4-18. プリンセスのキス

文字数 1,610文字

 シアンはウンウンとうなずいて言った。
「じゃあ、ジェイドの身体はお願いできるかな?」。
「な、何とか……。こっちに私の創ったシアンさんがいるので、手伝ってもらって創ります」
「へっ!? 僕のコピー? なるほどなるほど……。じゃあ、そっちのシアンちゃん、手伝ってくれるかな?」
 ネオ・シアンはいきなりシアンに呼ばれて緊張した面持ちで答える。
「は、はい! 頑張ります!」
「きゃははは! 同じ声してる!」
 シアンはうれしそうに笑った。
「オッケー! じゃ、二人でジェイドの身体創っておいてね。ちょっとなら自分好みに改造してもいいよ?」
 シアンは余計な事を言う。
「そんな事しません! 忠実に思い出して創ります!」
 ムッとするユリア。
「ふふっ、夜に強くしとくのも……いいよ」
 ニヤけるシアン。
「えっ……? よ、夜……?」
 ユリアは黙り込み、微妙な空気が流れる。
「ちょ、ちょっと待って、何か不満があるなら……改造する前に我に教えてくれ」
 ジェイドが焦る。
「ふ、不満なんて……、ない……のよ?」
 歯切れの悪いユリア。
「その辺は二人で調整して! じゃあ、そっちのシアンちゃん、これから設計図送るからちょっと見てみて」
「わ、わかりました!」
 その後、ネオ・シアンはシアンから伝送に必要な機器の開発の説明を受けていた。

      ◇

 数日後、ユリアの準備する神殿にはベッドが用意され、ジェイドの身体が横たえられていた。
 ジェイドの頭には脳波を測る時に使うような電極が設置され、コードで四次元超立方体へと繋がっている。
「ハーイ! 準備はいいかな?」
 シアンの声が響く。
「はい、言われたように準備しました」
 ユリアが答える。
「では、接続チェック!」
 そう言うと、立方体がウネウネしながら虹色にキラキラと光り、ジェイドの身体が淡く蛍光する。パシパシパシと、シアンが画面をタップしている音が静かな神殿にかすかに響いた。

「ふふっ、ユリア、やるわね」
 シアンはニヤッと笑う。
「え? 何もしてませんけど? これが私の記憶の中のジェイドです」
 ユリアはうれしそうに答える。
「はははっ、まぁ、ジェイドも納得してるなら口出すのは野暮だな。じゃ、行くよ!」
 シアンがそう言うと、立方体はバリバリと音を立てながら激しく閃光を放ち始めた。
 ユリアは手を合わせて必死に祈る。

 しばらく神殿には激しいノイズが響き続け、ユリアは微動だにせずただ祈り続けた。宇宙を越え、ブラックホールからやってくる愛しい人の魂。この想像を絶する挑戦が今、目の前で行われている。
「成功する、成功する、成功する、ジェイドがやってくる……」
 ユリアはブツブツと唱えながらただひたすらに祈り続けた。
 やがて音が止み、
「ハーイ、終わったよー」
 と、シアンの声がする。
 ユリアはバッと立ち上がり、ジェイドを見つめる。しかし、ピクリとも動かない。
 そっとジェイドの手を取って様子を見るが、手にも全く力が入っていない。
「ダメです! ジェイド、動かないわ!」
 ユリアは青くなって叫ぶ。
「王子様が目覚めるにはお姫さまのキスがいるんだよ」
 シアンはニヤニヤしながら言う。
「キ、キス!?」
 目を丸くするユリア。
 ネオ・シアンは気を利かせて目をつぶって向こうを向いた。
 ユリアは大きく息をつくと、ジェイドの頬を心配そうにそっとなで、ジェイドの顔をじっと見つめた。すると、薄目が開いて目が動いたのを見つける。
 ユリアはうれしそうにニコッと笑うと、静かに唇を合わせた。ジェイドは両手でユリアを抱きしめ、会えなかった時の寂しさを埋めるように舌を絡め、それに応えるようにユリアも激しくジェイドを求める。
 会えなかったのはたった数日、でも、それは二人にとっては絶望が心を締め付ける耐え難い時間だった。二人は時間を忘れ、お互いの愛を確認し合う。
 ネオ・シアンはシアンに、
「成功しました」
 と、小声で伝えると、気を利かせて神殿を離れた。
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