、色欲は罪深いのよ。

ボ、ボウガンで撃つのもダメなんじゃないかな? アハハ……

最近のユーリィは、色欲によって薫を手込めにしようとしているわ。

大切な弟である薫を守るためなら、お姉ちゃんとしては「殺人」の罪を犯すことも辞さない覚悟なの。

これは、よく覚えておいてね、ユーリィ。

あー、ハイハイ。あくまで、弟を守ろうとしてるって体なワケね。


じゃ、そーいうことにしといてあげますか。

さあさあ、先生ロボが待ってるよ。

授業に行こうよ!

最近、ユーリィと茜はすぐに喧嘩になっちゃうんだ。

資源や食料が少なくなってきているのも関係があるのかもしれないな。

授業が終わったら、狩りにいこうかな。

キンコンカーン。

この青春学園の鐘が鳴る。

キコキコと足を動かしながら、先生ロボがやってくる。

十人ほどのクラスメイトは、ほとんどが女子だ。

この教室には、僕とユーリィしか男がいない。

中には、トランスジェンダーで「見た目は男だが、中身は女」という子もいるが、この学園では当然その子は「女」として扱われる。

オハヨウ、子供たち。

起立、礼、着席!

はい、今日も元気に、恋に勉強に体育にハッスルしましょー。

はーい!

はい、では授業の前に……薫君。ちょっと来てくれる?

君、まだ今月の「アンケート」に答えてないからね。

あ、そうだった……!

アンケートには月ごとにきちんと答えないといけない。他のクラスメイト達はざわついているようだ。

茜が「頑張ってね」と声をかけてくれるのを背中で聞きながら、僕は外に出た。

では聞きます。

この学園は、世間の常識が無い状態で、みんながどう思うか、どういう結論を出すか、そして男の子と女の子、どっちを好きになるかを調べるために作られたものです。

神の名において、全部正直に答えてね。

はい。

では、まず。

最近、茜の胸とか太ももを見てどう思いますか?

1番・ずっと見ていたいと思う。

2番・触りたいと思う。

3番・なんとも思わない。

うっ。こんなの答えないといけないんですか……?

(は、恥ずかしい)

他の子にも、みんなに聞いてるのよ。

ほらほら、茜のオッパイだよ?

ほら、正直に。

うう……

2、2番です……

へーえ、そんなに触りたい? 茜ちゃんのオッパイに。へえーへえー。

そーなんだ、薫君ったら。

へーえ。

あ、でもずっと一つ屋根の下だから、もう触ったことがあるとか……?

先生、楽しんでませんか!?

アンケートはどうなったんです?

もう、相変わらずマジメねえ、薫君。

じゃあ、次です。

ユーリィ君の胸や太ももを見ていてどう思いますか?

1番・見ていたいと思う。

2番・触りたいと思う

3番・なんとも思わない


(ユーリィは学園一の”美男子”だ。色んな子から、告白されたことがあるらしいし、実際物凄く綺麗な顔だ。けど、「触りたい」とはあまり、思わないかな。けれど、「なんとも思わない」っていうのもちょっと違う)
そうですね。じゃあ、1番です……ユーリィの体は真っ白で凄く綺麗だから……

大変結構です。

では、薫君。最後に普段通りの質問です。

正直に答えてね。


ユーリィ君と茜ちゃん、どっちが好きですか?

これは、僕が物心がついてから「アンケート」が始まって以来、いつも聞かれる質問だ。


1番・ユーリィが好き

2番・茜が好き

3番・どっちも好き

さあ、どれですか?

僕は迷わずに答えた
三番です。どっちも同じくらい大好きです……!

先生ロボはニッコリと笑った。

ロボットにもちゃんと感情があるのかな? できればあって欲しいなと思えるような、そんな笑顔だった。

はい、素晴らしいデータが取れました。

薫君は本当に、なんでも真面目に頑張るいい子ね。

さあ、教室に戻りましょう。

今日もビシビシ授業するからね。

そして、僕らは教室に戻り、先生ロボZからの授業を受けた。

国語、数学に、社会に体育。

僕らはヘトヘトになりながらも、授業を終えて、夕暮れの陽ざしの入る教室でくつろいでいた。


勉強も体育も学年一のユーリィ、そして学年二位の茜は、僕と違ってまるで疲れていない様子だ。

大丈夫? 薫。はい、お水持ってきたよ。

ありがとー、茜。ぷはあっ、生き返るなあ。

雫の一滴一滴が、体の隅々まで行きわたって、まるで聖水のように癒してくれるよ。

ぷ……フフフ。

ほんとに、小説の中みたいな話し方! それも、凄い古典作品みたいな。

ほんとに、小説大好きだもんね、薫……!

作家になれるといいね!

お姉ちゃん、ずっと応援してるからね。

うん……けど、まだ何を書いたらいいか。分からなくて……。

書いてみよう、書いてみようっていう気はあるんだけど、いざワープロを前にすると何にも思い浮かばなくて……

やっぱり、あまり向いてないのかあって思うこともある。

自分は作家って仕事に”憧れ”ているだけで、実は中身が空っぽなんじゃないか、そんな風に思うこともあるんだ。

よっぽど、向いてるのね、薫。

茜は僕の手をぎゅっと握りしめた。

僕は思わずドキリとする。

ええっ?
書きたいのに、何を書けばいいか分からないって、よっぽど思い入れがある証拠だよ! いつか、書きあがったら、お姉ちゃんに真っ先に見せてね。約束だよ?

う、うん!

もちろん!

仲良くしてるトコ悪いけどさ、それだったらもうちょい「外の世界」について知らないと駄目なんじゃないかな? 薫。執筆活動のためにもさ。

ユーリィが現れた途端、茜は無表情になりあからさまに不機嫌そうになった。

ここにボウガンが無くて良かった。

ユーリィ、それどーいうこと?

薫たちも、そろそろ気づいてるんじゃない?

なんで、この学園って「大人」が一人もいないの?ってこと。

そして、なんでここまでして先生ロボたちに全てを管理されてるのかってこと。

俺らは、狩りに出る時も、物凄く「禁止区域」が多いし、勝手に入ったら罰まで受けることになってる。


それは……

第四次世界大戦以降……

この学園の外は、荒廃していて危険だから。

学園創立者は、私たちを外部の大人から守るために、って言い聞かされてるわよね。

けど、茜はそれを全て鵜呑みにしてるワケじゃないだろう?

この学園は、何かを隠してるんだよ。

ユーリィ、何が言いたいんだい?

今日は、授業が早めに終わった。まだ、日が暮れるまで時間はある……

「禁止区域」まで行ってみないか……?

僕と茜は沈黙していた。

際どい問いかけへの沈黙とはすなわち肯定だった……

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登場人物紹介

薫。

少しおどおどした性格だが、実は芯の強さを内に秘めている。最近、ユーリィからのイタズラに困りながらも、内心で期待してしまっている自分も感じている。同時に、隣で見守っている茜のことも気になっており・・・?

茜、十六歳の美少女。

薫に手を出そうとするユーリィを戒めるのが自分の務めだと思っている。

薫に対しては「お姉ちゃん」と自称するが兄妹ではない。

ユーリィ。十五歳でロシア人とのハーフ。

ひたすら薫に抱きつき、なんとか自分のものにしようとしている。

勉強も体育も学年一位。

しかし同時に、この世界に大人がいないことに違和感も覚えている。

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