4-9. 東京には負けない

文字数 1,796文字

 ぐはぁ!
 だが、直後に血を吐いて倒れたのはなんと将軍。
 見ると、将軍の身体がバッサリと切り裂かれ、血が噴き出している。
「な、なぜ……」
 理解できず荒い息でうつろな視線をユリアに向けた。
 ユリアはそんな将軍を見下ろし、
「ごめんなさい、私、神なの。神に人間の攻撃なんて効かないわ」
 と、憐れむような視線を投げかける。
 ユリアはダメージを反転する設定を自分の体にかけていたのだった。
「か、神……? 化け物め……」
 将軍はそうつぶやくとガクッと意識を失う。
「あらら、死なれちゃ困るわよ」
 ユリアはそう言うと、将軍の身体のデータを斬られる前の状態に戻した。

        ◇

 ユリアは将軍を連れてオザッカの宮殿に戻る。そして、将軍に君主をはじめ首脳陣に対して敗戦を報告させると、
「無条件降伏してね。それともまだやる?」
 と、にこやかに笑う。
 君主たちは渋い顔で顔を見合わせるが、軍は全滅、ドラゴン相手に勝つ算段など見つからない。もはや降伏する以外なかった。
 君主はがっくりと肩を落とし、無条件降伏の書面にサインをする。
 こうしてユリアはあっという間にオザッカを降伏させたのだった。

        ◇

 ユリアたちは王都へと飛んだ。
 穏やかな温かい日差しの中、伸び伸びと気持ちよく高度を上げていく。
「ジェイド、お疲れ様」
 ユリアはジェイドの手を取って言った。
「あのくらい大したことは無い」
「でも、ジェイドのおかげでとんとん拍子で話が進んだわ」
「強さでいったらユリアの方が強いだろう。なんたって神の力がある」
「強いだけじゃダメなのよ。『大聖女が強かったです!』って言ったって誰も信じないけど、『ドラゴンがー!』って言ったらみんな納得するもん」
「そう言うものか?」
「そうよ」
 そう言いながら、ぽっかりと浮かぶ白い雲をのびやかに越えていく。
「ねぇ?」
 ユリアは微笑みながらジェイドを見つめ、続ける。
「この星の立て直しが終わったら、結婚しない?」
「け、結婚?」
 いきなりの提案にジェイドは目を丸くする。
「嫌?」
 ちょっと寂しそうに聞くユリア。
「も、もちろんうれしいが……、我は龍、神様と結婚だなんて……」
「そう言うの気にしないの! ちゃんとパパとママにも会わせたいし、二人を祝ってもらいたいの」
「ありがとう。そうだな、きちんとご挨拶しないと……」
 ジェイドは緊張した表情をする。
「ふふっ、きっとパパもママも喜んでくれるわ」
 ユリアは満面に笑みを浮かべる。
「だといいんだが……」
「結婚式は……、そうね、小ぢんまりと身内だけで王都のレストランでやろうかしら?」
「ユリアの希望に合わせよう」
 うれしそうに微笑むジェイド。
「司会はヴィーナさんにお願いしようかしら?」
「神様の神様に頼むの? それはまた破格だな」
「受けてくれるといいなぁ」

 そんなことを話していると遠く眼下に王都が見えてきた。
「私の計画だと、王都もそのうち東京みたいになるのよ」
 ユリアは王都をじっと眺めながら言う。
「五十階建てのビルをたくさん建てるの?」
「そう、あの辺は全部高層ビルで埋めるのよ。そして、高速道路をズドーンと真っ直ぐに。首都高速みたいにクネクネっていうんじゃなくてズドーンとね」
「ハハハ! 都市計画だね、楽しそうだ」
「ふふっ、東京には負けないわ」
 ユリアはニヤッと笑った。

       ◇

「オザッカ倒してきたわよー」
 ユリアは王宮に戻ってくると、バーンと会議室のドアを開けて上機嫌に言った。
「えっ!? もう?」
 目を丸くするアルシェ。
「はい、無条件降伏の書面よ」
 ユリアはアルシェにファイルを渡し、席に座るとポットからカップに紅茶を注いだ。
「え? 抵抗……されなかった?」
 アルシェが恐る恐る聞く。
「ジェイドがね、兵士二万人全員ぶっ倒したから諦めたみたい」
「全員!?」
 アルシェは額に手を当てて目をつぶった。
「やっぱり『全力でやって負けた』と思ってもらわないと、なかなか統治は進まないからね」
「殺しは……してないよね?」
「ジェイド、大丈夫よね?」
「手加減したから大丈夫だろう」
 ジェイドは淡々と言う。
 アルシェは二万人相手でも手加減が必要だ、というジェイドの戦闘力に思わずゾッとした。
「占領軍の派遣と、事務方の協議の方、頼んだわよ」
 ユリアは宰相に向かって言う。
「はい、わかりました……」
 宰相はそう言うと、目をつぶって大きく息をついた。
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