4-6. 鮮やかな制圧

文字数 1,730文字

「それでは、大聖女様、お願いいたします」
 案内役に呼ばれ、ユリアは壇上に登った。
 煌びやかに装飾が施された大広間、壇上には多くの魔法ランプが配されて、まるでスポットライトの様にユリアを浮かび上がらせる。
 ユリアは大きく息をつき、『蒼天の儀』に招かれた王侯貴族たちが一堂に会する様子を見回してニヤッと笑った。
 そして、『蒼天の杖』を高く掲げ、サファイヤを青くまぶしく輝かせると、
絶対結界(エクストリームバリア)!」
 と、叫んで王侯貴族たちを強固な結界に閉じ込めた。
 段取りと違うことに出席者は驚き、どよめきが上がる。

 すると、アルシェが奥から現れて壇上に上がり、姿勢をピッと正し、右手を高く掲げ、高らかに声をあげた。
「アルシェ・リヴァルタはここにクーデターを宣言します!」

 唖然とし、静まり返る王侯貴族たち。
 さらに奥から宰相が重厚な紫色のファイルを掲げて登場し、一礼してアルシェにそれを渡した。
 アルシェは書類にサラサラとサインを書き込む。
 それを確認した宰相は、
「ここに、アルシェ・リヴァルタ様が王国の全権力を掌握したことが法的に認められました」
 と、王侯貴族たちに向かって声をあげた。

「おい! ふざけんな!」「何をやってるのか!」「いいかげんにしろ!」
 王侯貴族はそれぞれ怒り心頭で怒鳴り、席を立つが結界が強固で出ることができない。
 すると、後ろの方から異常を察知した騎士たちがバタバタと入って来て、壇上を目指す。

 直後、ズン! という音と共に脇の壁が吹き飛び、砂ぼこりの中から巨大なドラゴンの首がニュッと顔を出した。
「ひぇ――――!」「キャ――――!」「うわぁ!」
 厳ついウロコに巨大な牙に鋭い爪、ギョロリと見回す巨大な瞳に大広間は大騒ぎになる。騎士たちもドラゴンの登場に恐れおののき、動けなくなった。

「お静かに! 我が王国を守ってくれる神の使い、ドラゴンです。私は大聖女様とドラゴンと共に世界征服を実現させます。王侯貴族の皆様におかれましてはご理解とご協力を賜りたく存じます」
 アルシェはエンペラーグリーンの瞳を輝かせ、堂々とそう言い切った。
 ここに来て王侯貴族たちはこれが茶番でないことに気づき、真っ青になってお互いの顔を見合わせ、ひそひそと善後策を話し合い始める。

「アルシェ! これはどういうことだ!」
 今までじっと静観してきた国王が立ち上がり、声を上げる。
「父上、ご相談もせずに申し訳ありません。ただ、これは王家を守る唯一の道なのです。全てが終わったら全部ご説明します」
「お前! いいかげんにしろ!」
 第一王子が声を荒げる。
「お兄様、もう私はこの国の国王です。口を慎んでいただけますか?」
 アルシェはニコっと笑って言う。
「俺は認めないぞ!」
 第一王子は真っ赤になって吠える。
 しかし、アルシェは取り合わず、
「ここから先は大聖女様からご説明があります。私はこれで……」
 そう言って退場していった。
「おい! 待て! 逃げんなよ!」
 第一王子は必死に叫んだが結界を超えることもできず、地団太を踏む事しかできない。

「はーい、皆様、それでは私から今後の流れをご説明しまーす!」
 ユリアはニコニコしながら声を上げる。
 王侯貴族たちはムッとした表情でユリアをにらんだ。
「まず、皆さまの身体ですが、すでに実体を消してあります。物には触れられませんし、お腹も減りませんし、おトイレも不要です。言わば幽霊みたいな状態になったとお考え下さい」
 どよめきが起こり、一部の人は椅子に触れようとして手がすり抜け、唖然とする。
「今後の世界統一のスケジュール、共和制への移行についてはそちらをご覧ください」
 そう言って壁を指さすと、プロジェクターで映し出されたように一連の計画がずらりと表示された。
「皆さんの選択肢は三つ。一、このまま一生ここにいる。二、当計画を受け入れ、全権限を王国に返上し、裕福な家として存続する。三、ドラゴンと戦って散っていただく。決まったら声をかけてくださいね。たまに様子をうかがいに来ますので」
 そう言うと、ユリアは一同を見回し、ニコっと笑って退場していく。
 どよめく大広間だったが、誰も結界は壊せなかったし、幽霊状態になってしまった王侯貴族たちにはもはや何もできなかった。
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