4-13. 輝くデジタルの赤ちゃん

文字数 2,101文字

「えっ!?」
 悪夢のような光景が展開される。
 あと数秒、あと数秒が届かなかった。
 画面の向こうでジグラートに大穴が開き、爆発を起こしながら円筒が吹き飛ばされていく。
 この星が消える。多くの命が消える。ユリアは目の前が真っ暗になった。
 また失敗してしまった……。
 ユリアの失敗が重なり今、全てが崩壊していく。
 南側に見えていた広大な海が次々と漆黒の闇に飲まれ、消えていく。この国が、多くの人たちが消え去ってしまうのはもう時間の問題だった。
 ユリアはギュッと奥歯をかみしめると、全てを覚悟し、目をつぶる。そして一つ大きく息をつくと、右手に神力をこめてブレスレットを引きちぎった。

 パン! パリパリパリ……。
 ブレスレットから勢いよく光の微粒子が噴き出し、吹雪のようにユリアたちを覆って黄金色にまぶしく輝く。
 光の微粒子は細かな『1』と『0』の形をしており、それが勢いよくユリアたちの周りを飛び回っていた。
「うわぁ!」「きゃぁ!」
 何が起こったのか混乱していると、やがてその一部が集まって来て雲のようになっていく。
 唖然としてその様を眺めていると、そのうちに雲は空を飛ぶかわいい赤ちゃん天使の姿へと変わり、にこやかに微笑んだ。
 その微笑みは優美で慈愛に満ち、その神聖な輝きは心を温める。
「えっ……?」
 ユリアが思わず赤ちゃんに見入ると、直後、赤ちゃんの顔がいきなり数メートルの大きさに巨大化し、大きく口を開く。
 三人があっけにとられた直後、赤ちゃんはユリアをパクリと飲み込み、激しい閃光を放った。

「ユリア――――!」
 ジェイドが絶叫する。
 しかし、その叫びもむなしく、ユリアはバラバラに分解され、光の中へと溶けていったのだった。

        ◇

 シアンとジェイドは海王星のコントロールルームに飛ばされる。
 金星はかろうじてシアンの対処で事なきを得たが、ルドヴィカの自爆によって星は失われ、同時にユリアも消えてしまった。
 窓の外にはただ、紺碧の海王星が満天の星々の中に美しく(たたず)んでいる。

 ジェイドはひどくショックを受け、ただ海王星を眺め、呆然としていた。
「ユ……ユリア……」
 シアンはポンポンとジェイドの肩を叩いて言う。
「ユリアはブレスレットであの星を守ったんだよ」
 だが、ジェイドには理解できない。
「守った……って、どう守られて、ユリアはどこにいるんですか?」
「それは……、分からないよ。少なくともこの宇宙からは消えてしまった」
 シアンは肩をすくめた。
「そ、そんな……」
 ジェイドはひざから崩れ落ち、愛するものを失った現実を受け入れられず、海王星の青い光を受けながら、ただ虚ろな目で動かなくなった。

          ◇

「それー行ったぞー」「まって、まってー」「キャハハハ!」
 子供たちの遊ぶ楽しげな声が聞こえる。

 気がつくとユリアは気持ち良い芝生の上に寝転がっていた。澄みとおる青空に、ぽっかりと浮かぶ白い雲。そして燦燦(さんさん)と照り付ける太陽。
 ゆっくりと体を起こすと、そこは公園だった。多くの家族連れがピクニックを楽しみ、子供たちがボールを蹴って楽しそうに遊んでいる。

「あれ……? ここはどこ?」
 ゆっくりと体を起こすと、白い建物が見える。見覚えのある建物……。
「えっ!?」
 なんとそれは王都の王宮だった。しかし、なぜ王宮が公園になっているのか分からず、ユリアは混乱して二度見をした。
 そして振り返って思わず素っ頓狂(とんきょう)な声を出した。
「はぁ!?」
 そこには超高層ビルが林立していたのである。
 東京で見たビルよりもずっと高く、カッコよいビル群が、その個性を競うあうようにひしめき合っていた。そして、そのビルの間を多くの乗り物が飛び回っているのが見える。まさに未来都市だった。

 ユリアは唖然とする。ここは王都、ユリアの星である。しかし、もはや別の星のように見えた。
 フラフラと立ち上がり、王宮の方へ歩いて行く。花の咲き誇っていた広大な庭園が今は公園となって一般開放されているようだった。
 王宮の前には銅像が建てられていた。威厳のある高齢の紳士が指先をまっすぐに前にのばした像。銅像の足元はみんなに触られていて、そこだけツヤツヤに赤銅色に輝いている。
 プレートを読んでユリアは固まった。
『初代大統領アルシェ・リヴァルタ 享年85歳』
 なんと、この像は老人になったアルシェの像だったのだ。
 解説を読むと、百年ほど未来に自分は来てしまったらしい。
「ア、アルシェ……」
 予想もしなかった事態にユリアは動揺し、涙をポロリとこぼす。
 ユリアがブレスレットを破壊したおかげでこの星は守られ、アルシェはその中で国を盛り立て、今、夢のような発展を遂げた……ということだろうか?
 素晴らしい発展……それはまさにユリアの描いた理想をはるかに超え、東京すら超えた理想郷となっている。
 だが、ユリアが知っている人、パパもママも誰も生き残っていないだろう。ユリアは摩天楼を見上げながら途方に暮れ、
「な、なんなのよ……これ……。ねぇ、アルシェ……」
 そう言いながら静かに涙を流し、銅像の台座にヨロヨロともたれかかると、アルシェ像の足元をさすった。
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